異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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002 プロローグ -2

 休日はいつも昼前まで寝ているのだが、今日はハッと目が覚めた。

 画面はどうなっている!?

 

 昨夜と同じく99の文字が輝くページが表示されていて、安心した。

 同時にこれから何が起こるのかという不安も襲ってくる。

 

 顔を洗って外出する支度を整え、昨日ぼんやりと考えた購入リストをメモに書き出す。

 荷物を入れるリュックについては以前買ったものがあり、サイズ的にも材質的にもそのまま使えそうだった。

 パッと見は麻袋の様な色合いであるし、詳しく見られなければ大丈夫だろう。

 

 まずは保存食、水、サバイバルキットだ。

 どこに転移するのかも、どんな気候かも分からない。

 ワープもあるはずなので大荷物とまではしたくはないが、最低限数日分は持っておきたい。

 ライトやナイフ、火起こしの道具まで一通り揃ったものが売っているはずだ。

 寝袋に使える軽量のシートとかも必要だろうか。

 

 そして服装か。

 当たり前だが、異世界での装備品はこちらの世界では手に入れられない。

 ならば最初の装備を手に入れるまでの繋ぎとして、移動に適したモノを身に着けよう。

 

 防水のウェアとブーツ、日差しや雨対策の帽子。

 気候も違うだろうし、機能性はほしいが、パッと見目立ちにくい色にしたい。

 着替えも圧縮袋に入れて数日分詰めたい。

 

 最後に、小説と同様の文化発展具合だとして、換金しやすいもの。

 ……度数の高い酒くらいではないか?

 現代の日用品はほぼオーパーツだし、説明が難しい。

 

 貴金属は自分が良し悪しを説明できないし、ちゃんとした買取をしてもらう場所を見つけるのも難しそうだ。

 その点酒は、飲んで毒ではないことをアピールできるし、飲ませれば良さがわかるだろう。

 酒好きなら物々交換でも申し込めるかもしれないし。

 

 香り高いブランデーやウイスキーあたりが嗜好品として丁度いいのではないか?

 ビンの重さや材質は輸送には適さないが、保存性があるので初期地点に埋めてワープで取りに戻ればいいだろう。

 

 素人が一晩考えたプランで決定した。

 彼だってジャージに裸足で始まったじゃないか。

 

 そんなに酒は飲まない方だが、あのサイトがフェイクだった際には飲み明かしてみるのもいいかもしれない。

 そうだ、異世界へ行く前に、買い物ついでの昼飯は豪盛に食べるか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 リストの買い物で家と往復しつつ、ちょっとリッチな料亭で食べてきた。

 庶民が緊張してふらっと入ったので不安だったが、予算を伝えたら親身に対応してくれた。

 

 コースの一品それぞれが、出てくるものすべてが、どれもこれも美味い。

 一口一口を味わいながら感動している様子に礼を述べられたが、あれは内心笑われていただろう。

 異世界に行けなかったとしても、金額的にも羞恥心的にも二度と店には行けないな。

 

 ともあれ、現実世界最後となるかもしれないいい食事だった。

 

 

 帰ってきて荷物をリュックに詰め込む。

 追加で衛生用品も買い込んでおいた。

 いつもの適当な買い癖で少々多めに買ってしまったが、当初の想定分以上は入れられたのでよしとしよう。

 

 インナーを着込んでウェアの着心地を確かめ、ブーツも履いてハットを被る。

 全身土っぽい地味な色合いになったが、目的としてはこれでいい。

 いらない注目を浴びて戦闘準備できぬまま盗賊に狙われるのは困る。

 

 

 さて、荷物は整った。

 相変わらず金色を放っているボーナスポイントのその下、ポイントの振り分けに取り掛かる。

 小説での割り振りを思い出しつつ、参考にして振っていく。

 

 まずは『キャラクター再設定』にチェックを入れる。

 これが異世界で生きていくためのすべてと言ってもいい。

 98ポイントに数値が変わって、取得状態になった。

 

 続いて『鑑定』と『ワープ』を選択する。

 それぞれ1ポイントずつ消費することで、レベルまで確認できる詳細情報と、制限規制の少ない便利な移動魔法を手に入れた。

 そして1ポイントの『詠唱短縮』に追加2ポイントを入れて『詠唱省略』を取得する。

 これで難解な言い回しのスキル詠唱は、思い浮かべるだけで発動になるはずだ。

 

 転移先ではすぐに自衛の手段が必要になるだろう。

 63ポイントを注ぎ込んで、『ボーナス武器』を六まで取得する。

 対盗賊を想定して、対人強化があるとする『ボーナスアクセサリ』も二までチェックを入れて、これが3ポイント。

 ここまでで72ポイントで、残り27ポイントだ。

 

 『パラレルジョブ』を3rdジョブまで取得して3ポイントを消費。

 ジョブの付け替えを可能にする『ジョブ設定』も1ポイントで合わせて取得する。

 ジョブはセットされた分だけステータス補正が重複されていたはずだ。

 最初は村人ジョブだけのはずだから、他のジョブが取得出来次第設定していきたい。

 

 『獲得経験値上昇』を五倍まで進めて15ポイント。

 そして『必要経験値減少』を三分の一にするのに7ポイント。

 ボーナスポイント様々の効果で、合わせて15倍の早さで成長できる。

 特に初期はステータスの低さから命に関わりそうなので、レベルを上げることがなにより重視されるだろう。

 これで98ポイントまできた。

 

 最後に『敏捷』のステータスに余った1ポイント振り、初期設定を完了する。

 後は必要になったらその都度、再設定で調整すればいい。

 

 

 これで彼とほぼ同じスタートに立てる。

 ボーナスポイントシステムやジョブの取得条件をある程度把握できていること、言語の習得数、持ち込みの初期アイテムの分、アドバンテージは大きい。

 

 あとは、()()()()()()()()()()だ。

 作中で彼は異世界をゲームだと思い込んだまま盗賊を殺し、初期戦闘を終えた。

 対して自分は、あの世界がそこに生きる現実と知った上で挑まなければならない。

 

 VRゲームも含め様々なジャンルには一通り触れてみたことはあるが、生き抜いていく為とはいえ自分にそこまで出来るのだろうか。

 その点が一番の懸念だが、こればかりはその時になってみないと分からない。

 

 設定項目を何度も確認し、ポイント振り分けの下にある決定ボタンを選択し、キャラクター設定を終了させる。

 

 ウインドウの配色が反転し、赤文字のポップアップが表示された。

 

 

あなたはこの世界を捨て異世界で生きることを選択しました

二度とこの世界に帰ってくることはできません

 

 

 警告の表示に鼓動が速くなる。

 

 この世界を捨てて、異世界で生きることの選択だ。

 

 本当に異世界へと飛ばされるのか?

 震える指がマウスから離せない。

 『はい』のボタンの上にそろそろとカーソルを動かした。  

 

 意を決して、目を瞑りながら押し込むようにクリックする。

 

 

……

…………

 

 

 音沙汰の無さに恐る恐る薄目を開けると、『最終警告!』と再度選択肢が表示されていた。

 

 そ、そうだ。

 小説でも二度表示されていたじゃないか。

 

 浮足立って色々と頭から抜けている。 

 用意したリュックだって置いたままじゃないか。

 

 部屋の隅に転がっていたリュックを拾い上げ、慌てて背負おうとしてバランスを崩した。

 転ぶまいと半回転して机に手をついてなんとか体勢を立て直すと、体重の掛かった左手はマウスの上にあった。

 

 

カチッ

 

 

 あ。

 

 その瞬間、視界が白一色に塗りつぶされた。

 

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