「
会合は中断ということで、セナクロワと共に別室で待機していると、シャイルヴェに連れられてきたリカヴィオラが合流してきた。
こちらに共に留まった騎士をパーティーメンバーから外したようで、そこに彼女が追加された形だ。
ある程度は道中でシャイルヴェとアコルトから説明があったようだが、突然の抜擢に信じられない様子である。
間を置かず、カルムも入室してくる。
ロクタからの問いに困って助けを求めたが、その後リカヴィオラに白羽の矢が立ったのは、カルムの一言が原因だ。
「勝手ながらご提案させていただきました。
先方は、派遣メンバー内の商人ギルドの関与を薄め、より住人による交流を求めておいででしたので、リカヴィオラ殿を薦めさせていただいた次第です。
今から新たな候補者の選定をしても、ギルドの影響が強いという印象は免れず、当人の文化に対する理解度を確認する時間も必要でしょう」
確かにあの場ですぐに候補者を出せなければ、日程はどんどん先送りとなるので、ギルドとしては避けたい場面だったのは間違いない。
リカヴィオラは単に候補足りえるだけでなく、自分の所有奴隷でもあるから自ずと協力関係を築けるし、行動指針をミツキとともに統制できるというのも分かる。
メンバー内に身内を増やせることはありがたいが、彼女の意思を聞いてからにしてあげたかったな。
そんな心配をよそに彼女はというと。
「主様と共に新たなる地へと向かうのは、心高鳴るにございます!」
「あ、いや、まだ決定じゃないんだけどさ」
「それにございましても、父上のように冒険者となった暁には、フィールドウォークにて各国を巡る、その礎のような経験になりそうに思われます!」
うーん、表現はアレだが、まぁ言いたいことは分かる。
彼女にとっての最初の越境は、物心付かない頃の亡命生活の最初期だったろうし、自分の容姿のせいもあってアウダニア王国に不用意に近づけない今、他国への訪問というのは貴重な経験だ。
自分たちだけで乗り込むよりは安全だろうこの機会に、ニコウ皇国の地を踏ませておいたほうがよさそうでもあるしな。
それになんだか、自分だけが派遣メンバーだった時より、明らかにアコルトたちが安心している。
心細かったのは事実だが、そこまで頼りない主人か?
1人だったからってそんな。
えーっとソロの時の危機らしい危機といえば、……迷宮初突入で盗賊に襲われたり、魔物の部屋に取り込まれて九死に一生を得たり、盗賊の集落で襲われて命からがら逃げおおせたり……。
…………うん。
諸々の出来事を思い出してみれば、目を背けたくなるほどに碌な事がないな。
どれも彼女らには話していない内容だし、話してしまっては今以上に心配をかけることになりそうだ。
交渉事も苦手だし、しっかりと守ってもらえている状態の魔法戦闘以外で、まともに役に立っていないんじゃないかとすら思える。
リカヴィオラに関しては年齢は自分より若くとも、育ての父と共に各地を渡り歩いて生活してきた積み重ねがあった。
商館で一部の学習免除をされるほどにしっかりとした親からの教育もあって、本人の性格からしても自分なんかよりよほど社交性を持っているのも明らかだ。
渡航メンバーに、身内である彼女がいてくれた方がいいのは間違いない。
魔法や能力が必要な場面ではリカヴィオラを守れるように注意しつつ、それ以外の場面では力になってもらおう。
「では、リカヴィオラ殿にも参加のご意思があるということでよろしいでしょうか」
「はいっ!
貴重な人員に
聞こえてくる自動翻訳は相変わらずいまいちだが、彼女の表情を見れば、真意は容易に察せられる。
本来奴隷は主人らの決定に逆らえないものなのだが、シサズノも安心した様子を見せたあたり、カルムの根回しが行き届いているようだ。
彼が盤面をコントロールしやすいように手を広げているという見方もできるものの、随分とこちらに譲歩した内容になっているので疑う必要はないだろう。
会合を再開するとして、再び部屋へと集合する。
商人たちにも欠けはなく、先ほどの面子にリカヴィオラが追加された形だ。
「そちらが、リカヴィオラ殿でしょうか」
「はっ、
畏まったポーズで挨拶する彼女に、打ち合わせどおりに奴隷商人が呪文を唱えて、カードの確認へと移る。
「ふむ、確かに。
しかしミツキ様とよく似ておいでですね。
こうして近くで拝見させていただかない限りは、間違われる方もいらっしゃいそうです」
「家政婦を探しに商館を訪れたところ、奴隷商にも驚かれて紹介をされましたので、他人事とは思えず……。
今も家事を中心に働いてもらっています」
その後も少しずつ聞かれた内容に答えていったが、リカヴィオラと契約したのはアルヴナの商館だし、そこはルテドーナ領だ。
他領の商人ともなれば開示も難しくなるだろうし、その先にもいくつも商人を経由しているはずだし、そもそも彼女の身元を証明する手立てはないはずである。
セナクロワが調べてたどり着いた内容も、結局断片的な状況による推測でしかない。
カードに表示される内容以上の本人鑑定みたいなものができる世界ではないと思うし、そのための情報の提供も望めないだろうからそちらは大丈夫だろう。
奴隷解放をしてから養子縁組をするような小難しい手段を取る以外に、消えた名字に戻す手立てもないようだしな。
そこまでやっても、
つまるところ、インテリジェンスカードからは奴隷身分であることが分かるだけで、自分とよく似た容姿のエルフ少女としか映らないわけだ。
「───それでは暫定としてその人員で、5日後、夏の下月27日にお迎えにあがるということでよろしいでしょうか」
「ええ、よろしくお願いいたします」
随分と早い日程となったが、招待自体はごく小規模なものなので、シューシャト側も準備はそう多くはないらしい。
島のメインスポット紹介と皇国の文化的な説明に、食事。
1泊2日の小さな催しのため、宿や飲食店の仮押さえは済ませてあるのだとか。
こちらの派遣メンバーは自分とリカヴィオラにシャイルヴェ、そしてナヤドゥラという竜騎士の女性だ。
ナヤドゥラ 竜人族 ♀ 41歳 竜騎士Lv44
性別的に自分たちに配慮して選ばれたのだと思うが、しっかりと鍛えられた肉体でありながら、ブラヒム語と竜人族のバルド語の他、人間のサリニク語も堪能で、ドワーフのスラク語も最低限話せるという有能な人物らしい。
挨拶された分には、種族相応で大柄な、落ち着いた女性という印象だった。
今は壁際に控えているものの、後ろ手にこっそりと指をゴキゴキ鳴らしているとアコルトに耳打ちされたので、怒らせないように気をつけよう……。
シャイルヴェもいくつかの言語を扱えるということなので、自分の自動翻訳を含めれば、エルフ3人と竜人族1人という偏った派遣メンバーでありながら、主要言語の会話は一通り対応可能という人選になっている。
自分担当のバーナ語の難しい言葉が出てきたら困るが、あちらの案内役もつくだろうから、今回の交流では考える必要はないだろう。
いくつかの書類にサインし、他に疑問点や提案があればこの機会に、という段階まで話は進んだ。
「……そうだ。
ロクタ様、お尋ねしたいことがあります」
「なんでしょう、ミツキ様?」
「その、リカは……リカヴィオラは現在探索者のジョブだというのは確認いただいたと思いますが、
彼には、いや自分の身内以外には、リカヴィオラはインテリジェンスカード記載の15歳の探索者としか思われていないはずだ。
冒険者は、貴族ではない、貴族と繋がりがあったとて、成人してすぐの年齢の者が容易になれるジョブではない。
そして今回は招待の対象者として選ばれたが、文化理解や交流、そして交易の拡大を目的としているのに、次回以降にまた同じメンバーが選ばれるとは思えない。
だから、第1回の交流メンバーへの参加という、商人ギルドとシューシャトの両方の依頼を受けた
金品なんかをもらうよりは、その権利のほうが断然うま味が多い。
先ほどインテリジェンスカードに表示された年齢を考えてか、ロクタがリカヴィオラに目をやった後、少し考えてから頷いた。
「私の一存ではこの場で許可という形にはできませんが、私見を述べるならおそらくは問題ないでしょう。
ミツキ様がご希望する内容として精査し、ご招待が完了した後に改めて案内を差し上げたいと思います」
「ありがとうございます」
どういう内容になるかは分からないが、貰ってしまえばこっちのものだ。
民間の事業扱いとはいえ、第1回の招待者がいつかまた訪れたいという言葉を無下にはしないはずだ。
そんな皮算用で自分がにやけてしまっていたのか、「確約ではございませんが、向かう前からそこまで楽しみにしていただけるのなら、こちらも嬉しく思います」と言われてしまった。
レベルアップ速度の異常さを知っているアコルトたちは苦笑い気味だ。
リカヴィオラだけは、まだ見ぬ異国の地へ思いを馳せて目を輝かせているが。
おおよその取り決めは完了し、5日後の招待に向けて、それぞれが動くことになる。
何かあればまた、ギルドからカルムを通して連絡が来るだろう。
ロクタたちがフィールドウォークで帰っていくのを見送ると、商人たちが揃って安どの表情を浮かべた。
今後のことで少し相談があるとカルムに声をかけると、先ほどの大部屋ではなく普段使うような商談部屋へと通される。
個人的なことだと述べると、うちの子たちとシャイルヴェを除いて、他の商人たちは仕事へと散っていった。
「さて、ご相談とはなんでしょうか?」
「その、うちにも移動用の絨毯があった方がいいかなぁと思いまして。
ずっと広げておくのではなくて、今回シャイルヴェ殿に迎えに来ていただいたり、その帰りだったり、使う時だけ掛けておく形で……」
「そうですね。
こちらといたしましても、活用させていただけるのでしたら大変ありがたいです。
……ご用意いただいた物を使わせていただく立場で大変心苦しいのですが、立場上お渡しすることが難しく、
「ああ、いえ、こちらで買ったら使ってもらえそうかなというだけです!
ほら、知り合いの冒険者が使うこともありそうですし」
そんな知り合いは実際にはいないし、ワープには絨毯なんていらないんだけどさ。
誤解とはつまり、フェルスお姉様との出会いの原因みたいなことだ。
今となってはお姉様も理解してくれるだろうが、人の口には戸は立てられない。
本人たちが理解していようと、仕入先だったり伝令だったり、単なる目撃者だったり、人が絡めばどうしたって憶測というものが発生してしまう。
そもそも、フェルスに話して理解してもらうということは、彼女が
カルムもそのことは分かっているのは、こちらも承知だ。
あれば使えるという確認が取れただけで十分だ。
「ご紹介、という形は難しいのですが、扱っている店の情報でしたらご提供可能です」
「あっ、それなら近々帝都に行くので、そちらのお店を教えて頂けたら……」
霜晶鉄の板とかを揃えないといけないから、ちょうどいい。
どうせ使う時しか広げないのだから、華美なものにならないそこそこのものを売っている店をいくつか教えてもらった。
もっと早めに聞いておけばよかったな。
これで予定としては、一通り終えたことになる。
シャイルヴェに眠る人魚亭前まで送ってもらって、帰ることにしよう。
カルムに今日のことと、派遣の際にシャイルヴェに来てもらうことに改めて礼をして別れることにした。
フィールドウォークで飛ばしてもらった宿の前で、パーティーから離脱させてもらう。
招待当日の出発は昼前ということなので、前日か当日の朝にパーティーを組み直すということで、一旦の解放だ。
シャイルヴェが通り抜けたゲートが消えていくのを見届けると、肩の荷が下りた気がする。
すぐさまアコルトたちを自分のパーティーに勧誘し、今出てきたばかりの宿の絨毯にワープを発動した。
***
自宅へと戻り、留守番メンバーであるシャオクとミーラスカに詳細を共有する。
会合に思ったより時間をとられたので、昼食を作って食べながらの話し合いだ。
家事をしていたところにシャイルヴェとアコルトが現れ、リカヴィオラが連れていかれたということもあって、かなり心配していた様子であった。
シャイルヴェから簡潔ではあるが説明されていた通り、招待メンバーにリカヴィオラが加わるということで、自分だけのつもりだった招待自体の方にはいくらか安心材料が増えたようである。
また、絨毯の設置についても好反応を得た。
家の中に来訪者がいても、ワープで絨毯から出てくるようにすれば、移動元で冒険者に飛ばしてもらったと言えるからだ。
その冒険者は誰だって話になるのだが、商談部屋にあったような巻き取り式の絨毯なら、柄を見せたことのある知り合いだとかなんとか、最低限筋の通せる言い訳は立つ。
そんな場面になる前に、どうにかリカヴィオラに正式に冒険者ジョブに就いてもらいたいところだ。
食事を終えた後は、帝都へ出発だ。
氷冷箱の設置は明後日だが、動けるうちに部品を揃えておきたい。
シャオクもミーラスカもパーティーに加え、家の鍵をかけて全員で向かおう。
帝都の商人ギルド前に移動してから、取扱店へと向かう。
そんなに頻繁に一般客が購入にくるものでもないそうで、前回と同じ店員には覚えてもらっていた。
霜晶鉄の板と金網の個数を伝えると、在庫管理の武器商人が出てきて、机の上にアイテムを並べていく。
ボーナスポイントを操作して3割引きを利かせて代金を支払い、リカヴィオラのアイテムボックスに板を仕舞った。
金網の方は収納できないので、みんなに直接持ってもらう。
ギルド前に戻って、一旦ワープで荷物を置いてきてもらい、再び全員で帝都の街を歩く。
次は、カルムから聞いたばかりの絨毯の店だ。
数店舗を教えてもらったが、使えりゃいいくらいにしか思っていないので、近いところでいいだろう。
完全に貴族街の中にある店の他、逆に市民街の中央にある店、そして貴族街寄りではあるものの市民街の通りにある店を教えてもらっている。
冒険者ジョブは、探索者Lv50になりさえすればどんな身分の者でもなれるため、用途やグレード別に店が分かれている。
そりゃ街移動で食っているだけの者でも、自宅に最低限の1枚は置いておくだろうしな。
自分もそのくらいに考えていたが、なんだかんだ言って我が家には5人の女性がいる。
あ、自分もか。
お金にも困っていないので、結局見栄えがどうだとかで、貴族街の中の店以外は回ることになった。
好きにしてくれと思いながら眺めていたが、連続模様のパターンの柄以外にも、絵画のように花や武器の柄が編まれたものや、城の絵柄など様々な絨毯が並んでいた。
複数枚買うものではない分、どれを買うかこだわっているらしい。
ボーナスポイントやジョブの組み合わせを考えながら、うわの空で返事をしていると、何時間か経ったところでようやく決まったらしい。
薔薇っぽいようなきれいな花を散りばめたような庭園の柄の絨毯だ。
悪くない。
そこに巻き取り式の掛け台を合わせて、割引をしてみたがそれでも金貨6枚のようだ。
それにしようと言った手前、意外と高額だった商品を戻すわけにもいかず、必要経費……、必要経費……と言い聞かせながらアイテムボックスから硬貨を取り出した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv52
魔法使いLv52/英雄Lv48/探索者Lv51/樹祭司Lv24/遊び人Lv50/魔道士Lv32/博徒Lv39
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 巫女45 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 森林保護官50 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 冒険者1 盗賊30)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 探索者Lv20
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv40
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv38
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv36
セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv34
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次回は10/19更新の暫定予定です。
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