シームの迷宮の1階層は、黄白色の壁に包まれていた。
濃いアイボリーというかそういう感じだ。
造りはこれまでの迷宮と同じように見えたが、迷宮によって特色があるのだろうか。
最初の小部屋からシャオクの案内で進んで行く。
2度目の曲がり角を進もうとした時に、アコルトから待てが掛かった。
「この先に魔物がいます」
慎重に歩みを進めて、通路の奥を覗き込むと緑の塊が目に映る。
グリーンキャタピラー Lv1
でかい芋虫だ。
ウネウネと動く腹脚が、その大きさも相まって気持ち悪い。
オーバーホエルミングを使用して一気に近づき、デュランダルを振り抜く。
一刀のもとにその体を両断し、その瞬間から煙に変わり始めた。
ドロップアイテムの糸は、今後人数分の身代わりのミサンガのために貯めておいたほうがいいだろう。
ついでなので自分で拾っておく。
「シャオ、この先は?」
「……」
「シャオ?」
「今、ミツキ様が、高速で」
あー、うん。
毎回説明するのが面倒だな。
「高速で動けるスキルを使ったんだ。
かなり特殊なスキルですぐ疲れちゃうから連発は出来ないんだけど、この剣にはMP吸収のスキルがついていて、多少なら賄える。
急ぎの攻略だから今はこれで進んでいこうと思っているんだよ」
一気に説明した。
理解しないでも、そういうものと思ってほしい。
「お嬢様はこんなに可愛らしいのに類まれなるスキルと能力をお持ちなのです。
私たちの理解が及ばずとも、信じていきましょう!」
「はい……」
なんか言い方が引っかかる気がするが、まあいいだろう。
「えーっと、まあそういうものだと思って流してほしい。
それでこの先は……」
「すいません!
左の通路を進んだらしばらく道なりです!」
武道もやっていなかった素人剣技のエルフが、突然目にも止まらぬ速さで機敏に動いたら誰だって驚くだろう。
今後の追加メンバーにはもっと上手い説明をしてあげたい。
立ち直ったシャオクの案内を受けて迷宮を進む。
最初の分岐以降はほとんど枝分かれがなかったので、この1階層は最初だけ間違えなければかなり単純なルートらしい。
何度か魔物に遭遇しつつも、辿り着いたボス前の待機部屋には誰も待っておらず、そのまま入ることにした。
扉が閉まると同時に煙が部屋の奥に集まりだす。
ホワイトキャタピラー Lv1
グリーンキャタピラーより一回り大きく、白い芋虫だ。
大きい分さらに気持ち悪い。
道中と同じようにオーバーホエルミングで移動し、今度はスラッシュを発動して終わりだ。
絹の糸
普通の糸よりも艷やかな糸玉が残る。
高級そうではあるが、シャオクが言うには売値はブランチと同額らしい。
織物を作るには量が少なすぎるのだろう。
アイテムボックスに仕舞いつつ、そのままボス部屋の出口を抜ける。
2階層の敵はチープシープといったか。
角の生えた羊と表現されていた気がする。
現代では角のない羊も巻き角の羊も、どちらのイメージもある。
それくらいしか特徴がなかったのだろう。
道順はシャオク任せ、索敵はアコルト任せ。
魔物が出たら自分の出番だ。
「すぐ奥に魔物がいるようです。
避けましょうか?」
「いや、これだけ近いなら練習のために戦ってみる」
敵の位置がはっきりしているなら、新規の魔物を確認すべきだろう。
グリーンキャタピラー Lv2
チープシープ Lv2
オーバーホエルミングで近づいて芋虫を葬り、効果時間があるうちに羊から距離を取る。
こちらに気づいたチープシープはゆっくりと首をもたげ、こちらに狙いを定めたように見つめてきた。
身構えていたが、のそのそと動き出した程度なので拍子抜けだ。
角をこちらに差し出して、まっすぐに向かってくる。
助走というか、加速してきてはいるようだが大して速くはない。
近くで角を振り回されるくらいなら脅威になりうるかもしれないが、胴の横に回れば大丈夫そうだ。
デュランダルを振り下ろし、グリーンキャタピラーと同様に両断すると、白い塊が残る。
羊毛
そのまま羊の毛だ。
食べられる肉の方が欲しいが、それはボスやもっと上位の魔物の落とすアイテムなのだろう。
紡績もされていない低級の羊毛を落とすから、チープなのかもしれない。
チープシープの相手をする時は、正面を避けて横に付けば問題ないだろう。
後ろはもしかしたら蹴りが飛んでくるかもしれないが、それも動きが遅いんじゃなかろうか。
どちらかというと、鈍い羊の後ろで野放しにしておくと粘着糸を吐いてくる、芋虫のほうが危ないと思われる。
幾度目かの分岐を進み、ルート上の魔物を処理しているうちに、今度は2階層の待機部屋へと繋がった。
案内があるとこんなにいいペースで進めるのか。
避けられる敵を避けているというのも大きいのだろう。
「ボスはビープシープ、だっけ?」
「はい、チープシープのボスはビープシープです。
眠り状態にするスキルを使ってきます」
「この剣には詠唱中断のスキルもついているから、とりあえずは大丈夫だと思う」
「下の階でMP吸収と言ってませんでしたか?」
「う、うん。
どっちもついてるんだこれ」
「へ、へぇ~……。
それは……」
「見せる時に改めて説明するから、今は気にしないで!」
一番のチート武器だしな、デュランダル。
スキルスロットがわからないとされている世界では、狂人の作品としか思えないスキルの数だ。
……今後露呈する可能性があるのは防御無視だろうか。
HP吸収はパッと見わからないし、攻撃力5倍は武器自体の切れ味とかなんとか言えばいい。
迷宮に馴染みのないアコルトは武器自体はともかくスキルについては特に言ってこないが、シャオクは探索者や鍛冶師の目線から意見が飛んでくるのでなかなかに難しい。
逆に、こちらがしっかりと性能を教え込んだら、誤魔化す方便も一緒に考えてくれるかもしれない。
スキルスロットの説明もどこかでしておきたいが、手元にあるのはコボルトのモンスターカードだけだ。
オークションを利用して強化用のモンスターカードを随時手にいれられるようにしなくては。
あ、ザノフにシームに住むことを伝えなきゃだ。
明日の借家の査定の後にでも、カルメリガに行かなければならない。
でも今は、迷宮攻略に集中しよう。
水分補給など、一息ついてから2階層のボス部屋へと足を進める。
1階層と同じように、扉が閉まったタイミングでどこからから煙が溢れ出す。
鑑定に魔物が表示される前にオーバーホエルミングを使って駆け寄った。
ビープシープ Lv2
ウインドウが現れると同時にデュランダルを振り下ろす。
そのままスラッシュを念じると、引き攣るような鳴き声をあげてビープシープの体が分割された。
リスポーンキルにも似たひどい戦法だが、火力的に初手で仕留められるこの2階層かもしくは3階層までしか通用しないだろう。
唖然とするシャオクをよそに、煙が晴れて残った赤い塊のようなアイテムに鑑定をかける。
ラム
肉だ!
凶暴そうな見た目と裏腹に、柔らかそうな肉だ。
スーパーの徳用パックくらいの大きさだから、1kg程度だろうか。
結構な量なのでこれで4人分、いや3人分はありそうだ。
チラッとアコルトを見たのは内緒だ。
こんなに簡単に生肉が手に入るのはいいな。
豚肉や牛肉がもっと上の階層だったはずだから、家庭の中心はこのラム肉とパーンのヤギ肉なのだろう。
いや、すべてが迷宮産に頼っていては暮らしていけないから、動物くらいは食用で飼育されているか。
鶏肉はドロップ品では見なかった気もするし。
豚か牛か鳥か、あとは硬いか柔らかいかくらいしか分からない自分の舌にとっては、おいしければなんでもいいのだ。
アイテムボックスにラムを仕舞い、2人に声を掛けて3階層に繋がる扉へと進んだ。
「3階層ってなんだったっけ?」
「コラーゲンコーラルです」
階層を上って早々の質問にシャオクが即座に答える。
うーん、わざわざ寄って斬りつけるのが面倒になってきた。
3階層なら魔法で2発でいけるだろうが、それでは強壮薬がもったいない。
糸はしばらく売らないし、コーラルゼラチンも羊毛も安いそうだし、ボス素材は1つずつしかない。
どのみちボスはデュランダルでの速攻のつもりだから、ポイントの振り分けも大変なので諦めて物理で行こう。
コラーゲンコーラルは経験済みなので、さっさと移動することにした。
芋虫も羊も珊瑚も、どれも基本的に動きはゆっくりなので近寄ってデュランダルを振り回せばそれで終わりだ。
前より英雄のレベルが上がっていたり、剣士を設定しているおかげだろう。
アコルトのおかげで不意打ちもされないし、シャオクのおかげで迷うこともない。
あとは自分が動けばいいだけだ。
この階層ではゼラチンと羊毛を増やしつつ、立ち止まること無く待機部屋へと足を踏み入れた。
「今何時くらいだろうね?」
「夕食にはまだ早いと思われます」
「16時前後でしょうか」
具体的な時間と、腹時計が返ってきた。
昼食を早めにしたので、3階層分を上ってもまだ時間があるようだ。
「ここのボスも同じように突破して、4階層からは数が増えるから魔法で行こうと思ってる。
全体に攻撃できるけど、1撃じゃないのも出てくると思うから、2人ともよろしくね」
「かしこまりました。
これまで以上に素早く察知できるように尽くします」
「はい!
おまかせください!」
アコルトが胸の前で両拳を握って奮起し、シャオクも鋼鉄の盾をこちらへ掲げた。
張り切ってるけど、次の階層からだからね?
ボス部屋に入ると、これまでと同様に煙が現れる。
あらかじめ前方に移動しておいて、形作られてきたところでオーバーホエルミングを発動し、後ろに回り込んだ。
コラージュコーラル Lv3
不意打ちとばかりにデュランダルを構え、その体に向けてスラッシュを放つ。
終わりと思ったが、その岩のような塊は煙へと変わらない。
慌てて飛び退いたところで加速した効果時間が終わった。
それを見て動き出した2人を身振りで制し、再びオーバーホエルミングを発動する。
コラージュコーラルが頭を振り回そうと仰け反ったところに、デュランダルを突き込む。
刃先が触れた途端に、今度こそ白い煙へとその身を変えた。
これだけ英雄のレベルをあげていても、デュランダルをもってして2撃なのか。
上昇補正が増えても、そもそもの基礎値が低いのかもしれない。
あるいは何かしらのマイナスの補正も働いている、という可能性もある。
主人公補正がないからなのか、エディットされた肉体のステータス変動なのか。
人間とエルフの種族差なのか、相違点はいくらでもあるが検証のしようがない。
結局、自分の手札の中で違いを見るしか出来ないのだ。
あとに残ったニカワを拾い上げてアイテムボックスに仕舞い、代わりにロッドを取り出した。
ついでに魔法仕様へとボーナスポイントも振り直した。
心力の指輪をつけながら後ろの2人に振り返る。
「ごめんごめん、一撃じゃなかったから手間取っちゃった」
「いえ、結局お嬢様がすぐに仕留められたのでこちらは何もしていません」
「ともあれ、さっき言ったように次の階層からは魔法主体で行くから、お願いね」
「はい!」
ボス部屋の出口の黒扉をくぐり、4階層の入口小部屋へとやってきた。
「4階層がニードルウッドだっけ?」
「そうです、水属性に耐性があると言われています」
となると発動がわかりやすい火魔法でいいだろうか。
コラーゲンコーラルもチープシープも、スキルは使ってこないので魔法陣を気にする必要はない。
クラザでも4階層までは全体魔法2発で進められていたから、このシームでも同じはずだ。
近寄られる前に済ませるのが理想だろう。
駆け寄る必要がないので、今度は可能な限り遠くから魔物を察知することが望まれる。
敵との距離があればあるほど、2発目以降の魔法の発動が安全になるからだ。
その後はこれまでアコルトが牽制してくれていたところを、これからは鎧に身を包み盾を持った前衛のシャオクが止めてくれる。
アコルトも別の群れの合流に意識を割けるし、より安定した戦いになると思う。
「次の角の奥に、魔物がいるようです」
シャオクの案内で前を歩いていたアコルトが、半身でこちらに伝えてくる。
曲がり角だと近くまで視認できないのが厄介だな。
盾を持つシャオクに先行してもらって、その陰から通路を覗いた。
ニードルウッド Lv4
ニードルウッド Lv4
コラーゲンコーラル Lv4
サラサラと頭の葉を震わせて、狭い通路で蠢いていた。
……詰まってないか、これ?
幹から伸びた足も、石をくっつけたような体も、各々が通路とそれぞれに引っかかっているようだ。
目視できるギリギリまで体を引いて、ファイヤーストームを念じた。
木々が燃え上がるその隙間で、コラーゲンコーラルも藻掻いているように見える。
やがてクールタイムが終わって2発目を発動しようとしたところで、コラーゲンコーラルが抜け出した。
起き上がってピョコピョコと跳ねて向かってきたところで、二度目のファイヤーストームがその身を包み、仲良く3体とも煙となった。
恨むならその場に湧いた自身を恨むことだ。
ドロップアイテムを拾い、気を取り直して順路を進んだ。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv17/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士8 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv14
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv7
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次回は9/28更新の予定です。