食事を終えてフロントに湯の手配を頼み、部屋へと戻る。
シャオクの日用品を整理していると、すぐに熱い湯の入った桶が届いた。
これから体を拭くと伝えるが、シャオクは自身の分も含まれているとは思っていなかったように見える。
安宿で寝泊まりしていたのだし、だいぶ汚れていそうだ。
先に自分とアコルトの方を洗髪まで済ませ、シャオクには待っていてもらった。
やり方を見ていてもらうのもそうだが、後に回さないと湯の濁りがすごそうだからである。
自分たちは乾いた手拭いで水気を拭き取り、肌着をつけるところまでいったら、ついにシャオクの番だ。
これまで着ていた服は汚れだけでなく、擦り切れもひどい。
先にこちら2人が一通り済ませたのもあってか、特に抵抗なく服を脱いでくれた。
一糸纏わぬ姿で所在無げにするシャオクを、2人掛かりで拭いていく。
みるみる湯が濁っていったので、貧困探索者は大変そうだと思った。
冬場などは井戸水を被ったり川にも入れないだろうし、もっとひどかったのだろう。
次の湯桶で髪を洗うことにする。
身長が自分以上に低いので、ベッドから頭をせり出すとちょっと大変そうだ。
気軽に掛け湯できるくらいの風呂が早く欲しい。
体の時と同様にこちらもどんどん湯が濁っていく。
頭皮もよく揉みほぐしてやって、水気を切った後、手拭いでしっかり乾くまで拭き上げた。
油分ではない髪の艶が少しは出た気がする。
最後の桶の湯で、自分とアコルトの衣服の洗濯だ。
同じものをある程度の頻度で洗っては着続けていたようだが、シャオクの着ていたものは全て処分することにした。
新しいものも買ったし、それまでの服自体にはそこまで執着は無かったのか、すぐ同意してくれた。
シャオクにも買ったばかりの肌着を纏わせ、明日の確認だ。
朝は早めに起きて食事を取った後、まずはクラザの商人ギルドへ向かう。
ナルディロとの打ち合わせ通り、シャオクを通常の奴隷に戻すことと主人登録をする。
その後は宿に帰ってきて、自分のジョブやスキルを説明していくことになるだろう。
それが終わればルテドーナやシームに行き、用事や装備の購入など進めていこう。
指を折りつつ確認していくが、それより重要なことがあるのに気付いた。
「シャオクさん。
明日奴隷商人に手続きをしてもらうんですが、シャオクさんのジョブは一旦戦士あたりにしておきましょう」
「へ?
ああ、確かに鍛冶師の奴隷は露見すると良くないですね。
ミツキさんが変更可能というのなら、手続きが終わるまではその方がいいと思います」
鍛冶師は貴重なジョブだ。
その奴隷となると、競売に掛けられるような非常に高額な奴隷となる。
身売りするだけで高額になるようなジョブの者が簡単に脱税奴隷になるわけはないので、ナルディロも想定はしていないだろう。
ともすれば、今回の所有手続きのみだけでは受けてもらえず、買い取られる羽目になるかもしれない。
それを避けるために落ちぶれた戦士になってもらうわけだ。
「終わった後にはすぐ鍛冶師に戻すので、安心してください」
「分かりました!」
今も特にアイテムボックスを使用しているわけではないので、忘れないうちにシャオクのジョブを変更しておいた。
「お嬢様、ベッドはどうしましょう」
「あー、そっか。
2つのままだったね」
「ボクは床で構いません!」
いやいや、それだと洗った意味が無いでしょうが。
シャオクのその提案は断らせてもらう。
続いて、現時点で唯一の奴隷であるとしてアコルトが床で寝ると申し出たが、それも却下だ。
体のサイズ的には、自分とシャオクが同じベッドで寝た方がいいかもしれない。
「それでしたら、お嬢様と私が同じベッドでお休みになれば……」
「シャオクさん、悪いけどアコと一緒のベッドで寝てもらってもいいですか?」
「え、あ、はい!
アコルトさんがよろしければ!」
よし。
アコルトが嫌なわけでは決してないが、寝るときくらい広々と使いたい。
それに抱きつき癖があるかの確認もしておきたい。
残念そうにしているアコルトも、シャオクと一緒に布団に入った際にはこれはこれで、という安らかな顔になっていた。
人柱になってもらってすまない、シャオク。
緊張やら色々あったろうシャオクの寝息が聞こえてくると、自分も目を閉じて意識を手放した。
***
朝日が見える前、ギリギリ夜明け前くらいに目が覚めた。
音を立てないように寝返りを打って、隣のベッドを確認する。
案の定アコルトがシャオクを抱きしめているように見えるが、そのシャオクに苦しそうな様子はない。
優しく頭を撫でているような体勢だったので、あの時右手だけ差し出した自分が悪かったのか……?
そんなことを考えながらしばらくボーっとしていると、だんだん明るくなってきた。
アコルトも目が覚めた様子で、シャオクを起こさないようにそっとベッドを出るとこちらに気づいた。
「(おはようございます、お嬢様)」
「(おはよう、アコ)」
小声で挨拶を交わし、自分もベッドを出る。
いつものように桶の水を集めて1桶分空けたところに、ウォーターボールをそっと投げ入れた。
まだジョブの説明をしていないシャオクが起きる前に済ませられてホッとしている。
顔を洗って身支度をしていると、シャオクも起き出す。
一番遅くなって焦った様子だったが、それでも時間的には普段の自分たちよりだいぶ早いのだと落ち着いてもらった。
大体いつもは、自分が起きるのを待ってからアコルトが動いてくれるくらいだ。
桶の水をコップですくい、植木鉢にかけてやる。
何かが見えた気がしたのでよく見ると、小さな芽が土を押し上げていた。
露天のドワーフが言っていたように、本当に成長が早いらしい。
乗っかっている土を払ってあげて、窓際に鉢を戻す。
アコルトにシャオクの着替えを任せている間に、3人分の水筒を持って先に階段を降りた。
裏手の井戸の辺りまでくると、人がいないのを確認してウォーターウォールを発動する。
水筒を濯いで水を補充し、井戸回りが濡れているのはいかにも井戸水を汲むのが下手だったように偽装してフロントへと戻った。
食券の割符を受け取っている間に、ちょうど降りてきた2人と合流し、水筒を配る。
シャオクは恐縮していたが、家族のように分担できることはするのだと伝えた。
アコルトからも説得してもらいつつ、酒場に移動して朝食を選ぶ。
野菜と燻製肉のサラダをパンに挟んで、頬張る。
パンが硬いが、異世界BLTサンドだ。
具材だけ見ると異世界のカケラもない割と普通の食材だが、場所は異世界なのでそういうことでいいのだ。
ハーブティーで流し込みつつ2人の方を見るが、どちらも炒めたり煮込んだりした肉料理をガッツリ食べている。
よく動くからよく食べるのだろう。
自分も前よりは朝食べる量は増えてきたとは思うが、さすがに重たいものは厳しい。
マイホームを手に入れたらそのへんは加減していきたい。
食べ終わった後は部屋に戻り、出かける支度をする。
アコルトに髪をお願いすると、梳いた後にまとめてポニーテールを作った後、三つ編みにしていく。
まとまった毛束をねじってき、髪留めで団子のような形に整えた。
なんだっけ、シニヨンヘアとかいうやつだっけ。
後ろ髪がまとまっているので首元も涼しい。
礼を言って装備を身につける間に、アコルトはメイド服に着替えてもらった。
これまでもそうしていたように、ナルディロに会う際にはアコルトは一応お付きの奴隷という体で行くつもりだ。
もしかしたら迷宮前や冒険者ギルドで関係者の誰かに見られているかもしれないが、まだあの商館で戦闘奴隷を購入するつもりだと思われていた方が扱いもいいだろう。
実際、以前見せてもらった戦闘奴隷の中には即戦力になりそうな者も何名かいたはずだし。
自分は一通りの装備を身に着け、アコルトにはブーツとカチューシャを装備してもらって、残りはアイテムボックスへと仕舞った。
シャオクについては出会った時の装備を身に着けてもらっている。
皮や銅装備だが、契約後には新調するつもりだ。
巾着袋等をリュックに入れて、アコルトと自分で背負う。
シャオクの所持金等は別の袋に入れて、それもリュックに詰め込んだ。
一応本日朝までが連泊であったが、チェックアウトまでにはまた戻ると伝えて鍵を預けて宿を出た。
カタカナ英語な気がするが、伝わったようにみえる。
頼むぞ自動翻訳。
***
商人ギルドに入ると、思っていた以上に人がいた。
商人の朝は早いのだろう。
受付で名乗り、ナルディロのことを確認すると、既に商談部屋で待機しているそうだ。
案内された部屋の前に行き、ドアをノックする。
「失礼します、ミツキです」
「どうぞ、お入りください」
聞き覚えのある声が返ってきたので、アコルトにドアを開けてもらって入室する。
椅子から立ち上がるナルディロとその後ろにもう一人、狼人族の男が待っていた。
鑑定すると冒険者だったので、荷物持ちだろうか。
「おお、ミツキ殿。
この度はご利用ありがとうございます」
「こちらこそ、急なお願いをお聞きくださりありがとうございます」
「いえいえ。
通常は仕入れから始まるところを本日の手続きだけで済みますので、こちらとしても助かります。
そちらのアコルトもよく仕えているようで、ご紹介した商人冥利に尽きますよ。
さて……」
後ろから続いて入室したシャオクが、ペコリと頭を下げた。
「そちらが、今回のお手続きの方ですかな?」
「ええ、戦士のシャオクです。
困窮していたところ、私に仕えてくれるということでしたので救いたいと思いまして」
「なるほど……」
ナルディロがシャオクのインテリジェンスカードを確認し、冒険者に小声で指示している。
おっかなびっくりだったシャオクも、ふうっと息を吐いて覚悟を決めたようだ。
シャオクに断ってカードを見せてもらったが、確かに脱税奴隷の表記が並んでいた。
「ミツキ殿にはこの後取引内容のご確認がありますがよろしいですか?」
「ええ、構いません」
「そちらのシャオクさんも、別室で今一度同意の確認だけさせていただきます。
まぁ形式的なものですが、一応せねばなりませんのでね」
「は、はい!」
冒険者がシャオクを連れて、隣の部屋へと向かっていった。
こちらの相手は奴隷商人のナルディロ1人だし、主人だけ残して護衛が変なことをするとは思えないし大丈夫だろう。
2人を見送ったナルディロが、こちらに向き直った。
「それでは……、脱税奴隷である者の納付額が15万ナール。
その代行費用と新規の主人登録に、当商館では4割の手数料を頂いております。
これについては、どこの商館でもほぼ同じ額でしょう」
「そちらでお願いします」
「そうしますと合わせて21万ナールの所、この度は当商館をご信頼いただいたことに感謝いたしまして19万2000ナールとさせて頂きます」
おお、一応つけておいた3割引が発動している。
税金自体には割引は適用されないようで、代行と登録が複数項目となって手数料のみに割引がかかったようだ。
されないならアコルトの遺言変更でもしようと思ったが、次の機会でも良さそうだ。
朝のうちに支払い用の巾着袋に移しておいた金貨と銀貨を出して支払った。
金額の確認を済ませ、ナルディロが代金を回収する。
「以前ご説明した通り、奴隷に住まいと食事を与える義務がございます。
初年度奴隷となりますので、今冬には10万ナールの納税がありますがお忘れなきようにお願いします。
これらの義務の放棄、奴隷への不当な扱いは契約の破棄に繋がります」
説明義務なのであろう、アコルトの際にも聞いた注意事項が述べられる。
「来年以降につきましては、通常の奴隷と同じ1万ナールの税金になります。
……と、戻って来たようですね」
ノックの音に振り向くと、冒険者とシャオクが入室してきた。
男がナルディロと目を合わせて頷くと、こちらに礼をして後ろに控える。
「問題もないようですね。
それでは契約に移りますので、腕を出していただきましょう」
自分とシャオクが腕を掲げ、ナルディロが呪文を唱えてインテリジェンスカードを操作する。
そういえば、と気づいたことを口に出す。
「あれ……、納付が先ではないのですか?」
こちらの問いに、ナルディロはにこやかに続けた。
「先程の別室での確認を終えて、納付を済ませてから部屋に戻るようにさせております。
問題なく手続きが終わりましたので……はい、ご確認ください」
促されるままに自分の腕から突き出ているカードに目を移す。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使い 自由民
所有奴隷 アコルト
シャオク
所有奴隷の欄に、シャオクが追加されていた。
固まったかのように自身のカードを見つめるシャオクにお願いして、また確認させてもらう。
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 戦士 初年度奴隷
所有者 スズシロ・ミツキ
脱税の表記は消えて、バッチリ初年度奴隷と刻まれている。
ナルディロにまかせてよかった。
計算されたような流れで手続きがスムーズに完了している。
事実、手順良く進むように考案してこの場所も指定してくれているのだ。
奴隷商人のジョブレベルの高さは伊達じゃない。
これでシャオクは、名実ともにウチの子だ。
年齢はこっちのほうが若いけれども……。
「(ミツキさん……、いえミツキ様……。
ご貴族様だったのですか……!?)」
「(違う違う!
自由民だし、貴族じゃない!
あとでちゃんと説明する!)」
名前しか名乗っていなかったし、説明もしていなかった。
幸い、自分のカードを見せてはいなかったので、ジョブが魔法使いであることの混乱はまだ発生していない。
「……なにか問題でもございましたか?」
「いえ!
自分の名字のことを説明し忘れていたので……」
「ああ……」
ナルディロがそれはしょうがないという目でシャオクを一瞬眺めた後、冒険者に視線を送る。
用事も済んだし、これでお開きだろう。
「これで今回のお取引は完了ということで、よろしいでしょうか?」
「はい、大変お世話になりました!」
「次回もぜひ当館にご用命をお願いいたします」
「前回気になった者もいますので、その際はまたお願いします」
ご連絡をお待ちしておりますと締めて、ナルディロと冒険者は去っていった。
まだぎこちない動きのシャオクを2人で商談室から連れ出し、宿へと戻ることにした。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 戦士Lv1
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次回は9/7更新の予定です。
やっと2人目です。
会ってからが、長い!
出てきた時点で読める展開だったとは思いますが、書かないと説明不足だし、書いたら長いしで執筆はとても難しいです。