明くる日の予定は、ニカドーを通して木工店に依頼してある氷冷箱のパーツの進捗確認だ。
我が家で箱を組み上げるための、霜晶鉄部品の用意をするよう伝えてきたのだから、数日中には完成するのだろう。
朝食を食べた後に商店街の絨毯へとワープし、そこから木工店へと移動する。
あんまりゾロゾロとついてきても意味はないので、お供は、この辺りに馴染みのあるシャオクだけだ。
まだ眠そうな店員に声を掛け、裏の作業場へと案内してもらうと、湯船の大桶の時にも見た職人たちが作業していた。
すぐ脇には台車のようなものが置いてあり、その上に加工された板や木杭のようなものが積まれている。
「おはようございます。
氷冷箱の依頼をしているミツキです」
「おぉ、朝から来てくれたのか、悪いな。
こんなのうちに頼むのなんて、あんたくらいしかいないからな、わかってるぞ」
まぁ、本来こういうのを頼むような貴族は、懇意にしている業者がいるだろうしな。
数度の買い物や、大工を通しての依頼をいくらかこなした程度の付き合いで、回ってくるような仕事ではない。
「指示された、ほとんどの部品はできてるんだ。
最後に届いたこいつが面倒なんだよ。
重いし、硬いし、失敗もできないからどうしても時間がかかる」
ぺしぺしと木肌を軽く叩いて示したのは、例の排水周りに使う特殊な木材だ。
担当している職人はドワーフだったが、力を入れ過ぎると裂けてしまうし、慎重に削らないといけないとかで、扱いが難しそうである。
素人が口出ししてもいいことはないので、加工は専門家にお任せしよう。
製作に余裕を持たせて、自宅への搬入と組み立ては3日後ということになった。
運搬の馬車なんかも、あちらで手配してくれるそうだ。
力のあるシャオクやミーラスカはもちろん、他のメンバーも設置から立ち会う方がよいだろうと、その日は家にいることに決めた。
ついでにこっそり報酬の方を確認してみたが、ニカドーから十分な額をもらう予定だという。
職人におおよその材料費の見当をつけてもらったが、パーツの多さや工程を考えると、親方に渡した金貨3枚ではギリギリに思える。
帰り際にニカドー宅にも寄っていこう。
木工店を後にし、商店街までの途中にあるニカドーの家へと向かう。
仕事に出かけていないとよいのだが。
いつものように玄関扉を開けるのと同時の声がけで、奥から返事をしながらニカドーが出てきた。
「おう、ご苦労さんだ。
昨日使いをやったが、伝わってるか?」
「はい、ありがとうございます。
さっき職人さんの方に進捗を確認してきて、3日後の24日に運び込んで、組み立ててもらうことになりました」
「そうか、なら俺は朝から向かうがいいか?
箱が組み上がるまでに置き場所を仕上げねぇとな」
「それでお願いします。
……あと、代金って渡した分で足りてますか?」
「おう、大丈夫だ」
答えた時に、ニカドーの眉間の皺がピクリと動いたように見えたとシャオクが耳打ちしてくる。
何度も問い質してみると観念して、資材や職人への支払いをすれば、ほとんど残らないのだとばつが悪そうに白状した。
ニカドー本人の分が考慮されていない、というか諸々の手配や調整なども考えれば、マイナスといっても過言ではない。
「後からくれだなんて、格好がつかねぇじゃねぇか!
それにほら、あの図面だってもらっちまったようなもんだしよぉ」
確かに、今後氷冷箱を置きたい家や、新築から組み込みたい家庭があれば、その仕事を受ける上で優位にはなるだろう。
「でも、氷冷箱を置きたいってところがそんなにありますかね?」
「…………ねぇよなぁ」
しいて言えば自分たちと関わりのあった眠る人魚亭や、他の飲食店くらいだろうか。
自分が魔道士のジョブに就いたことを公表できたなら、氷を調達できる伝手をそのまま得られたことになるだろうし。
だとしても、定期的な氷の供給までは無償ではちょっとな。
こちらの用事のついでに寄って氷を出してあげるくらいなら代金をもらう気はないが、業務に必須レベルの使い方をするなら話し合いが必要になる。
まぁ、親交のある人たちは自分たちが迷宮に頻繁に通っているとも知っているだろうし、そもそも過剰な要求はしてこないだろうけど。
自分なら、不在が多い者に準インフラみたいな替えのきかない仕事を任せたくはないしな。
ジョブという明確な区切りがあるせいで、代用がない。
しかも自分以外の魔道士となれば、ほぼ貴族相手の交渉になる。
そう考えると、導入自体を見送る判断をしそうだ。
「そんなわけで、もらえるものはもらう、取れるところから取りましょう!」
「お前さんが言うのかよ!
……まぁ、こっちはありがたいが」
その場ではシャオクのアイテムボックスから、金貨をとりあえず2枚出してもらって親方へと渡し、うちでの作業日に改めて精算するということで話がついた。
増改築や石窯製作の際にもおまけをしてもらっていたのだから、多めに払ったっていいのだ。
礼を述べるニカドーに、こちらも工事のことをよろしくお願いして、自宅へと帰ることにした。
商店街に人が増えてきたので歩いて戻ることになったが、仕方あるまい。
帰り道で肉串を売る店に寄りつつ、お土産にいくつか包んでもらって、シャオクと頬張りながら自宅へと着いた。
朝食から1時間程度しか経っていないが、こういうものは摘めるんだよな。
お土産を留守番メンバーに配り、日程について共有する。
他に決まった予定はないので、その日も迷宮は休みにして、設置場所周辺を綺麗にしておこう。
報告も終えた後は、無難に迷宮へと移動だ。
装備を整え、ワープで出撃しよう。
通い続けている27階層なら、タウルスが出て多少長引いた場合も、アコルトを狩人に戻さずとも探索者のままで危なげなく終えられるようだった。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv52
魔法使いLv52/英雄Lv47/探索者Lv51/樹祭司Lv21/遊び人Lv50/魔道士Lv30/森林保護官Lv50
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
7thジョブ 63 獲得経験値20倍 63
必要経験値1/5 15 パーティー項目解放 1
パーティライゼーション 1 ガンマレイバースト 1
(残0/150pt)
どうせ自分のジョブレベルは上がりにくいレベル帯になってきているので、ボーナスポイントを振り直し、他のメンバーたちに入る経験値が多くなるように調整する。
知力に振っていたポイントを使って、自分が100倍効率のまま、皆にも20倍で獲得できる構成が組めた。
ステータスの減少で増えてしまう必要手数も、ハーフハーブでは1発、ボスでは2発の増加に抑えられている。
先ほど樹祭司のレベルが上がったからだろう。
遊び人のジョブ効果に設定した知力大上昇の参照元でもあるので、補正の増加量にも影響してるはずだ。
昼休憩に一時帰宅し、再びボス周回を続けていると、昼下がりを過ぎた頃には、アコルトの探索者がLv20へと届いた。
明日までかかるだろうと考えていたが、普段の倍の取得量というのは大きかったようだ。
これでアイテムボックスは20個✕20列となり、最大400個ものアイテムが収納できる容量となった。
いっそのこと派生ジョブが現れるLv30まで上げてしまうことも考えたが、流石に引き延ばしすぎかと迷いつつ、もう1周したところで英雄のレベルが上がった。
いつかのように、決断を急かされている気になってきた。
ボス部屋の魔物を倒しきったところで出現した、次なる階層への入口を前にして皆に声をかける。
「アコの探索者のレベルが20になって、人前でアイテムボックスを使う分には不自由しない容量になったから、29階層からの攻略を進めたいと思う」
「…………18、19、確かに20列になっています」
「うん、じゃあ狩人に戻すね。
今日はもうそんなに時間がないし、29階層の入口からになるけど、ゴーレムたちとの連続戦闘の様子見って感じで」
一同の返事に頷きつつ、主体とする魔法も変更することを告げる。
これまで弱点属性を突くために中級火魔法を連発していたが、これから進む先では同じようにはいかない。
ノンレムゴーレムもロックバードも植物には該当しないので、『対植物強化』『対植物増強』も通じない。
ガンマレイバーストを絡めても、数ターン決着のこれまでの戦闘からは、一気に時間が延びることになる。
そして戦闘時間が延びるというのなら、次はいかに楽にこなすか、ということが焦点となるだろう。
遊び人のスキルに設定するのは魔道士の下級雷魔法だ。
麻痺による行動不能を主体とした、拘束を狙った戦法を取る。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv52
魔法使いLv52/英雄Lv48/探索者Lv51/樹祭司Lv23/遊び人Lv50/魔道士Lv31/博徒Lv38
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
7thジョブ 63 獲得経験値20倍 63
必要経験値1/5 15 パーティー項目解放 1
パーティライゼーション 1 ガンマレイバースト 1
(残0/150pt)
そこで森林保護官の代わりにセットしたのは博徒のジョブである。
暗殺者でもパッシブスキルの『状態異常確率アップ』でその麻痺率を上げられるとは思うが、メンバーの武器スキルによる石化も考えれば、敵の耐性を下げたほうがいい。
それにこちらの方がレベルも上がっているしな。
知力の補正も同じ小上昇だし。
以前戦った時は魔道士を得る前だったから、等倍3連発とガンマレイバーストの威力の検証をしてみよう。
魔法使いのスキルは、わかりやすく耐性に干渉しない火魔法を使おうか。
ノンレムゴーレム Lv29
ノンレムゴーレム Lv29
ロックバード Lv29
アコルトに索敵をお願いし、少し進んでみると、通路の先に魔物の群れを見つけた。
少ないほうが良かったが、3体ならマシな方だろう。
気づかれる前にサンダーストームを放つ。
紫電のエフェクトが発生し始めるのと同時に2つ目の魔法も発動、次いでファイヤーストームが岩の体を包んだ。
セナクロワとミーラスカが前に出る。
自分は敵を見据えたまま、状態異常耐性ダウンを掛けていき、最後にアスピレートをロックバードへと発動することでいくらかMPを吸収できた。
ゴーレムたちが重そうな体を動かして向きを変えているうちに、ロックバードが飛び込んでくる。
誘導したセナクロワが飛び退いたことで、シャオクのダマスカススピアの穂先がその進路に突き出てきた。
ロックバードはこれを強引に避けるために、不格好な体勢で大盾に衝突することになる。
この接触により、タワーシールドの『HP吸収』が発動した。
その間にアコルトは前方へと走っていた。
ゴーレムの方向転換が終われば、こちらとの距離的に土魔法が飛んでくる可能性があるからだ。
しなる鞭が石人形たちの体を打ったタイミングで、2ターン目の魔法が使用可能となる。
再び放った魔法のエフェクトが魔物たちを覆った。
大盾に弾かれたロックバードが、飛び直した体を震わせて再度落下する。
麻痺が入ったようだ。
セナクロワは鳥の相手をシャオクたちに任せて、アコルトに加勢した。
クールタイムの十数秒のうち、大半の時間の自由を奪うというのは凶悪だ。
2度3度と同じ状態異常にするには、耐性値みたいな判定があるのか掛かりにくくなってきたり、効果時間も短くなっていくという注意点もある。
それでも動作をキャンセルさせられれば、優位に立ち回れる時間は拘束時間以上に長くなる。
距離を取りつつ手数を稼ぐアコルトと、モーションを見極めて的確に1手ずつ入れていくセナクロワによって、片方のゴーレムは石化した。
ロックバードの方は、ドワーフと牛人族の力持ち組によって壁に追いやられ、大盾に押さえつけられた隙間から槍で突かれて消滅を待つばかりだ。
終盤で石化したゴーレムは7ターン目、残りの2体は8ターン目の魔法攻撃で煙へと姿を変える。
今回はガンマレイバーストを使わずに進めたが、3連発の8ターン分で討伐することができた。
2連発だった頃には2桁ターンが必要だったことを考えれば、魔道士様々である。
残されたのは岩が2つに、羽毛が1枚。
質量の差がとんでもないが、売値はどちらも40ナール。
どちらも利用には数を必要とする素材であるため、このランク帯では最安である。
物理攻撃が多く、魔法の頻度が低い魔物なので、このランクまで登れるようなパーティーなら倒しやすいから、買い叩かれているんだろうか。
ボスのレムゴーレムは、魔法使いなしのパーティーでも比較的安全だと原作にも書かれていたしな。
それを確かめるためにも、まずは待機部屋までのルートを見つけないとだ。
更に進んだ先で見つけたのは、ノンレムゴーレムが5体の群れだった。
種類が少ないほうが対処はしやすそうだが、通路を埋めるような体格だと、後列の相手が難しいか。
若干広めな道のようだが、それでも横に3体は並べそうにない。
サンダーストームを続けて発動し、ファイヤーストームを撃ち終えたら、ここでガンマレイバースト。
ギュイっとメンタルが落ち込む感覚を認識しつつ、アスピレートでのMP吸収も忘れない。
発光のエフェクトにより前列のゴーレムの影が後列に伸びたが、視界が隠れた奥の魔物も同じ群れだと判定され、しっかりダメージが入ったようだ。
その証拠に、全てのノンレムゴーレムがこちらへと向き直ろうとしている。
エフェクトはあくまで魔法発動に付随したもので、必中の全体攻撃なら全ての魔物の視認ができなくても、ちゃんと一律に作用するのだな。
……前にも確かめた気がする。
ま、まぁ、効果が変わっていないことを何度も確認するのも間違いではないし。
敵から受ける場合も、パーティーメンバーの誰かを対象に狙われ、それを阻止できなければ、全員が被弾する。
そのことは常々意識しておかなきゃだな。
状態異常耐性ダウンを個別にかけつつ、サンダーストームとファイヤーストームのセットをクールタイムごとに進めていく。
前列のゴーレムが麻痺している間に、アコルトの鞭やシャオクの槍が後列の魔物に触れ、時偶足元に現れる魔法陣を霧散させている。
戦闘が進むにつれて1体、2体と石化し始めたが、5セット目の魔法を発動したところで、ゴーレムたちが一様に煙へと変わる。
これまでの階層では弱点属性や植物特効の影響で分かりにくかったので、これで現状の純粋な威力が明らかになった。
ガンマレイバースト1発が魔法スキル3セット分というのは、相当な火力である。
その分MPも持っていかれるが、それをもってしても戦闘時間の短縮という恩恵は、安全面でも、周回効率という点でも影響が大きい。
その後は、近場の魔物の群れと戦闘しつつ、いくつかの小部屋を通りながら通路を進んだ。
探索の進捗としてはよろしくない。
これまでの階層と違って他のパーティーを見かける頻度が多く、迂回する必要があったり、魔物との戦闘をするにも当然発光するスキルなど見られてはいけないからだ。
状態異常攻撃を持たない魔物の階層なので、ここで実力をつけたいパーティーが散在しているのかもしれない。
小部屋近くの戦闘でガンマレイバーストを使用した際も危険ではあったが、幸いアコルトの索敵範囲には人はいなかったようだし、迷宮が入り組んでいるおかげでエフェクトの光も遠くまで広がることはなかったため、助かった。
「他のパーティーが多いのでありましたら、アコルト殿に人の声の多い方向を探していただく方がよさそうでありますな。
この分なら待機部屋にも、多数のパーティーが並んでいると思うのであります」
これまで不人気階層の周回ばかりしていたので、すっかり避ける方ばかりを考えていた。
その方針で動いてみることにしたが、結局夕食までの時間ではルート取りについて大した成果もないまま、今日の探索を終えることとなった。
明日以降は、ボス突破を目指して待機部屋探しを本格的にしよう。
行き先を自宅の裏口ドアの屋内側に指定して、ワープを使って帰るのはいつものことだ。
普段から迷宮でゲートを開く際は、ダンジョンウォークができる小部屋かを確認して、アコルトに呪文を諳んじてもらってから通り抜けるのが常となっている。
先頭のアコルトから順にゲートを
「どうしたの?」
「お嬢様、ゲートを消されてください」
真剣な表情のアコルトに言われるがまま、ワープのスキルを中断すると、迷宮の壁が元に戻った。
「リカさんの他に、どなたかいらっしゃるようでした。
来客用のティーカップの音が聞こえましたので、リカさんが応接しているものと思われます」
誰だろう。
言伝や手紙を持った使いなら、渡したらすぐに帰るだろう。
自分たちの帰宅を待っているということは、すぐに対処する必要のある、急ぎの用事になるだろうか。
カルムには競売依頼も出していないし、過去にティーカップは嫌がられて普通のコップでだしたこともあるのでニカドー親方でもないだろう。
ヤトロクやミトラグなら、急ぎだったとしても大した距離じゃないから居座らずに宿や店に来てくれと言うはずだしな。
フェルスお姉様、でもないだろう。
伯爵に釘を刺されていたから、それを破ってまで本人が乗り込んで来るとは考えにくい。
そんなことをするより、自分を城にフィールドウォークで拉致したほうが安全だし…………待て、シャイルヴェか?
直接家に来たことがあり、貴族であるカルムの使用人で、自分を連れ出すことのできる冒険者でもある。
接待相手としてもおかしくはない。
とにかく、誰であろうと
相談して裏の雑木林にすると結論づけ、再度ワープのスキルを発動して、偵察の任を含めてアコルトに先行してもらう。
出た先に問題がないことを確認して、全員で移動した後、家の正面に回って玄関から入ることにした。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv52
魔法使いLv52/英雄Lv48/探索者Lv51/樹祭司Lv24/遊び人Lv50/魔道士Lv32/博徒Lv39
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 巫女45 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 森林保護官50 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 冒険者1 盗賊30)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv40(探索者Lv20)
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv40
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv38
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv36
セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv34
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