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カルメリガは冒険者ギルドも探索者ギルドも賑わっていた。
もちろん冬季だからというのもあるが、迷宮自体にも理由がある。
こちらの迷宮は、近年現れた近隣の迷宮よりも前からあるだけあって攻略が進んでいる。
魔物の種類が判明し、探索できる階層の情報が多いほど、人の入りも多い。
人数の少ないパーティー同士で組んで、報酬を等分することはままある。
最大6人だからといって、フルメンバーで組めているパーティーはそれほど多くない。
そんな中シャオクも、4人組や5人組の集まりを見つけて交渉を始めた。
最初は怪訝そうな顔で話半分で濁されるが、いくらかの前金を見せると飛びつくように頷かれる。
その調子で13階層まで何組かのパーティーについて行ったが、なかなかレベルは上がらずLv9のままお金が出ていくばかりだった。
焦りと不安ばかりが募っていく。
ギルドに集まる依頼もこの時期はすぐに無くなってしまうため、迷宮前の階層案内に立つことも多くなった。
調べ物は好きだったので、ギルドの資料室で魔物の情報は調査済みだ。
直接立ち入ったのは13階層までだが、出現する魔物の階層情報はもっと上位の階層まで頭に入れてある。
冬の月も半ばを過ぎた頃、あるパーティーに声を掛けられる。
「この子いいんじゃない?
ドワーフだし、力もあるでしょ」
「お前はいつも安直すぎるだろ……。
まぁ、聞いてみるよ。
……ちょっといいかな?」
どうやら盾持ちとして雇いたいそうだ。
聞いてみれば、普段は20階層より上で戦っているらしい。
前衛の竜人族のメンバーが怪我をしたそうで、階層を落として迷宮を回りたいということだ。
装備している防具からも、嘘ではなさそうだ。
17階層あたりを考えているそうだが、さすがに戦闘メンバーとして参加するのは厳しい。
レベルを聞かれたので正直に答えたが、向こうも難色を示している。
今階層案内に立つ者の中に、他のドワーフも竜人族もいなそうだ。
自分にとっても、レベルを上げるまたとない機会だというのに歯痒い。
「ひとつ思いついたことがあります」
「なんだい?」
槍を持ったリーダーらしい男性が話を聞いてくれるようだ。
ローブの女性に向き直る。
「お姉さんは魔法使い様ですか?」
「そうだけど、何?」
「15階層ならクラムシェルとハットバットなので、だいたいの魔物は土魔法で弱点属性を突けます。
あとは出るとしたらサラセニアかフライトラップなので、動きは遅いでしょう」
「…………!
でも、あなたを守れないでしょ」
「13階層までなら運び屋としてついて行けました」
「だからって、その2階層も上なのよ?
怪我したってある程度までしか治せないわよ!?」
「コウモリの羽は買い取りの依頼が出ていたはずです」
「そういう問題じゃないのよ!」
「アイテムの分前はいりません。
なんだったらこちらが出しても……」
「それは本当かい?」
今まで口を挟まなかった、スタッフを持った僧侶風の男性が話に入ってきた。
「分前はおろか、こっちが護衛料を貰えるなら話は変わってくるね」
「変わらないわよ!」
「いや、自分がスタッフじゃなくて剣と盾を持って前衛に出よう。
彼女には預かっている大盾で、後ろと自身を守ってもらっていればいい」
「それでも……」
「さっき言った魔物の組み合わせなら問題ないはずだ。
植物の魔物が出た場合だけ気をつけて一旦下がればいい。
我々だってお金が必要なのは分かっているだろう」
頭では納得できたのか、ローブの女性は黙ってしまった。
どうやらこのスタッフを持つ男が本当のリーダーのようだ。
分け前を放りだしてまで同行に固執したことで、レベルを上げたいことが目的であることもこのパーティーに気付かれてしまったはずだ。
だが、全員に気付かれたからこそ触れてくる者もいないのはありがたかった。
その後は内容の取り決めだ。
取り決めと言っても、先程自分で口に出した通りである。
ドロップアイテムの分前は無し、実質護衛依頼ともなるその依頼料をこちらが払う。
大盾の貸出料と思えばいいし、仮に大盾が傷ついたとしても修繕費はあちらが持つそうだ。
期間としては今日1日間のみ。
様子を見て明日もお願いするかもしれないとは言っていたが、こちらとしてもレベルが上がらなければ連続でお願いしたいところだ。
あちらの影が薄い探索者の男にパーティーに加入させてもらう。
ちなみに怪我をして療養している竜人族は女性だったらしい。
迷宮に入り、ダンジョンウォークで15階層へ移動させてもらう。
これで自分もカルメリガについては14階層以外へは移動できるようになった。
魔法使いの女性とともに後衛につき、大盾を持った。
さすがはもっと上の階層に潜っていると言っただけあって、戦闘がスムーズだ。
自分を抜いたら4人だというのに、今まで共に探索したどのパーティーよりも対応が鋭いし、仕留めるのも早い。
魔法使いというのはこんなに火力が出るものなのか。
1回の戦闘で魔法を撃つ回数を制限しているようだが、短期決戦なら恐ろしい相手だろう。
前衛となる片手剣の僧侶と両手剣の探索者も、かなりの剣の使い手だ。
敵の隙を窺いながら何度も刃を入れていく。
その頭上を飛ぶハットバットには、2人の後ろから戦士の槍が突き刺さる。
長いリーチで刺し穿ち、あるいは叩き落とすことで、後衛にまで敵が回ってくることはない。
それぞれの役割が際立っていて、非常に安定した優秀なパーティーだ。
本来は盾役が止めている間に攻撃を加え、回復ももっとやりやすいのだと僧侶の男性が言っていた。
後ろから魔物が合流した場合に防ぐことと、後衛の魔法使いを守ることが自分の役割だ。
今のところ大した仕事は出来ていないが、自分が横についているからこそ、僧侶の男性が前衛に出ていられるのだろう。
レベルはと言うと、実は10回もいかない戦闘ですでに探索者Lv10になっていた。
これまでギリギリ届いていなかっただけで、やはりレベルより上位の階層ならば相当な早さで経験が積まれていくのだ。
あれだけ言って組ませてもらった手前、もういいですとは言えなかった。
このパーティーの立ち回りは、見ているだけでも十分すぎるほどに勉強になる。
鍛冶師になった後も、製造材料のために迷宮に潜ることがあるかもしれない。
無駄になることはないだろう、と思うことにして探索を続けた。
魔物の出ない小部屋で休憩をする。
それぞれ弁当を食べたり、携帯食料をかじっている。
自分はと言えば、少量の保存食を腹に入れた程度だ。
見かねた魔法使いの女性が、食べ物を分けてよこしてきた。
女性が少ないこともあり、こちらを気にかけてくれているようだ。
関係が深まるのを恐れて何度も断っていたが、無理やり渡してきて食べろと言われてしまった。
その後も15階層での戦闘を続けた。
午前中と同様に、後方で待機しているくらいだ。
ほとんど役に立っていない気がしたが、こちらがお金を払っているのもあって特に何か言われることもない。
そう思って油断していた束の間、視界の端にこちらに近づく何かが見える。
「後ろからサラセニアが来ています!
数は1!」
「前は群れだ!
……しばらく頼めるか!」
「できます!」
4人が前方の群れの対処をしている間に、1体だけとはいえLv15の魔物の攻撃を凌がなければならない。
だがあれだけこのパーティーの戦闘を見ていたので、防ぐだけなら自分にも出来そうだ。
袋状の体から消化液を飛ばしてくる攻撃は、盾で防げば問題ない。
葉を伸ばしてくるのも、大盾ならばその重量で十分弾くことができる。
魔法使いを囲うように位置取りをすれば、あとは耐えるだけだ。
突進をされても、大盾が止めてくれる。
前の魔物が残り1体になったようなので、戦士がこちらに合流した。
魔法使いもサラセニアに焦点を当てて詠唱を開始した。
戦士がサラセニアに槍を突き入れたタイミングで、その脇から何かが急接近してくる。
ハットバットだ。
途中で体を捻って向きを変え、そのままだと魔法使いへと飛んでいくように見えた。
女性は詠唱中で気づいていない様子だ。
間に合わないと悟り、大盾を軽く持ち上げてその重量で地面に突き立てる。
腰の剣を鞘ごと外してハットバットの向かう軌道へと投げた。
直進したハットバットの体当たりを、剣が砕けながらも止めることに成功した。
落ちた蝙蝠の体を、戦士の槍が地面に縫い付ける。
「よくやった!」
前方の魔物を仕留めた2人も合流し、魔法使いとともに配置を入れ替える。
その後、ハットバットもサラセニアも集中攻撃で倒すことができた。
以降は不測の事態になることもなく、夕方まで狩り続けて迷宮を出てその足で探索者ギルドへと戻った。
カウンターに探索者の男性と共に並び、まとめて売却させてもらう。
待合室に戻ってパーティーと合流した。
「今日は助かったよ。
分前については約束通りで申し訳ないが、剣については弁償させてもらう」
「お役に立ててよかったです。
ありがとうございます」
魔法使いの女性も何度もお礼を言ってきた。
「それと、明日なんだが……。
可能ならお願いしたい」
「明日も、ですか……」
「君がいてくれたら後衛も安心して任せられる。
やってもらうことは同じだが、通常の同行のように依頼料もなしで分前も出そう」
目的である探索者Lv10も達成した今、ある程度だが資金が返ってくるのは助かる。
可能であれば鍛冶師ギルドで試験の日程を確認したいが、明日の迷宮が終わってからでもいいと思った。
「わかりました。
分前も頂けるようなら、明日もお願いします」
「嬉しいわ、ありがとう!
予想よりだいぶ売却金も稼げたけど、予定額までにはもうちょっとだったの」
「それは言わないようにしてたのだが……。
階層選択や買取依頼がよかったのもあるが、もうしばらくかかかると思っていた目標額まで手が届きそうになるとは思わなかった。
位置取りや細かいフォローもよく気づいていて、ありがたかったよ」
上位のパーティーが褒めてくれるのはこちらも嬉しい。
食事に誘われたが、持ち合わせがないと断ることにした。
納税額に大きく不足しているので、少しでも倹約したい。
それに目的も分かっている人たちとあまり深く関わりたくはない。
明日の朝迷宮前で待ち合わせる約束をして、安宿へと帰った。
***
翌朝、最低限の身だしなみをして、保存食をかじりながら迷宮へと向かう。
水で流し込むように飲み込んでいるが、味には期待していない。
つい癖で、階層案内の探索者のいる辺りに足が向いたが、後ろから声がかかる。
昨日の魔法使いの女性だ。
後ろにはパーティーが揃っているようだ。
挨拶も程々に、15階層へと移動する。
やることは昨日と同じだ。
魔法使いを守りながら、後方からの魔物の合流に対処する。
昨日ほどの窮地に陥ることはなかったが、縦長の配置になりやすい戦況では時偶魔物が後方からやってくることもあった。
その都度報告し、対峙したり前方へ押し進んで合流を避ける等の指示を仰いだ。
朝からすぐに迷宮に入ったというのもあるが、この階層での戦い方の勝手を掴めたようで先日よりも戦利品は多そうだ。
今日は分前を貰えるとのことなので、期待してもいいかもしれない。
階層案内の際には客が来ればいいが、そう何度も入れ替わり立ち替わりでくるものではない。
1度、目的の階層を案内をすれば、同じ客がまた来るということはほぼない仕事だ。
2桁階層くらいを案内できれば大きくプラスだが、そんなことはめったにない。
もっと数十階層くらいの選択肢があればいいのかもしれないが、それはもう冒険者になれるようなベテランだ。
アイテムボックスを少しずつ埋めながら、今はパーティーでの戦闘の勉強だと割り切った。
この日の迷宮探索も終わり、ギルドでアイテムを売却する。
そのうち、代金を頭数で割った分のお金を受け取った。
決して高額ではないが、淡々と依頼をこなして受け取るときよりなぜだか嬉しいと思った。
どうやらあちらは予定額に届いたらしい。
感謝され、こちらも礼を述べ、また機会があればと別れることにした。
昨日よりは多少早い時間だったので鍛冶師ギルドに向かい、扉を叩いて人を呼んだ。
次の鍛冶師の試験日を聞くと、4日後だそうだ。
上手く行けば、年内に鍛冶師になれる。
やるべきことはやった。
探索者のジョブレベルも足りている。
あと不安なのは資金だけだ。
それとなく鍛冶師になってからのお金のことを聞いてみると、ギルド宛の依頼の斡旋や、ある程度ならギルド員への貸付もやっているらしい。
それよりもまずは鍛冶師になるための努力をするのだと豪快に笑われた。
税金に関してはなんとかなるかもしれない。
代わりに借金を背負うことになるが、多少希望が持てた。
***
2日連続で迷宮に潜ったので、翌日は休息を取ることにした。
休息と言っても安宿の硬い寝床での時間が長くなっただけで、結局昼には依頼を確認して迷宮前の階層案内に立っていた。
誰も客を掴めないことも往々にしてある。
むしろ多いくらいだ。
試験日への高揚感と不安を高めつつ、これまで達成した目標を考えながらこの日を終えた。
翌日も同様に依頼の確認をする。
コウモリの羽に代わり、今日からはシェルパウダーも買取依頼が出ているようだ。
迷宮前に足を運ぶ。
階層案内の探索者に紛れて立っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ、いた。
よかった!」
この前の魔法使いの女性が近づいてくる。
その後ろには、これまた同様にあのパーティーだ。
どうやら税金は払い終えたらしいが、買取依頼を見て手銭を増やそうとしていたらしい。
ギルドにいた者にも声を掛けたが盾役が見つからず、シャオクを探していたそうだ。
「何度もお願いして悪いけど、よかったらまた一緒に潜ってもらえると嬉しい!
あなたと会うのはこれが最後かもしれないから……」
話を聞いてみると、療養していたメンバーの復帰を機に拠点を別の街に移すそうだ。
これ以上深い関わりになるのを避けようと思ったが、あちらが離れてくれるようなら最後に探索してもいいかもしれない。
それに家を買い戻すためにも、お金はいくらあっても足りない。
前回と同じ条件で了承すると、さっそく15階層へと移動する。
1日空けたが、動きが鈍ることなく戦闘についていけている。
なるべく魔物に挟まれるような戦況を避けつつ、今日も順調にドロップアイテムを増やしていった。
昼にはまた女性が食べ物を渡してきたが、今度は初めから礼を言って受け取ることにした。
家を買い戻したら、いつか誰かとこんな風に食事を楽しめるような関係になれたらいいなと思ってしまった。
鍛冶師になって、暮らしていく日々のお金に困らないくらいになったら、もう少し人との付き合い方を考えてみよう。
その後も危なげなく階層を練り歩き、順々にアイテムボックスが埋まっていく時に、あることに気づいた。
いや、気付かなかったふりをして探索を続けた。
やがてそろそろ終わろうかという時間になり、迷宮を後にしてギルドへと向かう。
買取カウンターで戦利品を売却し、探索者の男性と共に待合室へ戻った。
お金を受け取ったらこれで終わりだ。
慣れてきた頃から戦闘中以外は終始話しかけてきた魔法使いの女性も、だんだん口数が少なくなる。
シャオクも先程から相槌だけで何も話せていない。
僧侶の男性から売上の分前をもらい、皆に礼を言って挨拶をする。
自分の様子が別れを惜しんで悲しむように見えたのだろうか、女性が抱きしめてきた。
お元気で、とそれだけ返して頭を下げた後、安宿へと足を動かした。
戻ってきた狭い部屋の硬い布団の上に荷物を並べ、銀貨を10枚だけ取り出した。
たどたどしくアイテムボックスの呪文を唱える。
1枚ずつゆっくりと、震える指で1箱ずつに入れていく。
手の中の銀貨が無くなった時、空の箱が1つだけシャオクの前に残っていた。
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スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14
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次回は8/20更新の予定です。
キリの良いところまでにしたら少々長めになってしまいました。
次回から現在に戻ります。