異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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 食事を取りつつ、明日の予定を伝える。

 

 

「明日はクラザの迷宮に入ってみるから、シャオに戦闘の感じを見てもらうね。

 とりあえずは普段行ってる4階層なんだけど」

「魔法使いの方とパーティーはご一緒したことがありますし、ボクも流石に4階層ならご迷惑をかけることもないと思います。

 装備もあんなに良いものを揃えてもらいましたから」

 

「でもジョブを変えたばかりから気をつけてね」

「はい!」

 

 

 頷きながらもぐもぐと料理を頬張っていたアコルトだが、思いついたように口を開く。

 

 

「クラザの4階層の敵はお嬢様の魔法でそのほとんどが1撃なので、前衛にシャオクさんが増えたのでさらに進めそうですね」

「いちげき……?」

 

「あっ、いや、この指輪のスキルのおかげで、威力が高いんだ!」

「なるほど……?」

 

「あとは現地で確認してから判断して!」

 

 

 英雄のジョブは伝えていいものではなさそうなので、装備がすごいということにしよう。 

 うーん、ボロボロだ。

 

 キミたちの主人は、なんだかよく分からないけど強くて、なんだかよくわからないけど常識がない、そういう人ってことにしてください。

 話題をシームでの暮らしの方に逸らして、その日の夕食を終えた。

 

 

 部屋に戻って、頼んでおいた湯が来るのを待つ。

 

 荷物の整理をしながら、2人の買ってきた衣服の代金を補填した。

 上下と肌着をそれぞれ1着ずつと、アコルトは気を利かせてか消費の多い手拭いも追加してくれていた。

 

 体を拭き、シャオクの髪を洗う前に買ってきた鋏で散髪してあげることにする。

 今のザクザクの髪は、伸びるのが早いので面倒で剣で切ったらしい。

 自身のことは雑すぎる。

 

 手先の器用なアコルトに鋏を預け、櫛を使って切りそろえるやり方を教える。

 すぐに手慣れて、以前より一回り小さいくらいでだいたい綺麗にまとまった。

 

 そのまま髪を洗ってあげて、手拭いで水気をとってやる。

 軽くなった髪はどうやら元々は癖毛のようで、毛先がくるんと丸まった。

 ある程度の長さで重くないと跳ねてしまうらしい。

 

 これはこれでかわいいので、いいだろう。

 迷宮では兜を被るし、そこまで気にならないはずだ。

 

 洗濯も終えてそれぞれのベッドに入ると、シャオクからはすぐに寝息が聞こえてくる。

 今日もたくさん感情が揺さぶられて疲れたのだろう。

 こちらもアコルトとも就寝の挨拶もそこそこに瞼を閉じた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 朝日が顔に差し込んできたところで目が覚める。

 体を起こしながらおはようと声をかけると、返事が返ってきた。

 2人ともすでに起きて着替え、宿の移動に備えて荷物の整理をしていた。

 

 アコルトが差し出した桶にゆっくりとウォーターボールを放つと、シャオクが興味深そうに見てくる。

 

 

「水汲みにいかなくていいのは便利ですね……。

 でも、迷宮に行く前から魔法を使っていて大丈夫なんですか?」

「もともと使える回数も多いし、きつかったら強壮丸も使うから心配しなくて大丈夫だよ」

 

 

 そういうものなのですか、と分かったような分かってないような反応をされる。

 そもそものなり手の少ない魔法使いのことは、当事者しかわからないからしょうがないだろう。

 

 鉢の植物に水をあげようと見てみると、本葉も出てきてなにやら蔓のようなものが伸びている。

 支柱でもあったほうがいいのだろうか。

 

 身支度をして朝食を済ませ、装備を身につける。

 思いついたことがあったので、シャオクに待つように言ってアコルトと共に宿の部屋からクラザの迷宮1階層へとワープした。

 

 デュランダルを出しつつ、ニードルウッドを探してもらう。

 すぐ近くの通路の先に見つけたところに近づいて一振りで屠り、ブランチを手に入れた。

 

 念の為もう1本拾ったところで、敵の出ない小部屋へと戻る。

 アコルトにナイフとブランチを渡して、手頃な棒を切り出してもらった。

 解体や罠づくりをしていたと言っていたように、すぐに4本の細い支柱が出来上がる。

 

 どのラインから危なっかしくなる刃物武器判定になるのか分からないが、これなら料理も大丈夫だろう。

 再びワープを発動し、シャオクの待つ部屋へと戻ってきた。

 

 小さい植木鉢の土に、間を空けて棒を差していく。

 あんまり背は高くならないと言っていたので、倒れないように深めに差し込んだ。

 上手くいけばどれかに巻き付いてくれるだろう。

 

 3人で階段を降り、鍵を預けて宿を出る。

 向かうはクラザの4階層だ。

 滋養丸をいくつか取り出して、シャオクに持たせる。

 

 魔法主体のポイント編成で、ワンドからロッドへと武器を強化した分、知力パラメータを下げて結晶化促進を1段階上げてみる。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20

魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22

 キャラクター再設定    1 鑑定         1

 ワープ          1 詠唱省略       3

 5thジョブ       15 アクセサリ・三    7

 獲得経験値10倍    31 必要経験値1/10 31

 MP回復速度3倍     7 パーティー項目解放  1

 パーティライゼーション  1 結晶化促進16倍  15

 知力           4

                     (残0/118pt)

 

 

 最初はシャオクは数戦だけ後ろで見学してもらい、戦闘スタイルを確認してもらうつもりだ。

 迷いのないアコルトの歩みが止まると、通路の奥にニートアントの頭が見えた。

 

 

ニートアント Lv4

ニートアント Lv4

ニートアント Lv4

 

 

 すかさずウォーターストームを発動し、エフェクトの水が弾けると蟻たちは毒針へと変わった。

 火力の調整はうまくいったようだ。

 MP回復速度と結晶化促進の割り振りは逆でもいいかもしれない。

 

 

「えっ」

「こんな感じで、アコに探してもらって魔法で仕留めてる。

 スパイスパイダーの時は2回当てなきゃなんだけど、まあもう何戦か見ててね」

 

「……はい」

 

 

 その後もニートアントとコボルトは出るものの、こういう時に限って見せたかったスパイスパイダーはなかなか出てこない。

 現れたのは8グループ目の群れだった。

 

 少し広めの部屋の瓦礫の裏から顔を出した所に全体魔法を1発当てる。

 突進して来たところをアコルトが避け、もう1体を鞭で往なしたところに再発動して煙に変えた。

 

 

「2発必要な時は今みたいに、アコに牽制してもらって再発動の時間を取ってもらってる。

 ニートアントとコボルトは水属性が弱点だから1撃だけど、クモはどの属性にも弱くないみたいで2発かかっちゃう。

 一応5階層にも行ってみたけど、スローラビットには3発必要だった」

「……この4階層で戦っている理由はなるべくダメージを受けないように、手数も少なく倒せるように、という為ですか?」

 

「うん、早いから量で回していこうかなって」

「落ちるアイテムが毒針にコボルトソルトだと、これだけの早さでも量の割に売却額が少ないと思うのですが……」

 

「まぁそれはしょうがないかな、って」

「11階層までの魔物が落とすアイテムで高額になるのは、ミノの皮です。

 スパイダーシルク等のさらに高額なものは必ず落とすわけではないので、ミツキ様のように魔法を連発できるなら、ミノのいる階層がいいと思います」

 

 

 おお、建設的な意見だ。

 やはりいろんな迷宮を渡り歩いた経験者がいてくれるのはありがたい。

 

 

「ちょっと魔物のいない小部屋へ移動して話そう」

「かしこまりました、ご案内します」

 

 

 あれだけぐるぐると移動していたのに道順を覚えていたのだろうか、アコルトが最短で進む。

 その後ろに続いていくと、すぐに静かな小部屋へと着いた。

 

 

「それじゃ、シャオ。

 続きをお願い」

「はい。

 クラザもカルメリガも、ミノが出るのはどちらも11階層です。

 シームの迷宮では7階層で出現しますので、群れも3体までですし試してみるにはちょうどいいと思います」

 

「他の魔物は?」

「6階層のナイーブオリーブと5階層のスローラビットですね。

 どれも弱点属性は特にありませんがスローラビットは遅いですし、他は狭い通路で迎え撃てば、ミツキ様が魔法を撃つ間はボクが止められます。

 アコルトさんには、他の群れが合流しないか警戒してもらえば隙もなくなるはずです」

 

 

 確かに討伐までの攻撃回数の少なさを優先して、階層を進むのを躊躇しすぎていたか。

 敵を抑えるための人員と装備を手に入れたのだし、少しずつでも階層を上っていくべきだろう。

 

 被弾は怖いが、そればかり言ってはいられない。

 なによりシャオクが矢面に立ってくれるのだ。

 回復の手段も十分にあるし、方針を替える時かもしれない。

 

 

「……よし、じゃあ宿に戻ってシームへ荷物を移そう。

 その後はシームの迷宮へ行ってみようか」

「かしこまりました」

 

 

 10戦に満たない戦闘だったが、冒険者ギルドへとワープした。

 今のドロップ品を売払い、強壮丸を補充する。

 

 ひと粒ずつ数えた後、硬貨も1枚ずつ数えられるのを待つのはしんどいので、もっとこまめに買い足すか早く生成元となる遠志をドロップできる階層まで進めたい。

 3列分がいっぱいになっていることを確認し、宿へと戻った。

 

 

 鍵を受け取って部屋に戻り、移動の荷物を確認する。

 朝の時点で2人がまとめてくれたおかげで、それぞれが背負っているリュックはパンパンだがなんとか1回で持っていけそうだ。

 シャオクにはもう1つ別に詰めたリュックも手で持ってもらっている。

 

 靴以外の装備品をアイテムボックスに仕舞い、部屋の内壁から一旦カルメリガの冒険者ギルドへとゲートを開く。

 大荷物でわざわざ5階分の階段を降りてフロントまで行くのは面倒だ。

 

 経験値関係のポイントをMP回復速度に振り分けておく。

 自分が担ぐ分のリュックも二人に預けて、先にゲートをくぐってもらうことにした。

 一度ゲートを閉じて、もぬけの殻となった部屋を確認し、階段を下りてフロントへ向かう。

 

 

「すみません。

 明日の朝までだったんですが、今日引き払っても大丈夫ですか?」

「ん、部屋番号は?

 鍵が……これか、はいはい。

 構わないけど先払いだったから泊まり代は返せない決まりなんだ。

 夕食と湯は人数分返金ね」

 

「はい、ありがとうございます」

「えーっと、食事と湯が3つずつで210ナールだね。

 連泊ありがとう、またご贔屓に!」

 

 

 割増に切り替えるのを忘れていたが、さすがに返金で過請求するのは憚られた。

 割引で長期間部屋を借りて、割増で返金するというグリッチによる金策も可能なのかもしれないが、生身の人相手だと心が削られる気がする。

 

 いや、すでに割引で宿を取って、通常料金で返金されていた。

 払った額を参照してほしい。

 気づかなければよかった。

 

 気を取り直して2人が待つ冒険者ギルドへとワープする。

 端の方に寄って待っていてくれた。

 

 

「お待たせ、クラザの宿は引き払ってきたよ。

 リュック1つもらうね」

「こちらをお願いします、お嬢様」

 

「うん、ありがとう。

 シームに直接飛ぼうと思うから、アコから一人ずつお願いね」

 

 

 3人まとめて飛ぶから負担がすごいのだ。

 1人ずつ飛んでその都度強壮丸を飲めば、無理なく移動できるだろう。

 

 アコルトがフィールドウォークのフリをして、開かれたワープゲートにそのまま入っていく。

 それだけで攻撃魔法何発分かを軽く持っていかれた。

 

 身の安全を優先し、強壮丸を1つ飲む。

 

 

「次、シャオが入ってみて」

「はい!」

 

 

 分量としては一番多く担当しているのがシャオクだ。

 小さな体に大きなリュックを背負って、前にはもう一つ抱えている。

 

 ゲートにシャオクが足を踏み入れた瞬間から、MPがどんどん消費され始める。

 これは金属装備をつけたままだったらやばかったな、と思ったところでシャオクが足を止めた。

 

 

「ミツキ様、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」

「……!

 いい、から早く、通り抜けて……!」

 

「す、すいません!」

 

 

 両地点に同じ人物が同時に滞在すると消費が加速するのか、一気にMPを持っていかれた。

 ゲートを一旦閉じ、息も絶え絶えになって強壮丸を2つほど飲み込む。

 

 これはやばいな。

 大荷物の長距離移動は、レベルがもっと高くなるまで控えたい。

 

 再びゲートを出して、今度は自分が通り抜ける。

 アコルトが通った時と同じくらいのMP消費だが、今からすぐは街間の移動もないし、20倍の自然回復でなんとかなるだろう。

 

 

「おまたせ」

「ミツキ様、先程はすみませんでした!」

 

 

 シャオクが荷物を持ったまましゃがもうとしたので止める。

 

 

「大丈夫だから。

 自分もわかってなかったから、迷宮とかで初めて知るよりも今でよかった」

 

 

 幾度もフィールドウォークを経験したはずのシャオクが気をつけなかったのだから、フィールドウォークよりワープのほうが消費MPが多いのだろう。

 便利すぎる魔法故にそれくらいのデメリットはあるはずだ。

 

 

「今後はあの移動をする時は、なるべくさっと通り抜けることにしよう」

「「かしこまりました」」

 

 

 ともあれ無事にシームまでこれたので、宿へと向かう。

 流石に同じ街内での移動は大丈夫だろうと、おそるおそる試してみると問題なかったので、ミトラグの宿屋へとワープした。

 シャオク曰く、不動産と店舗が並んでいるので、大きくない宿でも兄弟で出し合って絨毯を用意したらしい。

 

 

「ミツキ様、ボクはカードチェックの際に探索者になっておいたほうがいいんでしょうか?」

「あ、そうだね。

 アイテムボックスの装備は今身に着けちゃって、他のものは預かるよ」

 

 

 シャオクだけ身につけているのも不自然なので、宿の裏に回ってそれぞれ装備で身を固めた。

 所持金や武器も預かって、シャオクのジョブを鍛冶師から探索者へと変更した。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士5 薬草採取士1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 探索者Lv11



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次回は9/22更新の予定です。

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