異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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036 説明

 疑問符が浮かんだままのシャオクを引き連れ、宿へと戻ってきた。

 今日すぐには別の宿には移れないので3人部屋を確認してもらうと、昼からなら空いているそうだ。

 

 昼になったら一旦戻ってきて荷物を移動させようということになり、部屋を移しての連泊継続となる。

 ベッドが3つの部屋は、人数分の夕食と湯をつけて1泊820ナールだと言われた。

 

 これを2泊にして3割引にすると、1148ナールになってしまった。

 その理由は人数が増えて嬉しいからだそうだ。

 

 あちらも嬉しいし、こちらも嬉しい。

 Win-Winじゃないか。

 

 ……店員と仲良くなったりしたら割引を使うのは控えようかな。

 

 

 2人部屋へと帰還し、シャオクを椅子に座らせる。

 これから1つ1つ説明していかなくてはいけない。

 

 

「シャオクさん。

 これから説明していくので、疑問点は1つずつ潰していきましょう」

「はい……。

 ……いや、かしこまりました!

 呼び方はどのようにしたらいいでしょうか?」

 

「うーん、どうしよう。

 任せます、ご主人様でも、ミツキ様でも、マスターでも」

「では、ミツキ様とお呼びします。

 改めましてミツキ様、今回は脱税奴隷に身を落としたボク……わたしを救ってもらったばかりか、鍛冶師になる夢を叶えてもらってありがとうございました!」

 

 

 シャオクが深々と頭を下げる。

 途中で床に伏せようとまでしたので、それは制した。

 

 ここから奴隷として、家族として始まるのだ。

 アコルトの際にそうしたように、相談して口調も崩していくことになった。

 

 

「鍛冶師が身内に欲しかったのはこっちだし、秘密を守ってもらうためとはいえ、そのまま救えるのに奴隷になってもらったのは自分の我儘だから、こちらこそありがとう。

 他人の前では気をつけたほうがいいかもしれないけど、自分たちだけなら作法は気にしないから気軽にしてね」

「わかりました」

 

「不安だったら、アコに教えてもらうのもいいかもしれない。

 あと、わたしじゃなくてボクのままでいいよ」

 

 

 それを直すのはもったいないからな。

 

 

「じゃあこちらは……、こっちはシャオでいい……かな?」

「はい、そうお呼びください!」

 

「そうしたらまず、シャオのジョブを鍛冶師に戻すね。

 ……よし、これでアイテムボックスも使えると思う」

 

 

 パーティージョブ設定から変更してやると、シャオクは小さく呪文を唱えて実際に確かめている。

 分かってはいたようだが、鍛冶師のアイテムボックスが使えたようで小さく驚いた。

 

 

「本当に、ジョブを変更できるのですね……」

「うん、まあその他にも色々とあるんだけど、昨日話したように自分のこの力については口外しないように」

「ボクだけでなく、ミツキ様にもアコルトさんにも迷惑がかかるので、それは守ります」

 

 

 よしよし、まず1つ目はOKだ。

 次は何だろう、そうだ。

 

 

「名前に名字があったけど、貴族ではないんだ。

 自由民なだけで、どこかにコネがあるわけでもない」

「そう……なんですね」

 

 

 細かくは端折りながら、自分のことを大まかに伝えていく。

 両親は亡くなっていることや、遠縁の親戚にカルメリガの近くに送ってもらえたが家がどこにあったかわからないことを伝える。

 常識や歴史、地理についても相当疎いとも言っておく。

 4言語話せるが、文字がどれも読み書きできないというのは、やはりおかしい教育を受けていると思われていそうだ。

 

 

「それと、今の自分のジョブは魔法使いなんだ」

「やはりご貴族……いえ、すいません。

 えっ、でもパーティー編成を……、あっ変更ができるのでしたね」

 

 

 混乱しながらも理解は進めてくれているようだ。

 一つ一つ確認しながら説明していく。

 

 自分はインテリジェンスカード上では魔法使いのジョブであること。

 魔法使いでありながら、条件を満たした他のジョブも別に設定しておくことができること。

 同時に設定しておけるジョブには限りがあること。

 

 中でもジョブは取得条件を満たすと、新しく使えるようになるというのは興味深そうに聞いていた。

 同じパーティーであれば、その人が今就けるジョブを確認できるということと、シャオクの現在の取得ジョブも伝えた。

 村人を除けば8種も取得しているのは、鍛冶師になるための試行錯誤で得た結果だと教えると、これまでのことにも自信が持てたようだ。

 

 自分は魔法使いをメインとして様々なジョブを育て、アコルトは狩人、シャオクは鍛冶師を主体としていくと説明する。

 自分が探索者のパーティー編成やアイテムボックス、僧侶の手当て等を使えることに関しては、パーティーの誰かしらがそのジョブでいるかのように振る舞う、ということも理解してくれた。

 

 

「フィールドウォークもアコルトさんが唱えているようでしたが、あれもミツキ様のスキルなのでしょうか?」

「あれはまた別の、特殊なスキルなんだ」

 

 

 簡単にワープの説明をしつつ、部屋の壁から冒険者ギルドへと繋ぎ、再び部屋へと戻ってくる。

 アコルトの時もそうだが存在自体を知らない、ましてや遮蔽セメントを無視するという常識外のスキルには大層驚いていた。

 

 

「……もしかして、この宿に初めて来た時に階段を登った覚えがなかったのも今のスキルだったのですか?」

「うん、そうだね。

 あの時は緊急事態だったし、さすがにあの状態で4階までは厳しいと思ったから」

「周りが見えていなかったので勘違いだと思っていたんですが、やはり……」

 

 

 

 複数のジョブを使いこなし、他人のジョブを自由に変更し、聞いたこともないスキルを使い、呪文の詠唱も必要としない。

 そんなありえない存在に見出され、諦めていた鍛冶師へと転職させてもらった。

 

 この状況に自分に対しての変な信仰がシャオクに生まれたりしないよな……?

 アコルトみたいに奉仕しつつも、時には妹のように接するような割り切り方をしてくれるとありがたいのだが。

 

 これだけでもだいぶ面食らったようだし、スキルスロットについてはカード融合の時まで説明しなくていいか。

 

 

「アコ、ジョブやスキルについてはこのくらいでよさそうだっけ……?」

「凡そは説明されたかと思われます。

 スキルや戦闘については実際に見て慣れるしかありません」

 

 

 これまで黙って聞いていたアコルトも、自身の時を思い出して答えてくれた。

 

 

「基本的にお嬢様の決めた方針に従っていれば問題はありません。

 明らかにおかしいと思った場合は、なるべく早く私かお嬢様に耳打ちするなどで相談してください。

 特に私は迷宮での定石は存じ上げませんので、迅速に指摘したほうがよいと思われます」

「はい……!」

 

 

 事実なんだけど、改めて注意事項にされるとすごく恥ずかしい。

 それでも自分の恥一つで、周りからの疑惑の目が減ればそれに越したことはない。

 

 

「それは本当にお願い。

 大抵よく分かってないから、普通の探索者がしなそうなことや、危なそうなことは無理にでも止めてほしい」

「か、かしこまりました」

 

 

 能力面についてはこれくらいか。

 

 

「普段の生活についてだけど、ここ数日と同じように一緒にご飯を食べたり、それぞれのベッドで寝てもらうからね。

 今日の夜からは1人1つのベッドが用意できそうだし」

「奴隷の待遇とは思えません……」

 

「お嬢様は家族のように接することを好まれます。

 礼儀を忘れないままに、遠慮のし過ぎは望まれません」

 

 

 おお、よく分かってくれているじゃないか。

 一週間くらい過ごしていれば、アコルトもだいぶ掴めてきたらしい。

 

 

「そんな感じでよろしくね。

 食べたいものがあったり、欲しいものがあったら言ってほしい。

 あ、そうだ。

 これ、預かってたシャオのお金」

 

 

 リュックからシャオクの最後の持ち金を取り出して、袋ごと渡す。

 

 

「え!?

 いえ、奴隷の持ち物は全て主人の……」

「いやこれシャオのでしょ。

 定期的にお小遣いは渡そうと思っているけど、鍛冶師にはアイテムボックスがあるし銀貨は入れておくといいよ。

 アコの分も増えてきたら一緒に管理してほしい」

 

「迷宮でのドロップアイテムを預かるのかと思ってましたが、自分のお金とは……」

「自分で貯めたお金だし、好きに使っていいよ。

 装備についてはこっちで管理してる分から皆のを買うから、自分のお金を使わないでね。

 高額なものを買う時や、必要だけど手持ちが足りない時は相談するように」

 

 

 シャオクが目を丸くして隣を見つめ、アコルトはそれに目を瞑って首を横に振った。

 

 

「ドロップアイテムに関しては、自分の探索者のアイテムボックスがあるから気にしなくていいよ」

「……ミツキ様は何列ほど持っているのか聞いてもいいでしょうか……?」

 

「えーっと、22列だね」

「「えっ!?」」

 

 

 アコルトとシャオクがシンクロする。 

 

 

「えっと、あの、今は何階層くらいに潜っているんですか……?

 転職したばかりでお力になれないかもしれません……竜革装備をされていますし……」

「行ったので一番奥はクラザの5階層かな、普段は4階層を回ってるけど。

 あ、一応この前カルメリガの7階層に案内してもらったか!」

 

 

 シャオクが絶句した。

 考えなしに答えてしまったが、まずかったかもしれない。

 

 少し考えた様子のアコルトが代わりに口を開く。

 

 

「お嬢様は迷宮に入りたての私に合わせてくださっているのです。

 怪我をしないように、戦闘時間が長くなるような階層には進まないとおっしゃっていました」

 

 

 迷宮に入り始めたのはアコルトに会う2日前なんだよな。

 魔物を狩り出したのはその日の午後からだし。

 後者については初めからそのつもりなので、正しい。

 

 以前考えた際には経験値系のボーナスについては話さないと決めたが、打ち明けてしまったほうがいいのだろうか。

 倍率を下げるにしても、無補正で挑むのは階層突破の為のボス戦くらいで、最低限でも全員に補正がかかる獲得経験値倍率は入れっぱなしのはずだ。

 

 それに今後階層を上がるペースは常人の比じゃない。

 階層を決めるのが自分だとしても、迷宮経験者のシャオクには止められるだろう。

 将来的に戦闘奴隷が増えてくると、その傾向はさらに高まりそうだ。

 

 

「他の探索者と比べたことがなかったんだけど、どうやら自分は迷宮での経験が溜まりやすいみたいなんだ。

 自分の探索者のアイテムボックスは増えるのが早いみたいだけど、強さには直結しないと考えてほしい」

「そうなんですか?」

 

「うん、だから装備は上のクラスのモノで身を固めてダメージを減らしたり、倒すのに時間がかかる階層には進まないようにしているんだ。

 迷宮経験者のシャオクには自分の探索者のレベルよりも、その階層でちゃんと戦えているかを見てもらえたらと思ってる」

「わかりました、まずは迷宮に行ってみて、ですね」

 

「上手く戦えていたら早めに次の階層に移るかもしれないけど、その時は2人にも相談してから決めるから無理させるつもりはないよ」

「「ありがとうございます」」

 

 

 今のところはこれで良さそうか……?

 この主人はそういうものだ、として見られる様になってくれればいい。

 そうなると信仰までいくのもありかもしれないが。

 

 

「戦闘に関しては自分が魔法で攻撃するから、その間に敵を引き付けたり捌いたりしてほしい。

 今はアコが鞭を使って牽制しつつ、距離を取って攻撃を躱してもらう感じだけど、シャオを入れるならどうなるかな?」

「やはり、前衛で盾で攻撃を受けつつ往なすのがいいと思います。

 ボクたちは積極的に攻撃せず、魔物への攻撃はミツキ様が受け持つのでしょうか?」

 

「低階層はそれでいいと思う。

 魔法を使ってくる敵が増えてくる頃には、詠唱遅延や中断をつけた武器で攻撃してもらう必要が出てきそうだけど……。

 その頃には仲間も増やしていくつもりではあるよ」

「防ぐだけなら大盾がいいですが、使用者が限られて市場にあまり出回っていません。

 無難に金属製の持盾と小回りの利く片手剣がいいかと思います」

 

「やっぱりそんな感じだよね」

「ボクよりも前衛向きの人が増えてくれるなら、下がって槍を持ったりと選択肢も増えそうです」

 

 

 色んなパーティーの戦闘を見てきたからか、具体的なアドバイスがもらえて助かる。

 迷宮はシャオク、生活はアコルトに任せておけばいいだろう。

 

 

「そうしたら、装備はルテドーナで探したほうがいいのかな?」

「はい。

 鍛冶師も他の街と比べて多く、種類や数についてはカルメリガやクラザより期待できるはずです」

「じゃあ昼を食べに行って宿に戻ってきて3人部屋に移った後、ルテドーナとシーム行きの冒険者を探そうか」

 

 

 昼にはまだ少し早いかもしれないが、朝が早かったのでもう食べてもいいだろう。

 フロントに鍵を預け、昼を食べ戻ると伝えて入口を出た。

 

 どの店がいいかと考えたが、転居先が決まったら商館以外でクラザにはあまり来なくなるかもしれない。

 ルテドーナも、シームも、ついでにフウルバリにも迷宮があるらしいし。

 

 食べ納めというわけではないが、あのオムレツもどきの店にまた行ってみることにした。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14

シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv1



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次回は9/10更新の予定です。

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