ふて寝して眠りが深かったおかげなのか、今朝は頭がスッキリしている。
幼い頃に宿題は午前中にやれとか言われたこともあったが、休養を終えた脳はゲームに使ったほうが捗るのだと
そんな両親ももういないが、昔から自分は不用意な発言をしていたのは変わりないなと苦笑する。
朝食も済ませ、今日の予定を確認する。
夏の下月14日なので、カルメリガにセナクロワのドレスと装飾品を受け取りに向かうのは明日だ。
よって本日も自由時間である。
ならば樹祭司の試運転に迷宮へと行きたいところだが、インジェクトの詠唱呪文の読み方が気になってしかたがない。
もうちょっとだけ、思案してみるとしよう。
アスピレートの呪文は、『擾乱あらば愁苦の根、御霊誘え我が許へ、収奪、アスピレート』だ。
語句としての意味合いならば『乱れや苦しみがあるならば、自分のもとへ招き寄せる』ということになるだろうか。
収奪という言葉がやや強いが、ビーストアタックの詠唱は奪命とかだったしな。
インジェクトの方は『安寧足らば慈愛の穂、御霊齎せ其の許へ、灌注、インジェクト』となっている。
対になっているのだとすれば、『安らぎに満ちているならば、相手に与える』的な意味になりそうか?
灌注の灌は灌漑農業とかの文字だろう。
水を引き入れるとか、注ぐの方の漢字も合わせて、元気を分け与えるとかそういった方向で間違いなさそうだ。
そうして考えると、『齎せ』は施すとか、恵むとか……うーん。
ニュアンスは分かるが、これだという言葉が思いつかない。
夜に引き続き、コップの中の花に向かって唸っていると、家事を終えた皆が集まってきた。
「お嬢様、詠唱の文言でお悩みですか?」
「うん。
難しくて読めないんだよね」
こういう文字なんだけど、とパピルスに書いてみても、誰も読めるわけがない。
自分にそう見えているだけで、ブラヒム語では違う文字だろうし、なにより自分からしても漢字よりも記号にしか見えないもん。
1、2、3、…………下のあたりはどうなってんだこれ。
正しい書き順すらわからん。
名字が齋藤さんだったら迷いなく書けたかもしれない。
先程考えた言葉の意味合いを伝え、似たような読みを考えてもらう。
この際ヒントになるならなんだっていい。
しばらく時間を使ってみようか。
その言葉が出たのはやはり、信仰に長けたミーラスカだった。
「───安寧や慈愛を他者へ、ということでございましたら……。
授ける、いえ、
希望をもたらす、加護をもたらす、慈愛をもたらす。
ありそうか。
「やってみるね。
安寧足らば慈愛の穂、
一晩経って流石に弱ってきた花や茎に、ハリが戻った気がする。
「成功みたい!
ミラも、皆も、ありがとう!」
「おめでとうございます!」
効果の度合いは二の次だ。
正しい詠唱が出来たことが嬉しい。
実際に使うことがあっても、ほぼ確実に詠唱省略するんだけども。
スキルを、樹祭司というジョブを持っていること自体が、よろしくない印象を持たれそうだしな。
そういえば昨日は気にしていなかったが、アスピレートは連続使用はできなかったので、クールタイムがあるタイプのスキルのようだ。
おそらく対となるインジェクトもそうなるだろう。
1回の元気(?)付与や奪取が少量でも、何度も使用すれば影響は大きいかと思ったが、それには時間がかかるみたいだし、一気に状況を変えるというのは難しいようだ。
元気っていうのは何なんだろうな。
魔物に触れずにHPを奪えるとかだったら、今後の戦術が変わるのかもしれない。
MPだとしたらさらに嬉しいが、ステータスすら見えないので別項目という可能性も大きいし、あんまり期待しないほうがよさそうか。
正式な詠唱呪文も判明したことだし、いつもの時間よりは遅めだが、迷宮へと向かうとするか。
装備を整えてからワープで移動してきた先は、シームの27階層である。
樹祭司のスキルの効果検証をするにも、Lv1のままでは分かり難いのである程度までレベルを上げる必要があるだろう。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv51
魔法使いLv51/英雄Lv46/探索者Lv50/森林保護官Lv50/遊び人Lv49/魔道士Lv26/樹祭司Lv1
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
7thジョブ 63 獲得経験値10倍 31
必要経験値1/10 31 パーティー項目解放 1
パーティライゼーション 1 ガンマレイバースト 1
知力 15
(残0/149pt)
巫女を外して樹祭司を入れた構成だ。
知力補正が追いついてきたら、MP回復速度に振り直したら安定しそうかな。
明日以降は慌ただしそうだし、スタートは遅れたが集中して行こう。
昼休憩も越えて、午後からのボス周回も2桁目が変わる頃、樹祭司のレベルも8まで上昇した。
それまでの過程で分かったことがある。
たぶん、樹祭司の『対植物増強』は、森林保護官の『対植物強化』よりも特効の補正幅が大きい。
そしておそらく、これらは乗算で作用している。
知力大上昇の効果割合が伸びてきたこともあるだろうが、この短時間で必要な手数が周回を始めてから1発、2発とどんどん減っているのだ。
ジョブ編成を変えたことで増えてしまったターン数が、半日と掛からず戻った形である。
時偶現れるモロクタウルスの討伐にかかる分と比較すれば、弱点属性を鑑みても明らかに加算では間に合わない。
知力に振ったポイントも、この分ならすぐに余裕が出そうだ。
装備の複数スキルと違って、複数ジョブの併用は想定外なんだろうか。
可能性としては漁師ジョブの『対水生強化』も、その先のジョブと組み合わせができそうか。
残念ながら種族を変えることはできないので、あくまでも予想でしかないが。
パラレルジョブが2枠埋まることを差し引いても、植物の魔物相手にはダブル特効で挑むべきだろう。
将来的に深層でも周回をするようになった際は、頼もしいパッシブスキルたちだ。
そのまま夕食まで少し余裕のあるくらいの時間まで狩り続け、最後に検証を行う。
魔物に対して、アスピレートを使ってみるのだ。
現在の樹祭司のジョブはLv10。
割合が小さいとしても、それなりに手応えくらいはあると思われる。
1つ前の戦闘でガンマレイバーストを使用してから、MPは回復していない。
ダメージは受けていないので、タンポポもどきに与えたり奪ったりしたらしい
待機部屋からボス部屋に突入し、扉が閉まる。
煙から登場したのはボスのハートハーブにハーフハーブ、そしてもう1体はグミスライムだった。
バーンストームの2連発とファイヤーストームを皮切りに戦闘を開始する。
クールタイムに入ったところで、手前に居たスライムを指定してアスピレートを発動した。
特にエフェクトは発動しないし、グミスライムも影響なさげにぷるぷると動いているが、MP低下による倦怠感が軽減された。
体感的には、強壮丸を1つ使った時と同じか少ないか、……それなりに少ない方が当たりかな。
普段からの魔法と回復薬の酷使で、メンタルの乱高下についてソムリエ染みてきている自分の感覚に、笑いそうになる。
笑えるくらいに回復しているということでもあるか。
念のためパーティライゼーションでアイテムを使用して回復してから、初級中級の火魔法を発動する。
今度はハーフハーブに対してアスピレートを発動だ。
その後も攻撃魔法の間にボスにも使ってみたが、ソムリエ的には魔物の種類が違っても回復量に違いはなさそうである。
もしかしたら樹祭司のレベルとか、相手のレベルとかで決まっているかもしれないな。
「……もう1周してもいい?
スキルで確認したいことがまだあってさ」
メンバーたちは顔を見合わせてから、「構いません」と承諾してくれた。
夕方の鐘の時刻までには、もう少し猶予がある。
結局追加で3周ほど試させてもらって、おおよその仕様を把握できたと思う。
戦闘時間自体は短いので、戦闘を終えてすぐ帰宅したおかげで夕食の時間には遅れていない。
今日の食事の準備を皆に任せて、こちらは考察として、先程までの内容を振り返らせてもらう。
まず、アスピレートはMP吸収スキルで間違いない。
そしてその効果は
メンタルの話じゃなくて、ジョブ効果やボーナスポイントで上昇する方のだ。
今朝までの検証では、樹祭司Lv1の精神中上昇と小上昇の他には、英雄Lv46の精神中上昇が付いていただけだった。
面倒くさくてメインジョブを巫女にしたまま、給湯後はパラレルジョブ数を減らしたポイントをそのままMP回復速度に振っていたしな。
それに野生の草花ではMPに値するものの総量自体が微々たるものだったんだろう。
今回は同じく英雄に加え、樹祭司もLv10に上がっているし、森林保護官Lv50の精神小上昇に微上昇、魔道士Lv26の精神微上昇があった。
そして、フィンガーバングルの『回復増強』の効果によって、自分のMP回復量も増加している。
これは魔物を石化させてからの装備の着脱、ジョブの切り替えで確認済みだ。
最後に経験値関係を犠牲に精神ステータスにボーナスポイントを大量に振ってみたところ、アスピレートの使用でグンとMPが持ち直す感覚が得られた。
細かい数値が分からないものの、とにかく補正で上げれば上げるだけ、それに応じて何割か回復量も増加させることができる。
大木のモンスターカードを所有しているので、『精神2倍』のスキルを付与すればさらなる上昇も図れるだろう。
攻撃魔法の運用で増える一方だったMP消費において、パーティライゼーションによる薬の連続使用に頼りきりという課題を解決する手段が見えてきた。
攻撃のローテーションにアスピレートを加えてしまえば、アイテムボックスに何列も強壮剤に万能丸や万金丹を抱えなくて済む。
お風呂のお湯を作る際には、吸収する相手がいないのでこれまで通り薬での回復になるだろうけど。
やはりこれは、人に向けたら呪いの類と称されても仕方がないスキルだろうと思う。
自分のように精神ステータスを盛りに盛らなくても、そもそも一般の人のMPはそこまで多くない。
クールタイムや詠唱の必要はあるものの、何度か掛け続ければ気分は悪くなるだろうし、最悪の場合も考えられる。
英雄と同じく、バレちゃいけないジョブになってしまったかもしれない。
インジェクトの方も試してみた。
メンバーに、というか人に使うことを躊躇していたところ、セナクロワが志願してくれたのだ。
回復薬を使わずにスラッシュを何度か使ってもらってMPを消費した戦闘後、彼女を対象に使用してみた。
彼女の感覚では強壮丸1つに及ばない程度だったそうだが、たしかにMPの回復を感じられたそうだ。
戦闘に慣れているからこそ、そういうのが肌感で分かるのは助かる。
実戦では余り使う機会はないだろうが、緊急時には応急処置として効果ありと考えておこう。
アイテムボックスを開いて薬を出したり、パーティライゼーションでアイテム列の指定からやり直すよりは、断然早いしな。
回復量確認のために複数回使わせてもらったが、自分のMPを消費して分け与えているという認識で、こちらも間違いないだろう。
何度か試していたら、こちらも攻撃魔法使用後のメンタルが落ちる感覚と同じものがあった。
クールタイムもあるし、パーティライゼーション以上に連続使用する場面は思い浮かばないが、一応頭の隅に置いておこう。
それよりも、インジェクトを受けた時に、じんわり暖かくなるような感覚があるとセナクロワが言い出したのが問題だ。
熱を出したり奪ったりをしている様子は微塵もないが、その言葉を受けてから私もボクもと皆スキルを欲しがり始めたのだ。
「……?
確かにお嬢様の御心に触れた、ような……?」
「そうでありますよなぁ!」
「そうですか?
いや、ボクもそんな気が……?」
「ええ、姫の慈愛のお力に間違いなく!」
「これが、神の御慈悲……!」
「お恵みを頂けることに感謝するであります!」
黙りなさい、
ぜっっっったいプラシーボだろ!
というか自分のMPを消費しているわけで、キミたちはもともと減ってないなはずなのでやめてね。
元気注入とかしません。
夕食の場でも話題に出たので、しかたなくリカヴィオラにもしてあげることになってしまった。
彼女の目の前に立って、肩のあたりに手を翳す。
「はい、インジェクト」
「…………?
今ので終わりにございますか?」
ほら、これが普通の反応だよ!
首を傾げるリカヴィオラの頭を撫でる。
キミが正しいんだよ。
それにも困惑した様子だが、これでこの件は終了だ。
お風呂の準備に向かう前に、シャオクにはカード融合を頼もうかな。
どの部位にスキルを付与するかが問題だけど……、フィンガーバングルの最後のスロットでよさそうか。
『知力2倍』の付いた、
サークレットやメッシュスカートは、衣装によっては身につけられないしな。
あ、白銀をミスリルとも呼ぶように、聖銀を
こちらとしてもその名称の方がスタイリッシュでよかったが、鑑定の謎翻訳様は聖指揮棒などというゴツい名でしか表してくれないため、こちらが勝手に読むことにしたのだ。
普段は面倒でタクトと言っているしな。
……話はそれたが、左手のリングとバングルを外してモンスターカードと共にシャオクに渡し、自分は浴室へと向かった。
成功率は100%なんだし、スキルも1回だけなんだから、毎回目の前でやってもらわなくてもいいだろう。
水の壁を炎で温めてはバシャバシャと崩し続け、湯船にお湯を溜めていく。
こっちのMP補給も、薬の使用量を減らしたいんだけどなぁ。
石化した魔物でも置いておいて、栄養剤のように吸い取り続ける……なんてことができればいいかもしれないが、無防備になる場所に魔物を置いておきたくはないよな。
あくまで状態異常なので、何かが原因で動き出す可能性もあるわけだし。
その前にパーティー勧誘できないのだから、ワープがあっても連れてこられないか。
地上に溢れた魔物をここまで持ってこなければならないので、現実的ではないな。
生き物系は却下だし、特に虫とかは絶対に嫌だ。
考えただけでもゾワゾワする。
リンゴくらいの大きさのスライムとかコラーゲンコーラルくらいの無機物感のある奴らならよさそうだが、もともとあの普通のサイズでスポーンするのだから、幼体なんてものは存在しないはずなんだよな。
入浴を続ける限り、薬漬けの毎日から脱却する日は遠い。
それでも迷宮での補給が減って浮いた分だけ、今後売却に回せる分が増えたということになる。
ガンマレイバーストの使用のハードルも下がって戦闘が短くなり、回転数も上がって稼ぎも増えたという意味でも大きくプラスになった。
さらに微上昇といえど、戦闘編成のジョブにMPの補正が増えたのも地味に嬉しい。
サンキュー樹祭司。
そしてもうエルフ村ことノルテクィに立ち寄る理由が消えて万々歳だ。
予定は全くないが、逆に人前での戦闘をする時は制限があまりにも多すぎて、大幅な弱体化をしてしまうんだけども。
パラレルジョブによって素の火力は同レベル帯の比じゃないから、苦戦とまではいかないはずだが。
皆も呼んで入浴も終え、ダイニングのテーブルに立ち寄る。
シャオクから、カード融合を終えて置いてあると伝えられたからだ。
連綿のフィンガーバングル(持続増強 回復増強 精神2倍)
問題なく最後のスキルが付与されている。
単純にこれを装備するだけでも、オーバーホエルミングの時間が延長され、アスピレートによるMP吸収の効果量やアイテムでの回復量が強化されるなんて、非常に頼もしい。
見た目としては、腕輪とそれにチェーンで繋がった1つの指輪を中指に通すだけなので、アクセサリーにしか見えないのも普段使いしやすいのも高得点だ。
何に対しての得点なのかは自分も知らない。
誤魔化すようにアイテムボックスへとフィンガーバングルを収納した。
明日はナルザさんのところに差し入れをして、セナクロワのドレスと装飾品の受け取り、自分のドレスの進捗確認かな?
その前にどこかの街で迷宮のドロップアイテムを売却しておきたい。
以前に一部は整理したが、本格的に強壮丸や強壮剤の素材、状態異常の回復薬を処分して、万能丸と万金丹とその材料に絞る、アイテムボックスの内容精査が必要だ。
リカヴィオラに預かってもらっている分も合わせて要調整だな。
皆も寝室へと戻ってきたので、今日のところはおしまいにしよう。
色々とスッキリしたので、本日はぐっすりと眠れそうだ。
まぁ、昨日もちゃんと寝られたんだけど。
就寝前にインジェクトを求められる前に目を閉じると、程なくして意識も薄れていった。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv51
魔法使いLv51/英雄Lv47/探索者Lv51/森林保護官Lv50/遊び人Lv49/魔道士Lv28/巫女Lv45
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒38 冒険者1 樹祭司10 盗賊30)
連綿のフィンガーバングル(持続増強 回復増強 ○) → 連綿のフィンガーバングル(持続増強 回復増強 精神2倍)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv39
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv39
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv36
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv35
セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv32
所持モンスターカード
・竜 1
・芋虫 2
・魚 2
・潅木 1
・珊瑚 1
・ウサギ 1
・コボルト 3→2
・大木 1→0
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次回は7/27更新の暫定予定です。