異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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043 推測

 クラザの迷宮とは違い、シームの迷宮4階層ではスパイスパイダーのように動き回る魔物はおらず、動作の遅いものだけだった。

 懸念していたクールタイム間の被弾も気にするまでもなく、こちらへ届く前に2発目を撃てている。

 

 自分は接敵を教えてもらって視認したら発動するだけなので、大変なのは戦闘中も音の聞き分けをするアコルトだ。

 シャオクは案内だけで手持ち無沙汰にしている。

 

 案内をしてくれるだけで十分に役に立っているのだが、落ち着かないらしい。

 目標のミノがいる7階層では間違いなく敵は魔法2発では沈まず、その突進を防ぐことになるだろうから、大変になるのはシャオクだと伝えて宥めさせた。

 

 4階層でも順調に歩みを進められている。

 群れの魔物が3体までになっても、そもそも周回していたのと同階層なので、危機に陥ることなどそうそうないだろう。

 この考え自体がフラグにならないように、魔物の部屋にも気をつけて順路を進む。

 

 魔法メインのポイント構成にしておいたから、入手経験値は自分だけだが100倍効率だ。

 確認してみると、いつの間にか英雄のレベルも上がっていた。

 ここ数日は迷宮を離れていたので、久々の主要ジョブのレベルアップになる。

 商人も早くLv30まで上がってほしい。

 

 魔物の出ない広めの小部屋にでたので、少々休憩を挟むことにする。

 

 

「ボス部屋まではあとどれくらいかな?」

「このペースで行けば、待機部屋に着いたくらいで夕方の鐘が鳴る頃でしょう。

 シームでは騎士団が朝7時と昼12時、あとは夕方5時に鐘を鳴らしています」

 

 

 ほう、時報代わりでありがたいな。

 あの家は街の端のほうだからどこまで聞こえるかは分からないが、煩すぎるよりはいいだろう。

 

 

「さっき3階層のボス前で16時くらいって話だったけど、4階層は結構狭いのかな?」

「いえ、広さは他の階層とさほど変わらないと言われていますが、ミツキ様の討伐スピードが早すぎるんです……。

 普通は半日で3つも階層は進めません」

 

 

 それもそうか。

 本来これくらいの火力で魔物を倒せるのは高レベルのベテランだけだろうし、だいたいそのベテランたちはこんな低階層をわざわざ踏破攻略する必要がない。

 

 コンプ欲というか、ボスを含めて魔物を一通り確認しておきたいが故に、自分のエゴで回っているだけだ。

 原典に書かれていなかったラム肉のような発見もあるので、知識不足の自分には必要なことだと思っている。

 

 

「まぁ宿前にはすぐ戻れるし、ボスを倒して5階層に抜けたところで今日は終わろうか」

 

 

 返事が返ってきて、それぞれが警戒に戻った。

 

 決まり切った戦法で危なげなく進んでいると、アコルトが立ち止まる。

 

 

「目的の通路の先に、他のパーティーがいるようです」

 

 

 正規ルートなら被るのはしょうがないか。

 

 

「シャオ、迂回はできそう?」

「そうですね、うーん……。

 だいぶ戻って別の道からならあるいは……」

 

「そっか、どうしようかな。

 結構時間がかかりそうかな、アコ?」

「おそらくコラーゲンコーラルとニードルウッドがいるようなので、まだかかるでしょうか。

 戦っているのは2人、いえ3人ですね」

 

 

 複数種類なので少なくとも2体以上の魔物を相手していることになる。

 1体だけなら袋叩きでそれなりに早いかもしれないが、残っているなら戦い始めかそのあたりだろう。

 通り抜けられるならそうしたいが、万が一揉めたりするのは嫌だなぁ。

 

 

「遠目で見られるところまで行って、横を抜けられなさそうなら帰ろうか」

「そうですね。

 迷宮内では可能な限り他のパーティーを回避したほうがいいでしょう」

 

 

 途中セーブのようにワープが使えるのだから、こういう時に有効活用していこう。 

 

 会敵優先で索敵してもらっていた時は、こういった面倒事を避けられていたのも効率に影響していたのだ。

 人とそれ以外とを聞き分けてくれていたアコルトには感謝しか無い。

 

 後ろから魔物がきていないことを確認しつつ、慎重に進んで戦闘の様子を覗き込む。

 

 

ニードルウッド Lv4

コラーゲンコーラル Lv4 

ニードルウッド Lv4

 

 

 鑑定で表示されたウインドウは3つだ。

 アコルトの聞き分けた魔物の種類は合っていたが、3体だった。

 

 狭い通路で魔物の向こう側のパーティーが見えないが、これは長引くだろうとして3人で顔を見合わせて踵を返す。

 

 念の為最後に立ち寄った小部屋まで戻り、そこがダンジョンウォークで飛べることも確認しておいた。

 

 

「まあ、今日はここまでかな。

 昼食も早かったし、ミトラグさんの宿に引き上げよう!」

 

 

 鳴ってはいないがアコルトのお腹のあたりを見つめて言ったのが分かったのか、その顔が赤くなる。

 

 

「もう、お嬢様!」

 

 

 いいじゃん、結局一番食べるのはアコルトなんだから。

 その声に目を逸らしたシャオクも自身のお腹を押さえていたので、空腹のようだ。

 

 いっぱい食べて大きく……はなるのだろうか、自分も含めて。

 とりあえず健やかに育ってほしい。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 シームの冒険者ギルドに出るか迷ったが、夕方は混んでいるだろうし、クラザと同じように売却は昼に行うことにした。

 ミトラグの宿屋前の絨毯へと飛ぶことにする。

 

 住宅街が近いのもあるのか、人通りは結構ある。

 もしかしたらシームは、ルテドーナのベッドタウンのような側面もあるのかもしれない。

 

 と思ったが、冒険者しかフィールドウォークは使えないのだった。

 現代とは違うので通勤に銀貨を使うような者はいないだろう。

 こういった方面の知識も足りていない。

 

 

 宿の前で街並みと行き交う人を見ていると、見覚えのある姿が近づいてきた。

 

 

「お?

 シャオクに、えーとミツキさんと、アコルトさん、だったよな!」

「おじさん!」

 

 

 ヤトロクが大股でのしのしとこちらへ向かってきた。

 アコルトは会釈しつつ、その立った耳を正面から少しばかり横に傾けた。

 

 

「ええ。

 こんにちは、ヤトロクさん」

「おう!

 そうだ、話した通り大工は明日の昼来てくれることになったぞ!」

 

「ありがとうございます!

 昼の鐘が鳴る頃に家の前にいたらいいんでしょうか?」

「それでいいぞ!

 俺達もそれくらいに向かうつもりだからな!」

 

 

 つられてどんどん声が大きくなってしまうので、トーンに気をつけつつ会話を続ける。

 

 

「ウチの宿を取ってくれたんだってな!

 まぁ気に入らなかったら他の宿も紹介してやるから、いつでも言ってくれよ!」

 

 

 明け透けにものを言い過ぎだろう。

 たぶんこの裏表のないところがヤトロクの魅力なのだろうが、苦笑いしか出来ないぞ。

 

 

「お魚料理も楽しみにしていますよ」

「ああ、そうだったな!

 ミツキさんは魚が、……おっと」

 

 

 遮るように鐘の音が響く。

 

 

「もうこんな時間か!

 悪いが俺は先に行くから、明日もよろしくな!」

「はい、また!」

 

 

 腕をブンブンと振りながら、ヤトロクが不動産の方に向かっていった。

 

 助かった。

 終わることのないラリーを止めてくれた騎士団に感謝しよう。

 

 なんだかドッと疲れてしまったので、装備を一部アイテムボックスに仕舞って眠る人魚亭へと入った。

 

 

「いらっしゃい、あっ、おかえり。

 さっきの声ってやっぱり兄貴だよね」

「もどりました。

 はい、ヤトロクさんでした」

 

 

 受付に座っていたミトラグが肩を竦める。

 

 

「ははっ、知り合いを捕まえると話が長くなるからね。

 シャオクも居たから、余計にね。

 夕方の鐘の頃には店に戻るからその時間は避けるか、用事って言って話を切っちゃっていいから!」

「いやいやそんな……」

 

「気にしないでいいよ!

 宿の前で大声で長話されたら、新規のお客さんも余所に行っちゃうしさ。

 いっつも言ってることだから大丈夫」

 

 

 シャオクもぎこちない笑顔でやんわりと同意した。

 本当にいつもそうらしい。

 

 

「あ、そうそう。

 例のブノーの冒険者だけど、ミツキさんたちが出かけている間に顔を出したよ」

「本当ですか!?」

 

「うん。

 今は酒場に行っちゃってるけど、そのうち帰ってきてウチでも飲むだろうから、戻ってきたら声をかけるね」

「よろしくお願いします」

 

 

 ミトラグから鍵を受け取り、シャオクの案内で3人部屋へと移動する。

 クラザの宿よりもベッド間が少々詰まっているくらいで、部屋の広さもほぼ一緒だ。

 大体の規格が決まっているのだろう。 

 

 リュックを下ろしてベッドに腰掛け、両手を突き上げて伸びをする。

 数日ぶりの迷宮は、やはり緊張感がある。

 

 毎日行っていても緊張はするだろうが、決められたルートを移動するというのは初めてだった。

 半日だったが、多少なりともシャオクのレベルも上がってくれた。

 明日以降、まずはミノのいるという7階層を目指し、少しずつ上っていこう。

 

 というのも、気になることが1つあった。

 探索者のレベルがしばらく上がっていないのだ。

 

 思い返してみると商人がLv1からLv22に上がるまでに、探索者はLv20から2つしか上昇していない。

 いくら商人が非戦闘職でレベルが上がりやすいと言っても、この差はさすがに限度があるだろう。

 実際、22に満たない他のジョブのレベルは上がっている。

 

 

 考えられることは3つ。

 1つはLv22からの必要経験値が膨大に増えるという可能性。

 もう1つは、Lv22になると4階層では得られる経験値が極小になるという可能性。

 最後に、階層によってレベルキャップが存在するという可能性だ。

 

 1つ目は正直考えにくい。

 派生職の出るLv30からやLv50からということならまだ分かる。

 

 時間すら整然としたこのゲームじみた世界で、22という半端な数値から必要経験値が加速度的に増えるのだろうか。

 区切りとしてはどうもおかしく思える。

 

 

 2つ目はどうだろうか。

 RPGではよく、難易度に対する適正レベルや適正狩場などという認識が存在した。

 レベルを上げすぎたキャラクターは、低級の狩場では獲得経験値が一気に減るとか、あるいは0になるなんてこともあった。

 

 この可能性はそれなりにある。

 解消するためには、より上の階層へと狩場を移せばいいだろう。

 

 

 最後の可能性も考えてみる。

 階層ごとにレベルアップによる上限が決まっているという想定だ。

 

 作中でレベルが明示された箇所は飛び飛びであったし、自分も明確には覚えていない。

 細かく覚えたのは魔法使い取得の辺りくらいだ。

 

 初期スタートから違っているので、彼が4階層でLv22を超えていたとしても、世界が違うと言われてしまえばその通りでしかない。

 少なくとも自分は、4階層で経験値を稼ぎ続けてもLv22で止まっているというのが事実だ。

 

 これについても、2つ目の可能性と同じように上の階層に抜けさえすれば、レベル制限も自ずと高くなっていくと思われる。

 

 

 つまり、レベルを上げたければより上の階層へ、より迷宮の奥深くへと潜る必要があるということだ。

 最低でも、派生職の現れるレベルまで上げられる階層までは到達しなければならない。

 いくらボーナスポイントの経験値効率を使い倒しても、ずっと低階層で楽にレベルを上げ続けることはできないのだろう。

 

 迷宮に潜るための理由付けというか、これはこれでゲームらしいし、人生はそんなに甘くないとも言える。 

 どのみち今後暮らしていくにしても、豚バラや牛肉といったドロップ品や尾頭付きなる絶品食材を食べるためにも、その階層まで行く必要があるのだ。

 

 徐々に力をつけ、無理をしない範囲で少しずつ階層を上げていけばいいだろう。

 

 そんな感じに結論付けたところで、部屋のドアがノックされる。

 

 開けて出てみたところ、宿の従業員が食事の時間だと知らせに来てくれたようだ。

 確かに食事は期待するように言われたが、どこで食べるかとかその辺りをシャオクに聞くのを忘れていた。

 

 シャオクに続いて、階段を降りる。

 1階の奥に食堂があるそうだ。

 

 他の客はまだきていないらしく、どうやら最初に呼びに来てくれたようだ。

 

 

「さっき一緒に説明しておけばよかったんだけどね」

 

 

 自分たちのすぐ後にミトラグも食堂に入ってきて早々、こちらに口を開いた。

 

 

「代わりと言っちゃなんだけど、今日は魚の仕入れがあったから干物だけじゃなくて当日釣ってきたものもあるんだ。

 数が少ないからいつもは従業員で食べたり、常連さんの都合が合えば出してるんだけど、ミツキさんたちにもどうかなって思ってさ」

「ありがとうございます!

 生でも食べられるんですか?」

 

「さすがに生で食べるのは聞いたこと無いけど……。

 ミツキさんの生まれの方ではそういうものもあったんだ……?」

 

 

 あ、マズい。

 野蛮な感じに見られているかもしれない。

 

 

「し、新鮮な魚をごく一部の地域では生で食べているそうです。

 魚を捌くの自体は、昔手伝ったことがあります」

 

 

 学生時代に山ほどやったバイトの1つに、魚屋での仕事もあった。

 作業量は多かったが、まかないや廃棄前で魚介類を貰えるのがありがたかった。

 

 

「あれ、ミツキ様は山奥に」

「へぇ!

 ミツキさんは捌けるんだ!」

 

 

 シャオクが痛いところを突こうとしたが、それよりもミトラグが食いついてきた。

 

 

「テオドナフ……例の冒険者だけど、そいつが干物にしてくれてるのはもう開いてあるんだけど、生魚の方は鮮度のためにそのままでもらってるんだ。

 数も少ないし、捌く練習もしてるんだけど頻度が少なくて、あんまり上手にできなくてさ。

 常連さんくらいにしか出さないのも、なかなか綺麗にできないからなんだよね。

 身の方は戻した干物より柔らかくておいしいんだけどね」

「慣れないと難しいですからね……」

 

 

 仕入れの頻度が分からないが、アイテムボックスに入らない食材だから、一度に持ち込まれる量は限られるはずだ。

 生魚は特に輸送が面倒だろうし、量も少ないと言っていた。

 

 月に数度、それも数匹ずつじゃあ個体差のある食材の下処理は上達し辛いだろう。

 毎回同じ人が担当できるとも限らないし。

 

 

「まあ、機会があればお見せしますよ!」

「本当かい?

 おーいまだ生のやつ残ってる?」

 

 

 料理の準備をしていた従業員に確認させたが、小ぶりな1匹はまだ残っているらしい。

 

 

「あ、ごめんごめん、それは後でお願いするとしてまずは料理を食べようか」

「ありがとうございます。

 2人とも、頂こうか」

 

 

 椅子に座ったミトラグのテーブルの向かい側に腰掛け、両側にはそれぞれアコルトとシャオクを座らせる。

 並んで席についた自分たちをミトラグが頷きながら眺めていると、従業員が皿を運んできた。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv18/探索者Lv22/僧侶Lv19/商人Lv22
(村人5 戦士17 剣士8 薬草採取士1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv15


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv9



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次回は10/1更新の予定です。

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