異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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027 再会

「今、大丈夫ですか?」

「……え!?

 あっ、はい、なんでしょう?」

 

 

 声を掛けるまで気付かなかったのか、あたふたと緑色の髪を揺らしてこちらに向き直る。

 

 

シャオク ドワーフ ♀ 19歳 探索者Lv11

 

 

 

「……あっ!

 以前は肉串をありがとうございました!」

 

 

 顔を見て自分を思い出したらしく、その顔も少し明るくなってくれたようだ。

 後ろのアコルトから「どなたですか」という視線を感じたので、説明っぽく付け加えて話を続ける。

 

 

「あれは階層の魔物の情報を教えてもらったお礼で、持っていたのを渡しただけなので……。

 ナイーブオリーブの階層まで案内してほしいのですが、大丈夫ですか?」

「はい!

 オリーブ……7階層なので700ナールですけど、いいですか?」

「はい、こちらで」

 

 

 普段払いの巾着袋から銀貨を7枚取り出して差し出すと、大事そうに受け取った。

 

 

「はい、確かに。

 では誘いますね。

 友に応えし信頼───」

「あ、待ってください。

 こちらのパーティーに入ってほしいです」

「わかりました!」

 

 

 今のパーティーを解除して、新しくパーティーに参加して案内してもらった後、解除されてから再びアコルトを勧誘するのは手間だ。

 こちらのパーティーに参加と解除をしてもらった方が早い。

 あと偶には呪文詠唱したくなる時があるんだ。

 

 詠唱省略をはずして呪文が表示されるようにした。

 

 

「友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティ編成!」

「……はい、では行きましょうか。

 二人ともですか?」

 

「いや、自分だけです。

 案内が終わったらすぐ戻ります」

「わかりました!」

 

 

 アコルトに待つように伝えてドワーフの後について進む。

 先程までいた1階層の入口小部屋に似た部屋に抜けた。

 

 

「ここが7階層です。

 ナイーブオリーブやニートアント、スパイスパイダーが出てきます」

 

 

 丁寧な紹介を受けている間に詠唱省略を取得し、ダンジョンウォークを念じる。

 到達した1~3階層のほかに7階層を選べるようになっていた。

 

 本気で疑っていた訳ではないが、口調ひとつでどこかの探索者との印象は段違いだ。

 

 

「それでは戻りましょうか」

 

 

 小部屋の黒い壁に進む背中を見つめながら、そういえば同じパーティーだから取得ジョブを見られるのではと思いついた。

 他人と同じパーティーになることがほとんどなかったので、一般人はどんな取得状況なのか気になる。

 街移動の冒険者の時も見せてもらえばよかった。

 

 一瞬の闇を抜けて迷宮の外に出てくると、アコルトが駆け寄ってくる。

 

 

「おまたせ、アコ」

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

 

 迷宮の入口前では邪魔になるので、3人で脇に避けるように移動した。

 その間にボーナスポイントをいじってパーティージョブ設定を取得し、シャオクを対象にしてジョブを確認してみた。

 

 

シャオク ドワーフ ♀ 19歳 探索者Lv11

(村人7 農夫1 戦士1 剣士1 僧侶1 薬草採取士1 商人1 鍛冶師1)

 

 

 なんだこの取得ジョブの多さは!

 それよりも……鍛冶師を取得している!?

 

 初めて鍛冶師のドワーフを見た。

 よく考えたら、それはそうか。

 

 鍛冶師なら鍛冶師ギルドに所属していて、自分とすれ違うような場所をうろうろせず、工房などの専門的な場所で修練しているはずだ。

 迷宮でレベルを上げていたとしても、こちらがほかのパーティーを避けたルートを取っている。

 そうそう会うはずがないだろう。

 

 鍛冶師になれるのに探索者のレベルを上げているということは、探索者の道を選択したのかもしれない。

 前に聞いた通り、運び屋と言えども15階層までお供できるくらいだから、探索者の適性があったのだと思われる。

 

 ましてや一人でいるのだし、奴隷でもないはずだ。

 ないものねだりが過ぎて、ちょっと過敏になりすぎていたのを反省する。

 

 今後、奴隷でドワーフを手に入れたとしても鍛冶師になりたくない者だった場合は非常に困る。

 ここでこの子に理由を聞いて、対策をしておくのも一つの手かもしれない。

 

 

「それではパーティーから外してもらって」

「あっ、そうだ。

 1つ質問いいですか?」

 

「はい?

 質問ですか?」

()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 その言葉を発した途端、先程までにこやかだった表情が固まった。

 

 

「───!」

 

 

 聞いてはいけなかったことだと悟るが遅かった。

 

 シャオクの表情が抜け落ち、次第に俯くように項垂れる。

 やがて肩を震わせ、啜り泣く声に変わった。

 

 まずい。

 

 まずいまずいまずい。

 

 

「お嬢様」

 

 

 アコルトの声で引き戻される。

 

 大人数が行き交う迷宮の入口近くだ。

 今はまだ周りに気づかれてはいないようだが、ここに居続けると注目を浴びてしまう。

 

 

「とりあえず宿にでも移動しましょう」

 

 

 その声に頷き、シャオクの手を引いて木の近くまで移動した。

 顔を手で覆って肩を震わせているが、こちらが促すままに動いてくれている。

 その足取りは重い。

 

 フィールドウォークの呪文を、アコルトが唱えるふりをしてくれている。

 その間にリュックからきれいな手拭いを取り出して渡すと、涙に濡れる顔を覆うように押さえた。

 

 この状態で階段を4階まで登らせるのはきつくないか。

 直接部屋につなぐとアコルトに耳打ちすると、一瞬驚いた顔をするが頷いてくれた。

 

 アコルトが正面からシャオクを抱きとめて、背中をさすってあげている。

 視界は塞いだ。 

 宿の部屋にワープゲートをつなげ、そのままゆっくりとゲートを通らせる。

 

 ベッドの近くまで連れて行くとその縁にしなだれるように蹲ってしまった。

 

 その後再びゲートを開き、二人を残したまま自分は宿前の絨毯から出てくる。

 何食わぬ顔でフロントから鍵を受け取り、階段を駆け上がった。

 

 急いでいる時に流石に4階は遠かった。

 これを消沈した子に登らせるのは厳しかっただろう。

 

 

 やっとのことでドアの前にたどり着き、外から鍵を開けると、中からアコルトが出てきた。

 

 

「お嬢様、問題はなさそうです。

 多少は落ち着いてきたようです」

「わかった、ありがとう」

 

 

 そっとドアを開けて中に入ると、手拭いに顔をうずめたシャオクが椅子に座っていた。

 泣き腫らした顔でこちらを見上げてくる。

 

 

「ごめんなさい。

 失礼なことを言ってしまったようで……」

「ご迷惑をかけてすみません!

 ボク自身のせいなのに……」

「そんなことは」

 

 

 あれほどまでに明らかに地雷を踏んだのはこっちの落ち度だ。

 手拭いをぎゅっと握りしめて、窓の外を見つつシャオクが口を開く。

 

 

「ええっと、ここはどこの宿でしょうか?」

「クラザの……」

「こちらはクラザの空翔ける仔馬亭です」

 

 

 横からアコルトが答える。

 そんな名前だったのか、この宿屋。

 

 

「クラザ!?

 そうなると……そちらは()()()の方なんですね」

 

 

 階層案内を一人で受けたのだから自分が探索者、呪文を唱えて街を移ったのだからアコルトが冒険者。

 取り乱した割になかなかに判断が早い。

 

 深く関わるつもりがなかったが、ボロを出さないように気をつけなくては。

 

 

「宿を取っていたのはクラザの街でしたので、申し訳ありませんがお連れいたしました」

「いえ、あの場にいたら人目もあったので、ありがとうございます」

 

 

 事も無げにしらっとアコルトが言ってのけた。

 シャオクが椅子から立ち上がり、姿勢を正す。

 

 

「そうだ、えーっと。

 ボクはシャオクっていいます」

「ミツキです。

 こっちの()()()がアコルト」

 

 

 視線を送ってそう紹介すると、目を合わせて承知しましたというように小さく頷いてからペコリとお辞儀した。

 

 

「カルメリガに送りましょう。

 冒険者ギルドでもよろしいですか?」

「は、はい!

 ありがとうござ───

 

 

ぐぅうう~~~!

 

 

 シャオクの腹の音も返事をした。

 

 

「……す、すいませ……ん」

 

 

 耳まで真っ赤にしたシャオクが顔を伏せる。

 こっちとしては結構ギリギリの対応をしていたが、今ので気が抜けてしまった。

 それぞれに笑みがこぼれる。

 

 

「アコ、お昼ご飯が先でいい?」

「はい、そうしましょう」

 

 

 先程までとは別の理由で目をつぶってしまったシャオクの手を引いて、階段を降りる。

 フロントに鍵を預け、そのまま酒場へと向かった。

 

 隅の方に席を取り、アコルトにシャオクの相手をしてもらっている間にカウンターに足を運ぶ。

 メニューの料理名は読めはしないが、文字には見慣れてきたので指差し注文くらいはできる。

 

 焼いた肉と炒めた肉と煮込んだ肉を1つずつだ。

 飲み物はいつものエールと、ミードのミルク割。

 あと1つはドワーフが飲むやつと言ったら、強めの酒を運んでくれるらしい。

 

 確認すると店員が商人だったので、先に会計もしておいた。

 

 

「勝手に注文してきちゃいました。

 迷宮前でのお詫びなので、支払いは気にしないでくださいね」

「いえ!

 そんな、申し訳ないです!」

 

 

 再び返事をする腹の音。

 

 口ではそう言っても、お腹は正直だな。

 椅子の上で腹を押さえて小さな体を更に小さくするシャオクを横目に、店員が飲み物を運んでくる。

 

 

「飲み物も届いたし、とりあえず飲みましょう!

 シャオクさんにはそれ、ドワーフ向けっていうお酒頼んだので」

「うう……。

 …………いや、ありがとうございます!

 ごちそうになります!」

 

 

 断り続けても角が立つと思ったのか、折れてくれたようだ。

 あのままカルメリガに送ってさようならでも問題はないが、さすがに後味が悪い。

 

 鍛冶師になにかトラウマがあるのか知らないが、不快な思いをさせたのは事実だし、食事を奢って気の良い探索者と冒険者としてお別れしたい。

 もしかしたら案内可能だという15階層まででまたお世話になるかもしれないし。

 

 

 酒を飲むのは久しぶりだとちびちびと遠慮していたが、料理が進む頃には普通に飲んでいた。

 自分たちのものと一緒に飲み物のおかわりを頼む。

 先ほどと同じ店員だったので、席から戻って行くところで捕まえて追加分を支払っておいた。

 

 エールと一緒に届いたドワーフ向けの酒からは、やはり酒精の強い香りがした。

 

 

 顔が赤くなって緩んだ表情をしているが、酔っているんじゃないか?

 創作でのドワーフはザルで全く顔色が変わらず飲み続けたり、真っ赤な顔で陽気に飲み続けたりするイメージだが、シャオクは後者らしい。

 

 2杯目の半分まで飲んだところで気づいたらしい。

 

 

「すいません、おかわりまでもらって……。

 ボク、何も考えずに……」

「大丈夫、大丈夫です。

 こちらのついでに頼んじゃっただけですから」

 

「いつもそうなんです。

 後のことを考えずに……」

 

 

 急にネガってしまった。

 この辺が切り上げ時だろうか。

 

 

「でも最後にお二人のような方と食事できてよかったです」

「いや、お食事くらいならまた都合が合った時にできますよ!」

「そうですね、シャオクさんとでしたらきっと次が……」

 

 

 アコルトも察して繋いでくれる。

 なんとかこの場だけでも取り繕って、送っておしまいにしよう。

 

 

「いえ、もう次はないんです。

 明後日には……」

 

 

「奴隷になるので」






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)



アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14



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次回は8/14更新の予定です。
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