シャオクが奴隷になる……?
何かに事件に巻き込まれているのか!?
アコルトと揃って目を丸くしてしまった。
「あああ、お二人にはこれ以上ご迷惑がかかることではないです!
ボク自身の前からの問題なので!」
向こうは酔ってポロッと溢したのかもしれないが、こちらは一気に醒めてしまった。
「すみません、お二人が親切にしてくれたので、つい漏らしてしまいました。
……そうですね、誰かに話したかったのかもしれません」
「無理に話さなくても……」
「……うん、いや、……聞いてもらえませんか?
話して、最後に自分の考えをまとめたいんです。
カルメリガとこことの往復代も、今の食事代もまとめて多く払います。
どうせお金が多少余っていても、どうにもならないので……」
なんだか終活みたいでしんどいな。
一般人が奴隷に堕ちるのは、こんな悲壮感なのか。
アコルトも苦い顔をしている。
うーん、関わったのも縁だし、聞いてあげるべきだろうか。
犯罪奴隷ということではなさそうだし、こちらが損害を被るというわけもないようだし、しかたない。
「分かりました。
力にはなれないかもしれませんが、お話を聞くだけなら……」
「ありがとうございます!」
「それでしたら部屋に戻ってからお聞きしたほうがよさそうですね」
たしかにアコルトの言う通りだろう。
他の客との距離はあるが、奴隷に堕ちることなどなるべく他人に聞かれないほうがいい。
それから残りの食事と飲み物を平らげて、部屋へと移動する。
短時間で何度も鍵を預けたり受け取ったりしているが、フロントの旅亭は気にせず対応してくれる。
客の少ない時間帯だからだろうか。
***
2台あるベッドにそれぞれ自分とアコルトが腰掛ける。
シャオクは椅子に座ってもらった。
少しの間空を見つめて逡巡した後、こちらを見すえて口を開いた。
「えっと、まず奴隷になるというのは、ボクが税金を払えていなくて夏季になると脱税奴隷になるということです」
そういうことか。
アコルトに前に聞いていたが、冬季の間に税金を納めないと年が明けた時点で奴隷候補という扱いになるらしい。
春季の間は奴隷候補だが、夏季になるまでに追徴分を含めて納めないと、脱税奴隷になってしまうそうだ。
犯罪をすることで自動的に盗賊になるように、きっとこの世界のシステムとしてステータスが書き換わるのだろう。
確かにそれはシャオク自身の問題だ。
明後日は夏の上月1日、期限の日というわけだ。
「一昨年まではちゃんと納められていたんですが、去年は使いすぎてしまって払いきれなかったんです」
「誰かに借りる、とか……」
「そういう話もあったんですが、返せる当ても一緒になくなったので……」
一緒に失った?
ギャンブルかなにかか?
「ミツキさんが質問された、鍛冶師にならないのかですが、……なれなかったんです」
「ああ……」
「知っているかもしれませんが、鍛冶師ギルドでは探索者のアイテムボックスが10列ちょうど、つまりLv10での試験を受けることが出来ます。
Lv10ちょうどの者の中で、さらに適性がある者だけがなることができるジョブなのです」
「つまりシャオクさんのレベルは……」
「……Lv11です。
つまり、受験前の確認の時点で条件を満たしておらず弾かれてしまいます」
そんなことがあるのか。
しかしシャオクは実際には鍛冶師のジョブを取得している。
試験を受けられさえすれば、就くことができるはずだ。
「Lv10以外でも、試しに試験を受けられる場所はないんですか?」
「そんな鍛冶師ギルドがあれば、皆その街へ集まっちゃいます。
そもそも共通の規定を破っている時点で、ギルドとして認められないでしょう」
原作ではギルドに関係なく、取得しているジョブに就ける神殿があるとかないとかの噂が述べられていたと思う。
そういった眉唾物の話はこちらの世界にはないのだろうか。
「ボクも調べてみて、お金を払って鍛冶師ギルドに所属させてもらえるという話を見つけました。
でも実際はすでに鍛冶師になっている者で、様々な理由で所属ギルドを失ったり離れた者を所属させてくれるという、溢れた鍛冶師の救済の場でした」
「やはり厳しいものなのですね」
原作から推測できる鍛冶師のジョブ取得条件は、ドワーフであること、探索者Lv10であること、槌で1回で複数の敵に攻撃することだと思われる。
しかし、シャオクはLv11にも拘らず鍛冶師を取得している。
これはLv10の時点で条件を満たしてジョブを取得し、その後Lv11になったと考えるのが正しいのではないか。
Lv11以上で新規に鍛冶師を取得できたとすれば、Lv11以上で試しに試験を受けた場合、迷宮にある程度潜って前衛を任されるような強者は皆鍛冶師に就けてしまう。
おそらく”Lv10を超えるまでに1回で複数体への攻撃を行う” ということが条件なのかもしれない。
これなら強くなった後に攻撃の条件を満たしても鍛冶師になれることはなく、Lv10でダメだった者がLv11以上で再度試験を受けたところで、ほぼすべて試験に落ちることになる。
となれば、Lv9以下でもLv11以上でも試験させても無駄という認識が広まるだろう。
シャオクがLv10の時点で試験を受けなかった理由は分からないが、試験の前提条件は妥当だ。
まず探索者Lv10ちょうどであるかを篩にかけなければ、試験人数が膨大になる。
恩情で試験を受けさせ、我も我もと続いたところで9割9分9厘は鍛冶師になれない。
厳格なギルド規定故に権威あるジョブなのだろう。
「ボクはもともと孤児でしたが、引き取ってくれたおじいちゃんが鍛冶師で、ずっと憧れていました。
おじいちゃんやその知り合いの鍛冶師の方に、何度も話を聞いて回りました。
これをやったら鍛冶師になれた、鍛冶師にはこれが必要だ、って」
シャオクが懐かしむように話す。
~ ~ ~ ~ ~
いつか自分も鍛冶師になり、本当の祖父のように接してくれるその人に、自らが作った装備を見せたい。
その思いで、集めた話から鍛冶師になるための達成すべき目標を1つずつ決めていく。
鍛冶師になれるのは才能のある者とされていたので、知り合いの幼子がせがんでくれば、皆誇らしげに自身の経験を語った。
シャオクは、実家が農家だったという鍛冶師の話を聞けば農作業を率先して手伝った。
槍を使って何体も一度に貫いたという鍛冶師の話から、長い棒を拾ってきて槍の練習を繰り返した。
その様子を見た祖父から使い古しの武器をお下がりとして譲ってもらって、手伝いの合間に練習する。
探索者ギルドに所属し、小さな依頼もこなすようになった。
依頼料が少々貰えるようになると、他の種類の武器が手元になければ他の工房へ赴いて、修練で作られた武器を安く売ってもらった。
そうして練習する武器の種類を増やしていくことで、鍛冶師になるための道が拓けるならと。
そんな中14歳の時に、可愛がってもらっていた祖父が亡くなった。
結構な高齢ではあったが、壮健だったように見えていたので突然だった。
翌年から税金がかかり始めるシャオクを引き取れるほど、余裕のある知り合いは居なかった。
形見分けの他にいくらかのお金を包んでくれる者もいたが、それでも現状は厳しい。
受ける依頼の量を増やすようにしたが、低レベルの探索者に賄えるほどの額ではなかった。
祖父との繋がりのあった不動産を営む者に、維持費もままならない家を見てもらってお金を融通してもらう。
それなりの広さがあるとはいえ、結構な傷みもあり大した額は望めないと思っていたが、資金と合わせて当年分の税金は賄えるくらいには色を付けてもらえた。
不動産に感謝しつつも、その後の対応を確認する。
おそらくこのままだと借り手はつかないだろうから、家を潰して土地として売ることになるだろう。
買い戻せるなら最低限の手入れだけにしておくが、待てるのは数年の期限になりそうだ、と。
毎年の税金を払いつつ、さらに資金を貯め、家を買い戻す。
鍛冶師になれさえすれば、工房に所属して働いたり、別口で製造の依頼も受けられるかもしれない。
そしてシャオクはいかに仕事を効率的にこなすかを考えるようになる。
少額の依頼でも特定地域でまとめてこなせるものを複数種類請け負ったりはもちろん、期限制の素材の高額買取にあたりをつけて利益を出すこともやっていた。
直接店に商品の素材として買い取りの持ち込みもした。
当然失敗して元が取れなくなるようなことには手を出さなかった。
鍛冶師になるため、そのための生活を続けるための資金を稼ぐことに必死で、交友関係も広くは持たなかった。
見せる相手はいなくなったが、鍛冶師になることが夢であるのは変わらなかった。
自分が情に弱いことは自覚していたので、特定のパーティーを続けることなく、同様の目的をもった一時的な集まりでのみ複数人での依頼を受けていた。
1年に10万ナールという税金は重い。
なんとか当年分を稼ぎ、翌年を少しでも楽にするために更に仕事をこなす。
その中でも自分が立てていた目標を、一つ一つ実践していった。
武器の種類を替え、戦闘スタイルを替える。
素手で魔物を倒したと豪語したかつての工房の人の言葉から、低層だが素手で倒してみたりもした。
低レベルの探索者にしては相当頑張って日々を過ごし、ある程度は資金にも余裕ができた。
そして18歳の頃には、鍛冶師になるために立てた目標の項目を全て終えた。
念には念を入れて、目標リストを増やした上でである。
後はそう、探索者のレベル上げである。
資金を稼ぎつつも修練を重ねてはいたが、やっとLv7だ。
これからはさらに時間がかかるだろう。
不動産に待ってもらっている約束も、当初の数年からなんとか5年に延ばしてもらった。
それでも2年後までである。
レベルと同程度の階層では、なかなか上がることはない。
そして一人で挑むのは無理な深度でもある。
7階層あたりといえば、同時に出現する魔物が4体に増える8階層を目前にして、パーティーの結束や拡充を図る頃合いだ。
だが、同じパーティーに探索者は2人いらない。
追加の人員として求められるのは戦士や剣士、僧侶といったスキルが直接戦闘に寄与する人材だ。
そこでシャオクは考えた。
レベルと同階層のパーティーに求められないなら、より上位のパーティーに入れてもらえばいい。
探索者なら
今の自分でも7個✕7列のアイテムボックスは使える。
それに自分はドワーフだ。
他の種族に勝る膂力で他の荷物も余裕で持てる。
だがそれくらいは自分よりレベルの高い探索者も考えるだろう。
アイテムボックスの容量は、Lv7とLv8ですら15個分も違うのだ。
アイテム外の荷物よりも、ドロップ品を多く詰め込めたほうがいい。
戦力外で適正以上の深層についていく時点で、魔物を倒した際に得る経験とアイテムの分前が目当てだと知られている。
分け前をなしにしたところで、御守りが増えるのは邪魔だろう。
ならば、こちらが金を払えばどうだろうか。
分前のいらない荷物持ちが、金を払ってついてくる。
それはもはや、アイテム管理をしてくれる護衛任務となる。
今年の税金分はすでに貯めてある。
損して得取れではないが、その余剰分を使って鍛冶師の試験のためのレベルを上げるのだ。
この狙いは見事に当たり、6人の枠が埋まっていないパーティーに売り込みを掛けたところ、うまく潜り込むことができた。
顧客となるパーティーとしても、おいしい護衛依頼の情報を他のパーティーに漏らすこともなく、シャオクのことが広まることもない。
これも目論見通りであった。
8階層、9階層と少しずつ潜る階層を上っていく。
同行パーティーを替えつつ、1日限りの見学をさせてくれとお金を出せば、大抵のパーティーは二つ返事で了承してくれた。
暫くの間はアイテムボックスが増えることはなかったが、10階層へと足を延ばした際にレベルが上った。
Lv8、あと2つだ。
このやり方は間違っていない。
ある程度続けた日数を潜っては、拠点とする街も変更した。
鍛冶師になるための条件レベルが目的であると確信されてしまえば、実際になれた時に恩を着せられるのはまずい。
ずっと同じところに留まれば、目をつけられてしまう。
通常の依頼と休養とを挟みつつ、そうした運び屋の仕事を続けていく。
そうして11階層、12階層……と階層を上げていったが、そう簡単にレベルが上がるものではない。
秋季の中頃にLv9へと上がった時には、税金分の資金に手をかけそうになっていた。
あと1レベル。
来年の春には鍛冶師になっていなければ、再来年に家を買い戻すのは厳しいだろう。
不動産に拝み倒して、やっとのことで折れてもらって延ばしたのだ。
冬季には誰もが税金のために入り用で、いつもより上位の階層に潜るパーティーにも声がけできそうだ。
だが、その分運び屋の依頼料を釣り上がってしまう。
悩んだ末に、まずは鍛冶師になることを最優先にした。
このまま税金を納めて来年に繋いでも、春先は皆年末の反動で迷宮への足が遠のくだろう。
そうすればそれだけLv10になるのは遅くなる。
税金を払えず滞納金が発生したとしても、鍛冶師になればその信用で不足分を借りて納めてしまえば良い。
来年の年末までなら、探索者の時以上に稼げるはずだ。
そしてシャオクは、街も大きく迷宮探索も盛んなカルメリガへとやってきた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14
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次回は8/17更新の予定です。
次回もシャオクの回想から始まります。