30階層の入口小部屋から、正面の通路へ進む。
28階層が岩の鳥、29階層が岩人形ときて、この階層の魔物はカエルらしい。
岩は斬りにいけて、スライムやカエルは斬り難いというのは、物理耐性という要素のあるゲームっぽさだよな。
カエルの方は特性って感じか、言語化が難しいけど。
初戦は数が少ない群れをお願いして探ってみてもらい、アコルトが示した先へと歩みを進めた。
ブラックフロッグ Lv30
ノンレムゴーレム Lv30
すでに見慣れたゴーレムの向こうに、黒いカエルが見える。
大体の魔物と同じように元の生物を巨大にした感じで、ウシガエルがそのまま数十センチデカくなったように思える。
こちらは脚を伸ばさない待機の体勢のままでそれだけあるし、腹以外は黒い体色も相まって気持ち悪い。
背はぬめった表皮がテカテカと光っているし、近寄られたくない魔物上位だろう。
他にはトロールやバタフライ、スパイダーもそうだし、食虫植物もそうだな。
……あれ、大丈夫な方が少なくないか?
魔物だし、そりゃそうか。
仲間たちに戦闘開始を告げ、ファイヤーストームとバーンストーム、サンダーストームと続けて放った。
そしてこちらに体を向けたブラックフロッグに、アスピレートを使用してMPの吸収を図る。
奥にも道が続いているので、ここではまだガンマレイバーストは使えない。
状態異常耐性ダウンを挟みつつ、中級下級魔法を繰り返す。
ノンレムゴーレムがすぐに麻痺したので、セナクロワたちの攻撃の矛先をブラックフロッグに集中させられている。
シャオクが教え通りに前脚の付け根を狙ったことで、槍が滑らずに突き立てられたようだ。
魔法で焼かれてぬめりが薄くなった場所を、アコルトが器用に鞭で叩いている。
セナクロワは手慣れたもので、逆手に持ち替えたりしつつ、カエルの足先を斬り飛ばした。
魔法スキルの中断はもちろん、舌を伸ばしたり、飛び跳ねる準備体勢のうちに動きを止められるので、火属性弱点で攻められることもあって、6ターンほどで先にカエルが煙へと変わった。
2ターンほど遅れて、ゴーレムも岩へと姿を変える。
ブラックフロッグの居た場所には、酪のように被膜に包まれた、白い球状のドロップ品が落ちていた。
カルバミ
なんだこれ。
何語かの単語由来かもしれないが、自分の乏しい知識では分からない。
指で掴むとグニグニとしており、他の液体アイテム同様、破れると中身が漏れ出すんだろう。
「カルバミっていうみたいだけど、どんなアイテムか知ってる?」
「肌の調子をよくする商品に使われていると聞きます」
答えたのはアコルトだ。
見た目通り、乳液的なものだろうか。
それとも化粧水的な?
そういう言い方では通じなさそうである。
カルバミを材料にした製品を、貴族の女性が日常使いしているらしいということで、アイテムのまま使うのではなさそうだということくらいは分かった。
肌のケアは早いうちからした方がいいと思うし、自分たちも導入した方がいいかもしれない。
アイテムの存在を知らなかったせいで今更なのだが、元が女性ならそういう部分にも早く気づいたんだろうなぁ。
フェルスお姉様に聞いたら嬉々として教えてくれそうだが、むしろなんでこれまでしてこなかったのかと怒られそうな気もする。
顔などに馴染ませるように使うのなら、すぐに洗い流せる石鹸以上に配合に気をつけないといけないだろう。
自作するのは考えないほうがいいかもしれない。
使ったせいで肌が荒れたりするのは、女性ばかりのメンバーに吊るし上げられるかもしれないし。
それなら帝都なりどこかに買いにいくべきか。
なんだかセナクロワとミーラスカがそわそわしているので、明日の用事の後に買い出しをすると約束した。
迷宮を進みながら両手に余るほどの魔物の群れを倒し終え、ドロップアイテムを回収していく。
これまでの戦闘で、手数については色々と検証してみた。
ブラックフロッグだけの群れの場合、サンダーストームを使わず火属性だけで攻めれば、3連発の4セットで討伐できることがわかった。
やはり弱点属性の連続魔法は強い。
燃費が悪いと思っていた属性スキル武器でも、こういう敵相手なら有用なのだろう。
試しにガンマレイバーストを使ってみたが、火魔法3連発を2セットと2発というところまでしか必要手数は減らなかった。
弱点が突けている階層では、一定火力のボーナス魔法ではそんなに恩恵がないんだろう。
火属性が含まれるメテオクラッシュならあるいはと思ったが、一瞬の閃光のガンマレイバーストと違って、あちらは燃え盛るエフェクトがしばらく残るので使い所が難しい。
魔物の部屋のように閉鎖された、他のパーティーにバレにくい場所でないと使うに使えないだろう。
袋小路かつゴーレムが多い群れを引く確率は低く、ガンマレイバーストの使用を控えたままでも十分スムーズに戦闘をこなせてきている。
物理が通り難く、魔法も止めなくてはいけないブラックフロッグがメインの階層なので、他のパーティーを見かけないというのも、探索が捗る要因になっていそうだ。
その後も夕方まで順調に攻略範囲を広げていった。
流石に半日にも満たない探索では待機部屋までたどり着くことは出来なかったので、ダンジョンウォークが使えることを確認して迷宮を後にする。
戦利品としては、大量のカルバミと岩、それに少量の羽毛がアイテムボックスに増えただけとなる。
売却に回せるアイテムがあるだけ十分か。
納屋の内側からワープで出てくる。
中から鍵を開け、全員が外に出たらまた鍵をかけておいた。
今後はこの出入りの仕方が標準となりそうだな。
リカヴィオラを含めうちの子たちには、緊急の場合を除いて、今後は納屋から帰宅することが多くなると伝えておく。
納屋の扉と玄関の開閉音があるし、留守番していて突然後ろから現れる自分に驚かれる回数も減るだろう。
シャオクなんて、だいぶ経っても毎回ビックリしていたしな。
夕食を食べつつ、カルバミや明日の買い物についても話した。
朝からニカドーが来るそうだし、朝食を含め、予定は早目に済ませておいたほうがいいだろう。
他人がいると、魔法を使うにもいちいち詠唱しなくてはいけなくなるのが面倒だ。
入浴も手早く済ませて早めに寝よう。
***
翌朝、アコルトに優しく揺すられて起こされた。
いつものような緩い起床時間では、訪問者に醜態を晒しかねないからか。
まだうまく開かない目を擦りながら着替えを手伝ってもらっている姿がまるで幼児だが、朝が弱いのは仕方ないだろう。
主人なので、お世話されることは当然の権利である。
一通り着替えを終えた後は、無慈悲に支度を急かされている。
いつまででもぐだぐだとしようとする性分はバレているからだ。
無詠唱であちこちの水を補充し終えると、朝食の準備が完了していた。
パンを買って戻ってくる時間に合わせて、炒め物やスープを作り終えていたようだ。
嫌々家の中を歩き回っていた自分とは大違いの、勤勉な家族に感謝である。
食べ終わる頃に朝の鐘が鳴ったので、数十分は早目に行動していたらしい。
片付けも終わり、洗濯物を干す頃になって、ノックの音とニカドーの声が響いた。
近くにいたミーラスカが対応してくれる。
「おはようさんだ!
お、もう入って大丈夫なのか?」
「おはようございます、ニカドー様。
居間は空けておりますので、すぐに作業に入られても構いません。
補助が必要であればお申し付けください」
続いて皆で挨拶し、手伝いを確認するが、今のところは不要らしい。
食事を終えた後、テーブルと椅子は邪魔にならないように寄せてある。
ニカドーは排水口周りを準備するだけで、そこにつけるフタや外扉などは木工所の職人たちが氷冷箱のパーツと一緒に運び込んできてからだそうだ。
道具を取り出したニカドーは、事前に箱を設置すると確認した場所から、屋外に向けて穴を開けた。
そこから掃除やメンテナンスの際に作業しやすいように手を加えつつ、元々の工事の際に作られていた予備の排水路へと接続していく。
順々に工程が進んでいく様を見るのは楽しい。
現代でも、工作動画とかを視聴するのは面白かったしな。
本職の大工なだけに、ニカドーも見られながらの作業でも手を止めることなく、シャオクたちの質問に答えながら手際よく進めていっている。
試しに流してみたコップの水が、しっかりと傾斜によって外へ流れ出たのを確認すると、一旦ここまでだとニカドーが切り上げた。
その言葉に合わせてか、リカヴィオラがタイミングよくハーブティーを運んでくる。
こちらの給仕の腕も上がっているらしい。
見学は一旦終了として、洗濯物の残りを干していると、アコルトが来訪者を察知した。
「おぅい、きたぞー!」
荷馬車でやってきた木工職人たちを迎え、荷物の積み下ろしを手伝う。
バラバラのパーツではあるが、縁の部分あたりは帝都の店で見た箱の形状だと分かった。
「なぁおい、金網はそこにあるみたいだが、肝心の金板はどこなんだ?」
「あっ、出すのを忘れてました!
リカ、お願い」
「かしこまりましてにございます!」
ヘンテコな返事の後に淀みなく呪文を唱えて、アイテムボックスから霜晶鉄の板を取り出した。
特に冷やしたりしていない状態でも、触れてみるとなんとなく冷たく感じる……気がする。
1枚出してもらうと職人が近寄って、長さを測りだした。
「寸法は…………、図面通りみたいだな。
そっちに置いてくれると助かるよ」
職人らがニカドーと協議しつつテキパキと作業を進め、パーツを組み立てながら内側に金属部品を組み込んでいく。
なるほど、そこに氷が乗って冷気が保持されつつ、溶けた水は傾斜で外に流れ出るのか。
断熱層などの内部構造が作られていくところを眺められるのは楽しい。
「───一応これで図面通りにはなったんだけども、試しに……は、まだできないんだったか」
「近日中に魔道士の方を呼んで氷を出してもらうつもりなので……」
この場で、はい出せますとは口が裂けても言えない。
今日のところは内部を洗って、乾かしておくくらいか。
「あの印はなんですか?」
壁面1枚の中央やや下方に、ちょこんとつけられたバツ印があった。
店に置いてあった見本の箱では、向き的にマークは見えなかったと思う。
「氷魔法の目印って図面に書いてあったな。
それを目標に使うんじゃないのか?」
なるほど、発動地点の目印か。
あの位置を起点に魔法を使うことで、氷の壁が横向きに出来上がって、この箱の内部に収まる、と。
「外も終わらせたから来てくれ」
裏手に回っていたニカドーが玄関から戻ってくる。
後ろについていき、氷冷箱が置かれた場所の、壁を挟んでちょうど反対側に回った。
階段下になるので、スペース的には狭い。
「逆流はしないように作ってあるが、もし排水が詰まったりしたらこっちから確認だな」
そう言ってミニドアに付いた取っ手を引くと、箱の背面側が見えた。
箱自体も一部取り外しができるようになっていて、開けた口から金網の交換もできるようになっている。
排水の溝はフタが被せてあったり、弁がついていて虫などが入ってこないようにしてあった。
「あとは……時々でいいから掃除をしておくといいな。
周りの木や家の陰で風が吹き込むことはねぇが、長続きの雨で土が流されて、穴の先がせき止められることくらいはあるかもしれねぇしよ」
「わかりました」
本格的な使用感やメンテナンスは使い始めてからだろう。
自分が不在の日に確認に来てもらうように、職人にお願いした。
家の場所は街はずれなので、調整などが特に発生しなくても出張費は出すと伝えてある。
ニカドーに渡した料金から、すでに今回の作業分は払われているらしく、職人たちは追加ボーナスに喜んだ。
これで氷冷箱設置の作業は終わりとなる。
改めて礼をし、またなにかあればとお願いしておく。
軽くなった荷馬車にニカドーも乗って帰るようなので、全員で見送った。
***
氷冷箱は洗浄後、1日乾燥させて、明日にでも氷を出してみよう。
昼食を準備し始めてから気づいたが、帝都へ買い物に行くなら食事もあちらで取ればよかった。
まだ冷蔵保存は出来ないので、カットしてアイテムボックスに戻せなくなった肉などは消費するしかない。
医療と呼べるようなものが身近にないこの世界では、常温保存は怖すぎる。
食事を終えて、全員身支度を済ませ、家に鍵をかけてからワープゲートを潜る。
行き先は帝都の冒険者ギルドだ。
ついでだし、アイテムボックスの不要アイテムを売っていこう。
岩の大量買取があると伝えると、すんなり窓口へと通してもらえた。
一時的に自分たちのパーティーを解散し、ギルド員のパーティー勧誘を受けて承諾する。
シャオクとミーラスカとともにフィールドウォークで案内されたのは、いつか見た部屋と似たような場所だ。
ギルド神殿が鎮座し、その下に引き出しのでかいタンスのような代物が置かれている。
アイテムボックスから岩を取り出して置き、ギルド員のチェックを受けて、シャオクたちがそれを底の見えない引き出しの中へと放り込む。
初めはちゃんと数を数えていたギルド員も、終わらないアイテムリレーに、いつしか一つひとつ確認するのをやめて流し見するようになっていった。
粗雑な扱いでギルド神殿を傷つけることを危惧しての監視体制なんだろうが、アイテムボックスから取り出している時点でアイテムであることは間違いでないし、アイテムであればギルド神殿に回収されるので、設備が損傷することもない。
もう少しで投入数が3桁になろうとする頃、女性ギルド員が一度止めに入る。
「身体検査をして、問題なければアイテムボックスから直接投入することを許可します」
先ほど、岩の他にもまだあると言ったせいだろう。
アイテム外の小物の入っているリュックやバッグを脇に置いて、服のポケットなどの簡単なチェックを受ける。
危険性がないことが確認され、「どうぞ」と追加投入を促された。
そこからはアイテムボックスから直接ポンポンと岩やカルバミ、羽毛を投げ込んでいった。
さっさとこうしておけばよかったと読み取れそうな表情のギルド員を尻目に、作業を続ける。
しばらくして最後のカルバミを入れ終え、待ちわびていたギルド員に報告する。
やっとか、と伸びをした女性がタンス装置の横へと移動し、操作すると引き出しが閉まっていった。
少し待つと精算された硬貨が排出されたので、確認をもらってから受け取り、大量買取が終了する。
ギルド神殿にも3割増のボーナスが適用されるため、金貨も3枚ほど見える。
羽毛と岩の安価ドロップ階層を抜けたので、今後はもう少し売却額が上がっていってほしい。
あ、でも時々は万能丸や万金丹の補充に27階層に向かう日も作らないとな。
売却を終え、次は商人ギルドへと向かう。
受付の女性に、肌ケアの商品を扱う店を探していると伝えると、予算を確認された。
相場がわからないので、貴族ではないが普段遣いできる高品質のものが欲しいと伝えてみる。
全員分で、ひと月あたり金貨数枚分程度で収まるのなら、と言ったことで受付嬢は目星をつけたのか、何かを書き始めた。
自分も含めると、女性6人が使うのだ。
人数分を揃えるとなると、あまり高価なものを選ぶわけにもいかない。
いや、別に出せなくもないのだが、毎日使うものなら継続していける価格帯の方がいいだろう。
「それでしたら、こちらのお店ではいかがでしょう。
貴族街の手前にございまして、一般向けの品も扱っております。
初めてお買い求めになるのでしたら、よろしいかと思います」
紹介状を用意するほどではないらしいが、職員が店の名前と場所をメモにして渡してくれた。
石鹸や軟膏といったものも置いているのだと教えてもらう。
そういうものに気を使う余裕がでてきた一般人や、下級の貴族などが出入りする店なんだそうだ。
聞いた限りはそのチョイスがよさそうに思える。
納税分を稼ぐのに必死になる層を抜けて、衣食住以外の嗜好品に手を出し始める新規客を狙った商売、それもギルドの受付が薦める店なら対応も丁寧だと期待しよう。
ありがたい助言に感謝を述べ、商人ギルドを出る。
心做しか、皆の表情も期待に明るくなっているように見えた。
メモを頼りに目的の店へと向かった。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv53
魔法使いLv53/英雄Lv48/探索者Lv52/樹祭司Lv26/遊び人Lv50/魔道士Lv33/博徒Lv40
(村人5 農夫1 戦士30 剣士30 僧侶30 巫女45 商人30 錬金術師29 細工師30 薬草採取士30 森林保護官50 村長1 賞金稼ぎ19 騎士7 暗殺者7 魔剣士7 武器商人1 防具商人1 奴隷商人1 料理人24 冒険者1 盗賊30)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv40
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv40
ミーラスカ 牛人族 ♀ 24歳 巫女Lv38
リカヴィオラ エルフ ♀ 15歳 探索者Lv36
セナクロワ 猫人族 ♀ 27歳 剣士Lv34
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次回は来週~11/6更新の暫定予定です。
更新催促のつもりで下方修正されても、そういうことをされる方という認識に改め、モチベーションが低下するだけです。