異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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192 型図

「それがその図面ですか」

「うん。

 明日ニカドーさんに見せて、作れそうか聞いてみようと思ってるんだよね」

 

 

 シャオクを迎えに行き、連れ帰ってきて夕食をとりながら帝都でのことを説明した。

 テーブルの中央には砂時計が置いてあるが、普段の雑多な炒め物では不要なことが多いので、今日はインテリアになってしまっている。

 

 鍛冶の方はどうなったかと確認すると、製造手帳を見ながら色々と話を聞けたとシャオクが話す。

 ドワーフの言語であるスラク語だと思うので見せられても分からないが、端々に注釈っぽい短文が追加されているのが見て取れた。

 今日だけでも、鋼鉄やダマスカス関係の装備について少しばかり教えてもらったらしい。

 

 誰がシャオクに教えるかで、講師の座を奪い合ってちょっと揉めたというような内容を、言い辛そうに若干濁した。

 そのまま飲み比べで勝負をするとかなんとか言って、酒場へと消えていったとか……、なんじゃそりゃ。

 

 結局、明確に誰にいつ教えてもらうかの約束はせず、その時手の空いていた者が分かる部分を伝えていくことになったそうだ。

 可愛がられている(?)ようなので、何よりだ……としておこう。

 

 

 すぐに材料を揃えて鍛冶三昧、ということにはならないので、シャオクの手が空くだろう例の交流会の裏で行ったりしてきてもらおうか。

 そこでなくとも迷宮に行かない日を作ればいいだけだ。

 

 

「そうだ、鍛冶といえば……」

「今日貰ってきたモンスターカードですね」

 

 

 食べ終えて後片付けをしてから、モンスターカード融合をお願いする。

 ほとんどはアコルトの鞭を『付与増強』付きに新調する用のものばかりなので、今日お願いしたいのはスキル1種類だけだ。

 

 壺式食虫植物とコボルトのカードを手渡し、残りは保管しよう。

 スキルの使用は1回だけと安堵したシャオクが、融合先に指定させてもらったセナクロワの長剣に手を添えて呪文を詠唱する。

 

 眩い光が収まった後には、手元のカードは消えて、淡い光を反射する剣だけが残った。

 

 

強権のミスリルロングソード(詠唱中断 付与増強 石化添加 麻痺添加 HP吸収)

 

 

 白い金属の輝きを見せるそれに向けて鑑定を念じると、表示されたウインドウは5つ目のスキルスロットが埋まったことを示していた。

 敵の準備スキルを霧散させ、麻痺と石化の付与という行動の自由を奪う状態異常の効果を高め、被弾しても相手を斬りつければダメージの回復も行える。

 これが現時点で考えうる前衛のスキル構成の完成形だろう。

 

 武器種自体は使い手の適正次第なのでなんとも言えないが、少なくともセナクロワにとっては最も使いやすい装備になるはずだ。

 ハイクラススキルが見えてきたらまた違った構成を考えることになるかもしれないが、今から考える必要もないだろう。

 

 5種のスキルを持つ白銀製の武器なんて、売ればいくらになるんだろうな。

 もっとも、公にした瞬間シャオクと自分の方が拘束されてしまいそうだから、するわけもないが。

 

 アコルトの鞭も、素体が見つかったら『付与増強』を盛り込んだ構成で作り直してやりたいな。

 

 それは追々ということで、今日は早々に汗を流して寝よう。

 辛いものを食べたり、冷や汗が出るようなことばかりで、なんだかどっと疲れた気がする。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 やはり疲労があったからか、入浴後にはすぐ寝て、ぐっすりと十分な睡眠が取れたと思う。

 

 いつもは皆が1階へ降りて朝食の準備やハーブ畑への水やりなんかをしている頃に目が覚めるが、今日は階段を降りる音で起きることができた。

 結局着替えを終えて寝室を出ているので、たいして変わりなんてないのだが、なんていうかその……起きられた感がほら、あ、あるじゃん?

 

 まぁ、自分がベッドから出たのを聞き取ったらしいアコルトが寝室に戻ってきて着替えさせてもらったので、できました感はなかったことになったんだけどさ。

 

 朝食作りに参加しながら考える。

 

 決まっている予定は、下月15日にカルメリガのブティックでセナクロワのドレスと装飾品を受け取ることと、17日に昨日決まった交流会に参加することだ。

 前者は差し入れの約束までしてるから、変更はないだろう。

 むしろ、交流会に向けて自分のドレスも仕上げなくてはならなくなったので、そちらの労いも兼ねる必要がありそうか。

 

 後者については招待状や詳細説明の連絡待ちだな。

 

 それ以外の日は何も決まっていない。

 今日は下月11日なので、5日間は空いているということだ。

 

 

 何をするかといえば、……まぁ迷宮か。

 魔道士のジョブは得られたものの、火力として見るにはもう一歩だし、探索者はLv49、森林保護官はLv48なので中位職までもうすぐだ。

 英雄はまだLv45なので、もうしばらくはかかるだろう。

 

 遊び人の次のジョブがあるとするならば、レベル条件よりも他の要件の方が難しそうだ。

 仮に中位ジョブや派生ジョブを一定数取得するとかだったら、錬金術師や商人もLv50を目指さないといけないのかなぁ。

 

 なんにせよ、レベル上げ&レベル上げだ。

 万金丹を大量にそろえるというのも、今後の安寧のために必要だろう。

 

 

 

 自宅はリカヴィオラに任せ、自分たちはシームの迷宮27階層の待機部屋に近い小部屋からスタートだ。

 

 やはりボスであるハートハーブ狩りの周回が一番効率的である。

 部屋に入れば確実に現れるという点も、任意のタイミングで休憩も取れるという点も、そもそも弱点と特効で仕留めやすいというのも圧倒的にプラスの面が多い。

 極稀にお供に混ざるモロクタウルスはしぶといが何十周で数回程度の出現頻度だし、牛バラや三角バラをくれるので溜飲を下げるには十分だ。

 最後に残ったときは、雷魔法を織り交ぜつつの集中攻撃でほとんど動けなくなっているしな。

 

 

 MPの回復には強壮丸を優先的に使用し、在庫の消費を進めつつ緑豆や麻黄を増やしていく。

 中級魔法を織り交ぜつつの使用感にも慣れてきたので、スキル回しの感覚もだいぶ馴染んできた。

 

 魔道士のジョブレベルに桁が増え、昼食の時間までもう少しといった頃に探索者のレベルも上がった。

 

 

冒険者

 効果 体力中上昇 精神小上昇 器用微上昇

 スキル アイテムボックス操作 パーティー編成 フィールドウォーク

 

 

 ジョブ設定で確認すると、冒険者のジョブが増えていた。

 

 体力小上昇だけだった探索者のジョブ効果から、一気に補正が追加されている。

 流石はLv50で解放されるジョブなだけのことはある。

 

 料理人や武器防具商人のように、パラレルジョブにセットすれば探索者のアイテムボックスとは別にさらに50列の空きが持てるわけだが、普段からセットするには過剰過ぎる。

 探索者よりジョブ効果の補正がよいのでこちらに切り替えるのもの一つの手だが、探索者の方はLv51以降もアイテムボックスが増えるっぽいんだよな。

 

 もしかしたら冒険者もLv51以降は容量が増えるかもしれないが、どちらが有用だろう。

 育ってくれば体力補正の差で全員の耐久が底上げされる冒険者が優位になるだろうが、ボックス容量や現時点での強さであれば探索者に軍配があがる。

 

 あ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは探索者だけか。

 誤った場所にワープする場面を見られる可能性を考慮すると、少なくとも迷宮にいる間は探索者であった方がいい。

 さらに言えばジョブごとにアイテムボックスが違うので、切り替えで何十列もの入れ替えをすることを避けるには一択になる。

 もっと深い階層で狩場の変更がないくらいになれば、移動場所も固定されるだろうからそのときは冒険者でもよさそうだが。

 

 フィールドウォークを使いたいだけなら、遊び人のスキルに設定して、ジョブはMP補正のもので固めた方がよさそうに思える。

 というわけで、迷宮でのパラレルジョブの編成更新は無しだ。

 

 最大で7thジョブまでという制限が、なかなかに悩ましい。

 英雄に魔法使い、魔道士に遊び人は固定だし、先述の理由で探索者も必須で、実質自由枠は2つまでだ。

 知力補正の高さで森林保護官を選んでいるが、『対植物強化』の恩恵のない階層ならば一応は別のジョブをセットするのもありではあるか。

 

 

 更に狩り続け、昼食休憩をする際にニカドーの家に寄ってみたが、不在だった。

 奥さんが対応してくれたが、流石に図面だけを預けるのは憚られて夕方に出直すと伝えてもらうことにする。

 

 帰宅後に食事を済ませ、休憩を終えた後は再び迷宮だ。

 

 魔法スキルのローテーションの中で博徒の状態異常耐性ダウンをかけ、麻痺や石化が入ったらパラレルジョブを1段階落として経験値を上昇させる。

 順調に魔道士のレベルも上がってくると、最後の1発分のバーンストームが不要になった。

 ジョブレベルに付随した威力も育ってきているんだろう。

 

 お試しということで帰還間際に遊び人のセット魔法を初級火魔法から中級に変更してみたが、手数が減ることはなかった。

 流石に魔道士Lv17の中級火魔法では、まだ魔法使いLv50の初級火魔法には及ばな……待て、減らないということは同等の火力まで上がってきたということになるのか。

 

 いかに中級魔法の威力が高いのかが分かる。

 ジョブ効果の知力中上昇の補正量が大きくなってきたことも要因か。

 

 

 検証を終えて明日の成長を楽しみにしつつ、シームの冒険者ギルドへと移動する。

 混み合っているが、ニカドー親方の家に寄る前にドロップアイテムの売却をしておきたい。

 

 スライムスターチの他、流石に多すぎる麻黄も売却へと回す。

 それに久しぶりに色が変化した緑魔結晶もだ。

 

 ジョブレベルが上がっても手数に変動がないときに、ボーナスポイントを知力からちょくちょく結晶化促進にしていた結果が出た。

 緑魔結晶は1万ナール、いや1万3000ナールになるので、今後も余りポイントは活用していきたい。

 

 

 買取カウンターから踵を返し、冒険者ギルドを出てニカドーの家へと向かう。

 この方向へ歩くのは久しぶりだな。

 ワープでの横着をし過ぎである。

 

 

「こんばんは~!」

「……おう、シャオクに、ミツキさんたちか!

 昼は居なくて悪かったな」

 

 

 シャオクの扉を開くのと同時の挨拶に、入ってすぐそこにいたニカドーが応えてくれる。

 やっぱりこの挨拶の仕方だと突然でびっくりするよね。

 

 

「なんか見せてぇ物があるだとか聞いてるが、例の氷冷庫か?」

「そうですね、これなんですが……」

 

 

 シャオクのバッグに入れてある保管箱の図面を広げた。

 興味深そうに覗き込んだ親方から、感嘆の声が漏れた。

 

 

「ほぉ~、なるほどなぁ。

 これを咬ませて固定するのか。

 金網で水を落として、排水が……」

「作れそうですか?」

 

「おうよ、これだけ詳細な寸法が分かりゃぁ、あとは材料があればだな。

 組み込む金属の板と網は、この図面の店で扱ってるって書いてあるから、それ以外を揃えりゃ作れるぞ。

 というか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だな、こりゃ」

 

 

 寸法以外の注釈が多いのは、メンテナンス用の注意箇所だとニカドーが言う。

 図面と中核になる材料だけでも商売ができるように特化したものなんだろう。

 

 

「ただなぁ、高えし重いぞ。

 あれだ、ミツキさんとこの大桶の中の足場にするって言った踏み台の木、覚えてるか?」

 

 

 覚えてるも何も、シャオクが毎日使っている。

 自分もたまに、出入りや湯船の中で座るのに使ったりもするし。

 非常に重くて水に強く、腐りにくい特殊な木材だったはずだ。

 

 

「たぶんこの図面の店で箱の実物は見たんだろ?

 底の、氷が溶けた水を受けて排水まで流す部分な、それをあの木で作れとの指定があるぞ」

 

 

 転倒や腐食の防止目的なんだろう。

 足場にしているあれも、これまで浸水と乾燥を繰り返していても傷んだ様子もないし、耐水性に定評があるのは知っている。

 

 

「それに簡単に動かせねぇくらいに全体の重量がありそうだな。

 ミツキさんちで組み立てることになるし、置く場所も考えなきゃだぜ。

 溶けた水もそうだが、氷がなくなって掃除してぇって時にひっくり返して洗うなんてできねぇぞ」

「あー……」

 

 

 その後、構造をわかりやすいように噛み砕いて大まかに説明してくれた。

 外枠は木製だが、氷に接触する面には特殊金属の板や金網を組み込んで、それらを固定し断熱の層を設ける造りだそうだ。

 見本を見たり、理屈から出来上がりのそれっぽい形状はイメージできるが、いざ作成と適した場所に設置となれば別問題である。

 そのへんは、図面を読み取って作れるプロに頼めば間違いないだろう。

 

 

「んーっと、ミツキさんとしてはやっぱり家の中に置きてぇよな?」

「そうですね。

 増築してでも屋根の内側じゃないと流石に使い勝手が……」

 

「だよなぁ。

 あの家じゃぁ竈の近くは論外として、この幅だろ……?」

 

 

 寸法とにらめっこして、ニカドーも一緒に考えてくれている。

 

 

「───あー、あれだ!

 配置が変わってねぇなら、食器棚あるだろ、テーブル横の。

 あいつを退()かしてこの箱を置きゃあいい。

 テーブルは向きを変えりゃ入るだろ」

 

 

 確かに棚は2つを横並びに置いているので、それぞれを新たな位置に移動させればなんとかなりそうではある。

 頻繁に使う皿を棚1つ分に厳選して、残りは衣装部屋の方に移すのだってよさそうだ。

 実際に上手くいくかは分からないが、屋内の調整指示や家具屋に話をつけていたニカドーが目星をつけたのだから大丈夫そうだ。

 

 

「まぁ、明日か明後日の、時間がある時に見に行くぜ。

 しばらくはこの図面は預かっちまっていいんだよな?」

「はい、お願いします。

 自分たちは日中不在ですが、リカが留守番してくれているので伝えておきます」

 

「あぁ、その装備……迷宮に通ってるんだったよな。

 無理はしてなさそうだけどよ、気をつけてくれよ」

「ありがとうございます」

 

 

 彼から見れば女子供でしかないが、高級素材の装備を揃えていたり魔法使いのジョブもいるからか、心配の色は濃いものの強くは言ってこない。

 セナクロワやミーラスカがいてくれるおかげだろうか。

 シームの街に来た頃よりは、保護者っぽい見た目の者が増えているしな。

 

 数日以内にニカドーは内見を済ませたら、材料費や工賃を見積もってくれるそうだ。

 特殊な木材の発注や、自分たちも金属板を帝都に買いに行く必要があるが、パーツを作り上げてから家に持ち込んで組み上げることになるらしいので、トータルでの完成まで少しかかるものの、我が家での作業時間自体は何日もかからなそうとのことである。

 

 家での作業に来てもらうと、ワープでの移動を見られるわけにはいかないので、配慮しなければいけない日数が減る分には歓迎だ。

 それでも明日明後日は来訪する可能性があるのだから、昼休憩や夕方の帰宅時は気を付けないとダメだな。

 裏の林の所を帰還場所にするほかないか。

 

 ニカドーによろしく頼み、ようやく自宅へと戻る。

 

 

 調理の準備を進めながらリカヴィオラにも親方の訪問予定を伝え、夕食後には食器棚の位置を確認した。

 確かに彼の見込み通り、これらを移動させてテーブルや椅子の配置を調整すれば、帝都の店で見た氷の保管箱は収まりそうである。

 今、棚がある後ろは階段下になっているので、排水を外に繋げられそうだとも述べていたが、この家の構造を理解している大工ならではといったところか。

 湯船の栓を抜くのとは違うのだから、氷が溶けた水や箱の中を洗う程度の水量なら、辺り一面水浸しなんてことにはならないと思うしな。

 

 そちらの内容はプロに任せて、必要なものを揃える手段と資金を用意しておけばいいだろう。

 その間、自分たちは迷宮でレベル上げと薬集めをして、盤石な戦力を整えていきたい。

 どれくらいになったら、28階層以降の突破を進めていくかも考えておかなきゃな。

 

 まだ見ぬ中位ジョブ、派生ジョブに思いを馳せながら、この日は眠りについた。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv50
魔法使いLv50/英雄Lv46/探索者Lv50/森林保護官Lv49/遊び人Lv48/魔道士Lv17/巫女Lv44
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒37 冒険者1 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv38

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv37

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv35

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv33

セナクロワ  猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv30
  強権のミスリルロングソード(詠唱中断 付与増強 石化添加 麻痺添加 ○)  → 強権のミスリルロングソード(詠唱中断 付与増強 石化添加 麻痺添加 HP吸収)


所持モンスターカード
・竜        1
・大木       1
・芋虫       2
・魚        2
・潅木       1
・珊瑚       1
・ウサギ      1
・コボルト   4→3
・壺式食虫植物 1→0

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次回は6/29更新の暫定予定です。

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