異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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198 体裁

 皆と合流してから、商人ギルド周りの飲食店を探す。

 

 アコルトたちは、流石に衣類の購入まではしなかったようだが、髪留めやリボンのような小物を選んできたみたいだ。

 髪の長さからして、大半は自分とリカヴィオラのものだろう。

 後で立て替えてあげきゃな。

 

 

 以前の反省も込めて、商人ギルドに近い貴族街寄りの料理屋を選ぶ。

 入り口の店員から一瞬見定めるような視線を受けたが、どうやら最低限のラインは越えられたのか、にこやかに席へと案内された。

 

 メニューを見てみると、どれも帝都のこれまでの店と比べて数割増しから数倍に近く、客単価がそもそも違うらしい。

 これが料理に付いた値段なのか、立地に対してのものなのか、少々不安になってくる。

 

 焼き物や煮物など、一通り選んでもらっていると、どうやら追加でトウキビ粉や刻んだレッドスパイスを頼むことができると書かれているらしい。

 もちろん割高ではあるが、一味違った楽しみ方まで用意されている店に、期待が高まる。

 

 注文をして料理を待つ時間に、何組かの客が店の奥へと進んでいく。

 流し見で鑑定を飛ばしてみるに、少なくとも片方は商人関連のジョブだった。

 立地的にも客層としては当然なのだが、様子からすると商談や、静かに食べたい常連だったりが向かう個室席があるのかもしれない。

 見える範囲にまだ空いているテーブルはいくつもあるしな。

 

 

 そんな思案をしているうちに、続々と料理が運ばれてくる。

 調味料も香辛料もふんだんに使っているようで、すでに香りからしてこれまでの店とは違う。

 食べ始めてみると、味の方ももちろん格段に美味しかった。

 

 それぞれの顔を見渡してみて、皆何やら気付いたように一様に頷く。

 おそらく迷宮産食材が使われているのだ、と。

 

 普段食べ慣れているからこそ分かる。

 全てでないにしろ、皿に盛られた料理1つ1つの何割かの肉などがそうだ。

 それらが旨味を引き上げ、また地上産の食材にも十全な下拵えがされていて、柔らかさや味の染み込み方で追いつこうとしている。

 

 噛んだときに溢れる肉汁が甘辛いソースに絡み、切り口に焦がしバターを塗ってあるパンによく合う。

 別添えで頼んだトウキビ粉は辛みをよりマイルドにしてくれるし、刻まれて辛味を増したレッドスパイスにはミーラスカもご満悦だ。

 

 彼女だけでなく、自分を含んだ誰もがその味に満足できたということで、間違いなくアタリの店だろう。

 

 料理と引き換えに代金を払う際に店員に聞いてみたが、やはり奥には個室席があるそうだ。

 空いていれば、追加料金を払うと案内してくれるのだという。

 

 帝都の商人ギルドに属していれば一部優待という形でも使えるそうだが、こちらは所属する気はないし、素直に部屋代を払うことになりそうだ。

 

 頼んでいない料理もまだまだあるので、今後も通いたい店としてピックアップしておこう。

 もしかしたら迷宮帰りでは服装や汚れがアウトかもしれないので、休日しか候補日がないかもしれないが。

 

 

 

 その後は速やかに帰宅する。

 出た先は誰もいない、鍵のかかった家の中なので、入り方さえ気を付ければ順にゲートを潜ればいいだけだ。

 

 干していた布団を手分けして取り込んだり、洗濯物を畳んでいると、裏口の扉に挟んであったのだとリカヴィオラがメモを持ってきた。

 読み上げてもらうとどうやらカルムの従者であるシャイルヴェが残したもので、例の交流会の招待状の件で訪れたが、こちらが不在であったと書いてあるらしい。

 

 さすがに他領とも関わる手紙をポンと置いていくわけにもいかないよな。

 文面に、迎えにあがるつもりであったとあるのは、本人確認のためにインテリジェンスカードのチェックがあるのだろう。

 騎士などの人員がいる場所に連れ出すためだと思われる。

 それならば冒険者本人が使いに出される意味も分かる。

 

 読み進めてもらうと、明日中に、自分とアコルトにはシームの商人ギルドへと足を運んでほしいとも書かれていた。

 そちらで立ち合いのもと、招待状を受け取ることになるらしい。

 想定通り、参加者の身元を明かす必要があるようだ。

 

 カードのチェックと招待状の受け取りだけなら、全員で向かう必要はない。

 ならば、この機会にセナクロワを紹介した方がよさそうかな。

 主人である自分のインテリジェンスカードには隷属している奴隷の一覧が表示されるのだし、どうせそれを見られてしまえばどういう人物なのか説明をしなくてはいけなくなる。

 

 

 2人に明日の予定を伝えたところでふと気付く。

 セナクロワまで紹介すると、戦闘メンバーのジョブの内訳が知られてしまうことになる。

 

 魔法使いに狩人、鍛冶師に巫女。

 そこに不足していた前衛として、フィジカル面でも矢面に立てそうなセナクロワが剣士として加入すること自体は問題ない。

 

 しかし、唯一の探索者のジョブであるリカヴィオラを留守番させて、頻繁に迷宮に通っているというのは些か不自然が過ぎる。

 普段の手紙の受け取りや、自分たちが不在の間に彼女が近所に出歩いていることは周知の事実なので弁明は難しい。

 危険な迷宮に挑む際に5人だけという、1人分の枠が空いているにもかかわらず、待機メンバーを入れたまま行動しているというのは腑に落ちないだろう。

 

 街やギルドですれ違う分にはジョブの判断などつかないが、カードをチェックされてしまえばそうはいかない。

 セナクロワを探索者として紹介する手もあるが、今後剣士派生の別ジョブに就いた場合がややこしくなる。

 となれば、戦闘メンバーのうちの誰かのジョブを名目上は探索者に変更しておく必要があるだろう。

 

 それぞれのギルドが所有するギルド神殿によってしかジョブを定められないのなら、ジョブ設定なんて異能の力を持たない一般人にとって、鍛冶師も巫女も気軽に変えられるようなジョブではない。

 

 作中の()は、自らのジョブを探索者や冒険者としていたので、そのあたりの管理に不都合は出てこなかったが、自分は魔法使いのジョブであると公表している。

 ジョブから推測される身分やその扱いといった面では恩恵を受けているが、パーティー内のジョブとしては重みが大きすぎるのだと今更ながら認識した。

 

 探索者がいなければそもそもパーティーを組めないし、組んだだけで留守番をさせているのでは、迷宮内での移動や撤退の部分で不便としか考えられないのだ。

 ボーナスポイントに影響するジョブレベルという観点から、原作ではメインジョブを探索者にしていたというのは話の流れという部分も大きいものの、パーティーに確実に必要なジョブで、補正量の少ないジョブ効果の探索者をパラレルジョブ持ちの主人公が担うというのは理にかなっていた。

 

 魔法使いでありながらパラレルジョブで探索者を兼ねるより、魔法使う際に人目を気にしながらでも探索者と称して魔法スキルを使えた方が、パーティーメンバーのジョブを1枠自由にできる。

 だからといって自分が今更探索者でやっていくなんて、到底無理な話だ。

 戦闘にも生活にも頼りきりになっている魔法スキルが一切人前で使えなくなるのはもちろん、魔法使いのジョブに就いていられなくなるほど、何かやらかした人物という疑いの目を向けられても困る。

 

 

 そのような点も含めて食事中や入浴中にも話し合った結果、アコルトを一旦探索者に変更しておくという話になった。

 狩人のジョブスキルが常時発動のものだけで、一般的にはおそらく迷宮に挑むジョブとしてそこまで評価されていないだろうという点と、側仕えの一番奴隷としてアイテムボックス持ちのジョブに変更したというのは不自然ではないからだ。

 

 ただ、迷宮では狩人に戻して戦闘を行いたい。

 状態異常の付与はそれだけ強力なものだし、深い階層の敵相手には補正の大きく、戦闘に慣れたジョブにしていないと不安だからだ。

 そもそもパーティー自体は自分が組めるので、対外的な表示以上に探索者にしておく意味はないしな。

 

 今回はこれで乗り切ったとしても、今後はどうしよう。

 迷宮探索でのパーティーではリカヴィオラを抜いて、6人目の戦闘メンバーが加入させるなら、それこそ誰かしらが本当に探索者でなければマズい場面が増えてくるかもしれない。

 

 ()()()()()()()()などという架空の存在は、人数に空きがあるから匂わせができるのであって、パーティーが動かせない役割で埋まっていったらどうしても無理が出てくる。

 アコルトを探索者や冒険者として育てるのはもったいない気もするし、かといって最終メンバーに探索者のジョブでも立ち回れる、セナクロワ以上にフィジカルの強い人材を探すのも大変だ。

 高レベルの探索者はアイテムボックス持ちの奴隷としても人気だろうし、もともと腕に自信のある人物だったとしても攻撃スキルもなく体力補正のみの探索者で育て直すというのも相当な高さのハードルに思える。

 

 難しい選択の未来ばかりが待ち受けていそうだが、進んでいくしかなさそうだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 明くる日。

 朝食を終えて家事を済ませた後、身支度を済ませて商人ギルドへと向かうことにする。

 自分とアコルト、そしてカルムに紹介するセナクロワの3人での移動だ。

 

 残りのメンバーには、昨日手にいれた霜晶鉄の板と金網をニカドー親方へと届けてもらうのをお願いした。

 シャオクとミーラスカは完成品の氷冷箱の実物を目にしているから、どこに使われるかも説明もしやすいだろう。

 リカヴィオラは留守番でも、ついていくのでもどちらでもいいと言ってある。

 

 万が一こちらが長引いたとき用に、食事をしてもらう分くらいはお小遣いも渡してあるので、商店街を回ってからでもよさそうだしな。

 

 

 冒険者ギルドに出てきてから、商人ギルドへと足を動かす。

 エンブレムやらの忘れ物はないし、アコルトのジョブも探索者へと変更済みだ。

 抜かりはない。

 

 ギルドに着いて受付に声をかけると、すぐに指定の商談室へと案内された。

 どうやらカルム側が、自分たちが来たらと指示を伝えてあったようだ。

 

 

「ミツキ様、ご足労いただきありがとうございます」

「そろそろ期日だという頃でしたのに、シャイルヴェ殿にご迷惑をおかけしました」

 

 

 ノックと声掛けに反応し、扉を開けてくれたのはメモを残してくれた冒険者のシャイルヴェである。

 全員外出するというのは避けるべきだったが、誰か1人を残して外食だのするのはちょっとな。

 本来、奴隷というか従者相手には気にすることではないんだろうけど。

 

 奥の椅子に座っていたカルムも立ち上がり、挨拶を交わす。

 

 

「ミツキ殿にはフェルス様のお相手を務めていただくわけですから……、招待状の手配にお時間をいただいたのはこちらの都合ですからね。

 ……シャイルヴェ、ではビダウト殿を」

「かしこまりました」

 

 

 シャイルヴェが商談室の奥に掛けられていた絨毯に向かってフィールドウォークを唱え、ゲートを出現させて通り抜けていった。

 

 

「シャイルヴェよりメモにてお知らせさせていただきましたが、インテリジェンスカードの確認が必要になっておりまして……。

 聖騎士の方をお連れするまで少々お待ちください」

 

 

 前の取引の時も聖騎士だったが、領主家自体に関わる内容については立場ある者が立ち会うことになっているんだろうか。

 時間もあるようなので、セナクロワの紹介をしておこう。

 

 

「この度、新たに従者として迎えた、セナクロワです。

 主に、迷宮での戦闘の際に力になってもらっています」

「ご紹介にあずかりました、セナクロワであります。

 以後、お見知りおきいただければ幸いであります」

 

「ご紹介ありがとうございます。

 よろしくお願いいたしますね。

 セナクロワ殿も、交流会に参加させたいということでしょうか?」

「いえ、この機会にご紹介だけと思ったまでです」

 

 

 カルムが頷く。

 向こう6年は、シームラウ家が代わりに人頭税を払ってくれるのだ。

 どんな人物に対しての支払いなのかを知らせるのは、誠意として受け取ってもらえたようだ。

 

 

「さて、もう少々お時間を頂きそうですので、競売品のお受け渡しは可能でしょうか?」

 

 

 聖騎士も仕事をしているだろうから、呼んですぐ連れてくるのは無理だろう。

 もしかしたら昨日は待機していてくれたのかもしれないが、翌日だしな。

 

 了承し、依頼していたコボルトのモンスターカードを2枚受け取り、代金を支払う。

 アコルトのアイテムボックスから銀貨を取り出して対応する際に、「狩人から転職されたのですね」と当然のように返ってきた。

 競売関連で十二分にわかっていたが、やはりカルムは記憶力がいいよな。

 ボロを見せたら面倒なので、対策してきてよかった。

 

 

「前衛に剣士のセナクロワが入ってくれたので、アコルトを下げられるようになりました」

「なるほど、そういうことですか。

 ……おっと、戻ってきたようですね」

 

 

 ブゥンという音でカルムが気付いたように、絨毯の方を見てみると、再び黒塗りの扉が現れ、中から大柄な人物が出てくる。

 

 

ビダウト 狼人族 ♂ 53歳 聖騎士Lv46

 

 

 いかつい髭面の上にはケモ耳が生えている。

 その後ろからシャイルヴェも出てきて、2人が近くに来る頃にはゲートは消えていた。

 

 

「お越しくださりありがとうございます、ビダウト殿」

「なぁに、フェルス様のためだ、婿殿。

 ……こちらが例の?」

 

「はい、ミツキ・スズシロ殿です。

 従者であるそちらのアコルト殿と共に交流会にご参加いただけるとのことで、カードのチェックをお願いします」

「よ、よろしくおねがいします、ミツキです」

 

「シーム騎士団、副団長のビダウトだ。

 副団長といってももう1人いるから、俺は大したことはしてないがな。

 今回はフェルス様のご友人様ってことでぇ、俺が会ってみたいと言ってカードの確認をさせてもらうことになってな。

 ああ、それと、言葉遣いについて厳しくないって聞いたからこの口調だけどよ、多少気に障っても」

「ビダウト殿、お願いします」

 

 

 どうやらだいぶおしゃべりな人のようだ。

 ただ、ジョブレベルはかなり高いので実力も高そうではある。

 

 

「はいはい、婿殿は手厳しいよなぁ。

 お嬢……フェルス様に会う前から婿殿と取引してたんだって?

 こんなんだから足元見られ、……ああ、わかった、わかった!

 いくぞ、滔々(とうとう)流るる(たま)の意思───」

 

 

 急かされたビダウトが呪文の詠唱を完了すると、自分の左手からインテリジェンスカードが出現する。

 

 ビダウト、カルムがその内容を確認し、いつの間にやらテーブルに置かれていた用紙に2人がサインしていた。

 

 

「フロラムドが言ってたけどよぉ、ホントに魔法使いなんだな。

 おまけに若いのにこんなに初年度奴隷を抱えてて、税金大丈夫なのか?

 あ、フロラムドってのは俺の部下な。

 家借りる時に胡散臭い感じの、監査官ってやついただろ、あれだ。

 あいつもさ……」

「アコルト殿の方もお願いします、ビダウト殿」

 

「あー、はい、お嬢ちゃん、こっちにきてくれ。

 滔々流るる───」

 

 

 

 

 インテリジェンスカードの確認と、その確認証明の作成が終わり、やっと招待状を受け取れた。

 セナクロワのチェックの際には、よく鍛えられていると騎士団にスカウトされかけていたが阻止し、カルムがシャイルヴェに命じてビダウトを連れ帰らせた。

 

 去り際に、明日の警備担当の1人だからよろしくなと言われたので、どうやらまた会わなくてはいけないらしい。

 フェルスお姉様にくっついていたら、どうにかあの矛先から逃げられないかな。

 お姉様の相手もそれはそれで大変か。

 周りには知らない貴族もいるので、どう考えたって面倒な一日になりそうだ。

 

 カルムもなんだか疲弊した様子で、この会合を終えることになった。

 シャイルヴェが商店街まで送ってくれることになったので、お言葉に甘えて移動をお願いすることにした。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv51
魔法使いLv51/英雄Lv47/探索者Lv51/樹祭司Lv10/遊び人Lv49/魔道士Lv28/巫女Lv45
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 森林保護官50 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒38 冒険者1 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 探索者Lv10

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv39

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv36

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv35

セナクロワ  猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv32


所持モンスターカード
・竜        1
・芋虫       2
・魚        2
・潅木       1
・珊瑚       1
・ウサギ      1
・コボルト   2→4


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次回は8/10更新の暫定予定です。

ギリッギリで本文が完成したので、後に修正があるかもしれません。

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