異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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030 狙い

「そんなことがあって、欲をかいたので探索者Lv10の確認で弾かれてしまって、鍛冶師にはなれなかったんです。

 その後は奴隷候補になってしまったので、カードの確認のない宿に泊まるようになりました」

 

 

 取って付けたような乾いた笑いをして、シャオクがこれまでのことを語り終わった。

 夢だった鍛冶師にはもうなることはできず、思い出の場所を守ることももうできそうにない。

 希望が見え、他人との交流にも憧れを抱いた途端に両方を失ってしまったのだ。

 

 果たして全てが欲をかいたからと言えるだろうか?

 

 シャオクの努力は、その取得ジョブからも見て取れる。

 実際に鍛冶師を取得したのだって、やれることは全てやって自分の力で条件を満たしたからだ。

 

 ゲームだとキャリーと呼ばれるパワーレベリングについても、自身で稼いだ金を使ってやったものだ。

 対価を払って相手にもメリットのある取引で了承も受けていたようだし、それ自体には何ら問題はなかったと思う。

 

 Lv10になった後に探索に潜ったのだって、お金の問題もあるが情に流された部分も大きいだろう。

 

 

「聞いてもらってありがとうございました。

 おかげで自分の中でも整理できました」

「……お送りしましょうか」

 

 

 シャオクがそう言って椅子から立ったのに合わせて、アコルトも立ち上がる。

 

 もしこのまま奴隷になるのなら、シャオクを引き入れられないだろうか。

 鍛冶師が欲しいというのももちろんあるが、それよりも話が本当なら救ってあげたいという気持ちが強い。

 

 礼儀正しくて努力家なのは見て取れた。

 

 こちらを探索者と冒険者だと思っているようなら、鍛冶師になれない探索者の自身を売り込む意味がないので嘘は言っていないはずだ。

 スキルもジョブも足りている相手に、借金持ちを明かしても無駄だろう。

 同情だけで手を差し伸べられるほど、簡単な額ではない。

 

 階段を降りて、宿前の絨毯の前に立つ。

 アコルトがフィールドウォークの呪文を唱えるのに合わせて、カルメリガの冒険者ギルドへと繋がるゲートを開いた。

 

 3人揃ってゲートを抜ける。

 

 

「送ってもらってありがとうございます。

 ……っと、こちらが代金です」

 

 

 差し出された貨幣を受け取らずにいると、シャオクが首を傾げる。

 

 

「えっと……どうしました?」

 

 

 気を利かせたアコルトが受け取ろうと前に出たのを手で制す。

 

 

「……明日。

 明日も話せますか?

 その時に受け取ろうと思います」

「明日……ですか。

 明日はまた迷宮前でボーッとしているかもしれません。

 ……踏ん切りがつかなくて、騎士団や商館に向かうのはどうしようもなくなった明後日になると思います」

 

「じゃあ、迷宮前に顔を出します」

「本当に……いえ、分かりました」

 

 

 頭を下げて宿があるであろう方向に足を動かしたシャオクを見送り、アコルトに向き直る。

 

 

「クラザの宿で話そう」

「かしこまりました」

 

 

 再び空翔ける仔馬亭に戻り、階段を登って部屋に帰ってきた。

 

 

「シャオクを引き入れたいと思うんだけど、アコルトはどう思う?」

 

 

 自分の問いに小さく頷いたアコルト。

 その顔には笑みも浮かんでいる。

 

 

「お嬢様はそうおっしゃると思いました。

 私も可能ならそうすると思います」

 

 

 よかった。

 自分に従うだけというわけではなく、アコルトも同じ思いのようだ。

 ですが、と続ける。

 

 

「追徴分を含む税金に充てる資金と、まだ自由民である彼女を奴隷にする方法の目処が立ちません。

 脱税奴隷になってからでしたらその借金分の労働があったりと、いつ所有できるのかも分かりません」

 

 

 確かにその通りだ。

 追徴分が加算されるなら確実に足りない。

 

 

「資金については自分がなんとかする。

 アコは商館に行ってもらって、ナルディロ殿に確認してきてほしい。

 奴隷候補や脱税奴隷についてどうすれば救えるかや、どうすれば通常の奴隷として所有できるのか」

「かしこまりました。

 お嬢様の名前をお出しして、相談という形でよろしいですか?」

 

「うん、あんまり大っぴらにしたくないから内密にお願い。

 その後は宿に戻ってきて休んでいてほしい」

「承知いたしました」

 

 

 小袋に銀貨を10枚ほど入れて、使っても使わなくてもいいとアコルトに持たせる。

 命令以外では奴隷にお金は持たせないものだと言われたが、主人が不在の時に飲み物すら買えないのは辛いだろう。

 メイド服に着替えてもらった後、そのお金の使い道を考えるのが命令、ということにして送り出した。

 

 

 先程アコルトが指摘したように、シャオクを仲間にするには早急に資金を用立てる必要がある。

 断られたとしても、用意した資金は次の奴隷や借家を手に入れる算段が立てられるので無駄にはならないはずだ。

 

 となると、気が進まないがあそこに行くか……。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 リュックに詰めた中身を確認し、カルメリガの冒険者ギルドへと飛ぶ。

 そこから迷うことなく歩いて、古着屋へとやってきた。

 

 

「おお、ミツキ殿。

 本日はいかがされましたかな?」

「ザノフ殿に相談がありまして……」

 

 

 背負ってきたリュックを前掛けに回して視線を送ると、ザノフはかすかに頷いて従業員を呼んだ。

 

 

「今日はこれから商談があるので、店を頼むよ」

「店長、まーた変わった服でも見つけたんですか。

 はいはい、後はやっておきますのでどうぞどうぞ」

 

 

 店員の青年は慣れた様子で、ザノフから引き継いで見送ってくれた。

 いつもこんなことをしているのだろう。

 

 半分諦めたような顔をしていた青年は、このザノフがいくつもの高級店のオーナーだと知っているのだろうか。

 

 

「以前の商談部屋でよろしいでしょうか?」

「はい。

 今回は人払いもしていただけると助かります」

「なるほど……」

 

 

 前回よりは速いペースで高級宿へと移動する。

 1週間前とはレベルも段違いなので、何か気づかれているかもしれない。

 

 探索者だけとは言えレベルが認知されている世界だから、鍛えたといえば通じるのだろうか。

 相手が違和感を感じたところで、ボーナススキルの鑑定のように確認する無いのだ。

 

 目利きという未確認ジョブに、それに通ずるスキルはない……よな?

 ジョブ名だけに無くはないと思ったが、それならレベルの概念がもっと変わっているはずだ。

 鑑定士、みたいなジョブが出てきたら終わりかもしれない。

 

 思いを巡らせている間に、件の宿が見えてくる。

 そういえばこの高級宿の名前って何なのだろう。

 

 宿の前に着く頃には、従業員が出てきて扉を開けてくれている。

 入ってすぐに、見覚えのあるフロントが近づいてきて頭を下げた。

 

 

「オーナー、いらっしゃいませ」

「悪いな、また部屋を借りる」

 

「かしこまりました、すぐご用意を」

「いや、今日は私がする。

 そのまま通して構わない」

「……承知いたしました」

 

 

 どうやら今日はインテリジェンスカードのチェックもいらないらしい。

 ザノフの後に続いて部屋に入ると、部屋の中にいた従業員が礼をして扉を締めて出ていった。

 

 

「どうぞ、お掛け下さい」

 

 

 飲み物の準備をしながら促すザノフに勧められるままに、ソファに腰を下ろした。

 本当に本人がもてなしてくれるようだ。

 

 ティーカップには前回と同じ香りのカモミールティーっぽいものが注がれる。

 口をつけたが、前より美味しい気がする。

 淹れ方もザノフの方が巧みなのだろう。

 

 こちらの様子に満足気なザノフが口を開いた。

 

 

「それで、ご相談というのは?」

「以前持ち込んだ品のように、買い取って頂けないかと思いまして」

 

 

 リュックを膝の上に置いて口を広げる。

 

 

「そういうことでしたか。

 また()()()()()()()のですね」

「……ええ、まあ。

 今回が最後で、今後は二度と手に入れる術はないのですが……」

 

 

 そう言ってコンパクトミラーを取り出した。

 やはり、というような目つきで見つめてくるザノフにそれを手渡す。

 

 

「こちらはあの花柄の鏡と同様のものでしょうか?」

「ええ、ですが絵ではなく何やら記号のような意匠が描かれていまして、あちらよりは見目が悪いと思ってお出ししておりませんでした」

 

「なるほど、確かに見た目の印象でしたらあちらの方がよさそうですな。

 しかし鏡自体は遜色なく美しい造りのようです」

「そのように思えましたので、以前も評価していただけたザノフ殿にお持ちした次第です」

 

 

 ミラーを開いたり閉じたり、裏側も確認していたようだが、やはり目につくのは外装の文字だ。

 特に鏡と関係のない英字の愛の言葉だが、見たことのない文字ならば怪しまれて当然だろう。

 

 

「この記号のようなものについては詳しくはわかりませんが、デザインが決まっていない目印と言っていたような気がします」

「それについても例の御親戚が?」

 

「ええ、確かそのように。

 鏡については同等の品ですので、表を塗り替えて違った装飾を施すなどしてもいいかもしれません」

「ふむ……」

 

 

 100均特有のあんまり意味がないチープなデザインを重要視されては困る。

 文字と言ってしまうと、言語として認識していることが伝わるので濁すことにした。

 以前の花柄の方はそのままでこの世界の住人にもウケそうだったが、こちらは異質だろう。

 

 ザノフはどのようにして売るのか、熟考しているようだ。

 このままでも装飾の分が前回の査定より安いくらいで見てもらえるとは思う。

 

 それと……、とリュックからブーツを取り出した。

 

 

「こちらも見ていただきたいのです」

「この靴は……以前お会いした際に履いておられましたな」

 

 

 さすがに目ざとい。

 会ったのも前回の1度だけだが、しっかり覚えていたらしい。

 

 

「この靴は装備品ではないのですが、特殊な素材で作られておりまして……。

 外からは風や水を通さず、内側の空気は外に通すという性質を持っているそうです」

「なんともそれは聞いたことのない性質ですが、防水のブーツでありながら蒸れにくいということでしょうか?」

 

 

 そこまで意識的に履いたことはないが、現代ではそれを売り文句にしているくらいだから実証された性能のはずだ。

 

 

「自分も例の親類にそう聞いただけですので、実際に言う通りの機能が備わっているかどうかは分かりません。

 ですが、こちらの靴は元々ザノフ殿くらいの背格好の方に合わせた大きさで作られているので、私が持て余しているよりもザノフ殿に試して頂けたらと思いましてお持ちしました」

「これはまた……難しいものをお持ちいただきましたな」

 

 

 ザノフの身長は目測で170cm程度で、おそらく自分の元の身体と同じくらいだ。

 よほど足のサイズが大きいとかでなければ、入らないということはないだろう。

 

 

「いえ、こちらの靴につきましては値段も付けづらいとは分かっております。

 あくまで、今回の査定の心付けのように考えていますので」

「ううむ……」

 

 

 そうなのだ。

 ブーツについては完全に在庫処分で、目的としては3割増買取のための複数商品にするためだけの代物である。

 コンパクトミラーと同等で、わざわざザノフが買い取るに見合う珍しいものは、このブーツくらいしか手持ちにないからだ。 

 

 

「試し履きさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろん構いません」

 

 

 ザノフが慎重にブーツに足を通す。

 両足とも履いて、踏みしめるようにソファの周囲を歩いた。

 

 

「なるほど、これは……」

 

 

 表情から見て取るに、どうやら好感触のようだ。

 

 

「いやはや、素晴らしい品ですな。

 装備品とは違って体に吸い付くような感じは致しませんが、確かに私のようなの体格の者に合わせて作られた大きさのようです」

「うまくザノフ殿に合ったようでなによりです」

 

「なにより、履き心地が素晴らしい。

 これなら長時間つけていても疲れにくそうだ」

 

 

 体にフィットするという点においてはこの世界の装備品に勝るものはないだろう。

 しかし、素材の柔軟性やソール等のクッション性、靴自体の軽量化については、人体工学やらなんやらの科学的な力で装備品を凌駕するはずだ。

 

 飛躍した想像だが、欠けたコボルトスクロースがアイテムボックスに入らないように、装備に手を加えすぎるとアイテムの枠組みから外れてしまうのかもしれない。

 その為、スキルを付与する以外に装備品を加工するという考え方そのものがなくなっていったと考えることもできる。

 壊れたという扱いになって装備品としての性能を失う可能性があるなら、そうなるのも頷ける。

 

 現代から持ってきたブーツは防御力もフィット機能も有していないが、人類の叡智の結晶としての防水透湿素材と科学的に負担を軽減する構造で作られている。

 詳しい製造方法までは知らないが、その繊維の原料が石だと聞いて驚いた覚えがある。

 

 防汚性や手入れについても、伝聞形式で伝えていく。

 履いていたことはバレているが、転移二日目には竜革装備に変更しているのでほぼ新品だ。

 一度盗賊の血の池を歩いているが。

 

 

「───というわけなのですが、私も今後は他のものを手に入れることができないので、お礼も兼ねてということなのです」

「そうしますと、これだけの品には益々値段がつけづらいですな……。

 件の御親戚とは……いえ、詮索はしないとのお約束でしたな」

 

 

 今後追加で融通してくれという線を確実に切っておきたい。

 現代から持ってきたものでまだ手元に残っているのは、リュックと櫛くらいだ。

 この世界のものと比べてほとんど変わらなくて特に優位性もない。

 

 構造や希少性という意味でも、今回の品もザノフの気を惹けたようだが、商談が長引くのも困る。

 何かいい落とし所はないだろうか。

 

 

 ザノフ、目利き、伝手、……人脈。

 

 そうだ、欲しかったものがあるじゃないか。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)


アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14



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次回は8/23更新の予定です。
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