041 容認
宿の表に戻って、フロントへと向かう。
「いらっしゃい、えーっとミツキさん。
その荷物ってことは、このまま部屋に入るのかな?」
「はい、お願いします」
「そうしたら、カードのチェックが先でいいかい?」
「大丈夫です」
それぞれが腕を掲げ、ミトラグがインテリジェンスカードの名前を台帳に書き留めていく。
「ミツキさんに、アコルトさんに、シャオク、ね。
はい、ミツキさんはこの後お支払いをいただいていいかな?」
「わかりました」
「じゃあ、シャオクはアコルトさんを先に案内してあげてくれる?
3人部屋だからわかるよね」
「分かります、おじさん!
ミツキ様、リュックをお持ちします」
「あ、うん。
じゃあお願い」
巾着袋だけ取り出して、シャオクに荷物を預けた。
過去に手伝いでもしていたのだろう、迷うこと無くアコルトの案内しながら消えていった。
「3人部屋が1泊500ナールで簡単な朝食もつけるなら1人30ナール。
夕食は魚料理がうちのウリなんだけど、魚が用意できないときもあるから別にしてるんだ。
この2日分は用意できるから、1人50ナールってとこだけどどうする?」
「どちらもお願いします。
あと夕食後にお湯も人数分もらえますか?」
「ありがとう、それじゃ1泊とそれぞれ3人分で800ナールの倍で1600ナールだけど……。
シャオクのことをよろしくってことで、そうだな。
1200……1000ナールでいいよ、次回からは普通料金でお願いするけど!」
ボーナスポイントを振らずとも、3割以上値引いてくれた。
気前がいいなんてもんじゃない。
「ありがとうございます!
でも、そんなによろしいんですか?」
「いいよいいよ。
代わりに時間がある時にちょっとお話しできないかな?
兄貴から聞いたけどほら、ブノーのこととか」
「そうですね、お聞きしたいと思ってたので、今でも大丈夫です」
「そう、よかった!
じゃあとりあえずお会計だね、はい、確かに」
銀貨を10枚渡すと、じゃあこっちにと奥の部屋に案内された。
お茶を淹れつつ、椅子に座るように促される。
カップを机のそれぞれの前に置いて、ミトラグは先程までの朗らかな表情から、真剣なものとなった。
「あんまりお客様のプライベートに触れちゃいけないんだけど、聞きたいことがあってね」
「えーっと、なんでしょう?」
「この先話すことは口外しないことを約束した上で聞くね。
シャオクが奴隷になってる件って他の誰かに話したかな?」
「───!」
迂闊だった。
脱税奴隷の時にもアコルトに注意されたが、正規の所有手続き以降は鍛冶師のジョブのことしか考えてなかった。
そもそも前回魔法使いのジョブを見られていた際に、所有奴隷の欄も見られていたはずだ。
「……いえ、手続きをしたクラザの奴隷商人以外では、していないはずです」
「クラザか。
よかった、ああ、ミツキさんが悪いわけじゃないからね!
シャオクを所有したのはいつから?」
「脱税奴隷になるってことを聞いて、それなら自分に仕えてくれないかって話をしたので、正式には昨日ですね」
「脱税……やっぱり厳しかったのか。
間隔が空いても定期的にこちらに顔を出してくれる子だったからさ、それが連絡もなくなったから心配してたんだよ。
自分でなんとかするって言って聞かなかったし、助けてあげられる余裕もなかったけど、まぁこれは言い訳か」
悔しそうな表情を浮かべ、ミトラグが拳を強く握る。
「兄貴はあの子の勤め先が見つかったなんて喜んでたけど、気が気じゃなくてね。
昨日来てくれた時は元気そうでびっくりしたよ、何があったんだってね」
「お二人に会えたから喜んでいたんですよ!」
「それなら嬉しいけど、やっぱりミツキさんからの待遇だと思うよ。
普通、奴隷の故郷なんて来てやらないし、墓参りや馴染みの人に顔合わせなんてしないよ。
ましてや廃屋になるところだった家を借りるとかさ……」
「家については立地や条件がよかったのもありますが、シャオクについては……、一緒にいるアコルトについてもですけど、家族みたいに暮らしていけたらと思っています」
「部屋も3人部屋にしてたのはそういうことか。
この街で偽装、ってわけじゃなくて、他の街でも同じようにしてるって……ことだよね?」
「はい、食事も一緒のテーブルで取りますし、服もまぁ、同じ古着屋で買っていますね」
「そうなんだ……」
意を決して聞きたいことを聞けたのか、ミトラグは力が抜けたように椅子にもたれて脱力した。
「3人とも結構な装備をしていたけど、迷宮に潜っていくのかな?」
「そうですね、シームの街の迷宮はシャオクが詳しそうですし、少しずつ進めていこうと思っています」
「シャオクの懐き具合から使い潰されることはなさそうだけど、無理はしないでほしい」
「それはもちろんです!
自分が魔法使いなので、自分より前に立ってもらうことが多いですが、危険な真似はさせません。
階層を上がる時も2人に相談してからのつもりですし」
「うん、失礼なことを言ったね、申し訳ない。
それと……」
ミトラグが椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。
「あの子のことをよろしくお願いします」
「はい、ずっといっしょに暮らしていくつもりですから!」
こちらも立ち上がり、礼をしてその手を取った。
「ありがとう、この街のことなら何でも頼ってほしい。
奴隷についての件は、兄貴はすぐややこしく騒ぐから、他の人にはしばらくは黙っておいた方がいいと思うよ。
旅亭の仕事も交代があるから、僕がいる時に手続きをしたほうがいい。
帳簿についてもシャオクとアコルトさんの隷属については誤魔化しておくよ」
「ありがとうございます。
早速なんですが……」
例の漁村であるブノーの話をする。
場所としてはシームから1つ別の町を経由した先にある小さな村で、やはり海に面しているそうだ。
漁業が盛んだが、他に見どころもないので行く人はほとんどいないらしい。
経由地の町から荷馬車もでているが、数日に1回程度と聞いた。
冒険者は釣ったり獲った魚を干物にして、月に何度か納めに来るとのことだ。
「そろそろ納めに来る頃なんだけど、一昨日も昨日も来なかったし、今日あたり来ると思うんだよね。
来た時はうちに泊まって飲んでいくから、会えると思うよ」
「その時に一度見に行かせてもらえないか交渉してみます!」
「僕からも頼んでみるよ。
まあ大丈夫だと思うけど」
少し長話になって2人も心配しているかもしれない。
お開きということで席を立ち、部屋に行こうとなった時にミトラグが小声で聞いてきた。
「……ミツキさん、シャオクは鍛冶師になれるのかな」
諦めも混じったような表情に、自信を持って答える。
「なれますよ。
シャオの努力は必ず報われますから」
***
フロントに戻ると、2人が階段を降りてきていた。
荷物を仕舞っても時間があったので、心配で戻ってきてくれたようだ。
「ごめんごめん、ブノーのことを説明してたらちょっと盛り上がっちゃって」
「もう、おじさんはすぐ話が逸れるんだから!」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「うん、おまたせ!
途中で気付いたのかハラハラした様子だったアコルトは小さく頷いて、スッと付き従った。
この後はシームの迷宮を探索することになるが、少ししたらもう昼だろう。
先にご飯を食べてから行ったほうがよさそうだ。
「ミトラグさん、このあたりで料理屋さんってありますか?」
「ああ、ちょっと早いけどお昼だね。
そうだな、ミツキさんって料理にこだわるタイプ……だよね、魚の有無で家を決めるくらいだから」
「すみません……」
「大体の立地はシャオクが分かると思うけど、商人ギルドから領主様の邸宅に向けては高級なお店も増えてくると思うよ。
ただ、古着で行くと目立つと思う……」
「やっぱりそうですよね」
「探索者ギルド周りは手早く食べられたり、安さや量が多いことが重視されている店が多いね。
ミツキさんが落ち着いてちゃんとしたものを食べたいなら、冒険者ギルド周りから商人ギルドまでがちょうどいいと思う」
「なるほど、ありがとうございます!」
「いやいやこれくらいはね。
夜はこの眠れる人魚亭の料理を楽しみにしておいてね!」
そんな名前の宿だったのか、ここは陸しかないのに。
魚料理を出してくれるからだろうか。
シャオクにそれぞれの施設の位置を確認する。
あの借家の位置がおおよそYの字の下の先とすると、この宿は縦棒の真ん中くらい。
交差点が冒険者ギルドで、左に進むと商人ギルドと領主邸。
右に行けば探索者ギルドと、その外側に伸びた先に迷宮があるらしい。
ここから冒険者ギルドに向かうまでに騎士団の詰所もあるそうだ。
主要施設が分かりやすくて助かる。
この大通りを外れたそれ以外のところは、住宅地や細かい商店があるようだ。
ほぼほぼ円形の街なのだと思われる。
他の街でもそうだが、冒険者ギルドを街の中心に近いところに置くことで利便性を良くしているのだろう。
ミトラグに礼を言って宿を出発した。
シャオクのジョブを鍛冶師に戻し、アイテムボックス内の荷物を返しつつ、まずは冒険者ギルドの方向へ歩き出す。
周囲の建物が住宅街から少しずつ商店に変わっていき、ギルドが見えてくる頃には立て看板を出し始める店も出てきた。
アコルトに確認すると、営業中の知らせらしい。
2人に食べたいものを確認するが、主人の好きなもので構わないと言ってくるので、肉料理の店を探すことにした。
夕食は魚なのだから、昼は肉でいいだろう。
今後シームに住むなら試せる機会はいくらでもあるので、近場の店から入ってみることにした。
テーブル席に通され、壁に貼られたメニューを眺める。
といっても文字が読めないのでアコルトに読んでもらいながら、3人それぞれ違うものを選ぶことにした。
パンとハーブティーも注文して、のんびりと届くのを待つ。
やがて香ばしい匂いと共に料理が運ばれてくる。
鉄板で焼いた肉や野菜が盛り付けられた皿や、柔らかく煮込まれた肉の皿、野菜とともに茹でられた肉の皿が並ぶ。
肉がいいとは言ったが、本当に肉だらけだ。
まだ野菜の比率が多い茹で豚らしき皿を手元に寄せる。
掛かっているタレが思ったよりスパイシーだ。
味は見た目通りで美味しいことには美味しいが、トンカツやハンバーグが恋しくなる。
作中ではミンチ肉は下賤な食べ物扱いされてたんだっけ。
大きさの確保できない肉の端やくず肉を叩いたものと言えばそうかもしれないが、ちゃんとした肉を柔らかく食べる方法として広まってくれないものか。
この店については、2人の様子を見ても量も味もまあまあと言ったところか。
自分にとっては若干多かったので、食べる前にそれぞれに分けたが。
昼食の後はシャオクの先導でシームの迷宮へと向かう。
初回だからこれだけ歩いているが、次回以降はワープでショートカットだ。
「シャオ。
迷宮は一応1階層から順に進んでいきたいんだけど、中の道順って分かる?」
「6階層のボス部屋までなら分かります!
7階層以降は別の街に移ってしまったのでボスまで進んではいませんが、各階層の魔物の種類なら覚えました」
「頼りにしてるね。
とりあえず4階層まではなるべく最短で進みたいから、その都度アコに順路を教えてあげてね」
「はい!」
「アコは進む先の魔物の音を探ってほしい。
接敵しなさそうなら、どんどん進んで構わないから」
「かしこまりました」
迷宮の前に着くまでに、魔物の種類を教えてもらう。
1階層からグリーンキャタピラー、チープシープ、コラーゲンコーラルにニードルウッドだそうだ。
カルメリガでもクラザでも低階層の半分も進んでいなかったので、前の2種類は初見になる。
でかい芋虫と、角のある羊、だったか。
群れも1体や2体だし、魔法を使っているとMPがもったいないのでデュランダルでさっさと通過したほうがいいだろう。
そうだ、シャオクにデュランダルを持たせて先行してもらい、アコルトが索敵でカバー、自分はその後ろをドロップを拾いながらついてけばいいじゃないか。
……いやだめだ。
自分が倒さないと獲得経験値が増えない。
朝の迷宮で倒した20体前後でシャオクの鍛冶師のジョブレベルがあがったが、それでもまだLv4だ。
彼女らは自分と得られる倍率が違うので、得られる経験値は多ければ多いだけ良い。
魔物の群れが3体になる4階層までは、自分がデュランダルで突っ切ってしまったほうがいいだろう。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/剣士Lv5
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
5thジョブ 15 武器・六 63
アクセサリ・一 1 獲得経験値10倍 31
腕力 2
(残0/118pt)
探索者ギルドの前を通り、迷宮前に辿り着いたところでジョブとボーナスポイントを切り替えた。
「ちょっと方針変更。
3階層のボスまでは自分が先頭で敵を倒すね。
アコの索敵は変わらず、シャオは順路の指示とドロップアイテムを拾うのをお願い」
「かしこまりました」
「ミツキ様は魔法を使われるのでは……?」
「いや、今は剣士だから」
そう言って、腰に下げたデュランダルをトントンっと指で示す。
「なっ、いつの間に!?
……すごい剣ですね、後で見せてもらってもいいでしょうか?」
「うん、まあ後でね」
時折こちらをチラチラと見るシャオクの視線に目を細めながら、シームの迷宮へと突入した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/剣士Lv5
(村人5 戦士17 商人22 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv4
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次回は9/25更新の予定です。
誤字報告を頂き大変助かっております。
結構前に更新し終わった回で、明らかにおかしい文面になっていることがあるようです。
(順番が違って読めるタイポグリセミア程度ではなく、文節レベルでおかしい文章が挿入されている状態)
何からの誤った操作でしてしまっていると思いますので、投稿からだいぶ経った過去回でも、お気軽に誤字報告いただけるとありがたいです。
24/09/24
ボーナスポイント内訳変更