異世界迷宮と斉奏を   作:或香

23 / 186
023 将来

 食堂という名の酒場へと降りる。

 フロントでもらってきた割符を見せて宿付きメニューを注文した。

 やはりこの店の料理は、酒のあてになりそうな肉料理ばかりのようだ。

 

 魚料理はないのかと店員に確認したが、このあたりは内陸のため迷宮産の魚食材しかなく、高額で大衆店では仕入れないのだと笑い飛ばされた。

 

 肉料理も魚料理も好きな自分としては、居を構えるにはどちらも安価で手に入る地域が好ましい。

 迷宮のドロップアイテムの肉は、低階層のウサギやヤギの他に、豚バラやヒレ、牛のロースやバラやザブトンに、はたまた竜肉など種類が豊富だ。

 

 むしろ、赤身白身にトロなんて魚の選択肢が種類が少なすぎるのではないか。

 まぁ、イワシとかサンマとかサバとか細々とドロップが分かれていたらそれはそれで困るが。

 

 理想としては、漁港や漁村がワープでそれほど遠くなく、普段は移動魔法を使わずとも暮らしやすい郊外くらいがいいのだろう。

 人口密度の高い都会だと自分のスキルが露見しそうだし、土地も狭そうだ。

 家庭菜園くらいは普通だろうが、ワープに風呂に料理など好き勝手しても気付かれないくらいのお隣さんとの距離も必要だ。

 

 マイホーム願望が溢れ始めたのでアコルトにも聞いてみる。

 

 

「家を借りるとしたら、場所とか希望はある?」

「お嬢様の気に入られたところでしたらどちらでもお供いたします」

 

 

 そう言うと思ったよ。

 なにか例を挙げて言葉を引き出したほうがいいだろう。

 

 

「自分は魚料理が食べたいから、漁業の街が近いところがいいかなぁ」

「港町というとリッシュリでしょうか」

 

「え、行ったことあるの?」

「いえ、訪れたことはありませんが、海運の街として有名です」

「海運……」

 

 

 輸出入とか商業が盛んなのだろうか。

 日本にいた頃も、輸入雑貨の店は見て回るだけでも楽しかった。

 原色だらけのお菓子やら用途不明のおもちゃみたいな道具は、童心を刺激してくれる。

 

 

「冒険者に飛ばしてもらえるかな?」

「おそらくいくつもの街を経由することになると思いますが、こちらまで名が通っている以上は行けると思います」

 

 

 なるほどそうか。

 海運業という主要産業までセットで出回っているのだから、そこからの商品の搬入ルートは繋がっているはずだ。

 仮にそのリッシュリに辿り着けなくとも、魚の手に入る漁村まで行ければ十分だ。

 

 

「そうなると魚の取れる街でも村でも、スキル(・・・)で行ける距離なら家の場所はどこでもいいかな」

「……そうですね、お嬢様なら場所はあまり障害になりませんね」

 

 

 壁を見つめながら遠い目をするアコルト。

 

 

「あとは将来的にパーティーメンバーが増えても大丈夫なように6人くらいは住める家かな。

 アコは何かこういうのがあったらいいとかある?」

「そうですね……。

 ……申し訳ありません、考えたことがなかったのですぐには思いつきません」

 

 

 しょうがないか。

 自主性を諦める覚悟で奴隷になったのだから、すぐに希望を主張するのは難しいのだろう。

 

 

「すぐじゃないし大丈夫だよ。

 家を決めるときはアコにも相談して決めるから、思いついたら覚えておいてね」

「いえ、私は……ありがとうございます。

 かしこまりました」

 

 その後もおかわりで酒を追加しつつ、アコルトの様子を見ていたが結局希望が出ることはなかった。

 世話をすることについては割と我が出やすかったが、自身のこととなるとあまり積極性がないようだ。

 そのあたりは今後一緒に過ごしていくうちに、意見を気軽に言える主人であると思ってもらえるだろうか。

 

 

 食事を終えて部屋に戻る。

 体を拭くのは終わっているので、下着になって寝るだけだ。

 食事の際に着ただけなので、明日も着る服として枕元に畳んでおいた。

 

 パジャマというか寝間着というか、それだけ高級品を買ってもいいかもしれない。

 いや、洗い物も増えるから宿暮らしじゃ面倒か。

 

 マイホームを得たら、まずは寝具をいいもので揃えたい。

 お風呂とベッドで夢の快適生活だ。

 その頃には魔法使いも実用に足るくらいにはレベルが上っていてほしい。

 

 戦闘よりも銭湯の方が実用とは此は如何に。

 くだらない考えに目を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 今朝もすっきりと目が覚めた。

 横になったまま伸びをして壁に腕をぶつけた。

 

 

「おはようございます、お嬢様」

「おはよう、アコ」

 

 

 何事もなかったように挨拶してくれるアコルトは、リュックの中身を整理しているようだ。

 昨日の朝を覚えてくれていたのか、桶の水も片方に集めてある。

 

 そっとウォーターボールを空の桶に放ち、顔を洗った。

 昨日の夜だけ着た服に袖を通し、アコルトに髪を梳かしてもらう。

 

 長くて煩わしいと思っていた髪だが、人に櫛を入れてもらうのは案外心地良い。

 その後はアコルトさんの日替わりアレンジにされてしまうのだが。

 今日はハーフツインらしい。

 

 昨日の雑貨屋で髪留めやらリボンもお嬢様のため、と強請られたのでバリエーションが増えてしまう。

 自分としては洗うのも面倒なのでアコルトくらいの肩上ボブでいいのだが、この一番奴隷には抗えない。

 無力だ。

 

 

 階段を降り、フロントで割符を受け取る。

 酒場に向かい朝食をとりつつ、宿の相談だ。

 

 

「一応昨日で連泊が終わりだけど、まだここで続けて泊まるのでいいかな?

 気になったことがあれば言ってね」

「私に不満はございません。

 お嬢様のご判断に従います」

 

 

 私の意見はいい、ではなく不満はないと答えたから大丈夫だろう。

 自分としても特に不満はないし、引き続き拠点はこの宿でいい。

 

 

「わかった。

 じゃあまた2日間この宿を取ろう」

「かしこまりました」

 

 

 ハーブティーをおかわりし、ほっと落ち着いてから宿に戻る。

 フロントで手続きをし、追加で2日間連泊を延長した。

 

 今回の3割引の理由は延長がありがたいからだった。

 繰り返していったらセリフのコンプリートでもできるのだろうか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 部屋に戻って装備と荷物を準備し、鍵を預けて宿の外に出て、そこから迷宮へとワープする。

 今日は3階層の入口からだ。

 

 この階層の新規の魔物はなんだろうと慎重に足を踏み出すと、ドタドタと忙しない足音が聞こえてくる。

 

 

コボルト Lv3

コボルト Lv3

 

 

 案の定、コボルトだった。

 カルメリガでは2階層だったが、クラザでは3階層の担当らしい。

 

 ファイヤーストームを放つと、1発で煙へと変わった。

 弱点属性だとダメージが倍化するのだろうか、やはり弱い……。

 

 そのまま索敵を進めて何戦か戦ってみたが、スパイスパイダーとニードルウッドはLv3になったからなのか、等倍の全体魔法2発では倒せなかった。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv16

魔法使いLv16/英雄Lv16/探索者Lv21/僧侶Lv14/商人Lv14

 キャラクター再設定    1 鑑定         1

 ワープ          1 詠唱省略       3

 5thジョブ       15 アクセサリ・三    7

 獲得経験値10倍    31 必要経験値1/10 31

 MP回復速度3倍     7 パーティー項目解放  1

 パーティライゼーション  1 知力        15

                     (残0/114pt)

 

 

 MP回復速度を3倍まで落とし、余ったポイントを知力に振ることで、全ての魔物を2発以内で倒せるようになった。

 15ポイント全ては振る必要がなかったかもしれないが、検証している間にレベルが上ってしまえば補正も変わってしまう。

 しばらくはこのままで狩り続け、ある程度ジョブレベルが上がったら振り直してみることにする。

 

 会敵の割合はコボルトが5割強、スパイスパイダーが3~4割、残りがニードルウッドだ。

 コボルトのみの時は1発で済むし、片方が残れば単体魔法、2体とも残れば2階層と同様に全体魔法2発で済む。

 

 MP回復速度を落としたので強壮丸の消費が増えるかと思ったが、魔法の発動回数が僅かに減り、ドロップを拾う時間が増えたので、そこまで大きく変わることはなかった。

 階層を上がっているので、おそらく1体1体の獲得経験値も増加していると思う。

 相対的に見れば2階層よりも経験値効率がいいし、安価なコボルトのドロップ品とは言えど資金面でもプラスなはずだ。

 

 次の階層からは最大3体出現になるので、魔法の相性次第ではさらなるレベルアップが見込める。

 なるべくボス部屋を目指しつつ、索敵を進めていこう。

 

 

 魔物のいる方へと移動しながら通路を行ったり来たりをしていると、場所もそうだが時間の感覚もわからなくなってくる。

 脳内マッピングはしらみ潰しにいけばなんとかなるが、時間はどうにも厳しい。

 いや、魔物の部屋はもう懲り懲りなので、しらみ潰しもしたくない。

 

 自分は転生(?)してからのこの目眩く毎日の出来事で、時間感覚はめちゃくちゃだ。

 となると、ここしばらく奴隷だったアコルトに頼る他ない。

 おそらく規則的な生活を送っていたはずだ。

 

 

「アコって迷宮の中でも今が何時頃かって分かる?」

「正確な時間は分かりませんが、大まかでよろしければお伝えできると思います」

 

「うん。

 だいたい昼食と夕食の時間がわかれば、迷宮からの帰り時が決めやすいかなと思って」

「それでしたら、お役に立てると思います!」

 

 

 一言前とは打って変わって自信満々だ。

 

 

「助かるよ。

 はは、自分の腹時計じゃ当てにならなくてさ」

 

 

 ジャケットの上からワンドで自分の腹を小突きながら、アコルトが拾ってきたコボルトソルトを受け取る。

 

 

「もうすぐお昼って時に言ってもらえれ……ば……」

「……かしこまりました」

 

 

 俯いたアコルトから消えゆくような声で返事がかえってくる。

 その頭から伸びた耳がプルプルしている。

 

 どうやらアコルトの腹時計は頼りになるらしい。

 そういえばほとんど毎回、分量の多い食事はアコルトに分けていた気がする。

 これからは腹ペコ黒うさぎがタイムキーパーだ。

 

 

 幾度目かの魔物の群れをアイテムに変えた時、お嬢様、と声がかかる。

 羞恥心は割り切ってくれたのか、もうそろそろ昼の鐘の頃ではないかとアコルトが言う。

 

 昨日の戦利品も売却できていないので、アイテムボックスもわりと埋まってきた。

 近くにいた群れを追加で倒して、敵の出ない小部屋へと辿り着いたのを区切りとしてクラザの冒険者ギルドにワープする。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 やはり昼にわざわざ迷宮から戻る者は少ないようで、販売カウンターも空いている。

 列に並び、今日の昼はどうしようかと悩み始めたところですぐに順番が来た。

 

 ブランチにリーフにスパイダーシルク、コボルトソルトにジャックナイフ。

 階層を進むごとに増える魔物の種類に比例して、ドロップアイテムも多種多様になる。

 

 トレイにガチャガチャと載せながら改めて見ると、結構な個数だ。

 3割増の買取りを待つ間その個数を計算してみたが、合計100体以上は狩っている計算になる。

 2体出現が多いというのもあるが、昼から翌日昼までの1日でそれだけ倒せていることに驚いた。

 

 これなら結晶化促進の倍化も、十分実用的だろう。

 4階層からの3体エンカウントならさらに期待値が上がる。

 

 戻ってきたギルド員から受け取った代金は、2000ナールを超えていた。

 リーフやスパイダーシルクの単価が高いというのもあるが、結晶化促進8倍あたりをつけても同じペースで狩りができるのなら、4日で1万ナールを超えられる。

 

 5日に1日の休みなら月に6万ナールの皮算用だ。

 360日の1年なら……まて、それだと年間休日72日だ。

 とんだブラックじゃないか!

 

 3日に1日の休みにすれば年間120日。

 実働240日で60万ナール。

 家を借りて税金を引いても40万ナール強。

 

 それだと1日1000ナールは使えるし、二人暮らしなら十分・・・か?

 いやレベルが上がればもっと稼げる。

 仲間が増えればその分経費も上がる。

 楽になるために今は努力するしかないのだ。 

 

 

 今日も今日とて飲食店を探す。

 冒険者が屯しているギルド前を抜けたところで、昼の鐘が鳴った。

 さすがはうちの時計係だ。

 

 昨日入った店の、2つ隣が別の飲食店だったので本日はこの店にしてみよう。

 流石に慣れてくれたのか、自分が席についたらアコルトも一々確認せずに椅子に座ってくれるようになった。

 

 おすすめらしき料理を2人前頼み、先にハーブティーをもらう。

 香ばしい匂いに期待を膨らませ待っていると、やがて店員が焼き立てのパンと共に鍋敷きを持ってきた。

 

 何が始まるのかと見ていると、スキレットというかグリルパンというか、鋳物に入った黄色いものが置かれた。

 取り皿とスプーンもセットされると、店員が口を開く。

 

 

「お好きなように取り分けてお召し上がりください。

 入れ物はお熱くなっているのでお気をつけください」

 

 

 なるほど、そういうスタイルの料理か。

 中の料理は卵とじというか、スパニッシュオムレツのように見える。

 

 お願いするまでもなくアコルトに小皿に乗る程度だけ盛ってもらったが、断面には彩りのある野菜が見えた。

 一番下には、味付けの濃い薄切り肉が敷いてあったようだ。

 

 取り分けて皿にひっくり返して盛ると、それが上になって食べるときには全体に味がつく。

 パンにもよく合うし、作りたてのまま提供されるのが実によい。

 気にせず食べろと指示したので、早々にパンを胃に収めてしまったアコルトに目を細めておかわりを頼んであげた。

 

 店の探索は今後も続けるが、味も量も満足できたのでこの店はリピート候補だろう。

 午後からの迷宮に備えてしばらく休んだ。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv17
魔法使いLv17/英雄Lv16/探索者Lv21/僧侶Lv16/商人Lv17
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)



アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv9



---
次回は8/2更新の予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。