異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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031 手段

「それでしたら、2つ合わせて以前の鏡分程度にして頂いて構いませんので、代わりに人をご紹介いただけますか?」

「ご紹介、ですか。

 自惚れになりますが、それなりに顔は広いと自負しております。

 どのような者をご所望でしょうか?」

 

 

 作中の彼のような豪運でなければ得難い関係。

 今後、迷宮探索をしていく上で必要になる人材。

 

 

「信頼できる仲買人をご紹介いただきたいのです」

「……ふむ。

 オークションでもご利用されたいのでしょうかな?」

 

「そうですね。

 自分たちの装備を整えたり、その際に余った装備を売る。

 そういう、今後迷宮に潜るにあたって長い付き合いとなる相手を探しているのです。

 高額にもなり得る取引で騙されたくないという本音もありますが」

「なるほど。

 確かに互いに都合の良い取引相手を見つけるには骨が折れますからな」

 

 

 今はボーナスアクセサリで間に合わせているが、本来は武器に知力補正スキル付与をして、アクセサリにはもしもの時の身代わりのミサンガを装備しておくべきだろう。

 自分の火力装備だけでなく、耐性装備を作るのにも多種多様なモンスターカードが必要になる。

 

 毒に麻痺、睡眠や石化の状態異常耐性に加えて、属性耐性や物理軽減など、求めだしたらきりがない。

 メンバーに持たせる状態異常や詠唱中断のついた武器にも必要なので、個人にしては異常な量を依頼しても不審に思われない仲買人という協力者は必須だ。

 

 仲買人自体は商人ギルドで知り合うことができるだろう。

 しかし、必ずしもその出会いが友好的な関係で結ばれるとは限らない。

 

 自力でなんとか相性の良い仲買人を見つけても、商人ならどうせザノフの情報網には引っかかる。

 あれこれと手を出して怪しまれるよりは、ザノフごと抱き込んでしまったほうがいいだろう。

 

 

「それではこちらの鏡と靴との査定に、代金の他に仲買人のご紹介をさせていただきましょう」

「ありがとうございます」

 

「まずは鏡と靴については合わせて……30万ナールのところ、貴重な品をお譲りいただいたことに感謝して39万ナールと致しましょう」

 

 

 以前のミラー単体よりも色を付けてくれたようだが、さらに3割もぎ取れた。

 狙い通りではあるが、気が引けてくる。

 しかし、今は資金はあればあるだけありがたい。

 

 

「次に仲買人のご紹介ですが、どちらの競売会場を主にご利用したいと考えておられますかな?

 ここカルメリガの他、ルテドーナやフウルバリあたりかとは思われますが」

 

 

 まずい。

 地名が全然わからん。

 

 

「ええっと……。

 今はクラザで宿暮らしでして、どこに家を借りるか検討中なのです」

「クラザでは競売はやっておりませんしな。

 では候補者は見繕っておきますが、ご紹介はミツキ殿が居を構えられてからでよろしいでしょうか?」

 

 

 あとでアコルトと家を借りる街の要検討だ。

 仲買人からの落札連絡も、あまりに遠い場所だと時間も手数料も余計に掛かりそうだ。

 

 

「そうですね。

 今すぐには決められないので、家の場所が決まり次第またお伝えに参ります」

「かしこまりました、ではご連絡をお待ちしております。

 私が古着屋に不在の場合は、こちらの宿のフロントに言伝を頂ければ日程の調整もできるかと思います」

 

 

 やっぱり古着屋がメインなのか。

 高級服飾店も宿屋もオーナーが常駐する意味はないから、平民含め誰もが変わったモノを持ち込みやすいところにいるんだろうな。

 

 変な考察をしている間に、ザノフが従業員を呼び、代金を持って来るように指示している。

 入ってきた従業員にとってはミラーもブーツも無かったかのように、いつの間にか仕舞い込まれたようだ。

 どちらもアイテムボックスには入らないというのに、どこに隠したのだろう。

 

 金貨を39枚数えて袋に入れた後、手渡す際にザノフが耳打ちしてきた。

 

 

「……服飾だけでなく、なにか()()()()()だけでも買い取ります故、お気軽にお声がけください」

 

 

 モノがなくても興味を引けば融通してくれるらしい。

 小さく頷いて返したが、もう渡せそうなものもないし、これ以上買いかぶられても困るんだが……。

 仲買人の紹介の後には、それこそ本業の高級服店くらいしかお世話になることはそうそうないんじゃなかろうか。

 

 ともあれ、これで資金は十分に確保できた。

 ザノフと旅亭に礼を述べ、高級宿を後にする。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 クラザの宿に戻ってきた。

 フロントで確認すると、すでにアコルトが戻ってきて鍵は開いているそうだ。

 

 階段をのぼって部屋のドアを開ける。

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 

 

 椅子で休んでいたようだが、足音で気づいて出迎えてくれたらしい。

 机においてあるのは水筒で、朝補充した水を飲んでいたようだ。

 

 

「ただいま、アコ。

 資金については、不用品を買い取ってもらって都合がついたよ」

「クローゼットのブーツがないのはそういうことだったのですね」

 

 

 さすがに気づいたか。

 言っておいても良かったな。

 

 

「伝えてなかったね、ごめん。

 アコの方は聞いてこれたかな?」

「はい、聞いて参りました。

 ご説明する前に、こちらはお返ししますね」

 

 

 使いに出す前に預けたお金をアコルトが渡そうとしてくる。

 

 

「いや、それはお小遣いみたいなものだからアコの物にして。

 今後も定期的にいくらかずつ渡していこうと思ってる」

「お嬢様、それはさすがに奴隷には過ぎた扱いです」

 

「自分がそうしたいから、これでいいんだよ。

 好きに使えるお金はあった方ができることが増えるし、人のことも考えられる」

「そうでしょうか……」

 

「そうそう。

 今回のお使いだって、そのついでに何か買って食べたり飲んできてもよかったんだよ」

「それはお嬢様の為になるのでしょうか?」

 

「なるよ、アコが元気だと自分も気分がいい。

 おいしかったら報告してもらって、別の機会に一緒に行くこともできる。

 お昼に色んな店を試してるのも似たような感じだよ」

「なるほど……」

 

「手持ちの資金じゃ足りないことがあったら相談してね」

「承知しました!」

 

 

 納得してくれたようでなによりだ。

 意識を変えてもらうには、こちらの説明が不十分だったな、反省。

 

 

「ええと、商館でお聞きしたことを説明いたしますね。

 では───」

 

 

 税金と脱税奴隷については、もともと聞いていたとおりだった。

 

 自由民に該当する場合は10万ナールの納税。

 冬季の間に納められないまま年を迎えると、自動的にインテリジェンスカードに奴隷候補の表記が出る。

 

 奴隷候補の状態であっても滞納の追徴分を含めて納めれば、その表記は解除される。

 春季の間に納められず、そのまま夏季を迎えれば脱税奴隷へと変化する。

 

 インテリジェンスカードの確認で発覚すれば騎士団へと報告され、国の労働力として借金分の労働が課せられる。

 発覚を恐れて逃げていても、冬季になれば盗賊になってしまう。

 

 アコルトに確認してきてもらったのは、どう助けるかである。

 ナルディロが提案してきたのは2つ。

 

 1つは、奴隷候補のままの状態で税金と追徴金を納めること。

 期限ギリギリなので、おそらく13万ナール程度はかかるだろうとのことだ。

 この場合は奴隷候補が外れて通常の自由民に戻ることができる。

 

 2つ目は、脱税奴隷になった後に騎士団への連行前に、奴隷商にて通常の奴隷にすること。

 奴隷商人が税金と追徴分を支払い、通常の奴隷に戻した後、本人の同意を持った上で主人の登録をするということだ。

 この一連の手続き料を払うことで、脱税奴隷である他人を通常の奴隷として所有することができる。

 こちらは奴隷商人への代金補填と登録の手続料込で20万ナールを超えるくらいになるそうだ。

 

 どちらの手続きでも冬季に納める今年度の税金は、自由民である10万ナールと変わらない。

 初年度奴隷の納付額は、元の身分と変わらないからだ。

 

 

「一度奴隷になった場合、また同じ身分に戻るのは容易ではありません。

 より多くの金額を払ってまで自由民を捨てて奴隷にしたがるのは、よほどのお金があって酔狂な方になるとおっしゃっていました」

 

 

 まあそうだろう。

 落ちぶれた自由民を救うにしても、通常より高い金を払ってまで奴隷として所有するなんてそうそうない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「しまった。

 通常の自由民の者を奴隷にする方法も聞いておけばよかった」

「確認してあります。

 騎士団に申請して依頼料を納め、審査されて正式に受理されると、聖騎士様のスキルで同意者を奴隷に変更できるそうです」

 

 

 仕事ができる黒ウサメイドだ。

 ちょっと得意げな口元がキュートじゃないか。

 

 

「審査があるってことは結構時間がかかるのかな?」

「その後の身分を大きく変えるものですから、時間もですが依頼料もかなりかかるそうです。

 具体的な額はお聞きできませんでしたが、健康な通常の奴隷を買う以上はするだろうとおっしゃっていました」

 

 

 自分が奴隷商人のジョブを取得できるにはまだかかる。

 聖騎士も、おそらくその前提である騎士も未取得だ。

 

 この数日中に自分のスキル内で済ませることはまず不可能。

 脱税奴隷のまま匿っていても、どこからか通報されて騎士団に連行されたら終わりだ。

 

 シャオクが仮にこちらについてきてくれるとして、自由民のままであると不安な点は多いし、ここは奴隷になることまで同意してもらうのが一番いいと思われる。

 鍛冶師にする代わりに奴隷になる、という形でシャオクの夢を人質に取るということになるが仕方ない。

 話して納得してもらった上で仕えてもらいたい。

 

 

「アコのおかげでだいたい方針はきまったかな。

 明日、シャオクを見つけたら宿まで連れてきて話をする。

 税金や鍛冶師のことを解決する代わりに、奴隷として仕えてほしいって」

「同意されなかったらいかがなさいますか?」

 

「その時は……諦めるしかない。

 どのみち脱税奴隷になるしかない状態で、自分に奴隷として仕えるのが嫌ならもう合わせてもらうのは無理だと思う」

「説得してみせます!」

 

 

 アコルトもシャオクを気に入っているようだし、上手くいくといいなぁ。

 

 そうだ、もう1つ考えなきゃいけないことがあった。

 

 

「あと、そろそろ宿を出て家を借りようと思うんだけど、どこの街がいいかな」

「商談の方でなにか話題に出たのですか?」

 

「あ、うん。

 今後の為に仲買人を紹介してもらえることになったんだけど、どこの街を中心に活動するか聞かれたんだよね。

 カルメリガとルテド?とフウルバ?ってところがオークションをやっているらしい」

「ルテドーナとフウルバリですね。

 どちらもカルメリガと同じく、それぞれの侯爵領の都市になります」

 

 

 カルメリガも侯爵領なの……?

 そのへんの関係全然知らない。

 

 

「ルテドーナは鉱山地帯、フウルバリは森林地帯が多いと言われています」

「詳しいね、商館で勉強したの?」

 

「はい。

 兎人族だと思って他の方がなかなか話しかけてくれませんでしたので、本をよく読んでいました。

 獣人の多い所に住んでいたので、奴隷になる前からバーナ語は話せたのですが……」

「ああ……」

 

 

 同じ奴隷という身分でも種族が別だと話しかけづらいのだろう。

 そもそも奴隷が自由に話せる時間があったのかは知らないが。

 よく学ぶと評されていたようだが、勉強や読書以外に他にすることがなかったんじゃないか。

 

 

「カルメリガと同様に、先の2つも街の近くに迷宮があるらしいです。

 街の規模は同等のように書かれていました」

「それならシャオクの件が落ち着いたらどっちも行ってみて、カルメリガと比べてみて良さそうな場所で決めよう」

「かしこまりました」

 

 

 さて、今日のこれからの予定はどうしよう。

 早めの昼食からしばらく経ち、迷宮に向かうには微妙な太陽の高さだ。

 移住先としてのカルメリガの街でものんびり回ってみようか。

 

 冒険者ギルドにワープしてから、商店街を見て回る。

 家を借りたとすれば、飲食店よりも食料品店の方がお世話になるだろう。

 

 主食となるパンの他、野菜や果物も並んでいた。

 迷宮素材以外の穀物や畜産物も豊富だ。

 店の主人に話を聞くと、食料庫と言われる穀倉地帯が近いらしい。

 

 やはり、というか残念なことに魚介類はないようだ。

 海がないし、流れていた小川程度では普段から店に並ぶほど獲れないのだろう。

 魚料理を考慮しなければ、カルメリガは潤沢な食材が食卓に並びそうだ。

 

 だが自分にとっては重要すぎる点だ。

 他の街で魚介類が手に入るなら、なるべく近いところに住みたい。

 

 その後も、宿ではなく借家で生活をしていくという観点で見て回る。

 金物屋には調理に必要そうな道具の他に、木製の食器類も売っていた。

 隣の木工の店と合わせて販売しているらしい。

 

 こういうところで眺めていると、今すぐ買うつもりもないのに欲しくなってくる。

 ホームセンターでありがちな状況だ。

 

 木工家具の店ではベッドや机、椅子といったものも置いていた。

 アコルトに値札を読んでもらいつつ家以外の生活用品を計算してみたが、2人分なら数千ナールあればだいたい揃うように思えた。

 シャオクが増えたとしてもそんなに変わらないだろう。

 

 問題は浴槽代わりの特注タライだが、作中では2000ナールくらいはしたはずだ。

 あちらは全員一緒に入るような特大サイズだったと思うが、そこまでの大きさが必要だろうか。

 

 この身体になってから、相手を女性としては意識するものの情欲的な方面にまでは至らない。

 かといって男性に惹かれる気もさらさらないので、どっちつかずな感じだ。

 今後仲間がどれだけ増えるのかはわからないが、全員で浴槽に浸かることはないような気がする。

 

 狭いよりは広いほうがいいので、同時に数人入れる程度の大きさがあればいいだろう。

 竜人族のような大柄な仲間でも、入って不自由がない程度のサイズがベストか。

 どちらかというとそれが置ける家、というのが必須になってくる。

 

 家具については割増で払って運んでもらえばいいので、ある程度設備をいじっていい家を探すほうが先決だ。

 ルテドーナやフウルバリという街の周囲で、海産物も買えてよさそうな家を見つけるには時間がかかるかもしれない。

 腰を据える場所を見つけるためには仕方ないが、譲れないものもある。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)



アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14



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次回は8/26更新の予定です。
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