1階層のボス部屋を抜けて、2階層の入口小部屋に出てきた。
余らせていたボーナスポイントを経験値の必要値減少と獲得値上昇に振り分ける。
さすがに1階層であるから人の目もあるだろうし、ワープによる移動は控えることにする。
ダンジョンウォークではボスの待機部屋には直接繋がらないので、そこに一番近い小部屋へと接続するのが通常の探索者の迷宮攻略らしい。
そもそも魔物を倒してレベルを上げるのが目的なので、会敵が増える分には願ったり叶ったりである。
スキルを念じるとドア1枚分壁が黒く染まったので、足を踏み入れる。
見覚えのある小部屋に出てくると、後ろに続いて出てきたアコルトが索敵を開始してくれた。
先ほど通ったばかりの見覚えのある道を通りつつ、向かい来るニードルウッドを倒して、再び待機部屋へと着いた。
たいした時間も経っていないので、またボス部屋への扉は開いている。
「アコ、さっきと同じ感じでよろしくね」
「かしこまりました」
一度動きを確認できていれば、危なげなく立ち回れる。
低階層の魔物はそこまで複雑な動きはしてこないようだ。
ファイヤーウォールの効果時間のタイミングを掴む練習をさせてもらったようなものだった。
ウドウッドだった煙が晴れると、リーフが落ちていた。
伝えた通り自分で拾いつつ、ジョブを確認する。
薬草採取士
効果 知力小上昇
スキル 生薬生成
無事ジョブの取得はできていた。
出口へ向かおうとするアコルトを引き止め、5thジョブの戦士と入れ替えて薬草採取士を設定する。
リュックから先程のリーフも取り出して生薬生成を念じる。
その途端、手の内に溢れんばかりの丸薬が現れた。
慌ててアイテムボックスを開くと、なんとか全て入り切った。
リーフ1枚から10粒の毒消し丸が生成されるのだったっけ?
2枚なら20粒だ、そりゃ両手でも持ちきれない。
5粒ほどボックスから取り出してアコルトに差し出す。
「これは毒消し丸なので、アコも持っておいて」
「かしこまりました。
薬師様のスキルもお使いになられるのですか……。
あ、魔物が落とした素材を拾うことが条件だったと」
「他にも条件はあるんだけど、それもそのうちのひとつってところかな」
薬草採取士のジョブ条件はドロップ素材入手だけだったと思うが、他にも知らないうちに満たしていた条件もあるのかもしれない。
半端に開示しすぎて、ひょんなことからアコルトが危険な目に遭うのは忍びないので濁しておく。
「毒を受けたり、受けたことが疑わしかったらすぐ飲むようにしてね。
入手が簡単って分かったし、数もあるから安全を優先してほしい」
「かしこまりました」
「もしお互い自分で飲めそうにない状態だったら、相手に無理矢理にでも飲ませるってことで」
「心得ております」
狩人でも毒を扱うだろうし、そのへんは教育済みなのだろうか。
なんにせよ、理解があるならありがたい。
この世界はスリップダメージで瀕死になったら毒が自然治癒するような生ぬるい設定じゃないし。
5thジョブを戦士に戻して2階層へと続く出口を抜けた。
さて、クラザの迷宮2階層の魔物はなんだろう。
アコルトに耳を澄ませてもらうと、ほとんど動きがなく聞こえても微かな物音であることから、軽量の魔物ではないかと言う。
低階層ならどの魔物だろうか。
慎重に通路を進むと、こちらの足音に反応してか視界の端でカサカサと動くなにかが跳ねた。
スパイスパイダー Lv2
スパイスパイダー Lv2
予見通りというかアコルトの推測通り、身のこなしの軽い魔物である。
確か、毒にする攻撃を持っているという描写があったと思う。
毒消し丸を先に手に入れていて良かった。
「アコ、全体魔法を使う!
敵自体に発動するから壁魔法のようには巻き込まれないはずだ」
「はい!」
ファイヤーストームと念じると、スパイスパイダー自体から発火したように直接火がついた。
単体魔法や壁魔法のように、狙いを定めたりする必要がない分楽である。
流石に体に火が付けば、挙動も激しくなってくる。
近い位置にいるアコルトへと飛びかかるが、1体をサイドステップで躱し、もう1体を鞭で弾いていた。
隙をついてうまく距離を取っているのは、野生動物と対峙した経験があるからだろう。
音による感知だけでなく、目も良いようだ。
スパイスパイダーを覆っていた火が消えたところで、今度はウォーターストームを発動する。
纏わりつくように水が発生し、蜘蛛の体を包み込んだ。
先ほど鞭の一撃を受けた方は、水とともに弾けて煙へと変わる。
全体魔法2発で僅かに残る程度の威力ということか。
残った1体にアコルトが鞭を入れると、後を追うように残りのスパイスパイダーも倒れた。
2体倒したわけだが、ドロップアイテムは残らなかった。
通常ドロップがない魔物なんだろうか。
鑑定をしても何も表示されなかったので、今後の予定を考えるとして一度小部屋に戻ることにした。
考えるべきは経験値増加等のことを"どこまで伝えるべきか"という点だ。
この世界ではボーナススキルの鑑定以外で、レベル自体を確認する手段がない。
レベル依存のアイテムボックスのある探索者のジョブだけが、その容量に応じてレベルを推測できる、というだけだ。
そのため作中では、探索者以外はレベルというものが存在しないという扱いだった。
パーティーを組んだ探索者のアイテムボックスの成長具合で、迷宮の探索階層の目安としている描写もされていた。
自分のパーティーでの成長が早くなることが明らかになるのは、探索者ジョブの者が加入して、自分が敵を倒し、ある程度の回数の戦闘を行った場合のみだ。
自身の奴隷たちとパーティーを組むのであれば、リーダーである自分が階層を決められる。
パーティー編成を行う探索者も、自分のパラレルジョブ内で担当するので探索者の奴隷を所有する必要はない。
伝えたところでその結果を確認する手段も鑑定以外にないのだ。
仮にレベルの存在を鑑定結果も含めて伝えたとして、獲得経験値上昇が"ミツキが倒した時だけ"だと気づかれる方が不味いと思われる。
自分以外が魔物を倒した時に”主人の恩恵の邪魔をした”と他のメンバーが思ってしまうようになれば、危機に陥った場合に瀕死の敵を倒すのに躊躇するかもしれない。
経験値効率よりも命の安全だ。
あくまで、"主人の火力が高いから、魔物にトドメを刺すのも主人の割合が多い"という認識で居てもらったほうがいい。
とりあえず、経験値系の能力については黙っておくことにしよう。
次に火力の問題だ。
現在は2階層の魔物相手に、全体魔法2発でHPが少し残る程度のダメージを与えられている。
これを2発で確定討伐できるように威力を上げたい。
効率もあるが、どちらかと言うと安全面の方が大きい。
戦士を、知力小上昇のある商人へと変更する。
複数の派生が分かっている戦士も早めにレベルを上げたいが、どの道2階層程度では上げ止まるだろう。
非戦闘職の商人なら早めに上がって補正の恩恵も受けやすいはずだ。
そしてワープと余っているボーナスポイントを知力に変換する。
ここからアクセサリの知力2倍もあるので、魔法2発分のダメージ増加量で不足分を補えないかの検証だ。
アコルトには、設定しておけるジョブには数の制限があるので付け替えをしていることは事前に伝えてある。
取得済みのすべてのジョブのスキルをいつでもすぐに使えると誤解されると不都合が出そうなので、これだけは説明しておいた。
戦闘の準備ができたとアコルトに声を掛け、探索を再開する。
案内された通路の奥には、スパイスパイダーとニードルウッドが見える。
ニードルウッドは水魔法に耐性があったはずなので、ファイヤーストームを発動した。
スパイスパイダーが火を纏ったまま暴れながら近づいてくるが、それをアコルトが躱して鞭を入れる。
方向を変えたタイミングで炎が消えたので、再度ファイヤーストームを念じた。
2体とも煙に変わり、ブランチが1つ残った。
スパイスパイダーの魔法のみのダメージ検証はできなかったが、移動の遅いニードルウッドは今の構成で2発で倒せるようだ。
商人のレベルも上がっていたので、この調子でいけばうまくいくだろう。
その後すぐ魔法使いのレベルが1つ上がると、アコルトの攻撃が入らずともスパイスパイダーを全体魔法2発で倒せるようになった。
こうなれば一気に効率が上がる。
近場の魔物に案内してもらって気づかれる前に1発、近づいてこられる前に再発動で終いだ。
2階層のメインとなるスパイスパイダーは4、5体に1つの割合でスパイダーシルクという絹のような素材を落とした。
それがレアドロップに当たるのかは分からないが、倒せば必ず落ちるニードルウッドのブランチばかり溜まっていく。
ニードルウッドは極稀にリーフも落としたので、1枚が10粒になる毒消し丸はもう買う必要もなさそうだ。
ある程度魔法を使い続けるとダルさがやってくるので、気づいたら強壮丸を飲むようにした。
ボーナスポイントで5倍にしているとは言え、自然回復だけではMP回復が追いつかないのだろう。
一定時間での固定値回復なのか、MP最大値からの割合回復なのか、メインジョブのレベル依存の回復量なのかはわからない。
今後遊び人を取得して魔法2連打ができるようになったら、10倍や20倍を付けていないと厳しいのではないだろうか。
後衛でMP吸収武器を敵に当てる手段を確保するのは難しい。
薬草採取士にも知力補正はあるし、MP回復薬の元になる附子や遠志を握りながら生薬生成とパーティライゼーションを駆使して魔法を連打するという方法が、案外いい手かもしれない。
迷宮の中では風景が変わらず、時間経過がわからない。
魔物が出ない少し広めの小部屋に着いたので、ダンジョンウォークが使用できることを確認して休憩にすることにした。
***
クラザの冒険者ギルドの外壁にワープする。
昼の鐘が鳴った後のようで、食べ物の屋台には列ができていた。
買取カウンターへ向かうと、流石にこの時間に迷宮を出てくる人は少ないのか、割と空いているようだった。
並んでボーナスポイントを調整している間に、自分の番がくる。
運搬用のトレイにブランチを盛り付け、スパイダーシルクとリーフを乗せて精算へ向かうのを見送る。
少し待つと、職員が硬貨を載せて戻ってきた。
3割増のおかげで、トレイの上に並ぶ銀貨が10枚を超えている。
いや、アコルトのおかげだ。
無駄に彷徨うことなく次から次へと魔物と戦えているからこその結果だ。
耳が小さくて他の兎人族の狩人より遠くまで聞こえないと言っていたが、迷宮に関しては何十、何百メートル先までの索敵は必要ない。
狩人としては相手の索敵の外から先に気づき、先制で対策を取るというのが重視されるのかもしれないが、迷宮に於いては求められるものが違う。
入り組んだ迷宮に反響する音の発生位置を聞き分けているだけで、十分すぎる能力だ。
手を伸ばしてよしよしと頭を撫でてやると、ニコニコと頭を撫で返してきた。
何をしているんだ君は。
インテリジェンスカードを見て年齢は分かっているだろうに、たまに年下扱いされている気がする。
見つめていると、ハッと気づいた様子ですみませんと言ってきた。
家を出る前は妹でも居たのだろうか。
話してくれそうなら家族のことも聞ける時があるかもしれない。
冒険者ギルドを出て、屋台ではなく椅子に座って食べられる飲食店を探す。
レベルは早く上げたいが、別に切羽詰まっているわけではない。
自分は当然土地鑑もなく、アコルトも食べ歩きできるような身分ではなかったので、店を知らない。
大人しく1軒ずつ試していくことにした。
適当に近場の店に入り、今日のおすすめらしい肉料理を食べてみたが、まあそれなりと言ったところだった。
午後からも迷宮に潜るのだし、飲み物は酒ではなくジュースだ。
アコルトに適当に頼んでもらったが、タプスという実のジュースだそうだ。
味はオレンジジュースに相違ないが。
毎日違う店に入っておすすめを頼んでいけば、自ずと好みの店に出会えるだろうと淡い期待をしながら食事を続けた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv14
魔法使いLv14/英雄Lv15/探索者Lv21/僧侶Lv12/商人Lv7
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv5
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次回は7/27更新の予定です。