アコルトが下着を身につけ始めたので、自分も着ることにする。
それでもたぶん自分は布団の中で脱ぎそうだ。
残った湯で洗濯をして、日当たりの良さそうなところに干した。
二人になったし、手拭いは今の倍の量を買っておいてもいいかもしれない。
髪の水気もだいぶ取れたので、明日の着替えを出しておこうとすると止められた。
流石にそのくらいはさせて欲しいそうだ。
今日することは終わったので、それぞれのベッドに入り、布団をかぶる。
「あ、そうだ。
自分より先に寝たり、遅く起きても大丈夫だからね」
「ありがとうございます。
ご迷惑はお掛けしないようにいたします」
「まあまあ、気にしないでいいよ。
おやすみ、アコ」
「おやすみなさいませ、お嬢様」
アコルトも疲れただろう。
変な主人に出会ってその日の内に買われ、買い物したかと思うと迷宮へ行かされ、鞭で魔物をしばいて、奴隷らしくない待遇で迎えられた。
こちらの要求に合わせるよう相当努力してくれたと思う。
明日からは本格的にレベル上げだ。
魔法使いの有効活用の為に、遊び人までの取得ジョブも増やしていきたい。
1人暮らしが長かったので、誰かの息遣いを隣に寝るのは久しぶりだ。
いつまでも起きているとアコルトが寝られないだろうと、瞼を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきた。
***
窓から覗く朝日に目が覚めると、近くで動く気配がする。
目を擦りながら体を起こすと、アコルトが洗濯物を畳んでくれていたようだった。
「おはよう、アコ」
「おはようございます、お嬢様。
お着替えをご用意しております」
めくれ上がっていた肌着を押さえ、いそいそとベッドから抜け出る。
どうやら寝ながら脱ぎ散らかすことはなかったようだ。
アコルトに言って湯桶の水を片方に集めてもらい、空いた方の桶にそっとウォーターボールを放つ。
少々こぼれたが、新しい水でいっぱいの桶で顔を洗った。
魔法、マジで便利。
房楊枝で歯を磨き終わる頃には、すっかり目も覚めた。
アコルトさんが着替えの裾を抱えたまま、万歳をしろと無言の笑顔で仰せなので、両手を上げて着せてもらう。
世話自体が好きなのかニコニコだ。
靴下とズボンを履いて竜革のブーツを装備すると、アコルトも竜革の靴を身につけていた。
アイテムボックスから竜革のジャケットを出して、それぞれ装備する。
ミトンや帽子をつけるのは、朝食の後でいいだろう。
階段を降りてフロントに声を掛けると、昨夜と同じような食券代わりの割符をもらった。
酒場兼食堂にはそれなりに人が居たが、朝なので流石に飲んだくれているのは隅の方にしか居なかった。
割符を見せて食事を注文する。
宿代に含まれた朝食だからなのか味はそれなりだったが、量は結構ある。
朝は腹にそんなに入らないのでアコルトに手伝ってもらうと、積まれた肉が一気に消えていった。
あの細い体のどこに入っていくのだろう。
成長期ってやつか。
部屋に戻って今日の予定を相談する。
このクラザの街にも迷宮はあるそうだし、探索の候補を増やすのはアリだろう。
髪を纏めてくれるアコルトが結う前に梳かしたいとのことなので、1本だけ残っていた100均の櫛を取り出した。
折りたたみ式なので持ち運びに便利だと伝えたが、自分はワープで拠点に戻れるからそれはあんまり利点にならないのではと忌憚のないご意見を頂戴した。
確かに持ち運びの利便性を引いたら、薄いプラスチックで折れやすいという点くらいしか残らない。
木ではないので腐ったりしないが、骨製とほとんど変わらないだろう。
好きに使ってくれていいということにして、残りの装備を身につける。
フロントに鍵を預けて、迷宮へと向かう。
この街へ来た時に受けた説明では、冒険者ギルドを挟んで商業区と反対側だと聞いた。
ギルド前を通り過ぎると、確かに比較的新しそうな店が立ち並んでいる。
迷宮発見以降に街を広げて建てられたのだろう。
ギルドから数軒のところに雑貨屋があったので、帰りにここで手入れ用のオイルを揃えよう。
食べ物の屋台の誘惑から逃れつつ、クラザの迷宮の入口までたどり着いた。
ちょうど時間帯が悪かったのか、入口周りには階層送りの探索者は居なかった。
魔物の出現階層を確認したかったが仕方ない。
1階層から順に進んでいくとしよう。
中へと進む前に、ボーナスポイントを調整する。
とりあえず最初なのでフラガラッハを装備しておく。
魔物の確認ができたら、MP回復速度にでも振り直せばいいだろう。
***
漆黒の扉を抜けると、同じ石造りではあるがカルメリガの1階層とは色合いの違う小部屋へと出てきた。
こちらの方が若干緑がかっている程度だが。
アコルトがサラサラしたような音がすると言った通り、案内された先にはニードルウッドがいた。
頭上の葉同士の触れる音が聞こえたのだろう。
「アコ、魔法を使っていくのでタイミングだけ気をつけて」
「かしこまりました!」
ニードルウッドと間合いを取りつつ、アコルトがこちらを窺っている。
敵を見据え、ファイヤーボールを念じると火球がまっすぐに飛んでいった。
火の球が直撃し、衝撃でニードルウッドがよろけた。
間髪を容れず脇からアコルトの鞭が伸び、重心のずれたその足に巻き付いて引き倒す。
その体が床に叩きつけられ、チリチリと燃えている枝葉から火の粉が舞った。
上手い。
ピシピシとチラつかせるように竜革の鞭が牽制している間に、クールタイムが終了して2発目のファイヤーボールがニードルウッドへ向かう。
昨日のコラーゲンコーラル同様、2発では倒せない。
木の魔物だが、別に火属性が弱点ではなかったはずだ。
そもそも生木は水分があって燃えにくいと言うし。
起き上がってくる前に3発目のファイヤーボールをぶつけることにした。
当たると同時に煙へと変わり、ブランチが残る。
アコルトが拾って持ってきてくれる間に、ふと気づく。
使わないボーナス武器よりも他にボーナスポイントを回すべきでは?
ボーナス武器は当然といえば当然だが武器のみで成り立つように物理偏重になっており、魔法主体で戦うにはスキル構成が厳しい。
攻撃力2倍や防御低減は、魔法には作用しない。
一旦小部屋に戻ってボーナスアクセサリをひと通り確認すると、使えそうなモノがあった。
心力の指輪(知力2倍 MP回復速度上昇)
アクセサリ枠は保険のための身代わりのスキルという頭しかなかったが、スキル装備を入手できるまではこちらがいいだろう。
フラガラッハを使わないとなるとポイントに余裕があるので調整が必要だ。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv12
魔法使いLv12/英雄Lv14/探索者Lv20/僧侶Lv8/戦士Lv16
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
5thジョブ 15 アクセサリ・三 7
獲得経験値10倍 31 必要経験値1/10 31
MP回復速度5倍 15 パーティー項目解放 1
パーティライゼーション 1 結晶化促進4倍 3
(残0/110pt)
余ったポイントをパラレルジョブとMP回復へ回し、パーティライゼーションを取った。
育成できるジョブも増えるし、回復薬の使用も楽になる。
指輪のMP回復速度上昇がボーナスのMP回復速度5倍と重ならず無駄になるが、これが知力上昇スキル武器を手に入れるまでの基本配分になりそうだ。
緊急時やボスの初見時は経験値関係を消して武器に回せばいいだろう。
ポイント配分のテンプレート設定機能を下さい。
アコルトに索敵を再開してもらって進んだ先で、すぐにニードルウッドが見つかった。
ワンドを握ってファイヤーボールを当てると、2度目の火球でブランチが残った。
1手減るほどの火力アップは期待以上だ。
そのまま見つけるたびに数体ほど倒しながら進む。
単体魔法とクールタイムの関係か、強壮丸が必要になるほどMPが欠乏することはなさそうだ。
もっと長時間続けるか、消費の多い全体魔法なら追いつかなくなるのかもしれない。
その後もアコルトに先導してもらいつつ、ブランチが増えていく。
遠距離から狙えるというのもあるが、一人でウロウロと歩き回るより圧倒的な効率で戦闘できている。
アコレーダー様様だ。
ただ、魔物の音を頼りに移動し続けると永遠に次の階層へたどり着けないので、途中から部屋や通路に目星をつけながらルートを選択することにする。
幾度目かの分岐を抜けると、少し広めの部屋に出た。
どうやら待機部屋まで進めたようだ。
部屋の奥の扉が開いており、待機している者はいなかった。
1階層なので魔法のみで倒せるとは思うが、念の為経験値関係をポイントに戻す。
道中で魔法使いのレベルも上がっていたので、残りポイントをつぎ込めば即座にデュランダルが取り出せる状態だ。
「アコ。
この先はボス部屋になっていて、パーティーメンバーが入り切ると扉が勝手に閉じて煙が集まってボスが出現する。
もしその前にやられたパーティーがいれば、すでにボスが居る状態から始まるから気をつけてね」
「かしこまりました」
「ニードルウッドのボスは、ウドウッドという大木のモンスターのはずだ。
基本的には変わらず牽制してもらっているうちに魔法を撃つ予定だけど、何発かかるかわからないから回避を優先してほしい」
「長時間になるかもしれないということですね」
「いや、十発も必要はないと思うけど、一応ボスだしサイズも違うから慎重にってことで。
あと壁魔法も使ってみるから、鞭の扱いも気をつけてね」
「了解しました」
滋養丸は事前にいくつか持たせて、いつでも使っていいと何度も念を押しているから大丈夫だろう。
飲む暇もなさそうなら手当てもパーティライゼーションもある。
「それじゃあ、行こう」
はい、とアコルトの澄んだ声を受けて移動する。
二人ともが部屋に完全に入ったところで、後ろの扉が塞がった。
周囲から煙が集まって大きな人型となり、やがて頭に葉の生い茂り木の肌を持つ魔物となった。
ウドウッド Lv1
レベルが低かろうがボスはボスだ。
圧迫感がある。
まずは出会い頭に、とファイヤーボールを放った。
ウドウッドの真正面、腕のように生える太枝の少し上辺りに着弾する。
あわよくばバランスを崩して倒れてもらえればと思ったが、思いの外体幹はいいらしい。
多少の衝撃はあったようだが持ちこたえ、ロックオンするようにこちらを向いた。
どこが目なのかは知らないけど。
動き出したウドウッドの横から鞭が伸び、足のように分かれた幹の片方に巻き付いた。
ニードルウッド相手にアコルトがよくやる引き倒しだ。
しかし腕力が足りないのか、鞭のボディが張られるだけで動かない。
アコルトが諦めて手首を返し、鞭を解いて後ろへ下がる。
それでも引きつけるには十分だったようで、今度はウドウッドがアコルトの方へと向き直る。
踏み出したその足元へファイヤーウォールを発動すると、火炎の壁が立ち上る。
重心移動の途中だったウドウッドは、全身をその中へと投じることになった。
ウドウッドがもがくように多腕の枝を振り回している間に、アコルトは迂回して反対側へと移動していた。
壁魔法のクールタイムはまだ終わらない。
さすがにその場に残る魔法を途切れなく連発するのは無理なようだ。
ファイヤーウォールの効果時間が終了し終わる直前に、アコルトの鞭が伸びる。
焼かれて水分の抜けた細枝に巻き付くと、捻るようにしてボキリと折り切った。
それに怒ったのか、火の気が消えてもウドウッドはアコルトへと向いている。
再び足元へファイヤーウォールを発動する。
一度焼かれたからか、先程より燃えつきがいい。
燃えにくかった頭の上の新緑も、今では焼け落ちているものもある。
アコルトは場所を移しながら枝葉に牽制を入れて注意を引いてくれている。
お陰で自分は下がりつつ十分な距離が取れているので、安全圏から魔法を撃てる。
道中の魔物でも恩恵はあったが、遊撃がいてくれるおかげでこんなに楽になるとは。
移動力や回避力の上昇するスキルを装備に付けてあげたほうがいいだろうか。
思案しているうちに大木の火が静まってくる。
ほとんど黒焦げになった片足(?)に狙いを定めてファイヤーボールを撃つ。
折れてくれればまともに動けなくなるだろうと思ったが、命中と同時にウドウッドが煙になった。
単体魔法2発と壁魔法2発。
ファイヤーウォールは発動から終了までずっと当たり続けていたから、結構な継続ダメージだろう。
ファイヤーボール1.5発分と考えて、全部で単体魔法5発分というところか。
壁魔法の見積もり次第ではもっとかかるが、知力2倍がなければ2ケタ回数発動する必要があったのかもしれない。
それでもボーナス武器なしで戦えることがわかったのは大きい。
「お嬢様、こちらを」
アコルトがドロップアイテムのリーフを拾ってくれていた。
しまった。
最初に自分で拾わないと、薬草採取士のジョブが得られない。
もう一回だ。
「ありがとう。
アコのおかげで魔法だけでもボスが倒せることが分かったので、もう1周行くね。
次のボスドロップは自分が拾うから、倒したら一旦待ってほしい」
「はい?
……ああ、何かの条件なのですね。
かしこまりました」
一度の説明だけで、様々なジョブの取得条件を満たそうとしていることまで察してくれている。
ジョブが取得できた際には、生薬生成の実演をしつつ改めて説明しよう。
受け取ったリーフをリュックに入れ、アコルトに感謝しながらボス部屋に出現した出口を通り抜けた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv13
魔法使いLv13/英雄Lv14/探索者Lv20/僧侶Lv10/戦士Lv17
(村人5 剣士5 商人1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv4
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次回は7/24更新の予定です。
ボーナスポイントの振分についてですが、執筆の都合上PC閲覧で想定していた為、スマホ端末等での見え方について考慮していませんでした。
文字の並びの崩れ等、見づらい状態であったと思われます。
申し訳ありません。
今回まで更新分及び、それ以降の執筆分についても同様の状態でしたので、随時PC及びスマホ端末等でも見やすいように修正していきたいと思います。
しばらくの間は、スマホ端末の場合見づらいかと思われますがご了承ください。
24/07/22
既投稿分のボーナスポイント割り振り、鑑定、ジョブ補正、インテリジェンスカードのレイアウトを変更いたしました。
パラレルジョブやデュランダルのスキル名等の文字数の多い箇所以外は、スマホ表示でもだいたい納まるように文字サイズの変更をしています。
今後はこちらの表記に合わせて行こうと思いますが、それでも以前より見づらくなっている場合は感想でもメッセージでもご指摘いただけたらと思います。