宿の絨毯から冒険者ギルドへと飛び、そのまま歩いて目的の飲食店へと向かう。
昼の鐘まで少し時間があるので、どこに行くにも空いているのはありがたい。
店に着いて、奥の3人掛けのテーブルに案内された。
前回の注文はおすすめの卵料理とパンだったが、2人には追加で肉もあったほうがいいかもしれない。
ハーブティーとともに注文し、料理が出てくるのを待つ。
まだ客もほとんどいないので、調理の音も聞こえるようだ。
熱した金属の上で肉の脂の弾ける音や、溶いた卵の焼ける香りが届いてくる。
先に飲み物が注がれて一口喉を潤した頃に、例のグリルパンがテーブルの中央に鎮座した。
黄色く膨らんだそれを、物珍しそうにシャオクが覗き込む。
アコルトがスパニッシュオムレツもどきを切り分け、次に届いた焼いた肉をシャオクが慌てて取り分けてくれた。
こちらは切り落とし肉に香草やスパイスで下味をつけ、炙り焼きにしたものらしい。
脂が程よく落ちていて、酒が飲みたくなる味だ。
これから街移動で一番動く羽目になるのが自分なので、流石に自重したが。
「シャオ、こういう鋳造物もルテドーナには置いてるかな?」
オムレツもどきの入ったグリルパンを指して聞いてみる。
「はい、金物については入れ物でも道具でも、このあたりではルテドーナの品揃えが一番だと思います」
それならどの街に家を借りることになっても、ルテドーナで調理器具は揃えることになりそうだ。
深夜の通販番組ではないが、使う使わないに限らず道具を見るのって面白いんだよなぁ。
ルテドーナへと向かう楽しみがまた一つ増えた。
3人とも満足に料理を平らげ、満足げに店を後にする。
食べている途中で昼の鐘が鳴っていたし、宿に戻ったら3人部屋が空いているだろうか。
戻ってきたフロントで部屋番号を伝えると、移動先の部屋は準備ができているそうだ。
これまでの4階から5階になるらしい。
これ以上は階段の往復が辛いので、そういう意味でも早く借家にしたい。
3人で荷物を抱え、2往復ほどで移し替えた。
備え付けのクローゼットも多少広くなったので、シャオクの服を入れてもまだ少しは余裕がある。
一息ついて、カルメリガの冒険者ギルド前に向かうことにした。
自分がルテドーナとシームを覚えてくるまでの間パーティーは解散することになるので、2人には古着屋にでも行ってもらう。
お金自体は持たせているので、使った分を補填するからと1、2着ずつ選ぶように伝えて別れた。
ギルドの前にはチラホラと人が立っている。
鑑定をかけながら歩いて回るが、冒険者なのは草臥れた人間の男だけだった。
木陰に座って、暇そうにその木を背もたれにしている。
鑑定でジョブは分かっているが、普通は確認できるはずはないので聞くところからだ。
「すみません、冒険者の方ですか?」
「んー?
ああ、そうだが、なんだ」
「ルテドーナまでお願いできますか?」
「うーん、ルテドーナだと5枚だな」
気だるそうに左手を広げ、5本の指を立てて確認してくる。
シャオクに聞いた相場はカルメリガからルテドーナが銀貨5枚、そこからシームへが2枚程度だそうだ。
面倒くさそうな割にはちゃんと相場通りで安心する。
巾着袋から銀貨を取り出し、男に差し出した。
「はいよ、じゃあ誘うぞ」
「お願いします」
座ったままの男からパーティー勧誘が届いたので、承諾する。
加入を確認した男は重そうな腰を上げて立ち上がると、先程まで背中を預けていた木に向き直った。
「回顧に巡る行程を、共に目指さん行路の先を、フィールドウォーク」
アコルトが
木に黒塗りのゲートが出現し、男がそれを指差した。
「着いた先はルテドーナの冒険者ギルドだ。
俺は行かないから、さっさと通ってくれ」
確かに、案内だけなら本人は移動する必要もない。
ゲートを通過した人数や重量に応じてMPを消費するはずなので、カルメリガで移動希望者を募るだけならこの方が効率がいいんだろう。
男に礼をして、ゲートをくぐった。
***
カルメリガともクラザとも違う、無骨な立て看板の多い大通りへと出てきた。
振り返ったところでフィールドウォークのゲートが消えてしまった。
その後、パーティー解放と浮かんできたので、解消されたようだ。
今出てきた冒険者ギルドを見てみると、なにやら金属製の装飾が目立つ。
鍛冶の街ルテドーナというらしいし、こういったところにも違いをつけているのだろうか。
街自体は3人で巡ったほうがいいし、何よりシャオクがある程度詳しそうだから一緒の方が間違いがない。
ここでは、さっさとシームへの案内者を探したほうが良いだろう。
冒険者ギルドの横は少し開けた広場になっていて、待ち合わせらしい人が多いようだ。
先ほどと同じように、鑑定を使って冒険者を探していく。
今度はエルフの男性が1人でいたので、尋ねてみることにした。
自分と違って美白のイケメンだが、年齢は40代後半だ。
「すみません、冒険者の方でしょうか?」
「うん?
送りの依頼かね」
「はい、シームの街へお願いできますか?」
「シームは銀貨2枚……いや、3枚だな」
周りを見て同業者が少ないのを確認してか、吊り上げたらしい。
普段から3割引をしている身としては、多少の値上げは気にしない。
突然3倍みたいなボッタクリでない限りは、値切りの交渉のほうが面倒だ。
3枚の銀貨を手渡すと、男は大事にアイテムボックスにしまいつつパーティー編成の呪文を唱えた。
加入承諾をするとついて来るように言われ、冒険者ギルドの壁の前へと移動する。
フィールドウォークの呪文を唱え、壁がドア1枚分黒く染まった。
先行する男に続いて、ゲートを通り抜ける。
「ここがシームだ。
後ろが冒険者ギルドだが……他に行きたいところはあるかね?」
カモ相手に気が大きくなったのだろうか。
さすがにこれ以上用事はない。
「いえ、ありがとうございました。
解散をお願いします」
「そうか、まあいい。
ではこれで」
2度目は引っかからないことが分かると、即座にパーティーを解散してエルフの男は興味なさげに去っていった。
シームの冒険者ギルドは、これまでの街よりも一回り小さい。
侯爵領と伯爵領の違いだろうか。
詳しいことはわからないが、とりあえずは目的の移動先は確保できた。
クラザの街へワープ……と思ったが、念の為強壮丸を取り出した。
結構な距離があるはずだ。
しかもカルメリガを越えてクラザまでだし、MPが心配だ。
改めてシームの冒険者ギルドの壁に向かってワープを発動する。
黒塗りの板が現れたので、街間を繋げる分のMPは保持していたようだ。
ゲートをくぐると、ごそっとMPが減った感覚を受けたので、慌てて薬を飲んだ。
今の最大MPだと1人なら往復がなんとか行けるだろうか。
3人で一度にクラザからシームでは厳しいかもしれない。
強壮丸を飲んだことで落ち着いてきたので、古着屋に2人を迎えに行く。
経験値関係をMP回復速度上昇20倍に振り直したので、残りは歩いていれば回復できるだろう。
店に着いて、二人を見つける。
どうやら既に買い物は終えたようで、別れた時よりもリュックが膨らんでいるようだ。
「おまたせ、2人とも」
「お嬢様、おかえりなさいませ」
「おかえりなさい、ミツキ様」
先に気づいたアコルトがこちらを見ると、続けてシャオクも振り向いた。
「ルテドーナもシームも行けるようになったよ」
「さすがです、ミツキ様!」
「こちらも買い物を済ませ、お嬢様にどんな服を着ていただくか話しておりました」
え、なにそれいらない。
アコルトは自分の衣服は頓着がないし、シャオクは機能性ばかりだから、奴隷の自分たちよりも主人をどう着飾るかになってしまったらしい。
「こちらなどいかがでしょうか?」
「ま、まぁ、この後それぞれの街に移動するし、自分の服は後で考えよう」
「そうですか……」
流石に言いつけ外の主人の服までは勝手に購入していなかったようなのでホッとする。
アコルトに感化されるなシャオク。
そんなことよりもシームにいけるんだぞ!
「精算については夜に宿で聞くから、まずは移動しよう」
店を出て裏手にある木から、まずは宿に荷物を置くことにした。
どうせ買ったものを置くだけなので、部屋内に直接ワープゲートを繋ぐ。
鍵を受け取るのも5階へ上るのも面倒だ。
自分は潜り抜けることなくゲートを開いたまま、クローゼットに服を置いてすぐ戻ってこさせた。
2人が戻ると、今度はカルメリガの冒険者ギルドへとワープする。
カルメリガルテドーナ間が一番距離があるようなので、移動前に念の為強壮丸を1つ飲む。
アコルトに詠唱をしてもらいつつ、ルテドーナへのゲートを開いた。
自分、アコルト、シャオクと、1人ずつがくぐり抜ける度にゴリゴリとMPが持っていかれる。
何とか持ってくれたので、気落ちする前に薬を口に含んだ。
訪れたことのあるシャオクが建物で気づいたようで、見渡しながら口を開く。
「ここはルテドーナの冒険者ギルドですね」
「意匠がこれまでと少し違うようです」
アコルトも違いを感じ取ったようだ。
確認もそこそこに、最後にシームへと移動する。
シャオクによると、ルテドーナシーム間は距離的にはかなり近いらしい。
山を隔てた向こう側の領ということだが、山道を突破さえ出来てしまえば直線距離は短いのだろう。
移動した際のMPの減り具合からして、カルメリガとクラザよりも近いようだ。
これなら回復はいらなそうだ。
「ああ……。
シーム、ですね……」
懐かしそうに、でも少し寂しそうにシャオクが呟いた。
感慨に浸っているのだろうか。
ギルドから見える街並みを一通り眺めた後、意を決したようにこちらを見た。
「すみません、お墓はこちらの方です。
行きましょう」
その足取りはしっかりとしていて、あの再会したばかりの時の様子とは違っている。
不安で堪らなかった日々も、打ちひしがれたことがあったことも、無駄ではなかった。
鍛冶師というジョブに就けたということ自体が、これまでのシャオクを肯定している。
奴隷になってもらったのは成り行きもあるが、こちらの都合でもある。
仕えてくれると誓ってくれたのだから、主人として応えたい。
途中で花屋を見かけ、2人に声をかけて足を止める。
花屋というよりは種苗店で、売れずに成長してしまった花も表で育てている、という感じの店だ。
お参りなら花くらいあったほうがいいだろうと、店員に用向きも伝えた上で買うことにした。
そもそも花自体置いている数が少なかったので、売ってもらえたのは3輪だった。
種類が揃っているわけでもなくちぐはぐな大きさと色味だが、集めるとなんだか一揃いにも見える。
パピルスで束ねてもらって代金を支払うと、渡されたシャオクがそれを抱えて歩き出す。
大通りから逸れてしばらく歩くと、墓地のような場所へ出た。
共同墓地のように少し大きめの墓の他に、いくつか個別でもあるようだ。
その片隅で、シャオクが振り返る。
「ここです。
ミツキ様、ありがとうございます」
何か書かれたような小さな墓石のようなものがあるが、ここが育ての祖父の墓なのだろう。
軽く掃除をしたところで、シャオクがアイテムボックスから身代わりのミサンガを取り出した。
花とともにそのまま供えようとしたので待ったをかける。
受け取った花束をミサンガで巻いて留め、水筒の水でパピルスを湿らせて切り口を覆った。
この墓地の端の方にまで供物を盗みに来る者がいるかは分からないが、これならば身代わりのミサンガもただの留め紐に見えるだろう。
花自体も何もしないよりは少しは長持ちするはずだ。
花束をシャオクに返し、自分とアコルトはその後ろに立って一緒に祈る。
これからシャオクを預かる旨を心の中で報告し、見守っていてほしいと墓前に願ったことで、見た目は変わってしまってもまだ自分にも日本人的な意識が残っていたのだと認識した。
顔を上げると、ちょうどアコルトも祈り終わったようだ。
シャオクを見遣るとまだ掛かりそうな様子だ。
沢山伝えることがあるのだろう。
スッと隣に寄ってきたアコルトが耳打ちをしてきた。
「(お嬢様、こちらに真っ直ぐ向かってくる者がおります)」
まだ見えないが、アコルトが気づいたなら実際に何者かがいると思われる。
墓地に用事のある地元の者か、はたまた我々の荷物が目的の者か。
MP回復速度上昇をボーナスポイントに戻し、いつでもデュランダルを取り出せるようにする。
人影を視認できるくらいの距離まで近づいてきたところで鑑定を発動する。
エマーロ族と表示されるよりも早く、その人物が大声を上げた。
「シャオクか〜?」
誰だ。
シャオクに確認しようと振り返ると、すでに祈りを終えたのかその小さい体をいっぱいに伸ばして謎の人物に手を振り始めた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv1
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次回は9/13更新の予定です。