異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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004 素性

 見上げるほどの大きさになった石壁の前には、少しばかり人の列ができていた。

 城塞都市というやつだろうか。

 

 門の詰所前に鎧を着た騎士が立って、入場管理をしているようだ。

 冒険者はフィールドウォークで街から街へと直接飛べるだろうから、商隊などのスキルで運べない大荷物のチェックがメインなのだろう。

 盗賊への牽制としての意味もありそうだ。

 

 そそくさと列に並び、聞き耳を立てる。

 前に並んだ荷馬車の商人らしき人が話すには、この都市はカルメリガという名前らしい。

 商人だからブラヒム語なのか、とりあえず聞き取れていることに安堵する。

 

 そうだ、鑑定だ鑑定。

 

 

パルナー 人間  男 24歳 商人Lv19

ダルト  狼人族 ♂ 31歳 獣戦士Lv35

 

 

 おそらく護衛と話していたようだ。

 ケモ耳の彼が狼人族であるから、やはりブラヒム語だったのだろう。

 習得済みの言語に変換されて聞こえる、というのはいまいち実感できない。

 

 これからもすぐ鑑定する癖をつけたい。

 そうして目につくモノをそこら中の鑑定を試している内に、自分の順番が回ってきた。

 

 

ディリク 人間  男 29歳 騎士Lv21

 

 

「この街は初めてか」

「は、はい」

 

 

 身分確認をするであろう騎士から声がかかる。

 挙動不審が目についたのだろうか。

 この体になってから初めての会話に声が上擦ってしまった。

 

 

「そう緊張せずともよい、左腕を出せ」

 

 

 人当たりの良さそうな声であったが、目が笑っていない。

 顔を逸らしたくなる衝動を我慢しながら、恐る恐る騎士の顔の辺りまで腕を上げた。

 

 

滔々(とうとう)流るる(たま)の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン」

 

 

 手の甲からカードが飛び出し、騎士がそれを検める。

 リュックの中身も問われたのでスーツを見せると、一転して今度は顔まで人当たりが良さそうになった。

 

 

「……結構。

 すまないな、人間にはエルフ族の歳が分からぬ故」

 

 

 そうか、職業も年齢も不詳で怪しんで睨んでいたら、所持品もほとんどない村人の田舎娘だったので多少は申し訳なくなるか。

 

 

「いえ、騎士様のお仕事ですから」

 

 

 田舎の娘っぽく謙虚にしておこう。

 門番騎士のチェックを通過しながら、自分の手から突き出ているインテリジェンスカードに目を落とす。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 村人 自由民

 

 

 自由民だった。

 エディットのせいで隷属とか爵位とかおかしなものがついている、なんて羽目にならなくてよかった。

 

 カードの端を恐る恐る触っていると、手の中に戻っていった。

 このシステムが一番怖い。

 これから何度も経験するだろうと気にしないことにして、無事街にたどり着けた自分を褒めたい。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 まずはスーツを売りたい。

 リュックの大半を占めてかさばる上に、汚して価値がなくなってしまう前にどうにかお金を得たい。

 

 門から大通りに抜けると、先ほどの商人の荷馬車が見えた。

 街に入ったばかりの商人が向かうなら店か商人ギルドだろうとあたりを付けて、申し訳ないが後ろを歩かせてもらう。

 護衛の狼人族に気づいているぞ、と言っているように遠目で睨まれたが、他に行く当てがないから許してほしい。

 

 程なくして大きな建物にたどり着いたが、これが商人ギルドだろうか。

 きっちりした見た目の女性がいるカウンターが受付のようだ。

 

 

ネリザ  人間 女 19歳 商人Lv5

 

 

「こちらは商人ギルドですか?」

「はい、どのようなご用件でしょう」

「上下セットの服なのですが、買い取って頂けそうな店はご存じでしょうか?」

 

 

 リュックを開いて畳まれたスーツを取り出すと、女性の目付きが鋭くなる。

 

 

「これは……かなり上質な生地のようですね。

 縫製も丁寧で、ご貴族向けの商品でしょうか」

「えっと……はい、そうなります」

「裏地に別の生地を当て、肌触りもよく……ボタンホールが緻密で……失礼しました」

 

 

 品定めというか服飾オタクのようであった。

 あなたが査定してくれるのかと思ったぞ。

 

 

「そうですね、これほどの商品でしたら……」

 

 

 一呼吸置いて、何か思いついたような表情で続ける。

 

 

「商館を出て大通りを南に向かい、右手にある古着屋のザノフという店主にご相談されるとよいかと思います」

 

 

 貴族向けでも古着屋なのか。

 実際、古着ではあるしな。

 怪訝そうな顔に思えたのか、女性ギルド員が笑いかけながら続ける。

 

 

「方方に伝手のある方なのです。

 本来は高級店のオーナーをされているので査定は確かですし、このような意匠には興味を示されるはずです」

「なるほど、ありがとうございます」

 

 

 少々曲者ですが、と小声で聞こえたような気がしたが、古着屋に常駐している高級店オーナーが変わっていないわけがない。

 だからとて、自分にはこの世界の常識がないので、大体のモノが変わっているように見えるから今更だ。

 

 受付嬢に礼を言って商人ギルドを出る。

 教えられた道順で歩き出してみるとすぐに、大衆向けらしき古着屋が目に入った。

 店内に入り見回すと、ちらほら客がいるさらに奥の方で机に様々な布地を広げて考え込む男が立っていた。

 

 

ザノフ  人間 男 54歳 目利きLv17

 

 

 なんだそのジョブは。

 小説には出てこなかったので、商人より上位のジョブなのだろうか。

 

 

「いらっしゃいませ。

 ……買い取りでしょうか?」

 

 

 こちらに気づいた様子で手早く布地を仕舞うと、正面に回したリュックで見取ったのか声をかけてきた。

 

 

「はい。

 商人ギルド受付のネリザさんからの紹介でセットの服の買い取りをお願いしたく」

「……ほう、ネリザの……。

 店主のザノフと申します。

 こちらに出して頂けますかな」

 

 

 食い気味に言いながら机に薄布を広げると、その上に並べるように促される。

 慌てて名乗りつつ、リュックから取り出していると、うずうずとこちらを見てくる。

 なんだこのおじさんは。

 

 

「手に取ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

 

 

 待ってましたと言わんばかりに手を伸ばすと、生地の手触りや裏地を確かめつつ、パピルスに何やらメモを取りながらブツブツ言っている。

 呆気にとられていると、顔の向きをスーツに固定したまま手を動かしながら、淡々とした口調で質問してくる。

 

 

「この服はどちらで?」

 

 

 やはり出自を問われるか。

 無駄に長かった街までの道中であらすじは考えてある。

 

 1年前に両親が事故で亡くなり、田舎の遠縁の親戚にお世話になっていた。

 その親戚は昔は服飾を生業にしていたようだが、引き取られるだいぶ前から怪我をして隠居していた。

 自立しようと家を出る際に、資金代わりにと最後の試作品の服を持たせてくれた。

 同じような服は他にも見たことがなかったので、商人ギルドでこの店を紹介してもらった。

 

 嘘には真実を混ぜると信憑性が増すと何かで見たことがある。

 目が泳いでいないか心配になるので、こめかみに力を入れてキリッとしておく。

 

 

「なるほど、そうでしたか。

 それでは商談に移るので移動しましょう」 

 

 

 なんだか呆れたようなニュアンスの声色にも聞こえたが、買い取ってくれるようだ。

 スーツを仕舞うように言われ、付いてくるように指示される。

 相手のペースに乗せられたせいで、なぜここで交渉できないのかは聞けそうにない。

 

 ボーナスポイントを今一度見てワープがあることを確認したので、最悪の事態でも逃げられるだろう。

 キビキビと足を動かしながらも、こちらの歩くペースに合わせてくれるザノフの背中を追いかけた。

 






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 村人Lv1



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24/07/22
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