異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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025 想定

 朝。

 水を出して顔を洗い、房楊枝で歯を磨いて身支度を整える。

 

 外出用に服を着て、アコルトに髪を梳かしてもらうのもだいぶ慣れてきた。

 本日はリボンを編み込まれる。

 

 階段を降りてフロントに向かい、朝食用の割符をもらう。

 酒場に抜けて、店員に適当に注文して隅の席を確保した。

 

 しっかりと目覚めているアコルトを、こちらは目をこすりながら見つめて待っていると料理が運ばれてくる。

 温め直したパンと、ベーコンエッグのような何かとスープだ。

 

 自分は卵は半熟が好きだが、日本のように衛生管理されたものではないため、基本的に固焼きだ。

 海外でもそうなんだったっけ?

 まぁ迷宮由来以外の病状はアイテムやスキルで治らないから仕方ない。

 

 厚切りのベーコンのような肉と付け合せの野菜に塩コショウが利いている。

 スープも、小さい角切りの肉と野菜が入っていて飲みやすい。

 

 ふと気付いたが、炒め物とスープの具材が卵を除いて一緒だ。

 切り方と少々の味付けを変えることで材料の少なさをカバーしている。

 調理とは奥が深い……と思いつつ、食べきれない大きさの肉をアコルトにおすそ分けした。

 

 

 部屋に戻り、装備をつけていく。

 メインジョブである魔法使いのレベルも上がっているので、あと1つくらい上がってワープあたりを削れば、結晶化促進を8倍までもっていけそうだ。

 

 今日で春の下月28日だ。

 夜にでも体調を確認して、疲労が溜まっているようなら明日は休みにしよう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 クラザの4階層の小部屋にワープする。

 昨日は1戦1戦が短く、結構歩き回ったと思ったが結局ボス部屋へとはたどり着けなかった。

 

 戦闘重視で同じ通路を行ったり来たりしているのが多いのだろう。

 他のパーティーと思わしき音をアコルトに避けるように指示しているから、ボス部屋へのルートから外れていっている可能性も高い。

 なるべく新規の分岐ルートを目指すように心がけよう。

 

 戦闘自体は非常に単調だ。

 音による索敵で魔物の群れを探し出し、相手に気付かれる前にウォーターストームで1発。

 それでも倒れずに向かってくるスパイスパイダーには、アコルトが引き付けてくれている間にクールタイムを消化してもう1発。

 

 魔物の部屋は懲り懲りなので、アコルトには安易に行き止まりの壁に近づくなと言ってある。

 万が一、移動させられたとしても、魔法で1発なら大丈夫だ。

 

 いや、大丈夫なのか?

 部屋の中の魔物が全て1つの群れとしてカウントされるのか、最大3体の群れが複数集まっていると判断されるのかわからない。

 

 前者の場合はウォーターストームで一掃できるので問題ないが、迷宮ルール上4階層では最大3体と決まっている以上、1つの部屋の中だけ例外になっているとは考えにくい。

 後者が妥当ではあるが、その場合は部屋を埋め尽くす魔物を相手にして魔法を放っても、3体までしか倒せないままクールタイムに突入することになる。

 

 作中の彼は、魔物の部屋ではメテオクラッシュを使っていた。

 あれは対象を指定しない範囲全体魔法だったので、部屋全体の魔物に効果があったのだ。

 

 自分が使う際には、消費魔力が足りているかの問題、そして1発で倒せるかの問題がある。

 

 彼がメテオクラッシュを使い始めたのは十数階層に辿り着いてからだったはずだ。

 これについては自分も後で試してはみるが、おそらくまだ発動するにはMPが足りていないだろう。

 

 火力に関しても、水魔法で1撃であるのは弱点属性をつけているからだ。

 メテオクラッシュが火や土の属性を持っていても、威力が足りなければ倒しきれない。

 単純に通常の下級魔法の倍以上のダメージを有していないと1撃にはなり得ないので、知力の上げ下げでギリギリ倒せている現状では厳しいと思われる。

 

 レベルを上げて装備を揃え、ステータスを上げるしかないのだ。

 

 いざとなったら経験値効率をはずして、すぐデュランダルに切り替える練習でもしておこう。

 戦闘中でも使えるワープを、常にポイント分配に入れておくのもいいかもしれない。

 

 魔物の部屋に巻き込まれたら絶対焦るので、普段から咄嗟の操作を慣らしておくべきだ。

 基本はこれまでと同じく、迂闊に手をついたり物理的に部屋分の広さがありそうな場所へは近づかないようにしよう。

 

 

 警戒しつつ魔物を倒しながら進んでいると、紫色だった魔結晶が青色に変わっていた。

 やっと1000体分の魔力が貯まったらしい。

 

 とは言っても今1000ナールで売却したところで資金は殆ど変わらないため、引き続き同じ魔結晶で次の1万体分の緑色を目指すことにする。

 昼休憩にはまだ早い時間だったので、アコルトが時間を伝えてくれるまで狩り続けた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 結局僧侶と商人のレベルが上がったくらいで昼前だと声がかかり、午前中の狩りを終えた。

 新規の小部屋からのルートを進めていったので、この先がボス部屋に続いていたらありがたい。

 

 冒険者ギルドにワープして買取カウンターへと並ぶ。

 毒針を取っておこうかと考えたが、午後からもまた4階層で狩りをするので、今回は一旦手持ちのドロップ品は売却してしまうことにした。

 

 今日の午後取得した分で、明日の朝か次回迷宮に足を運ぶ際に毒付与を試せばいいだろう。

 

 ドロップ品は単価が安かったので、3割増をつけても2000ナールを下回った。

 希少なモンスターカードでも出たら別であろうが、純粋な通常の戦利品だけでは稼ぎにくい階層なのだろう。

 

 冒険者ギルドを抜け、店が立ち並ぶ通りに出たところで正午を知らせる鐘が鳴る。

 やはりアコルトは、ギルドでの売却を終えて動き出せる時間を考慮して早めに伝えてくれているようだ。

 大抵の人が鐘を聞いて動き出す前に店を探し始められるのはありがたい。

 

 今日は先日と反対側の通りに足を運んでみる。

 鐘の音を聞いてすぐだというのに、数名が駆け込むようにして入っていく店が目に留まる。

 そんなに人気店なのだろうか。

 

 後を追うように店に入ってみると、雑多に並んだテーブル席に通される。

 メニューらしき紙も木の板も見当たらず、周りを見渡している間にドカッと大皿が机に置かれた。

 

 茹でられた黄色い芋と焼色のついたぶつ切りの肉が盛られている。

 しょっぱそうなソースがかけられていて、すごくジャンキーな匂いだ。

 

 エールも同じように雑に置かれると、従業員が急かすように手を差し出してくる。

 どうやらこの時点で会計らしい。

 量に対してかなり安い値段だったが、決まったメニューしかなく、なんでもいいから安く胃に詰め込みたい人用の店だったようだ。

 

 たまにはこういう料理でもいいかともそもそと食べ始めたが、単調な味わいとその量に早々に飽きてくる。

 腹は膨れるが、美味しいものを食べたい自分にとっては合わなそうな趣向の店だ。

 

 なんでも美味しそうに食べてくれるアコルトを眺める方に意識を割きつつ、そっと大皿の料理を片方に寄せた。

 

 

 昼に酒を入れてしまったので、店を出てから水筒の水を多めに取りつつ腹ごなしに歩いて回る。

 甘味を売っている店はないのだろうか。

 

 コボルトスクロースはありふれた素材だろうし、アイテムではないが小麦も卵も普通に売っている。

 シェルパウダーが重曹に当たるんだったか、それらがあればある程度は作れるだろう。

 

 牛乳……は酪だっけ。

 たしかボスの方のドロップだったと思うが、あれが23階層以降になってしまうものだった気がする。

 

 乳牛の飼育はどうなっているのだろう。

 その辺りの生モノと氷魔法の普及具合で、スイーツの発展が遅れているのかもしれない。

 

 貴族街的な場所に行けばもしかしたら食べられるのかな?

 行ったとて伝手などないし、本当にあるかも分からない。

 自分で作るしかないのだろうか。

 

 うーん、結局必要なものはレベルと金だ。

 世知辛い。

 

 休憩を兼ねた散策も終わりにして、迷宮での狩りを再開しよう。

 装備を確認して近くの大木にワープゲートを開いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 午前中に辿り着いた小部屋からスタートする。

 コボルトやニートアントを処理しつつ幾度目かの分岐を進むと、割と早めにボスの待機部屋へと繋がった。

 直前の通路でも魔物に出会ったのでおそらくとは思ったが、順番待ちはおらず扉は開いていた。

 

 一先ずはこの階層の探索にけりが付いたので安心する。

 ボス部屋への突入は今日の探索の最後に回そうかと思っていたが、複雑な階層であるなら先に突破してから戻った方がいいだろうと考える。

 

 アコルトには3階層と同じように自分が先行することを伝え、ボーナスポイントを短期戦仕様に振り分けた。

 水を飲んで一息つき、デュランダルを握りしめて足を進める。

 

 急に発生した煙が集まりだし、やがて大きな蟻の形をとった。

 

 

ハントアント Lv4

 

 

 ニートアントよりも一回り大きいその体をもぞもぞと動かし、こちらを窺っている。

 コボルトケンプファーと同様に、オーバーホエルミングで回り込んでからラッシュとスラッシュを放つ。

 

 今度はスラッシュまで当たった感覚がした。

 一瞬相手の足元に魔法陣が浮かび上がった気がしたが、デュランダルの詠唱中断でキャンセルされたのだろう。

 

 いかにも毒を持っていますと言いたげな色合いの体を両断すると、煙を経由して蟻酢酸というアイテムに変わった。

 拾い上げてみるが、酢酸というからには酢的なものだろう。

 

 だけど蟻と名のついているものを料理に使う気にはなれないので、素直に売却行きだ。

 アコルトに動きの称賛を受けつつ、蟻酢酸をアイテムボックスにしまった。

 

 

 次の5階層の魔物を確認してみよう。

 ボーナスポイントの割振りを魔法主体に戻しつつ、経験値効率系をまるまるデュランダルにつぎ込んだ。

 これで万が一はないだろう。

 

 ボス部屋からの扉を抜け、5階層の入口小部屋に踏み入れる。

 音のする方へ案内してもらうと、通路の奥に動きの遅い集団を見つけた。

 

 

ニートアント Lv5

スローラビット Lv5

スローラビット Lv5

 

 

 この階層の魔物はウサギらしい。

 

 まずはウォーターストームを発動する。

 3体とも水に包まれて少しもがいた後、水塊が霧散する。

 

 弱点属性でもニートアントは倒せていないようだ。

 流石にダメージを受けたのでこちらに気づいた様子で近づいてくるが、どちらの魔物も名前の通り動きが遅い。

 

 クールタイムが明けて2度目の水魔法でニートアントが煙に変わる。

 スローラビットは跳ねながら近づいて来ているが、アコルトの鞭で進行方向を狭められている。

 

 やはり動物に近い魔物なら勝手知ったるものなのだろうか。

 飛び跳ねた先で鞭に打たれて怯んだところに、再発動したウォーターストームがその身を襲う。

 

 煙が晴れて残っていたのはウサギの毛皮だった。

 もふもふの手触りが気持ちいい。

 

 5階層への到達と魔物の種類が確認できたので、小部屋に戻る。

 移動中も無意識で毛皮を握っていたら、アコルトにジト目で見られたことに気づいたので慌ててアイテムボックスにしまった。

 

 

 4階層の中間小部屋にダンジョンウォークで移動する。

 デュランダルを戻してボーナスポイントを経験値効率に振り直し、この階層での狩りを再開した。

 

 先程の3ターン必要な5階層と違って、こちらは大半が1ターンで戦闘が終わる。

 ドロップ品による収支は減っているものの、かなり安全に経験値を稼げるのはありがたい。

 

 スローラビットが魔法2発で仕留められるくらいの能力まであげていければ、その後の階層も楽になっていくだろう。

 堅実に着実に実力をつけていくのだ。

 

 

 通算で何百体狩っているかは分からないが、モンスターカードについてはあの魔物の部屋で運良く手に入れた1枚だけだ。

 やはり相当低確率のレアドロップなのだろう。

 

 今後特定のモンスターカードを入手するには、やはりオークションへの参加が必須だ。

 そして自身がオークションに張り付いているわけにもいかないので、仲買人というサポーターを得なくてはならない。

 

 仲買人はほぼいずれかの商人であるから、取引で儲けを出そうとしてくるはずだ。

 多少は譲歩するにしても、過剰に騙されずにお互いに利のある取引ができる相手が望ましい。

 

 そこまで考えたが、モンスターカードを利用できるのは鍛冶師を仲間にしてからだ。

 今の所持金ではドワーフの奴隷を手に入れるのは厳しい。

 

 レベル上げではなく資金繰りにシフトしたほうがいいのだろうか。

 様々なことに迷いながらも、ただひたすらに魔物を屠り続けた。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)



アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14



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次回は8/8更新の予定です。

動きの少ない回こそ、書くのが難しいです。
誤字報告大変助かっております。
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