異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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039 内約

 不意に出た魚料理という言葉に、過剰に反応してしまった。

 

 

「迷宮産の白身とかをだしている……のかな?」

「いえ、それだと高くなってしまうので、確か干物を仕入れているそうです」

 

 

 仕入れているということは、定期的に漁獲している場所があるということだ。

 そうなると話は変わってくる。

 雑談で聞いた時にはそんなに近くだとは話題に出なかったはずだ。

 

 

「前に海は遠いって話だったと思うけど、魚の取れる場所があるのかな?」

「海……リッシュリの街は遠いというお話はしたと思いますが、その仕入れている場所はおじさんたちに聞いてみないと、どこにあるかわからないんです。

 ミツキ様、すみません」

 

 

 あー、これはまた自分の説明不足か。

 家を借りるつもりだという話と、魚料理が好きという話と、リッシュリの場所を知りたいというのをそれぞれ別の場面でしていたのだろう。

 シャオクの加入前に、アコルトと話した内容とごっちゃになって覚えていたようだ。

 

 

「シャオ。

 借家を探しているのは前に言ったと思うけど、細々したことは伝え忘れていることがあると思うから改めて共有するね」

「はい、なんでしょう……?」

 

 

 今後は宿住まいから借家に移りたいということ。

 オークションを積極的に利用していくため、競売会場のあるカルメリガ、ルテドーナ、フウルバリあたりに住もうと考えていること。

 増改築をある程度自由にできる家であること。

 

 その上で可能なら、漁師街や漁村といった魚の穫れる場所が近ければ決め手になること。

 

 1つずつ詳しく説明していくうちに、シャオクの表情が変わっていく。

 

 

「そうすると……干物の仕入先次第では、おじいちゃんの家も候補になるってことですか……?」

「うん。

 でも色々と家をいじりたいから、シャオにとっては嫌かもだけど」

 

 

 このシームならルテドーナからの移動費は銀貨2枚程度だ。

 仲買人に頼んだオークションの落札の通知を貰う手数料への上乗せ程度なら、許容範囲だろう。

 

 

「もう住むことは叶わないと思っていたので、ボクとしてはあの場所にどこか1部屋くらいでも残してもらえれば十分です!

 あ、でも、今はヤトロクおじさんの物件なので、おじさんの許可が必要ですが……」

「まだ決定じゃないから期待しすぎないでほしいけど、そのあたりも聞いてみよう」

 

 

 聞いてみて無理だったらばつが悪い。

 維持だけしていて来年には手入れも無理だと言っていたから、賃料が入るなら改築は少しは自由にさせてもらえるかもしれない。

 

 そうこうしているうちに、少し気がはやるシャオクの案内でヤトロクの家へと着いた。 

 ドアを勢いよく開けると同時に、シャオクが大声で呼びかける。

 

 

「おじさん!

 シャオクです!」

「おう、どうした!?」

 

 

 その声に負けず劣らずの返事が飛んでくると、奥からヤトロクが出てきた。

 

 

「家のことだけど、ミツキ様が確認したいことがあるそうです!」

「ええと、何点か聞きたいことがあるんですが、今お時間はよろしいですか?」

 

「ああいいぜ、なんだ?」

「まずは……、魚料理をお隣の宿で出されているそうですが、仕入先って教えてもらえますか?」

 

 

 腕を組んで、カウンターから乗り出すように聞いていたヤトロクが眉を寄せる。

 

 

「あっちは弟の宿なんだが……シャオクのお勤め先だからいいか!

 ちょいと離れたところにブノーっていう小さな漁村があってな。

 釣り好きの引退した冒険者の知り合いが住んでて、そいつに毎月何度か納めてもらってんだ!」

 

 

 やはり漁村があるのか。

 冒険者自身が納めているから安く済んでいるのだろう。

 

 

「ああ、でもどこかに卸してくれってのは無理だと思うぜ!

 趣味でやってるようなもんだし、宿に頼まれてる量以上は用意できねぇって話だ」

「その村に直接買いに行くのも厳しいでしょうか……?」

 

「直接、って……まあ漁村だから他の村人が漁で獲ってる分はあるだろうけどよ。

 アイテムボックスにも入らねぇし、それだけのために他に何にもない村に行くのはもったいねぇぞ?」

「自前の冒険者がいるので、移動は問題ないです」

 

「……お嬢様は本当にご貴族様じゃあねぇんだよな?」

「違います。

 騎士団で確認してもらっても大丈夫です」

「まぁ、そっちは宿の方で弟に聞いてみてくれ!」

 

 

 魔法使いのジョブを見せる際でも一悶着ありそうだなぁ。

 とりあえず、ブノーなる漁村があることは確認できた。

 

 

「あとは先程のお家について確認したいんですが……」

「おう、じいさんの家か。

 なんだい?」

 

「お借りするとしたら、増改築をしても大丈夫ですか?」

「借りんのか!?

 家をいじるのはシャオクがいいなら俺は構わねぇけど、あの家一度大工に見てもらねぇとたぶん住めねぇぞ?

 それに家具もガタがきてるから諸々買わねぇとだめだ」

 

 

 ここでシャオクの意向を優先してくれるあたり、ヤトロクは本当にいい人だ。

 髪を弾ませるようにシャオクが振り返り、見つめてきたその瞳がぱぁっと明るくなった。

 

 

「ではお願いしたいです。

 おいくらになるでしょうか?」

「本気かよ……。

 そうだな、あの大きさの家なら普通は年4,5万ナールってとこだが、状態が悪い。

 こっちで大工の都合をつけとくから……明後日の昼でいいか?

 立ち会って見てもらったら、その見積もりを聞いて値引いてやる!」

 

「ありがとうございます!

 明後日のお昼に、あの家の前でいいんでしょうか?」

「おうよ!

 どういじりたいかもその後大工に相談したらいいぞ!」

 

 

 その後、ヤトロクに断らずともあの家を見て回っていいとの許可が取れた。

 

 3人でお礼を言ってヤトロクの家を後にする。

 ブノーの村も確認しておきたいが、そろそろ夕時だし宿のあるクラザへ戻ったほうがいいだろうか。

 

 

「お嬢様。

 明日以降こちらに来ることが多いのでしたら、宿の部屋だけ押さえておいた方がいいかもしれません」

 

 

 アコルトの提案に頷く。

 クラザの宿は明日の宿泊分まであるが、こちらも明日から取っておいて荷運びをしておいたほうがいいだろう。

 

 あの家に即入居はできないだろうが、宿暮らしをするならMP的にも近いほうが楽だ。

 ギルドに向かおうとした踵を返し、そのまま隣の建物へと入った。

 

 

「いらっしゃい、ん?

 シャオクか、久しぶりだな!」

 

 

ミトラグ エマーロ ♂ 46歳 旅亭Lv25

 

 

「ミトラグおじさん、久しぶりです!

 こちら、ボクの主人の」

()()()のミツキ様と、従者のアコルトです」

 

 

 アコルト先生の訂正が入り、シャオクの背筋が伸びた。

 自分もヤトロク相手に同じことをしたので、同じ様にビクッとしてしまった。

 

 

「墓掃除から戻ってきた兄貴から聞いたよ。

 シャオクを雇っていただいた、お嬢様……だとか」

「ミツキです。

 貴族ではないので、気にしないで大丈夫です!」

 

「あはは、さっき裏から兄貴の大声が聞こえてたからわかってるよ!

 こっちに用ってことは、泊まりかい?」

「明日から2泊なんですが、3人部屋って空いてますか?」

 

「明日から……ね、うん空いてるよ。

 押さえておくかい?」

「お願いします」

「はい、それじゃミツキさんのカードだけ見させてね」

 

 

 言われるがままに左腕を掲げると、ミトラグがインテリジェンスカード操作の呪文を唱える。

 

 

「滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン。

 ……はは、自由民だけどホントに名字まであるんだね!

 えっ、魔法使い!?」

 

 

 カードとこちらの顔を二度見している。

 

 

「両親に伝手があったようで、運良くなれただけなんです!」

「ま、まぁ、本人がそう言うならそういうことにしておくよ……。

 えーっとはい、部屋は押さえたから、お金は明日来たときに頼むね」

 

 

 心ここに有らずといった様子だが、予約自体はできた。

 これ以上ごまかしようが無いので、退散しよう。

 

 

「また明日よろしくお願いします!」

 

 

 逃げゼリフのように声を絞り出すとそそくさと宿を脱出し、シャオクを先頭にして冒険者ギルドの方へと向かった。

 

 歩きながら街並みを見るが、クラザやカルメリガよりこぢんまりとしている気がする。

 雑貨屋や武器屋、商人ギルドも並んでいるのが見えたし、だいたいの位置関係も掴めた気がする。

 

 シャオクの言った通り、家から宿より、宿から冒険者ギルドの方が若干距離があったように思える。

 そのギルドの壁に向かってアコルトに呪文を唱えてもらい、詠唱に合わせてワープゲートを開く。

 

 まずはルテドーナへと飛んだ。

 

 

「アコ、夕食にはまだ早いかな?」

「まだ少し早めの時間帯のようです。

 いつもの酒場なら開いていると思いますが」

 

 

 まだ時間があるというなら、せっかくルテドーナにいるしシャオクの装備を買ってしまおうか。

 

 現在の所持金が27万ナールと少し。

 家の賃料が5万、居住可能にする改装費用が仮に10万くらいだとしたら、数万は装備に使っても大丈夫か。

 

 どのみち費用が不足しているなら迷宮に潜らなくてはならない。

 迷宮に潜るためにはシャオクの装備は必須だ。

 

 先に装備を揃えてから改装費用がオーバーするようなら、賃料だけにして宿暮らしで迷宮探索を進め、予算に足りたらお願いする形でいいだろうか。

 前に計算した通り、経験値を捨てて結晶化促進64倍で潜れば160体くらいで1万ナールになるので、ドロップ品を除いても1日1万ずつ稼げるだろう。

 

 というわけで装備補強だ。

 

 

「シャオ、武器と防具を買おう」

「ええ!?

 あっ、はい、こちらです!」

 

 

 何もかも突然な主人で申し訳ないが、思い立ったが吉日というやつだ。

 シャオクの案内で、ラインナップの充実した大きい商店へと入る。

 ここも武器防具、両方の商人が店員として在籍することで店を分けずに販売しているようだ。

 

 アコルトに値札を読んでもらいながら鑑定をかけまくり、シャオクに性能を相談する。

 竜革装備が1部位1万ナール前後であるのに対し、鉄製は部位によっては同じか少し下の価格帯で、鋼鉄製が2,3倍の価格帯だ。

 鋼鉄の盾なんて1個で3万5000ナールもする。

 

 店の隅でこそこそと予算や構成を相談する。

 シャオクも初めは奴隷だからと遠慮していたが、パーティーの穴を無くすように考えさせると積極的に意見を出し始めた。

 

 最終的に全身鉄装備で身を包み、鋼鉄の盾を持ってもらうことになった。

 これで物理攻撃に対しては強く出られると思う。

 

 シャオクの武器は小回りの利く片手剣のカトラスを購入することにする。

 そういえば自分の武器はお試しで買った800ナールのワンドのままだ。

 

 このついでにロッドあたりに替えたほうがいいだろうか。

 値段は10倍の8000ナールもするが、火力もいくらか上がるはずだ。

 魔法と相性がいいとされるのは、聖銀装備の他に白銀という素材のものもあるのだと聞いたが、それでも金貨が十数枚になってくるようなので今はさすがに無理だ。

 

 アコルトの装備は変更しなくてよさそうだったので、それ以外を見て回る。

 商品の数が豊富だったのもあって、今後のためにスキルスロットが多めの装備を確保できたのはありがたい。

 

 これからは金属鎧の護衛がいてくれるので、お飾りのレイピアとシャオクの古装備を割増で買い取ってもらい、装備の更新が完了した。

 売却金も合わせれば、武器も入れて使用額は5万ナールを切った。

 ボーナスポイント様には頭が上がらない。

 

 

 後はクラザへと戻るだけと思ったが、シャオクの後ろ髪を見て鋏を買うのを思い出す。

 

 金物屋を探して見つけ出し、売り場でシャオクに選んでもらう。

 装備のスキルスロットと違って鑑定では道具の良し悪しがわからないので、その鑑識眼に頼る他無い。

 

 1つだけだと割引できないので、果物ナイフくらいの小さい刃の小刀も選んでもらった。

 まだ料理に使うわけではないが、あったら便利だし場所も取らず困らないだろう。

 

 

 店を出てボーナスポイントをMP回復速度20倍に付け替える。

 ここから気の滅入る移動だ。

 

 大きな店には絨毯が掛かっているところもチラホラあった。

 宿でなくても移動の目印になれば、それだけ購入客も増えるからだろうか。

 

 強壮丸を取り出し、口に含んでおく。

 結構減ってきたので、また買わないといけなさそうだ。

 

 フィールドウォークのできる場所で周りに人目がある時、アコルトと目を合わせてから後ろに立つように移動すれば、わざわざ口頭で確認しなくても呪文のフリをしてくれるようになった。

 ワープを発動し、カルメリガの冒険者ギルドへとゲートを繋ぐ。

 

 自分とアコルトが黒塗りの扉をくぐる際は来た時と同じくらいMPが減った感じがしたが、シャオクが通ったときにごっそり持っていかれる。

 全身の金属装備の重量を忘れていた。

 

 口内の丸薬を飲み込んで直ぐ様、もう一粒取り出して呷る。

 メンタルの上下で気持ち悪くなったが、少し経てば落ち着いた。

 

 明日の荷物移動だと往復がいるかも知れない。

 それか重そうな装備は一旦アイテムボックスに入れてもらう必要がありそうだ。

 

 明日するべきことは荷物移動くらいだし、迷宮に行って少しでもレベルを上げるのもいいか。

 ルテドーナやシームにもあるという迷宮の場所を覚えてくる必要もある。

 

 カルメリガの冒険者ギルドからクラザの宿前へのゲートを開きつつ、ここ2日は迷宮に行っていないことを思い出した。

 一昨日は毒針を試したり、シャオクに7階層を案内してもらったが、まともな戦闘をしているかといえば3日間はしていないことになる。

 

 休日を設けるつもりだったがシャオクのことや移動も多く、アコルトに全然休養させられていない気がする。

 早く安定した生活スタイルを確立したい。

 

 

 宿の部屋に戻って、装備を外したり荷物を置く頃には日も落ちてきていた。

 

 植木鉢から伸びている緑の芽は、この一日でも少し成長しているように見える。

 土が乾いていたので水筒の水をかけてやり、酒場に移動した。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)
 装備
  ロッド(○ ○)
  竜革の帽子(○ ○) 竜革のジャケット(○)
  竜革のミトン(○)  竜革のブーツ(○ ○)
  心力の指輪(知力2倍 MP回復速度上昇)

アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14
 装備
  竜革の鞭(○ ○ ○)
  竜革のカチューシャ(○ ○) 竜革のジャケット(○)
  竜革の手袋(○ ○)     竜革の靴(○ ○)

シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv1
 装備
  カトラス(○)   鋼鉄の盾(○ ○ ○)
  鉄の兜(○ ○)  チェインメイル(○ ○ ○)
  鉄の小手(○ ○) 鉄のグリーヴ(○ ○)


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次回は9/19更新の予定です。

現状の装備を一通り載せました。
装備については変更があった際に一部または全部記載することにします。


24/09/21
空きスロット表記ミスの修正。

24/11/24
白銀の説明追加。
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