「なんか……疲れたね」
シャイルヴェにシームの商店街の共用絨毯まで送ってもらい、礼をしてから彼がゲートに消えていくのを見届けた。
それからドッと疲れが出た気がして、自分の肩をグリグリと揉んでみる。
ワープを使わずそこから家に向かって歩いているのは、明日の所在確認のためにと、あちらのパーティーに入れられたままだからだ。
どうせ当日は交流会の場所までは送ってもらわないといけないし、明朝の集合だって宿前に来てくれることになっているので、仕方ないといえば仕方ない。
パーティーの縁取りは位置関係的にむこうには点にしか見えないだろうが、それでも突然大きく移動したのがバレてしまっては困る。
「それにしてもビダウト様は隙が見えなかったでありますな」
「そうなの?」
大げさな身振り手振りや話の巻き込み方でだいぶくだけた印象だったが、領の騎士団のトップ2ならば領主家の婚約者であるカルムは当然要警護対象だろうし、いくらフェルスに気に入られようと今夏からの付き合いの者など初見じゃ信用などできないだろう。
まぁ実際、MP全解放だの各種攻撃魔法だのが複数同時に無詠唱で飛ばせる輩など、信用しちゃいけないので正しいんだけども。
自分にはおしゃべり好きな聖騎士のおじさんにしか見えなかったが、思い返してみればセナクロワは終始緊張した様子だったな。
先月まで騎士団所属だったのがバレないか心配とか、そういうことではなかったようだ。
家に帰ってみると、鍵がかかっていた。
領主家絡みの外出は毎回長引いているような気もするし、お使いの2人にリカヴィオラもついていったのだろう。
昼前には確認で戻ってくるはずだし、家事でもしていようか。
……と思っていたのだが、掃除や整頓が行き届いていて、大してすることがない。
そりゃあ電気掃除機とかがあれば目につかない細かなゴミまで取れるだろうが、できる範囲の掃き掃除や拭き掃除では限界がある。
風魔法や水魔法が簡単に転用できるわけじゃないしな。
ウォーターウォールは設置面以外の接触部分にはダメージが発生するようだし、風魔法でも壁や床を削ってしまっては意味がない。
リカヴィオラが普段からしっかりしているおかげでしかないので、感謝しつつ惰眠でも貪ろうか。
草むしりや小さなハーブ畑の世話も、見える範囲では済ませてあるようだし、今から家の周囲を整備するのは骨が折れる。
明日があるのに切り傷や怪我をされても困るともアコルトに言われてしまった。
セナクロワたちは装備の手入れなどをしているが、直接敵に触れるわけもない自分の装備にはあんまりすることがない。
せいぜい拭き取りくらいで早々に手持ち無沙汰だ。
凝った食事でも作ろうにも、すぐに取り掛かれそうな料理をすぐに思いつくわけでもないしな。
明日の交流会の食事で気に入ったものがあれば、家でも作ってみようってくらいか。
椅子に座り、ヘアアレンジの練習だと髪をこねくり回されながら過ごしていると、シャオクたちが帰宅した。
元のパーティーを崩されているので、アコルトが足音を聞き分けるまで気付けなかった。
セナクロワはずーっとこっちを見てニコニコしているし。
「───というわけで、箱の方は問題なく作れるって言ってました」
「お、よかった」
帰ってきたシャオクたちから、親方の進捗を聞く。
ニカドーは図面を参考に、端材で簡易的な模型みたいなものを作ってみたらしい。
そこに今回持ち込んだ金属板や網を当ててみて、確証が得られたみたいだ。
一部だが、注文していた材料も届き始めたので少しずつ作り始めていくのだとか。
以前言われた日程では、素材がすべて揃っていてからかかる日数だったので、まだしばらくはパーツ作りに時間がかかるとのことで、現地組み立ての目処が立ったら連絡をくれると言われたそうだ。
あちらのことは任せておいていいだろう。
そんな話をしながら商人ギルドでのことも共有しつつ、昼食を食べる。
アイテムボックスに入れられない食材の方もしっかり管理されていて、今日の夕食を作れば傷みそうなものはなくなるようになっていた。
明日の朝は肉類と、パン購入のついでに果物なんかを買ってきて簡単に済ませるつもりだったらしい。
眠る人魚亭への集合時間もうちの朝食の少し後くらいの時間だったので、身支度をして出ればちょうどいいだろう。
交流会自体は昼からで、宿から移動した先で本格的な化粧やらなんやらの時間を取ると聞かされている。
そこまで着ていく服は最低限でいいとのことだが、失礼のないように先日カルメリガのブティックで買った服で向かえばよさそうかな。
明日は自分とアコルト以外自由行動になるので、リカヴィオラに残りのメンバーでパーティーを組んでもらう。
もし個別行動をするなら分かれても構わないが、シャオクが鍛冶師ギルドの方に話を聞きに行くだろうし、残り3人が散り散り……にはならないか。
セナクロワが留守番以外でリカヴィオラを1人にはさせまい。
ミーラスカにも確認すると、シーム内の教会やシームラウ家の蔵書を見に行ってみたいそうだ。
そういえばあったな、そんなの。
専門知識を広く周知させるという意味では、迷宮の魔物の情報以外は図書館でも大した内容はなかったのですっかり忘れていた。
所持スキルすらみえないんじゃ、基本的なジョブ以外は検証するのも一苦労だから仕方ないといえばそうなんだけど。
忘れないうちにそれぞれに必要経費を預けておく。
入浴も念入りに済ませ、それでも明日への不安を抱いたまま就寝した。
***
夏の下月17日。
いよいよ交流会の当日である。
さすがに普段よりは少し早めに起きて、軽めの朝食をとりながら改めて皆と予定を確認した。
その後は最低限の化粧をしてもらい、髪も簡単にまとめる程度にして支度を済ませる。
おそらく案内先の方でしっかりとした装いに直されるだろうから、素人がバッチリ決めていっても無駄になるとの考えだ。
招待状とエンブレムをポーチに仕舞い、探索者となったアコルトのアイテムボックスの何列かに金銀の硬貨と、1列分の万金丹を収納してもらった。
装備としてはドレスの内側にも着用できるミスリルメッシュトップに、左手のフィンガーバングル、それに身代わりのミサンガを付けておいた。
足装備にあたるメッシュスカートを装備していないのでオストリッチパンプスも装備状態となっているが、こちらはドレスに合わせて換えさせられるかもしれない。
他の防具と、武器の
アコルトもメッシュトップとミサンガを身に着けているが、他のものはアイテムボックス内だ。
さすがに鞭を持ったままのお付きのメイドはマズい。
朝の鐘が準備完了とばかりに音を響かせたので、このあたりで待ち合わせ場所へと移動しよう。
宿の前にパーティーの縁取りが見え、それがだんだん大きくなってくると、冒険者であるシャイルヴェの姿が確認できた。
時間に遅れたわけではないが、あちらは早めの時間から待つように指示されているようなので、なんとなく申し訳なくなる。
「おはようございます!
お待たせしました」
「おはようございます、ミツキ様、アコルト様。
お約束の時間通りにお越し下さり、ありがとうございます。
特に問題ないようでしたら、このままシームラウの城へとご移動となります」
「大丈夫です、お願いします」
シャイルヴェは静かに頷くと、くるりと宿前の絨毯へと向き直ってフィールドウォークを詠唱する。
絨毯に沿って黒塗りの扉が現れ、「私に続いてお通り下さい」と述べたシャイルヴェがゲートの向こうへと消えた。
出てきた先は、幾度目かになる城内の絨毯の設置部屋だ。
絨毯の傍らに騎士が立っており、部屋の入口にはメイドも2名ほど待機している。
同じパーティーだからこそ同じフィールドウォークのゲートを通れるのでそれこそが本人の証明ではあるはずだが、規則としてインテリジェンスカードのチェックがあるようだ。
シャイルヴェも一緒にチェックを受けているのは、パーティー丸ごと偽物という可能性を考慮してなのか?
慌ただしく出入りする者が多いので、今日だけの措置かもしれない。
当然のようにパスし、エンブレムと招待状も確認されると、シャイルヴェは一旦ここまでらしく、案内はメイドたちに引き継がれた。
いつかのように化粧部屋へと向かっている……と思ったら途中で通路を折れて奥の部屋へと通された。
「こちらの部屋は……?」
「お二方には湯浴みをしていただきます。
……十分にお綺麗かとお見受けいたしますが、申し付けを受けておりますゆえ、ご容赦くださいませ」
あー、そりゃそうか。
一般人はお風呂になんか入れないもんな。
必要な魔法の発動回数も、十分な湯量になるまでの所要時間も、MPの消費量だって魔法使い1人じゃどうしようもない。
素直に説明を聞いていたところ、普通に薪やらの燃料で火を起こして沸かしているらしい。
魔法の無駄遣いをするような気質の者が、あの剛健なレオニー伯の城にはいないのは当たり前か。
それでも大量の水や適温維持のための経費は馬鹿にならないだろう。
浴場の方には別のメイドも何人かおり、どうやら総出で支度をされるようだ。
言われるままに服を脱ぎ、なされるままに洗われていたが、「あまり驚かれないのですね」と不思議がられてしまった。
あまりのことで声も出ないだけですと誤魔化したが、こちらは毎日入っているし、アコルトも失念していたのかコクコクと頷くだけになっている。
髪の脂がほとんど出ないことについても、今朝しっかりと流してから来たということにしておいた。
流石にこちらで使われている石鹸はちゃんとした高級品らしく、自分たちの手作りのものと違って泡立ちもきめ細かい。
洗うのに使われている、しっかりとしたタオル状の織物もたぶん高そうな品だ。
薄化粧にしていたメイクも綺麗に落ち、流し終えた後は爪や毛先の手入れなんかもしてもらった。
上がってからは柔らかい布で水気を取ってもらっていると、下着までも全て新しいものが用意されていた。
外すときに説明しておいたので、着けてきた装備品は防具商人ジョブの鑑定を経てから着用を許されたが、その他は全てあちらのものに着替えるようである。
鑑定すると聞いたときは冷や冷やしたが、流石にギルド神殿にまで持ち込んで鑑定するような時間も、そこまでの必要性もなかったのでホッとしている。
ここでようやく、今日自分が着るドレスとご対面である。
先日カルメリガで確認したばかりだが、その時からも仮でついていた装飾がいくつか変わっていたり、城の中だからか一層上品な一着に思えてきた。
真紅のドレスは些か華美な気もしてきたが、上から深い葡萄色のオーガンジーを重ねることで落ち着かせている。
そしてアコルトに用意されたのは侍女服である。
準備してくれているメイドたちよりも上質に見えるのは、交流会に参加できるような使用人たち用の服だからだろうか。
商館で身に着けていた服よりも当然上等で、身に纏ったアコルトもなんだか満足気に見えるのは気のせいか。
いや、口元がちょっと得意気だな。
その後は髪のセットや化粧に移る。
工程がいっぱいあって面倒だな。
椅子に座らされて丁寧に結われている間に、アコルトの方は先に終わったらしく自分の作業に加わってきた。
普段はそこまでまじまじと自分の姿を見ることはないが、大きな鏡の前に座らされていれば否が応でも目に入る。
数えてみればこの姿になってから3ヶ月近くも経っているわけで、見慣れたといえば見慣れた顔も自分のものだという自覚はでてきた。
途中までとはいえ自キャラとしてクリエイトしたキャラクターが化粧を施されて、きれいな衣装に身を包んで……、というのはこそばゆさもあるが、そこはかとない嬉しさが満ちてくるのを感じた。
となれば、自然に笑みもこぼれてくるものである。
「ふふっ、嬉しそうね、ミツキ!」
「フェ……お姉様!?」
いつの間にか部屋の中にそろりそろりと入ってきていたフェルスが、鏡越しにこちらを覗き込んできた。
編み込まれたブロンドの髪に、琥珀を溶かしたような、陽だまりを思わせる
快活な彼女にはとても良く似合っていて、見ているこちらも元気になれそうな様子は美しく輝いて見えた。
フェルスは自分より身長も高く、目鼻立ちも整っているのもあって、色としてはこちらのほうがはっきりしていても、彼女よりも目立つということはないはずだろう。
「やっぱりナルザさんに任せておいてよかったわ!」
「そう言っていただけるのは光栄ですが、日程をもう少し……」
「ごめんなさいね、ナルザさん。
でも助かったわ」
「お、お仕立てありがとうございました」
後ろの方で、疲れ切った様子のナルザにこちらもお礼を述べておく。
自分のドレス単体の調整は終わっても、フェルスやその姉のルトラのドレスとの取り合わせを考えたりの作業があったんだろう。
本来は事前に協議するものなんだろうが、衣装を届けに来たナルザさんもいるんだし見直してもらおうとか言ったんじゃないだろうか。
凝り性なナルザが、細部が気になって調整を続けてやっとまとまったらしい。
見かねた自分が、給金を弾むよりも休暇の口添えをザノフにしてみてはと呟いたら、ナルザが手を取って激しく頷いていた。
そちらはフェルスお姉様に任せよう。
衣装の細かな調整と化粧を終え、それぞれの身支度はすっかり整った。
あとは開始前の最終確認でよさそうだ。
それからは待機部屋へと移動して、交流会までとその流れを確認させてもらう。
まずはこれからフェルスと共に、姉であるルトラ・ナルクヴェル・シームラウへと挨拶に向かう。
友人の紹介、ということなのだが、外交やらの政務対応をしている方というイメージが先行して、堅苦しそうで心配だ。
その後は会場控室の方へとフィールドウォークで移動する。
帝国内ではあるが、シーム領ではない場所で開かれるんだそうだ。
もともとそういう会談用の場があり、様々な設備が揃っているのだという。
物資の運び込みや事前準備のための人員は、何日か前からすでに配備済みらしい。
ルトラとフェルスは本来の報告会に出席し、その間に自分とアコルトはシームラウ家の料理人たちの方に移動して、調理のアドバイスかなにかあれば、という感じだ。
ドレスなので調理は手伝ったりはしないし、そもそも部外者に何か混入されそうな機会など作らせないだろう。
時間がきたらシャイルヴェが呼びに来るのでフェルスのもとに移動、そこからは食事会である。
フェルスにくっついて回り、参加者に挨拶や紹介のタイミングがあれば対応するが、基本的には一緒に食事を楽しむだけで問題ないそうだ。
アコルトはフェルスの侍女とともに自分たちの補助につく。
使用人たちの食事も別で確保してあるそうなので、その場では我慢してもらうらしい。
披露される料理の説明なんかは料理長の方でやってくれるので、食べて回るだけになるそうだ。
ルトラや他領の重役たちはその後も協議があるらしいが、フェルスと自分は食事会がお開きになればシームラウの城へと戻ってきておしまいなんだという。
聞いただけの内容ならば、フェルスお姉様は本当に食事相手が欲しかっただけのようだ。
それ以上の意味が含まれていなさそうで一安心である。
説明も終わり、まるで図ったかのようなタイミングでドアがノックされ、シャイルヴェと騎士がやってきた。
ルトラの所に挨拶に行く前に、パーティー勧誘をしに来たらしい。
フェルスとその侍女、それについてきた騎士が勧誘され、自分とアコルトを含めて6人となる。
メンバーとなった侍女を鑑定してみると、ジョブは僧侶であった。
こちらのジョブは確認済みなので、護衛と救護要員、それに補足のためのパーティーと理解できる。
「ではこれよりルトラ様の執務室へと向かい、ご挨拶の後に会場へと向かいます」
「お姉様にミツキを会わせるの、ちょっとドキドキするわね!」
こっちのほうが心拍数が高鳴ってるが。
おそらく騎士がフェルスと部外者である自分の間にならんで分断、というかフェルスの警護にあたろうとしたが、それよりも前にフェルスが自分の手をとって引き寄せたので、唖然としている。
彼は侍女に肩を叩かれ、ゆっくりと首を横に振るのを見て、ため息をついて後ろから続く形となった。
君が怒られそうな時はちゃんと弁護してあげるから許してくれ。
まぁ、その前にフェルスお姉様が「何が悪いのよ」とか言いそうではあるが。
腕ごと引き寄せられたまま並び、ドレスの裾を踏まないように気をつけながら歩く。
やがて1つの扉の前で先頭のシャイルヴェが立ち止まり、ノックの後に口を開いた。
「フェルス様と、ご友人のミツキ様をお連れいたしました」
その言葉に、短く、凛とした女性の声が返ってくる。
「──────入れ」
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv51
魔法使いLv51/英雄Lv47/探索者Lv51/樹祭司Lv10/遊び人Lv49/魔道士Lv28/巫女Lv45
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 森林保護官50 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒38 冒険者1 盗賊30)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 探索者Lv10
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv39
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv36
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv35
セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv32
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次回は8/17更新の暫定予定です。