動けるくらいにはお腹も落ち着いたので、クラザの迷宮前にワープする。
オリーブオイルを落とす、ナイーブオリーブの階層を確認するためだ。
探索者ギルドには加入していないのでギルドの資料は見られないだろうと思い、階層送りの探索者を探す。
カルメリガの迷宮では7階層と聞いたので、それよりも低層であることを祈りつつ、入口周辺にいた男に声を掛ける。
「すみません、ナイーブオリーブの階層っていくつですか?」
「ん?
ああ、ナイーブオリーブね」
探索者が服のポケットからメモを取り出し、確認する。
「ええと、ナイーブオリーブは……9階層だな。
移動するか?」
「いえ、聞きたかっただけなので」
「行かないのか。
別の階にも?」
面倒なやつだな、と思ったが確か作中の階層送りの対価は銀貨だったか。
100ナール単位のもらい損ないはそこそこの痛手だろう。
しかたないので、銅貨を適当にザッと掴んで手渡した。
「ありがとうございました。
では、これを」
「なんだぁ?
お、悪いな」
安酒1杯に満たないくらいの値段だろうが、黙るならそれでいいだろう。
本当は4階層以降の魔物も聞いておきたかったが、相手が悪かった。
たしかに情報は力であり、もともとタダではないとは思っていたが、露骨に態度に出されると関わりを疎みたくなる。
嬉しそうに1枚ずつ数える探索者を尻目に、急いでアコルトと迷宮内へと移動した。
入口小部屋から、昨日進んだ3階層の途中の小部屋までダンジョンウォークで移動しつつ考える。
ナイーブオリーブの出現が9階層なら、カルメリガよりも高層だ。
しかもこちらは最大4体の群れになる。
もう数日クラザの迷宮でレベルを上げてから、カルメリガの7階層へ案内してもらったほうがいいだろう。
アコルトになんとか数の少ない群れを探してもらって、数個のオリーブオイルを確保できれば十分だ。
それくらいまでは手入れ用のものも持つはずだ。
午前中に引き続き、3階層のボス部屋を探しつつ索敵を進めていく。
昼食の間に再出現したのか、昼休憩前には落ちてきた接敵頻度も戻ってきているようだ。
やはりコボルト階は鬱陶しくて敬遠されがちなのだろうか。
アコルトに避けてもらっているのもあるだろうが、小部屋で休憩しているパーティーすら見かけない。
下層のスパイスパイダーも低確率とはいえ毒攻撃持ちで、初心者向けとは言いづらい。
魔法使いなら接近される前にどちらも屠れるとは思うが、ドロップ品も旨くないこの階層にはわざわざ足を運ばないのだろう。
自分の戦闘は、つくづくボーナスポイントのおかげで成り立っている。
しばらく狩り続けた後にレベルを確認してみると、魔法使いも商人も上がっていた。
敵がいないことを確認して、ボーナスポイントを調整する。
結晶化促進に7ポイント振って8倍にして残りを知力、という形でも変わらず魔法2発までで倒せることが分かった。
順調に補正効果が上がっているのだろう。
あとはこのまま狩り続ければ、と思ったところで広めの小部屋に抜けた。
形状から察するに、ボスの待機部屋のようだ。
戻ってくるのは簡単なので、まずは速攻でボスを討伐して4階層へ抜けてみよう。
短期決戦型にボーナスポイントを振り直した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv18
魔法使いLv18/英雄Lv16/探索者Lv21/戦士Lv17/剣士Lv7
キャラクター再設定 1 鑑定 1
詠唱省略 3 5thジョブ 15
武器・六 63 アクセサリ・一 1
腕力 32
(残0/116pt)
僧侶と商人をそれぞれ戦士と剣士に変更し、ラッシュとスラッシュを使用可能にする。
慢心の指輪の腕力上昇に、腕力パラメータも振り切ることで、一撃の火力を上げた。
そこにデュランダルの攻撃力5倍と防御無視で、文字通り暴力でコボルトケンプファーを粉砕するつもりだ。
作中の彼と比べ、剣での物理火力が低いように思えていたが、さすがにこれなら苦戦することはないだろう。
「アコ、ここのボスは自分が前に出るから、部屋に入ったら下がっていてほしい」
「かしこまりました。
そちらの剣で戦われるのですね」
剣を使っての戦闘を見せるのは初めてだろうか。
商館ではデュランダルをお飾りのようにつけていて、複数スキルを見せるために宿でレイピアを出したくらいだったと思う。
フラガラッハを下げていただけの時もあったっけ。
「すごく疲れちゃうからあんまり多用できないけど、相手が1体ならこれの方が早いからね」
「そうなのですね。
お邪魔にならないようにしておきます」
本音はボーナスポイントが他に回せないからなのだが、動き回りたくないというのも嘘ではない。
やはり前衛は接近戦を捌ける技術を持った者にさせるべきだ。
今はアコルトに受け持ってもらっている牽制の役割も、一気に距離を詰められたらどこまで持つか分からない。
階層を進んでいくには、前衛の補強は必須だ。
待機部屋から扉の中に進む。
後ろについてきたアコルトが入り切ったところで、ボス部屋の奥に煙が集合する。
煙が収まり始めたタイミングで、鑑定を念じる。
コボルトケンプファー Lv3
ウインドウが表示されたのを確認すると、オーバーホエルミングを発動しながら大剣を握りしめる青頭の小人に駆け寄る。
逸れるように駆け抜けて、掲げられた大剣と反対側に位置取った。
デュランダルが届く距離まで踏み込むと、コボルトケンプファーを指定してラッシュを放つ。
一連のスキルアクションでその体を切り刻むと、続けてスラッシュを発動した。
しかしその動作が行われる前に、ボスは煙に変わり始めていた。
煙の中でデュランダルが空を切る。
連続でスキルを使ったが、最初のラッシュの1回分で倒せたようだ。
カルメリガで2撃必要だったときは、低レベルの英雄しか補正がなかった頃だったからだろうか。
煙が晴れると、コボルトスクロースが残った。
それを拾い上げると、アコルトが小さく拍手しながらキラキラした目で駆け寄ってくる。
「お嬢様!
格好いいです!」
「あ、ありがとう」
「以前にスキルを見せていただいたこともありましたが、今回は目で追うこともできませんでした。
魔法だけでなく、凄まじい剣の使い手でもあったのですね!」
「えーっと……、素早く動けるスキルを使ったんだよ。
あんまり長時間はできないから、普段は魔法を使うようにしてるんだ」
こそばゆい称賛を受けつつ、ジョブとボーナスポイントを魔法仕様に戻した。
アコルトからの尊敬レベルが上っているのをひしひしと感じる。
認めてくれる事自体はいいことなのだが、変なフラグになりそうで怖いので、特殊なスキルがすごいだけだとその都度釘を刺すことにしよう。
4階層の入口小部屋へと出る。
この階層の魔物はなんだろうか。
なるべく音の少ない敵へと案内してもらおう。
と思ったが、すぐに通路を進んだ先からドタドタと足音が近づいてくる。
コボルト Lv4
コボルト Lv4
一つ下の階層の魔物なので当然こいつらも出てくる訳である。
相変わらず騒がしいので、ファイヤーストームを放った。
この階層でも一撃で沈んでくれるようだ。
煙が霧散したその奥で何かが燃えている。
ニートアント Lv4
デカい蟻だ。
どうやらゆっくりした動きで、コボルトたちに置いていかれたようだ。
だが同じ群れであったため、全体魔法を一緒に受ける羽目になっている。
ニートアントは、たしか毒攻撃があると語られていたはずだ。
確率毒の通常攻撃と、確定毒のスキル攻撃がある、下層の毒の魔物の代表格と言われていたと思う。
弱点は……水属性だったか?
ファイヤーストームの炎が収まったタイミングで、ウォーターボールを発射した。
水球がぶつかり、そのままドロップアイテムの毒針へと姿を変えた。
毒針
魔物に当てることで、低確率で毒にするんだったか。
暗殺者のジョブ取得条件のためにも、確保しておきたい。
階層の魔物の確認ができたので、一旦小部屋に戻って方針を考える。
この階層の魔物の群れは最大で3体。
ニートアントとコボルトが大半で、後はスパイスパイダー、ニードルウッドが出るかどうかくらいだ。
ニートアントもコボルトも水属性魔法で弱点を取れる。
スパイスパイダーは等倍、ニードルウッドは水耐性だ。
基本はウォーターストームで一掃し、残れば別属性の単体魔法やらで仕留めればいい。
3階層下のニードルウッドまで出現するのかは分からないが、あっても極小確率だろうと考えないことにした。
鞭で足止めしてもらっている間に、追加で別属性魔法を2発入れれば済むのだから。
アコルトにニートアントの毒のことを伝え、水魔法主体で進むことを話した。
炎上と違い、相手を包む水なら足元で発光する魔法陣には気づきやすいはずだ。
そもそも通常攻撃にも毒の可能性があるので、掠っただけでも毒消し丸を飲むように指示する。
確認を終えて、通路へと踏み出す。
索敵通りに奥へと進むと、2体の蟻を発見した。
ウォーターストームを発動してみるも、1発では倒せない。
考えてみれば、3階層でもようやく2発で倒せるようになったのだ。
弱点属性でダメージが倍増してるとは言え、Lv4の魔物には火力が足りなかったのだろう。
しかたなく再度ウォーターストームを発動してニートアントを煙に変える。
毒針を回収しつつ、結晶化促進を8倍から4倍に落とし、その分のポイントを知力に振った。
コボルトのドロップは安価だし、ニートアントの毒針も安かったはずだ。
その上、はじめの数十個はジョブ条件の毒付与のために使用するので貯めることになる。
魔物が3体出現になろうと、換金効率は一気に下がって4日で1万ナール計画は早々に頓挫した。
皮算用は実現しないから皮算用なのだ。
その後、再びニートアントに水魔法を放ってみると1発で倒すことができた。
ボーナスポイント4ポイント分の知力ステータスの差ではあるが、そこから様々な補正が加わって1レベル分の魔物の強化量を上回ったのだろう。
稀に現れるスパイスパイダーこそは2発必要なものの、それ以外は1撃だ。
懸念していたニードルウッドは未だ見ていない。
討伐速度が一気に上がったので気分も上がる。
これまでの総討伐数を数えていたわけでは無いが、このまま結晶化促進4倍でも狩り続けられるなら、明日にでも1000体分の青魔結晶になるだろう。
その後は延々と毒針とコボルトソルト、ジャックナイフを増やしていく。
戦闘時間が大幅に短縮されたことにより、移動回数が増えている。
アコルトはこれまでも牽制で動いてくれていたためあまり変わらないようだが、自分は移動時間の倍増で疲労が溜まっていく。
小部屋での小休止の回数を多く取りつつ、雑談も増える。
「アコはなにかやりたいことはない?
かわいい服が着たいとか、何か食べてみたいとか」
「お食事はいつもおいしいものをいただいておりますし、服についても選ばせていただいて満足しております」
「いや、古着じゃなくて新品の服でさ」
「新品はご貴族の方が着られる高級品ですので、奴隷が身につけるものではありません。
市中でお見かけした中で、お嬢様にお召しいただきたいものはいくつかございましたが……」
うーん、相変わらず自身の希望より主人か。
奴隷としては当たり前なのだろうけど、いつか高級店で店員に見繕ってもらって何着か買ってやろう。
その後も取り留めのもない会話をしながら夕方まで狩り続ける。
ドロップ自体が少なかった3階層とは違い、アイテムボックスの埋まりも早い。
そろそろ夕方の鐘の頃だと声がかかり、本日の迷宮での狩りを終了する。
結構なペースで魔物を倒していたと思ったが、やはり魔結晶は緑のままだった。
拾ってもらった毒針をアイテムボックスにしまい、宿へとワープした。
ギルドと同様に混み始める時間帯であったが、人が多い方が気にも留められず却ってワープのスキルがバレにくそうだ。
そこそこ大きめの宿なのでフィールドウォーク用の絨毯が掲げられているのがありがたい。
フロントで鍵と割符をもらい、酒場へ移動する。
もう慣れたものだ。
食事については肉と野菜、基本的に酒に合う味の濃いものばかりしか置いていない。
揚げ物が大衆店になさそうなのが口惜しい。
迷宮でオリーブオイルやパームオイルといった、すでに利用できる状態で少量でドロップするのが原因だろう。
大量に栽培し、圧搾やろ過など複雑な手順を踏んだ、所謂植物油を生産するという構想に至らないのだ。
油として直接手に入るのだから、大量に必要なら大量に迷宮で手に入れるか、大量に買えば済む。
だが飲食店での薄利多売の中で、数日しか持たない大量の油を頻繁に仕入れるのは厳しいだろう。
そうなると自炊するしかない。
唐揚げにポテトフライに天ぷら。
こちらの世界に来る前にしっかりした和食を食べておいたが、恋しさが募る。
ジャンキーなファーストフードも食べ納めしておけばよかった。
あちらの世界の食事を再現するにはまずは自宅を手に入れなくてはならない。
そのためには資金稼ぐ必要があって、稼ぐためにはレベル上げだ。
好みの料理を作るサブクエストも、結局は家を手に入れるメインクエストを進行しなければたどり着けない。
ゲームのようでゲームでないこの世界で、一つ一つ目標をこなして生き抜いていかなければならないのだ。
食事を終えて、部屋に戻る。
お湯が届くと、体拭きだ。
今日は手入れも簡易だったので湯の汚れも少なく、髪を洗えることに幸せを感じる。
交代で洗い合ったが、やはり湯に浸かる時がじんわりと包まれる感覚で気持ちいい。
早くこれを全身で享受したいものだ。
肌着を身に着け、髪を拭いてもらった後は寝るだけだ。
今はまだギリギリ春季だと言うが、本格的に夏になったらどこまで気温が上がるのだろうか。
クラザ自体はそこまで寒暖差が激しくないようだと聞いたが、現地人の気温感なんて当てにならない。
仮に他の地域が35度まで上がるところが30度程度であれば、他と比べてそんなに暑いとはならないのだし。
30度は十二分に暑いだろう。
それまでに氷魔法のある魔道士になれていたらいいな、なんて考えながら早々に眠りについた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv19
魔法使いLv19/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv18/商人Lv20
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv12
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次回は8/5更新の予定です。