異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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201 余韻

 自分たちが控室に戻ってきて休憩している間、侍女や使用人たちが交代で食事を取りに行っている。

 好きなだけ食べていいという言葉にアコルトは感謝の意を示し、表情には出さないが短い尻尾を揺らしてその場を離れた。

 

 

「お姉様、先ほどのノスアラ様……トシュミス男爵家とはどんな家柄なんですか?」

「なぁに?

 ミツキ、気になるのかしら」

 

「まぁその……。

 自分に挨拶してきた方は他にいらっしゃらなかったので……」

(わたくし)のもとに来られた方々には、ミツキは口頭での紹介だけでそっとしておいてほしいとお願いしたのよ!」

 

 

 なんともありがたい気遣いである。

 参加者の殆どは男性であったし、妹分が相手をするのに困るだろうと対応してくれたようだ。

 

 フェルス自身も、婚約を公にしているので言い寄られるようなことはなかったとしても、話し相手もいないのでは耐え難かったのだろうし、貴族ですらない自分を友人枠で連れ出すほど寂しかったのだろう。

 己が魔法使いのジョブに就いていなかったら、あの場には不相応過ぎてそれも通らなかった気もするけど。

 

 

「そうね……、トシュミス男爵家は帝都領の武門の一族だわ。

 当主のラシダフ様は帝国軍の迷宮討伐部隊で、あちこちに派遣されて指揮を執ったり、なんて話は聞くわね。

 シームラウ家はお母様が元々武闘派で、騎士団も訓練に力を入れているし、そういう面でお世話になったことはないはずよ。

 ルトラ姉様の報告会の方にはいらっしゃらなかったから、庶男のノスアラ様はリルゴン領あたりの警護担当として来られたんじゃないかしら」

 

 

 へぇ~。

 スラスラとこういう情報が出てくるのは、ちゃんと貴族のお嬢様っぽいな。

 さっき3つ目のアイスサンドを食べてたけど。

 

 今回のような近隣領との会合の場で、数年前に挨拶をしたことがある程度だと言っていた。

 

 思えば年齢の割に派生職である騎士のレベルが結構上がっていた気がする。

 顔立ちのせいで余計に不釣り合いに思えてきた。

 年齢が一回り以上は離れた他の騎士たちに混ざっていてもおかしくない強さなのか、それとも単なる数合わせか。

 庶男ということは、ノスアラは次男以降と……いうことなのか?

 

 貴族のレベル事情がいまいち分からない。

 本人たちも、探索者以外にレベルの把握はできないのだから、どこまで鍛えているのか掴めないだろうし。

 

 わざわざ自分に挨拶してまで料理の話をしていたし、実は食に興味を持つ同志だったのかもしれない。

 最後に何か言いかけたようだったが、フェルスの呼びかけで上手く聞き取れなかったし、言い直すほどでもなかったのか、結局分からず終いだ。

 

 

「あぁ!

 もしかしたらミツキを軍にスカウトに来たのかしら?

 ほら、急に居着いた若い魔法使いで、自由民なら引き抜きやすそうだし!

 …………そうだとしたらミツキ、行かないわよ、ね?」

「行きません!

 シームを離れる気はないですし、迷宮にだって自分のペースで入りたいですし」

 

 

 その返事が嬉しかったのか、フェルスお姉様の機嫌も良さそうだった。

 取引の約定があるから、税金免除の6年、もしくは100万ナールずつの分割金が払われる最低5年は住まないと損だしな。

 なにより居心地がいいから、あの家を出る気なんてそもそもないが。

 

 

「あとはそうね……。

 ミ、ミツキ自身が気になっていたとかかしらね?」

 

 

 照れくさそうに述べるフェルスと、後ろの女騎士がともに「キャー」なんて小さく声をあげているが、そういうのは一番いらない。

 何が悲しくて男に見初められなくてはいけないのだ。

 違う理由であると、ただただ願うばかりだな。

 

 

 

 満足げなアコルトが戻ってきたので、ノスアラについての情報を共有する。

 目の前でやり取りを見ていても、危害が及ばない限り主人や貴族の行動を妨げられない従者の立場というのは歯痒かったらしい。

 邪な様子には見えなかったそうだが、疑問の残る応対に不信感が拭えない。

 

 

「さてと、アコルトも揃ったのだし、改めて……。

 ミツキ、それにアコルトも、今日は参加してくれてありがとう、感謝しているわ!」

 

 

 フェルスが自分たちの手を取って抱き寄せる。

 ふわりといい香りがしたが、彼女にしてはすぐに離れ、改めてこちらを見つめてきた。

 

 

「今回のお礼に、何か要望はあるかしら?」

 

 

 うーん、ほとんどフェルスとの付き合いとして、断れずに参加したようなものだしな。

 ドレスのグレードアップもしてもらい、貴族が食べるような料理を食べられたので、追加で金品を求める場面でもない。

 かといって、他にしてほしいことも……あ。

 

 

「しいて言えば、のお願いなんですが……」

「あら、なにかしら?」

 

「先ほどのように、もし他の貴族の方から声を掛けられそうになったときに守ってもらえると嬉しいのですが、そういうのは……」

「そうねぇ……。

 前にも伝えたように、シームラウ家に仕えてもらえるなら話は簡単なのだけれど、ミツキはそれは嫌なのでしょ?」

 

「う、すみません」

 

 

 さすがに虫が良すぎるか。

 配下でもないのに、他所からの厄介事を防いでくれなんてのは、伯爵家を舐めているとも思われるかもしれない。

 

 

「お母様に相談してみるわね。

 全ては難しいでしょうけれども、シームラウ家と懇意の取引相手という見方をすれば、ある程度は介入する建前にはなるかもしれないわ」

「ありがとうございます!」

 

「でも、あまり期待はしないでほしいの。

 自由民は自力救済が原則なのだし、伯爵家が庇護下にない者を表立って支援するには相応の理由が必要だわ。

 領民として頼られてから仲裁をするのではなくて、相手の意図を探って守る、というのは簡単じゃないのよね」

 

 

 確かにそうだ。

 そこまでしてもらうなら、大人しく庇護下に、つまりシームラウ家の傘下に入るのが当然だろう。

 

 さすがに無理な願いすぎたとフェルスに謝り、彼女も「他の願いならなるべく応えてあげたいの」と申し訳なさそうに眉を寄せ、苦笑する。

 これ以上困らせるわけにもいかないので、もっと簡単な願いを思いついたら相談するということにした。

 

 

 中位以上の他のジョブの情報を求めるという手もあったが、貴族的にどこまでがタブーなのか分からない。

 エルフ固有ジョブの樹祭司だって、どこまで開示していい情報なのか微妙だった。

 あれはシームラウ家として把握している範囲というより、自分に教えられる曖昧なところまでだったように思える。

 

 仮に漏れたとて有耶無耶にできそうな情報だったし、その気になれば自分も含めて処分とか……までは考えすぎか。

 レオニー伯のジョブレベルまでは鑑定で覗き見えても、腹の中まで探ることは不可能なんだし。

 1人だけ城に招かれ、護衛に扮していた伯爵の身分を明かし、大きな取引が決まった直後という動揺しがちなタイミングで、目の前に小さな餌だけを出してこちらの出方を窺っていたのかもしれない。

 

 結局あれ以降はジュサイシについての話題を挙げていないから、その時はただ興味があっただけだと思われているのかもな。

 迂闊に虎の尾を踏む真似は避けたいところだ。

 

 

 

 

「いい時間なので、そろそろお暇しようと思います」

 

 

 友人枠とはいえ部外者が居続けるのは、朝から対応し続ける使用人たちにも悪い気がしてきた。

 一連の流れも終わり、疲れを自覚するとそろそろ帰りたくなってきた頃合いだ。

 フェルスだって様々な準備があっただろうし、招待した手前あちらから帰宅を促すなんてことはできないだろうし。

 

 

「そう……、今日は来てくれて嬉しかったわ!」

「こちらこそ、フェルスお姉様とお食事できて楽しかったです!

 えーっと、またシャイルヴェ殿にお送りをお願いしたいのですが……」

 

「このまますぐ帰るのかしら?」

「はい、長居するのも申し訳ないですし、今日のところはこれくらいで……」

 

「ミツキはそんなこと気にしなくていいのだけれど……。

 分かったわ、それならばすぐにシャイルヴェを呼ぶわね。

 今度はシャオクやミーラスカたちも呼んで、一緒に食事をいただきましょうね!」

 

「はい、是非!」

 

 

 日程は未定だが、そのうちフェルスには未紹介のセナクロワを含めた全員で食事をしようということで、今日の会合は終わることとなった。

 ルトラの方にも挨拶をしておきたかったが、報告会の方の後処理があるのでそれは叶わず、貴重な機会に参加できたことに感謝していたと、言伝をお願いする。

 

 

 

 シャイルヴェに眠る人魚亭まで送ってもらい、その場でパーティーから離脱させてもらったことで、ようやく淡い縁取りが消える。

 家まで送らなくていいのかとしきりに聞かれたが、今回は1人ではないし大して距離もないのでと固辞させてもらった。

 彼にも感謝を述べると、恐縮した様子で礼をして、再びフィールドウォークを唱えてゲートの向こうに去っていく。

 

 他人のパーティーに入り続けたのは、これまでで一番長い時間だった。

 身内以外に現在位置を把握され続けているというのは、意識するとちょっと拘束に感じてしまう。

 

 アコルトに、「パーティーから解放されて1人になりたい時があるなら言ってほしい」と伝えるが、「お嬢様の居場所が分かっていると安心できます」と返ってきた。

 危なっかしくて放っておけないという意味か?

 

 

「それも、……あ、いえ、お嬢様は様々なことをお出来になるので、お近くにいらっしゃると心強いのです」

 

 

 それ()って言ったよな、今。

 ……まぁ今日に限らず面倒なことに付き合わせているのはこちらなんだから、大目に見よう。

 寛大な主人としての器の見せ所だ。

 

 

「そういえばその荷物は何?」

「…………。

 今朝、お嬢様が着てきた服です。

 てっきり、シャオクさんたちにドレス姿をお見せするためかと思っておりましたが、まさかお嬢様……」

 

 

 ……そういえばドレスのままだ。

 アコルトは控室に戻ってきた時に侍女服から戻っていたので、自分も着替えた気になっていた。

 

 フェルスが()()()()()()()()と聞いたのも、シャイルヴェが出発前に確認してきたのも、着替えなくていいのかという確認だったのか。

 着替えたいと言っておけば化粧を落とす関係で、もしかしたらまた入浴もできたかもしれない。

 気持ちの良いお風呂なら、夜にまた入ることになったってよかったのに。

 

 耳をしきりに動かしてから、アコルトが顔を寄せて小声で話す。

 

 

「(シャイルヴェ様が通った直後ですので、今ならお嬢様の移動魔法を使っても自然に思われるでしょう)」

「(あ!

 そっか、ワープを使って帰ろう!)」

 

 

 見渡す限り周囲に人はいないし、アコルトの耳にも近づいてくる人の気配はない。

 シャイルヴェが唱えたパーティー操作の詠唱も、他に聞いた者はいないだろう。

 ドレスのまま自宅まで徒歩では裾が汚れるだろうし、なにより歩きづらい。

 早々に退散してしまおう。

 

 詠唱省略のパーティー編成を使用し、アコルトを勧誘する。

 そのままシャイルヴェが消えた絨毯に向かってワープを発動し、自宅内へとゲートを繋げた。

 

 やっぱりポンコツな主人には、これからも優秀なお供に付いていてもらわないとダメそうだ。

 

 

 

 

 家へと帰ってくると、外出から皆戻ってきていた。

 夕方まではまだもう少し時間があるが、用事は済んでいるようだ。

 

 そこからしばし、皆にドレス姿を披露することになり、誰もが褒めてくれたので非常に照れくさい。

 ごく一部召されそうな顔をしている者もいるが、基本的には綺麗で上品な衣装と、低身長でも成人らしく見えるメイクが似合っていることを称賛してくれている。

 

 耳まで赤くなってきた気がしたのでそこまでとし、手伝ってもらいながら普段着へと装いを改めた。

 メイクの方も落としたいが、夕食を終えてからの方がよさそうだな。

 食事の準備で火を使うし、お風呂は食後のほうがいいだろう。

 

 今日食べた料理と、想定される食材や調理法を話しつつ、食事を進めた。

 

 

「あ、そういえば……その辛味野菜というか、サビアって植物って知ってる?

 どこかで聞いた気がしたけど思い出せなくて」

 

 

 それぞれの顔を見るも、皆心当たりはないように思えた。

 その後おずおずと口を開いたミーラスカに、注目が集まる。

 

 

「その……、以前ザノフ様が主様にお尋ねになった押し花のことではございませんか?

 シューシャトなる島国固有の植物で、お心当たりはないかとお話しされていたと思います」

 

 

 そう言って、ミーラスカが胸元のネックレスのモチーフに手を添える。

 そうか、あの時ザノフに会ったのは自分と彼女だけだったな。

 

 

 

「あー、それだ!

 ……えーっと、ケトアラにそこの商人が来てたんだっけ」

「ケトアラなら、ルテドーナ領のアルヴナと山を隔ててはいますが街移動の距離は近いですし、買い付けていてもおかしくはなさそうですね」

 

 

 シャオクが両手で街の位置関係を示しながら、合点がいった様子で頷いている。

 

 

「肉や魚を食べる時に、少しの量だけでもおいしくなるから、手に入りそうなら欲しいんだよね。

 そこの商人は、他にも魚の加工品を売りに来てるみたいだしさ」

「是非行ってみとう存じます!」

 

 

 最近魚料理を気に入っているリカヴィオラが、声を上げる。

 今後決まっている大きな予定もないし、あっても帝都に霜晶鉄の部品を買いに行くくらいだから、迷宮通いの合間に出かける日を作ることに決まった。

 

 シャオクの製造手帳の方はというと、鋼鉄やダマスカス鋼、白銀の一部装備について教えてもらったそうだ。

 材料や出来上がった形状、その特徴について、スラク語のメモ書きが増えている。

 

 さすがに白銀や聖銀装備については網羅されているわけではなく、ギルド所蔵の本に記載があり、先輩が作れたものだけ教えてもらったそうだ。

 鍛冶師が高給取りといえど、何度も自分で材料を買って揃えるなんて真似ばかりしていられないため、あまり進んでいないらしい。

 

 そこは鍛冶師Lv50が視野に入ってから考えようかな。

 魔道士の火力がもっと上がってきたら、ロートルトロールのボスのロールトロールを倒して鋼鉄を狙ったり、サイクロプスのボスから銀を狙って周回するのも手だろう。

 結局レベル上げがどうしたって必要なのだ。

 

 

 お風呂で化粧を念入りに落としてもらい、湯船に浸かって一日の疲れを癒す。

 肩の凝る現場ではあったが、フェルスお姉様とともに美味しい食事を食べられた、よい一日であった。

 アコルトも何皿平らげたのかまでは知らないが、皆が羨むような感想を述べていたので、大満足の内容だったのだろう。

 

 材料の調達や費用を払うから、今日食べたシーム領の料理だけでも、他のメンバーに食べさせてあげたいな。

 例のお願いとして頼んでみるのもありだろうか。

 

 自分が貴族なら普段からそれもできたのかなぁと考えてみるが、そういう権利にはルトラのやっていた政治的な役割と義務も同様について回るのだろう。

 結局自分は自由な庶民として好き勝手に暮らしている方が、ずっと気が楽だ。

 

 

 蝋燭の明かりを消すとすぐに眠気が襲ってきて、ベッドに沈むような感覚で意識も夏の夜に溶けていった。

 




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv51
魔法使いLv51/英雄Lv47/探索者Lv51/樹祭司Lv10/遊び人Lv49/魔道士Lv28/巫女Lv45
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 森林保護官50 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 博徒38 冒険者1 盗賊30)

アコルト   兎人族 ♀ 16歳 探索者Lv10

シャオク  ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv39

ミーラスカ  牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv36

リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv35

セナクロワ  猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv32



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次回は8/31更新の暫定予定です。

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