異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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193 岩

 夏の下月12日。

 セナクロワのドレスの引取日まであと3日、例の交流会まではあと5日あるということは、つまり今日も暇である。

 

 参加の意志は確認済みだし、昨日の今日で招待状を急いで用意する必要もないだろうから、本日の予定があるとすればニカドー親方の訪問くらいだろう。

 それも明日にズレるかもわからないし。

 

 動ける時にはなるべく迷宮へ向かい、魔道士のジョブレベルを上げておきたい。

 

 

 

 今日も今日とてシームの迷宮27階層のボス周回なのだが、さすがにこれだけ戦っていれば、不意にモロクタウルスがお供に現れても動じることはなくなった。

 ミーラスカが淡々と大盾で押さえ込み、状態異常と魔法火力で他の魔物を殲滅した後、水魔法を織り交ぜながら煙に変えるのも慣れたものだ。

 

 午前いっぱいをそうやって過ごし、昼休憩を挟んで何周かしたあたりで魔道士がLv20に到達した。

 見込んでいた通り、やはりこのあたりのレベルになると明確に攻撃ターンを減らすことができたので、成長を実感できる。

 

 

「ずーっと同じ景色ばっかりなのもなんだから、今日は28階層を探索してみよっか?」

「姫の魔法でしたらロックバードも問題はなさそうでありますな!」

 

 

 戦闘経験済みのセナクロワが言うのなら大丈夫だろう。

 

 ロックバードは弱点属性はなく、土魔法に耐性がある。

 故に遊び人のスキルに設定するのは雷魔法だ。

 2連のサンダーストームで麻痺を狙いつつ、魔法使いのスキルは火魔法を使うことで耐性を避けて、混成してくるハーフハーブとグミスライムの弱点を突ける。

 あとは少しずつ相性をみて戦法を確立させていこう。

 

 

 

 ハートハーブたちを倒して、27階層のボス部屋の出口から28階層の入口小部屋へと出てくる。

 いつもならここでダンジョンウォークを使って27階層の待機部屋前の小部屋へと移動するのだが、今からはこの階層を探索するのだ。

 

 

 

 

 出てすぐの通路のむこうに、土色の何かが飛んでいた。 

 

 

ロックバード Lv28

ロックバード Lv28

 

 

 名前が岩の鳥というだけあって、粗彫りしただけの彫刻が翼を広げているように見える。

 体長は目測1mを超えているし、羽を伸ばせばその倍はありそうで、見た目の重量ではとても浮けるようには思えない。

 不思議な力で飛んでいる魔法生物なんだろうな。

 

 初撃をお見舞いしようと、ファイヤーストーム、サンダーストーム、サンダーストームと念じた。

 見飽きた炎のエフェクトを覆うように、紫電のオーラとでも表すべき雷魔法がロックバードたちを包む。

 

 静電気に触れたように一瞬ビクッと硬直すると、岩の鳥は浮力を失ってそのまま迷宮の床に墜落した。

 2羽ともである。

 

 

「追撃を!」

 

 

 様子見のつもりが無様な落下劇の観客になっていた仲間たちに、セナクロワが声を掛けつつ前に出る。

 自分もハッとして、すぐに状態異常耐性ダウンをかけ、タクトを強く握った。

 

 鞭が飛び、槍で突かれ、長剣が岩を削る様を、時折魔法を念じつつ見守るだけになってしまっているが、特に大きな動きはない。

 ある程度の間隔で明らかに身を起こそうという動作をしているロックバードが、変な体勢でまた動かなくなったりしているのは、再度麻痺状態になっているからだろう。

 

 そういえば原作でも強敵と言われた割に苦戦した様子はなかった。

 もしかして、弱点属性がない代わりに状態異常にかかりやすいとか、そういうやつ?

 

 そのまま片方が石化し、もう片方は何度目かの麻痺状態のまま煙へと姿を変えた。

 

 

羽毛

羽毛

 

 

 そうして残されたのは、岩の身体には似つかわしくない、柔らかそうな白い羽である。

 まぁ、浮遊する石とかもらっても困るから、回収しやすい分いいけどさ。

 

 掴んだ指先でくるくると回してみるが、作中の彼は布団にするためにこれを何千枚も集めたのか。

 主目的として、急かされる迷宮の階層踏破速度を遅らせるためというのもあったはずだが、羽軸を取り外す工程も、そもそも集めること自体を自分たちでやるとなると膨大な作業量だ。

 想像よりは戦いやすい相手ではあったが、それなら弱点属性でもっと短時間戦闘で楽な階層で資金を貯めて購入した方がよさそうだと思ってしまうな。

 こちらは迷宮の探索進行をのんびりと進めさせてもらっているから、違うのは当然なのだが。

 

 

 岩の鳥やハーブを倒しつつ、小部屋をいくつか抜け、何本目かの通路を進む。

 ロックバードに関しては、初手の雷魔法で麻痺が入ればかなり楽なのだが、それをすり抜けた場合が厄介、という感じである。

 土魔法を使ってくるのに加えて、スキルではない詠唱無しの石を吐き飛ばしてくるほか、重そうな見た目に反して移動が素早いのだ。

 

 中断武器のおかげでこれまで詠唱は潰せているものの、2体程度ならともかく4体5体となると翻弄されがちになる。

 状態異常耐性ダウンを個別に入れて、サンダーストームのセットを2、3セットほど食らわせればほぼ沈黙させられるが、それまでの間の対処が大変だ。

 

 体当たりも、飛ばしてきた石が命中したところで、揃えた装備のお陰で大事には至らないのだが、視線が振り回されるのが迷惑極まりない。

 一応の対処法としてセナクロワに教えてもらったのは、体当たりや突付きを受けた直後なら動作が鈍いということくらいだ。

 

 しかしシャオクが盾で受けてから攻撃するには槍ではリーチが難しいし、階層の魔物の種類的にミーラスカの大盾は主人(じぶん)を守るために後方にいるので、前衛陣は振り返らなくてはらならないし、盾のないアコルトは回避しか選択肢がない。

 長剣で直撃を逸らしてからすぐに切り返しているセナクロワくらいしか、うちのパーティーでは実行できていないな。

 

 秘剣燕返しならぬロックバード返し……語呂は悪すぎるが、それで石化させた場面も何度かあったので、本当に頼もしい。

 というかなんでそんなに器用にできるんだ。

 

 

 これまでの階層で戦った様子から見ても、ロックバードが麻痺にかかった数は他の魔物に比べて明らかに多い。

 強敵であってもどこか弱い部分があるという()()は、ゲームっぽいなと思ってしまうな。

 それでも、本当に麻痺や石化で拘束しやすいとなっていたところで、弱点属性がないので手数自体は結構掛かるのには違いない。

 しかも、状態異常確率はあくまで確率のようなので、下振れたときはため息が出る。

 

 普通のパーティーでは魔道士がいたところで魔法の連射はできないのだから、強敵と評されるのは当然だろうなぁ。

 

 

 

 アコルトがいうには、特定の方向から魔物が発生源らしい音がたくさん聞こえるらしい。

 今は階層突破を目指しているので、とりあえず音の少ない方へと向かって戦闘よりも探索済みの範囲を広げる方を優先している。

 群れが多そうなら、今の通路の先が手詰まりになったら渋々でも向かわないといけないな……なんて話をしているうちに、運が味方してくれたのかすぐに待機部屋へと繋がった。

 

 階層入口からボス部屋までのルートが短く、周知となっていることで、戦闘を目的としたパーティー以外には階層の大部分の魔物が敬遠されてしまうことはよくあるというのは、元騎士団員のセナクロワの談だ。

 人を引き込む魔物の部屋ほどの特殊性はないものの、通路やダンジョンウォーク不可な小部屋にたくさんの魔物が湧きっぱなしになっているそうで、そういう区域の掃討も、騎士団の仕事の1つらしい。

 

 魔物の部屋のように、群れ全体が1パーティーの塊になっていて部屋の外へと散らばらず、魔法の撃ち逃げができるなら経験値大量獲得のチャンスではあったんだがな。

 単純に接敵頻度が上がっているだけ、しかも戦闘時間も長めの階層となれば、無理して倒しに行く必要はあるまい。

 

 

 

 さて、ボスの扉の前に着いたので、対策を考えようか。

 

 

「ボスはファイヤーバードでありますな。

 炎を纏ったように見える鳥でありますが、実際に燃えているのではないため水属性が弱点ということもなく、耐性のある火属性以外は等倍になるであります」

 

 

 火耐性ということは、必然的に魔法使いのスキルは別属性を使うことになる。

 火属性以外に耐性のあるハーフハーブが一緒に出てくると、噛み合わなくて面倒だな。

 

 

「視覚的に形状を捉えにくい挙動で、体当たりや(くちばし)による突き、脚の爪を受けると思わぬ深手を負うことになる……のでありますが、我々の装備なら数発受けたところで窮地に陥ることはなさそうでありますな。

 空中に退避されたり、攻撃を当てることが難しい相手なのでありますが、姫の雷魔法があれば命中に困ることがないでありますし、その上麻痺も狙えるので問題もなさそうであります!」

 

 

 すみません、例外で。

 前の階層から戦闘時間はかなり延びているというのに問題ないというくらいには、普通のパーティーでは本当に戦闘し辛い相手なのだろう。

 

 ただ、拘束できる前に自分への特攻みたいなことをされると危ないので、すぐにミーラスカの大盾に隠れられるようにと忠告は受けた。

 他のメンバーはそれぞれの魔物への牽制や、耐性的にハーフハーブが出た時の対応の共有かな。

 グミスライムは全体魔法で巻き込んでいるうちに、耐久力の問題で最初に消えるだろう。

 

 陣形の確認もできたところで、開いたままのボス部屋へと突入した。

 扉が閉まり、魔物の出現を知らせる煙が中央へと集まり始める。

 

 

ハーフハーブ Lv28

ファイヤーバード Lv28

ロックバード Lv28

 

 

 目が慣れてきたロックバードと見飽きたハーフハーブの中央に飛んでいるのは、赤とオレンジに燃ゆる不死鳥……ではないな。

 体は炎に包まれていて鶴のような形状ではあるのだが、首周りや身体が太いような。

 

 もし身を包む火が消化されて身体が露わになったら、ドロップアイテム通りにオストリッチ、つまりはダチョウだったりするんだろうか。

 開幕にサンダーストームとウォーターストームを浴びせて、耐性ダウンを掛けながら自分のパンプスをちらりと流し見て複雑な気分になった。

 

 そいつは違うぞとの否定なのか、ファイヤーバードが火の礫を2発、3発と飛ばしてくる。

 これもロックバードと同じようにスキル外の攻撃なのが厭らしい。

 

 火球は大盾に弾けて散り、伸ばした首にお返しとばかりにシャオクが槍を突き入れる。

 しかし揺らめいた炎を貫いただけで、実体には命中しなかったようだ。

 見せかけの炎上は、意外と細い本体を惑わせるためであるのかもしれない。

 

 攻撃は苛烈なものの、動きの方はロックバードより機敏ではなかった。

 吐き出した火球はちゃんと燃えているようで、巻き添えになってハーフハーブは焦がされている。

 衣服を守るために直撃は避けなくてはならない。

 

 ただ、それさえ気をつけていればそこまで恐ろしい魔物ではないことに気づく。

 眼前に燃えた身体で突っ込んでくるのはビビりそうなものだが、シャオクもセナクロワもしっかり凌いでいる。

 エフェクトに過ぎないと分かっていても、自分じゃ見た目だけで熱さを感じて顔を背けてしまいそうだ。

 

 

 戦闘自体はというと、さすがにロックバードと同様までとは言わないが、ハーフハーブよりは麻痺にかかっている印象だ。

 というかハーフハーブは状態異常にかかった際の色の違いも微妙過ぎるし、もともと動作も素早くないので、飛行する鳥たちが起こす風を耐えているのか動きが少ないので分かりにくい。

 弱点である火を飛ばしてくるボスと組まされているのは、ちょっと可哀想に思えてくる。

 

 ロックバードが石化してから先に煙へと変わり、ボスのついでにあしらわれているハーブも石化したとアコルトから報告があがった。

 そこからは事前に話していた戦法に切り替える。

 

 ボスのファイヤーバードが麻痺したタイミングで、ミーラスカが大盾での防御姿勢を解除して壁際へと押し込んだ。

 本物の炎の身体でないからこそ、押さえ込んでも熱波を受けることもない。

 苦し紛れに吐きつける火球だって、ダマスカス鋼には通じない。

 

 自分の全体魔法も敵に直接作用するので接触していても影響はないしな。

 壁との隙間から槍や長剣で攻撃を続けていると、押し付けている大盾は途中でガクンと抵抗がなくなり、次いで脇から漏れる煙で戦闘終了を悟った。

 

 ミーラスカが大盾を引くと、自分はその隙間に落ちているものを鑑定する。

 

 

オストリッチ

 

 

 自分の履いているオストリッチパンプスの模様にそっくりなグレインレザーだ。

 これが素材なんだから当然なのだが。

 

 しかしの1体倒すのにも結構苦労するなぁ。

 一般パーティーに聞かれたら怒られそうだが、弱点属性なしのボス戦闘は面倒すぎる。

 アイテムボックスにドロップ品を仕舞い、すでに出現している出口から次の階層へと向かう。

 

 

 

 皆でぞろぞろと出てきた先は29階層の入口小部屋だ。

 

 

「えーっとこの階層は……」

「29階層の魔物はノンレムゴーレムですね。

 ロックバードと同じく、土属性に強くて弱点はありません」

 

 

 うーん、撤収!

 シャオクもそうなるだろうと思っての回答だろう。

 

 やはり27階層でもう少しレベルを上げてから、一気に突破したほうがよさそうである。

 さらに1つ先の階層はブラックフロッグで、火属性が有利になるって話だ。

 

 まぁでも、1戦くらいは戦ってみた方がいいか。

 どうせ今から27階層に戻っても、大して時間もなさそうだし。

 

 

 アコルトに、なるべく数が少ない群れを聞き取ってもらう。

 

 枝分かれした通路を進むと、ロックバードの群れを避けられそうになかったので卒なく倒す。

 同種3体とかなら、進路を大盾で塞ぎつつ麻痺をばら撒くことで苦戦はしない。

 魔法のターン数が多いのが面倒ではあるが。

 

 もう一つ小部屋を超えた先で、黄褐色の切り出された岩が見えた。

 少し近づいてみれば、それに同じ岩でできた手足が付いているのが見える。

 

 

ノンレムゴーレム Lv29

 

 

 簡素な顔のような造りも見て取れるので、石人形と言われるだけのことはある。

 周りに他の魔物が見えないので、1体だけしかないらしい。

 魔物が入れるタイプの、行き止まりの小部屋のようだ。

 

 1体だけだろうと、いつもどおり全体魔法で攻撃を開始した。

 2連のサンダーストームにウォーターストームも続けて発動すると敵と認識されたようで、その重そうな体でこちらへと動き出した。

 

 セナクロワによると、距離を空けると土魔法を使ってくることがあるらしいが、基本的には腕を振り回しての打撃がメインとのことだ。

 その攻撃もモロクタウルスを想定して動けばイメージを掴みやすいとのことで、ミーラスカが前に出て大盾を構えている。

 

 状態異常耐性ダウンをかけて成り行きを見守っていると、後ろに引いた腕を思い切り振り抜く鋭いパンチが、音を立ててタワーシールドを打った。

 結構な衝撃のように思えたが、角度をつけて力を逃がすように受けたらしい。

 

 シャオクやセナクロワの教えもあって、タウルスで散々練習できたからか、魔物が変わってもミーラスカは初見で対処できたようだ。

 着実に強くなっている。

 

 その成長を称えて降参とばかりに、次の雷魔法でノンレムゴーレムが麻痺にかかる。

 やはり弱点属性無しの高耐久は状態異常に弱いのか?

 

 そのまま攻撃が集中すると、あっけなく石化に持っていけたので、皆に声をかけて戦闘態勢を周囲の警戒に変えてもらう。

 使い道はここだとばかりに、ゴーレムの足元へと壁魔法を発動した。

 

 2枚のサンダーウォールを重ねて設置し、クールタイムが解消された水魔法も追加する。

 しばらく強壮丸を消費しつつ攻撃を重ね、何周目かの魔法の壁が解かれると、ノンレムゴーレムは煙へと姿を変えた。

 石化による弱化が入っても回数が必要なのは、ロックバードと同じで面倒である。

 

 

 

 

 小ぶりのスイカくらいの大きさの岩が残された。

 他のドロップアイテムに比べると、本当に山に落ちているようなただの岩にしか見えないが、アイテムボックスに収納されたので、歴としたアイテムである。

 コボルトのナイフの方が余程複雑な気もするが、これも建材になるそうなので立派な迷宮産のアイテムだ。

 買い取り額は羽毛と一緒らしいけど……。

 

 

 29階層の魔物とも戦ってみたし、そろそろいい時間なのでこれくらいにしておくか。

 

 また明日以降は27階層のボス周回を進めよう。

 森林保護官のレベルも上がりそうだしな。

 

 と、帰りのワープゲートを出そうとしたところで、ひとつ思いついたことがあった。

 

 

「あ、待って。

 最後に1戦、試したいことがあるんだ」

 

 

 帰宅準備で武器を収納しようとしていた皆に声をかけた。

 

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv51
魔法使いLv51/英雄Lv46/探索者Lv50/森林保護官Lv49/遊び人Lv48/魔道士Lv22
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 巫女44 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒38 冒険者1 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv39

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv38

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv36

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv34

セナクロワ  猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv31


---
次回は7/6更新の暫定予定です。


6/26
活動報告 018 更新
いつの間にか連載から2年経ってました。

いつも御覧いただきありがとうございます。


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