異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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022 手入れ

 食事をしながら、迷宮へ潜る頻度の相談をする。

 自分としてはしばらくはレベル上げのために毎日足を運ぶ予定だったが、休日も必要だろう。

 レベルという形で毎日の成果が目に見えるおかげで、ハイになっている自覚もある。

 

 日本にいた頃は1週間という区切りがあった。

 5日ないし6日につき1日の休みというのは、肉体労働には結構キツいのは身を以て知っている。

 というか頭脳労働でも6日間の疲れが1日で回復するわけないのだ。

 

 怠惰にならない程度の労働をしつつ、貯蓄もしなければいけない。

 とりあえずということで、4日迷宮に潜って1日休むというスケジュールに決めた。

 

 5日間のサイクルでやってみて、頻度を増やすなり減らすなり調整していけばよさそうに思える。

 稼ぎやレベルが安定したら2日潜って1日休日くらいだっていいだろう。

 

 こちらでは30日間が月の区切りだし、5と0のつく日が休日にすれば分かりやすい。

 今日が春の下月26日だから、30日から休みを始めよう。

 

 昨日も潜ったのでアコルトにとっては5連勤になるが、しんどければ今回は29日も休みにすればいい。

 ウチの方針を決めるのは、主人である自分の裁量が全てなのだ。

 

 アコルトにも説明したが、あんまりよくわかっていないようだった。

 数日おきに自分の好きなことだけに費やしていい日をつくるというのは、慣習としてないのだろう。

 そもそも女中なら毎日家事を行うのが仕事であるのだし。

 

 だいだいほぼ毎日迷宮なんて命懸けの場所に挑むこともおかしいのだ。

 命懸けとは言っても、高レベル帯装備をして低階層で魔法火力によるゴリ押しをしているから、真っ当な探索者達には文句を言われそうだが。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 のんびりとした昼食を終えたところで、クラザの迷宮2階層の小部屋へとワープする。

 2階層のボスにたどり着くのを目指していきたい。

 

 アコルトによる索敵のおかげでもあるが、メインモンスターであるスパイスパイダーがアイテムを落とすことが少ないので、拾う手間が減って進行が比較的スムーズだ。

 全体魔法は直接相手に作用するので撃ち漏らしがないのも大きい。

 

 幾度か通路を曲がった先でボス待機部屋と思われる部屋にたどり着いた。

 見渡してみると、扉の前で1組の探索者が待っているようだった。

 

 

「おそらくこの先がボスだと思うけど、進むのは今日の探索の最後にしよう」

「かしこまりました。

 では先程までのようにご案内しますね」

「お願い」

 

 

 ドロップ品の量やお腹の空き具合を考えると、まだ夕方には早そうだ。

 会敵の頻度や組み合わせも大きく違わないので、そんなに間違ってはいないだろう。

 

 5thジョブにつけている商人のレベルの上がり方が早い。

 非戦闘職だからか、2階層に上がってすぐに付け替えたというのにもうLv9まで上がっている。

 Lv30まで上げて奴隷商人のジョブを取得できたらお役御免だ。

 

 もしかしたら探索者のように商人もLv50を条件とした派生があるのかもしれないが、そこまで上げられる階層にたどり着けるのはもうしばらく後だろう。

 まずは獲得ジョブを増やさなくては。

 

 魔物を探してもらい、牽制してもらっている間に全体魔法を2回発動する。

 ずっと繰り返しの作業になっているので、スパイスパイダーの動作も覚えられた。

 

 基本的に足を立ててカサカサと移動するが、飛び跳ねる際には足を溜めるような予備動作がある。

 アコルトはそれを見て範囲外に逃れたり、鞭で足を払って転倒させているようだ。

 

 自分は後方で魔法を念じながら何度も見てやっと分かったが、アコルトは数回の戦闘でそういったクセを見抜いていたのか、対処が徹底している気がする。

 どこをどう見るべき、というのが備わっているのかもしれない。

 流石は狩人の孫、というやつだろう。

 

 

 そんなことを考えながら2階層を巡っていると、ブランチが昼前よりも嵩張るくらいになってきた。

 あとは近くの魔物を狩りつつ、ボス部屋に赴けばちょうどいい時間なのではないだろうか?

 

 そろそろ今日は終わろうということで、アコルトに指示を出す。

 道順を確かめながら待機部屋へ向かうと、ちょうど他のパーティーがボス部屋に入っていくところだった。

 メンバーが全て部屋に入ったようで、すぐにその扉が閉じる。 

 

 他に待機する者はいないようなので、扉付近まで進んで水筒を取り出した。

 水分補給をしながら、アコルトに確認する。

 

 

「スパイスパイダーのボスは、スパイススパイダーというらしい。

 大きめの蜘蛛で、こちらも毒攻撃をしてくる場合があるから注意して」

「はい。

 他の動作はスパイスパイダーと同様なのでしょうか?」

 

「自分は文献で読んだだけで、実際に見ていないからわからない。

 ボスなので違う攻撃をしてくるかもしれないから、回避を優先してほしい」

「かしこまりました。

 お嬢様のお役に立てるよう努めます」

 

「いつも助かってるよ。

 ……ボスは1体だけどウドウッドと違って動きが速そうだから、全体魔法で戦うつもり。

 流れ弾はないから大きく動いて避けても大丈夫だよ。

 別の手を使うときは声を掛けるから、可能な範囲で牽制を頼むね」

「ではそのように」

 

 

 スパイスパイダーがファイヤーストーム2発だから、スパイススパイダーには4、5発は必要だろうか。

 もしそれまでに自分かアコルトが危うそうなら、経験値関係を消してデュランダルで斬りに行こう。

 足りるようにポイントも余らせてあるし、近づけなさそうならワープで離脱する。

 

 挑戦は何度でもできる。

 だが迷宮で失敗はしたら終わりだ。

 撤退ラインだけは明確に決めておかないといけない。

 

 段取りをアコルトと詰めているうちに、ボスへの扉が開いた。

 人数も多かったようだし、囲んで早めに終えたのかもしれない。

 

 レベルアップ分の回復のために、それぞれに手当てをかけておく。

 強壮丸を2つ取り出し、1つを飲み込んだ。

 

 もう1つの丸薬を握りながら、アコルトに先行してもらって部屋の中へと進んだ。

 自分が入りきったところで後ろから扉の閉まる音がする。

 

 振り返らずに正面を見据えると、部屋の奥に煙が集まりだした。

 どうやら前のパーティーはしっかり討伐できたらしい。

 

 

 煙が晴れる直前に鑑定を行い、スパイススパイダーの名前が表示されたのを確認してファイヤーストームを放つ。

 動き出す前に着火した。

 

 アコルトが軽くステップを踏みながらスパイススパイダーを引き付ける。

 すかさず突進してくるその体を躱し、距離を保ちながら鞭を振るう。

 離れていたので迷宮の床を叩くだけになったが、反応したボスは後ろへ飛び退いた。

 

 クールタイムが終わったので2発目の魔法を念じると、再び蜘蛛の体から火の手が上がる。

 苦しんでいるのかギチギチと音を立てているが、動きは鈍らない。

 

 ボスとの距離を保ちつつ、注意を引くアコルト。

 対して自分は、遠距離からの魔法攻撃とはいえほとんど棒立ちだ。

 一応スパイススパイダーの位置に合わせて距離を取るように少しは移動しているが。

 

 火が収まったところで3発目のファイヤーストームを放つ。

 度重なる炎上で足の1、2本が動かなくなっているように見える。

 それでも残りの足で器用に移動しているようではあるが、やはり挙動は鈍っている。

 

 ボスへアコルトの鞭が入る回数が増えた。

 受けるスパイススパイダーは耐えるようにその場に留まっている。

 好機と見たのか、アコルトがさらに打ち込むために踏み込んだ。

 

 ファイヤーストームの火が収まってきたことで、離れている自分にはボスの足元が光っているのが見えた。

 

 

「さがれ、アコ!」

 

 

 叫ぶと同時に、ウォーターウォールをアコルトとボスの間に発動した。

 声に反応して飛び退いたアコルトと入れ替わるように、スパイススパイダーが飛びかかった。

 攻撃を耐えていたのではなく、足をためてスキルを発動していたのだ。

 

 床から湧いて立ち上がる水の壁が、スパイススパイダーの噛みつきを阻んでその頭を受け止める。

 水に濁りが混じったところを見ると、毒攻撃だったのだろう。

 水流に捕まり、バランスが取れないのかもがくように多脚を振るっている。

 

 スパイススパイダーが水の壁から抜け出る前に煙へと変わる。

 水がはけた後には、スパイスの名のとおりペッパーが残った。

 アコルトが拾い上げて近づいてくる。

 

 

「アイテムはこちらです。

 先程はお手を煩わせ申し訳ありません」

「ありがとう。

 アコが無事なら問題ないよ」

 

 

 足が多く体高が低いスパイススパイダーは、炎上中だと魔法陣が見にくい。

 弱点属性がないなら、ウォーターストームにしたほうがいいのかもしれない。

 いや、まずは動かなくなったらスキル待機中と見て警戒するべきだった。

 

 毒針を飛ばすような魔物ではなかったので助かった。

 やはり盾などで攻撃を捌ける前衛が欲しい。

 

 それよりもボス戦は経験値効率を捨ててデュランダルでさっさと終わらせて階層を進み、通常の魔物で効率狩りをしたほうがよさそうだ。

 どうせ11階層まではボスは取り巻きもおらず1体だけなので、戦力が充実するまではそれで十分だ。

 ボスドロップアイテムを目当てに周回したくなるのは、12階層以降の回復薬の原料くらいだろうか。

 

 なんにしても今日のところはここまでだ。

 握りしめていた強壮丸をアイテムボックスへと戻し、次の階層へと繋がる扉へと歩みを進めた。

 

 小部屋に出ると、ダンジョンウォークを念じてみる。

 3階層も選べるようになっていたので、確認を終えて冒険者ギルドへのワープゲートを開いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 夕暮れが冒険者ギルドの屋根を赤く染める。

 昼頃に来たときとは打って変わって、ギルドの前には人の波ができている。

 中を覗いてみたが、買取カウンターは長蛇の列だ。

 

 

「買い取りは明日にして、手入れ用のオイルを買いに行こう」

 

 

 人の多さに眉をひそめたアコルトも同意して、共に雑貨屋を目指して歩き出す。

 朝に通りがかった雑貨屋はギルドのすぐ近くだったので、ワープを使うまでもない。

 

 街へ向かう人の流れに逆らいながら目的の店へたどり着き、扉を開けて中に入る。

 窓から見えていたように、日用品を取り揃えつつ、迷宮探索者用の道具も置いている店のようだ。

 

 オリーブオイルを探すと、瓶詰めのものが置いてあった。

 他の日用品と比べて200ナールと高額だが、おそらく1瓶でドロップ品数個分の量なのだろう。

 それに瓶代も含まれているはずだ。

 

 1度買えば次からは迷宮で入手したオリーブオイルを継ぎ足せるだろうし、他に必要そうなものを買い足して割引させてもらった。

 

 すまし顔のアコルトはどうやらこの後の手入れにご執心なので、買い物を終えて冒険者ギルドの壁から宿へとワープした。

 フロントで鍵を受け取り、そのまま階段をあがって部屋へと向かう。

 

 テーブルに先程のオイルの瓶を置き、荷物の中から色の悪くなった手拭いを数枚探し出した。

 これからは手入れ用に払い下げということだ。

 

 

「お嬢様、手入れはお任せください!」

「あ、うん、頼むね」

 

 

 まずは主人のものをと張り切るアコルトに、装備を外して手渡していく。

 手拭いでホコリや汚れを払い落とし、その後別の手拭いでオイルを薄く馴染ませるように塗った。

 手際よく次々と済ませていった後、最後に乾いた手拭いで仕上げの拭き上げを行った。

 

 感心しながら見ていると、レイピアも出すように言ってくる。

 剣なので嫌な予感がしたので断ろうとしたが、手入れでは怪我をしたことないから大丈夫だと主張してきた。

 どうやら剣を構えたときのあの手つきであっても、手入れだけは祖父に許されていたらしい。

 

 手当てのスキルもあるので、その揺るぎない瞳を信じることにしてレイピアを預け、自分はお湯を貰いに行くことにした。

 フロントにいた従業員に声を掛けて部屋へと戻ると、アコルトが真新しいレイピアを手にしていた。

 

 そもそも何度か敵を突いたくらいでほとんど使ってはいなかったのだが、汚れを拭き取って手入れをすると新品同様にまで見えるものなのか。

 いや、純粋にアコルトの技術や手際がいいのだろう。

 熟練の狩人の道具を任されていたくらいだ。

 

 褒めると落ち着いた表情で礼を述べたが、耳がピコピコと動いているので多分喜んでいるようだ。

 装備品を隅の方に移動させていると、部屋のドアがノックされる。

 お湯が届いたらしい。

 

 昨日と同様にそそくさと体を拭き終わって洗濯をすると、オイル汚れで早々にお湯が濁ってしまった。

 今日は洗髪は我慢しよう。

 革製品は毎日オイルコーティングをするわけではないため、明日は洗えるはずだ。

 

 新しい服を着て夕食を食べに行く。

 いつもとは順番が違ったが、汚れたままで先に食べるよりはいいだろう。

 食べた後は寝るだけになるので、酒を多くしてもいいかもしれない。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv16
魔法使いLv16/英雄Lv16/探索者Lv21/僧侶Lv14/商人Lv13
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)



アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv7



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次回は7/30更新の予定です。
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