アコルトに声を掛けられたところで、もう夕食の時間らしいことを悟った。
考え事をしながら流れ作業のように狩り続けていたらしい。
いくら単調な作業とは言え、気を抜きすぎだろう。
休憩も減っているだろうし、アコルトに負担をかけすぎだ。
拾ってきてくれたコボルトソルトを受け取り、今日はここまでだとして宿にワープした。
預けた鍵と食券の割符をフロントで受け取り、部屋へと戻る。
不要な戦闘用装備を外してアイテムボックスにしまい、リュックを置いて酒場へと向かった。
さすがに連日同じ酒場での夕食なので、メニューもだいたい見飽きてくる。
「アコ、食べたいものあったら選んでね。
飲み物も」
「ありがとうございます。
私はどの料理も美味しくいただいております」
「値段も変わらないんだし、アコが食べたいもの頼んでくれたほうが自分は嬉しい」
「……ありがとうございます。
ではこちらの煮込み料理を」
うんうん、良きに計らえ。
自分は昼の芋と肉で飽き飽きしていたので、ほとんど葉物の肉野菜炒めらしき料理を選んだ。
飲み物はエールと、アコルトには甘そうなカクテルだ。
カクテルのほうがちょっと高いが、割符にプラスでちょっと払っておいた。
何回も繰り返していればいただきますの合掌も揃い、夕食を食べ始める。
どうやら自分の頼んだ葉物野菜はわさび菜的な刺激が強いものだったらしく、突然の辛味に涙目になりながらエールで流し込む。
アコルトに心配されたが、食べられないことはない。
ただ、意識していない味が来たことに驚いただけだ。
取り繕うように、話題を変える。
「連日迷宮に潜ってきたけど、アコは翌日に疲れが残ってない?
明後日はもともと休みにしようと思ってたけど、少しでも不安なら明日も休みにしようと思ってる」
「毎日しっかりとお休みを頂いておりますし、体調に問題はありません。
お嬢様は本日の午後は何か考えておいでのようでしたが、何かお体に障られましたか?」
「え?
ああ、これからの方針を考え込んじゃってただけだから問題ないよ」
「それならばよろしいですが……」
敵を牽制しながらも、こちらのことまでよく見ていてくれている。
体調に問題がないなら、明日は暗殺者のジョブ取得条件の毒付与でも試してみよう。
カルメリガ1階層のコラーゲンコラージュ相手でいいだろうか。
飲み物を1杯ずつお代わりして、宿へと引き上げる。
アコルトはカクテルを気に入ってくれたようだ。
またオイルを使っての手入れで湯が汚れそうとのことなので、フロントで湯桶を頼む際に1つ多く頼んだ。
1つだけなので割引はできなかったが、差額は3割増のコボルトソルト1つ分なので、気にするほどでもない。
装備を並べながら部屋で待っていると、従業員が桶を持って来てくれた。
手入れをお願いしてアコルトが取り掛かっている間に、自分で身体を拭く。
あっ、とした表情でお待ち下さいと言われたが、君のお嬢様は待ちません。
頭を洗ってくれれば十分だと伝えて、手入れを優先させた。
それでも、髪を拭く際に背中を拭き直されることになったが。
洗濯も終え、あとは寝るだけとなって布団に潜り込んで明日の予定を考える。
手入れ用のオイルはまだ残っているが、カルメリガの迷宮に行くならついでに7階層の階層案内をしてもらってもいいかもしれない。
もう少しジョブが育てば、7階層で必要な量くらいのオリーブオイルは手に入れられるだろう。
ジョブ設定でレベルを確認する。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
順当にレベルが上っている。
やはり商人のレベルアップは早く、もう探索者に追いついている。
このままLv30になったら派生の多い戦士か、知力補正のある薬草採取士と交換だろうか。
声を出しているわけではないが、あまり起きていると目聡いアコルトに気付かれてしまう。
彼女のことだから、自分より先に寝たりしないなど気を遣わせてしまう気がする。
これ以上は明日また考えよう。
***
目が覚めてからはいつもの流れで準備をする。
今日のアレンジはサイドポニーでした。
酒場の隅で、パンに具材を載せて齧りながら今日の予定を伝える。
「食事中で悪いんだけど、今日は魔物を毒にして、毒のダメージのみで倒すっていう実験をしようと思ってる。
カルメリガ1階層のコラーゲンコーラルを相手に、大量にある毒針を使ってやろうかなって」
「かしこまりました。
確かに単調で大振りなコラーゲンコーラルなら、距離を取るのも容易そうです」
「魔物が毒状態になったら分かる?」
「はい。
若干ですが体色が変わりますので、見分けることは出来ます。
祖父に相手の状態の見極めも教わりました」
サンキューアコグランパ。
孫娘はすごく頼りになってるぞ。
宿の宿泊はこの朝食までになっているが、まだここを拠点として連泊を続けていいだろう。
アコルトも相談したが、他の宿をとるにしても候補が出るまで移動は難しいのではないかとの話になった。
当たり前だ。
大荷物を抱えての宿探しは拙いだろう。
相談するにしても残り日数があるうちにすべきだった。
朝食の後は宿の部屋に戻り、昨日手入れしてもらった装備を身につけていく。
アイテムボックスを確認したが、毒針は50個以上ある。
アコルトには『状態異常確率小アップ』もついているし、自分が相当運が悪くなければ足りなくなることもないだろう。
フロントに鍵を預け、クラザの宿からカルメリガの迷宮1階層へとワープする。
この距離でも大してMPの消費が気にならなくなった。
特に魔法を連打するわけでもないので、一撃で屠れるデュランダルを手に持った。
近い距離や狭い通路のコラーゲンコーラルは倒しつつ、回避行動の取りやすい場所にいるものを探してもらう。
「いました」
敵には聞こえないくらいの声でアコルトが伝えてくる。
「よし、素早く動けるスキルで近づいて毒針を当ててくる。
毒になると完全に敵として認識されるらしいから、声で知らせてもらっていいので教えてね」
「かしこまりました」
遠目に見えるコラーゲンコーラルの向きが変わったタイミングで、オーバーホエルミングを発動する。
近づきつつアイテムボックスから毒針を5、6本掴み出す。
振り向かれる前にその岩の頭に投げつけた。
すかさずまた毒針を取り出してぶつけ、一旦後方に下がる。
色が変わったようには見えない。
加速中だが、アコルトが反応している様子もなさそうだ。
アイテムボックスに手を伸ばし、再度毒針を握る。
振り返るコラーゲンコーラルの頭が加速したように見えると、同じタイミングで足元がガクンと重くなった。
効果切れか。
2度目のオーバーホエルミングを発動して背後に回る。
手に持った毒針を叩きつけ、距離を取る。
同じアイテムボックスに残っていた6本ほども投げつけ、離れてみたところでオーバーホエルミングが解けた。
探索者Lv22なので22本消費したわけだ。
アコルトから声はあがらない。
作中の文章では、毒にする期待値は5%強程度に書かれていた気がする。
下振れなのか、もっと確率が低いのか。
結局毒になったと声がかかったのは、毒針を2列分消費した頃だった。
1個5ナールだから44本で220ナール分。
いや、オーバーホエルミングのために強壮丸も1つ飲んだので280ナール分だ。
1人分の宿代くらいかかっている。
大赤字じゃないか。
コラーゲンコーラルを毒にした後は、アコルトに替わってもらって回避してもらう。
相手は痛覚がないのか鞭に怯んだりはしないので、十分に距離を取って近づかれないようにするだけだ。
連続移動でへとへとになりながらも改めて敵を見てみるも、言われてみれば多少色が暗くなったかな?という程度で、自分ではぱっと見分からなかった。
目の問題なのか、注目する技術なのかも分からないが、あれが毒状態らしい。
その後も離れたところからしばらくアコルトを眺めていると、突然コラーゲンコーラルが煙になった。
毒ダメージで倒せたらしい。
戦士のレベルが足りていないので、暗殺者のジョブは出現しない。
コーラルゼラチンを拾って駆け寄ってくるアコルトに声を掛ける。
「ありがとう。
まだ先にはなるけど、ジョブ条件の1つはこれでクリア出来たと思う」
「よかったです。
この後はどうされますか?」
「一応、残っている毒針でアコにもやってもらおうかと思うけど、まだ動けそう?」
「問題ありません。
うまくできるように頑張ります」
「数が少ないから、これで毒にならなかったら普通に倒して、また今度時間がある時試すくらいだから気にしないでね」
残っている毒針は3列目に入っている7本だけだ。
束にしてなんとか持てそうだから、一度にぶつけてもらってだめなら次回でいい。
索敵をしてもらって、適した場所にいるコラーゲンコーラルを探してもらう。
何体かを仕留めて進むと、広めの通路に魔物がいるのを見つけた。
「あちらがよさそうです」
「うん、お願いね」
毒針をまとめて渡し、ダメな場合に備えてデュランダルを握る。
ススっと近寄ったアコルトが、背後からコラーゲンコーラルに毒針を投げつける。
「毒です!」
そんな気もしていたが、やはりアコルトはすぐ成功した。
狩人Lv14の『状態異常確率小アップ』のおかげだ。
極めて優秀な狩人だったのであって、断じて自分の運が悪すぎたわけではない。
「よくやった!
そのまま倒れるまで躱し続けて!」
「はい!」
コラーゲンコーラルの動きのクセを見切ったのか、先ほどよりもだいぶ楽そうに距離を取っている。
いつまで続くか分からない回避耐久ではなく、時間の目安が把握できたのがよかったのかもしれない。
やがて毒で魔物が煙に変わると、ふっと息をはいてこちらへ笑みを浮かべた。
ドロップアイテムを受け取り、ダンジョンウォークで入口小部屋へと移動する。
そのまま迷宮の出口ヘと足を進め、外に出る。
時間としてはまだ昼には早いらしいが、あの串焼きの香りがここまで届いてくる。
ずるいだろ、あれ。
誘惑を振り切って、本来の目的である、階層案内の探索者を探した。
迷宮入口の黒扉の周囲に立っている者を鑑定して回るうちに、探索者のドワーフを見つけた。
あの時、親切に各階層の魔物を教えてくれた子ではないだろうか。
少し暗い表情にも見えるが、わざわざここにいるなら目的は一緒だろう。
俯いた様子の彼女に、声を掛けてみることにした。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14
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次回は8/11更新の予定です。