異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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045 スキル

 目が覚めると、すでに2人は起きて着替えの準備をしていた。

 

 3つ並んだベッドの内、窓際の1台で自分が寝入ってしまったため、昨日は真ん中にアコルト、奥側はシャオクの並びになったらしい。

 主人なのでぜひ真ん中にと言われたが、小市民的な自分は端が落ち着くのでこのままということにさせてもらった。

 扱いがそこまで変わるわけでもないが、一番奴隷のアコルトの方が主人に近いというのも分かりやすくていいだろう。

 

 顔を洗って身支度をし、アコルトに髪をお願いする。

 ハーフアップにバレッタを留めて少しだけまとめてもらった。

 

 植木鉢の謎の植物にも水を与える。

 昨日の夜に水をあげた時に、支柱に蔓が巻き付いているのを見たが、今朝はなにやら葉とは違うものがついているように見えた。

 

 蕾……なのだろうか?

 (がく)と思わしき形状の、小さいものが茎から伸びている。

 

 カルメリガのあの露店のドワーフは、5日ほどで花が咲くと言っていた。

 指を折って数えてみると、今日が4日目の朝だ。

 本当に蕾なのだとしたら、これから1日の成長で咲くということか。

 

 異様なまでに成長が早すぎる。

 まぁ魔法がある世界なので、成長に関する要素は現代とはそもそも違っているのだろう。

 

 森林保護官のジョブ条件を試せるのが早いに越したことはない。

 

 

 階段を降りてフロントへ向かうと、ミトラグがこちらに気づいて声を掛けてきた。

 

 

「おはよう、ミツキさん、アコルトさん、シャオク」

「おはようございます」

 

 

 2人も口々に返事を返し、よく眠れたかなどと聞かれて他愛のない話をする。

 

 

「あっ、そうだ朝ご飯だよね。

 食堂に行って好きに食べてもらって大丈夫だよ。

 と言っても軽いものしかないから申し訳ないんだけど」

 

 

 この宿にくる客は夜に魚料理を堪能して、翌日の朝は肉や魚など食べたいものが結構分かれるらしい。

 大きい規模ではない宿では対応に限界があるので、軽めの朝食だけ用意してその分料金を下げているそうだ。

 

 

「外に出たところにも何軒か食べられるお店があるから、足りなければそっちでお願いね。

 それと、テオドナフだけど昨日は申し訳ない。

 今は酒が抜けて大人しいからまともに話もできるし、少し前に食堂に行ったところだよ」

「そうなんですね。

 ご挨拶してみます」

 

 

 朝からあの男は面倒だが、漁村には行けるようにしておきたいので頑張ってみるしかない。

 

 食堂へ入ると、それなりの宿泊客がまばらに座って食事をしている。

 見渡して席を考えていると、男が近づいてきた。

 

 

「おはよう、ミツキさんだったかな?

 テオドナフだ。

 昨日は失礼なことをして申し訳ない」

 

 

 無精髭はそのままに、精悍な顔つきでこちらを見つめた後、深々と頭を下げた。

 本当に同一人物か?

 

 

「いえ、大丈夫です!

 飲まれていたところにお邪魔して、こちらこそすみません」

「そちらが謝るようなことは……いや、先に食事だろう。

 俺は夕方ブノーに戻るが昼までは宿の中にいるので、食べ終わった後にでもまた話そう。

 ではまた後でな」

 

 

 双子の別人かと思うくらいに落ち着いて配慮のある対応だった。

 酒乱ってことなのか?

 それにしても変わり過ぎだろう。

 

 食堂を出ていったテオドナフを見送り、朝食に移る。

 

 簡単な食事と言っていたように、肉と野菜を炒めたものと、焼いた干物と付け合せの野菜のどちらかを選んで、そこにパンと飲み物がつくらしい。

 自分は干物を、2人は肉野菜炒めを選び、席について食べ始めた。

 

 自分としては量的には十分だが、腹ペコ兎のアコルトには足りないだろう。

 シャオクにとっても少ないと思う。

 

 焼き魚も美味しいのだが、食べづらい。

 いっその事と思って骨を外して軽く身をほぐし、割ったパンの中に野菜とともに挟み込む。

 サバサンドもどきの完成だ。

 

 内心ドヤ顔で食べていたが、それはちゃんと弁当用のメニューにあったらしい。

 挟んだだけならそりゃあるよね……。

 しかもそちらはマスタードに似た辛味のある調味料のソースを使っているそうだ。

 

 敗北感に苛まれながらも食事を食べ終え、足りない様子の2人には宿を出た後になにか買おうと約束して食堂を出る。

 

 部屋に戻りがけのフロントに、先程のテオドナフがいるのに気づいた。

 どうやらわざわざ食事を終えるのを待ってくれていたようだ。

 

 

「すみません、お待たせして」

「ああいや、すれ違いになるよりはと思っていただけだ。

 気にしないでくれ」

 

「酒を飲んでなきゃだいぶまともなんだよね、こいつ」

 

 

 帳簿を開きながらテオドナフの雑談相手をしていたミトラグが茶化す。

 

 

「いいだろう、もうそれは」

「はいはい。

 ミツキさん、これから相談なんでしょ?

 そこの机使っていいからね」

「ありがとうございます」

 

 

 ミトラグが指差したフロントの隅の方には、小さな机と一対の椅子が置いてある。

 移動して自分とテオドナフが向かい合わせで座る形だ。

 2人分の席しかないので、アコルトとシャオクには後ろに立っていてもらう。

 

 

「それで、ブノーに行きたいそうだが魚の買い付けかなにかか?」

「買い付けってほどでもないですが、この3人で近々シームに家を借りるつもりなので、普段の食事用にたまに魚を買いに行けないかなと思いまして」

 

「普段のって……。

 フィールドウォークで言えば、近いとはいえ片道で銀貨何枚かの距離だぞ。

 ずいぶんと懐が暖かいのか?」

「冒険者の伝手はあるので、日常的にお願いするのは大丈夫そうなんです。

 ただ、魚を売ってもらえるようなのか実際に行ってみたいんです」

 

 

 それを聞いたテオドナフは、少し考える様子をしてから口を開いた。

 

 

「……ブノーは海に面した小さな漁村だ。

 足が早いから漁で獲った魚はだいたい加工されてしまう。

 手銭を増やしたい者はいるだろうから、昼前までに行けば生魚でも売ってくれる奴もいるだろう」

「なるほど、ありがとうございます」

 

「俺はこの宿に卸す分で手一杯、というか獲るのも加工も手伝ってもらってるくらいだからな。

 言い方は悪いが、いつ来るか分からないミツキさんに追加で用意しておく余裕はないんだ」

「それは分かっています。

 なので今日のお帰りの時に一緒に送っていただければと思っています」

 

「詫びもあるし、移動して軽く見回ってまたシームへ送るくらいなら構わないぞ。

 実際に魚を買うとなったときは紹介くらいなら多少はできそうだが、交渉は自分でやってくれ」

「ありがとうございます!

 それだけで十分助かります」

 

 

 夕方の鐘が鳴る頃にこの宿で待ち合わせ、ということでブノーへの移動の話は落ち着いた。

 当初自分だけのつもりであったが、3人でも良いと言ってくれたので、移動代はいらない代わりに村への帰りの荷運びを手伝うことになった。

 

 自分とアコルトは手持ちだけで、探索者ということになっているシャオクはアイテムボックスを数列分追加で持つ形だ。

 村への仕入れの代わりも請け負っているんだろう。

 

 

「エルフと聞いて身構えちまったが、よく礼を言ういい子じゃねぇか、ビビって損したぜ……」

「え?

 そんな、ありがとうございます!」

 

「な、あんたサリニク語分かるのかよ!?

 くそ、恥かいちまった」

 

 

 ボソリと呟いた言葉に反応してしまうと、それだけ捨て台詞のように吐いてテオドナフは足早に去っていった。

 昔、辛辣なエルフにでも会ったのだろうか。

 

 テオドナフは酒さえ飲まなければ面倒見の良いおじさんだった。

 酒さえ飲まなければ。

 

 

 話も終わったので、部屋へと戻った。

 昼にはあの借家へと移動して立会だが、それまでにはまだまだ時間がある。

 シームの4階層の残りを進んで、5階層へと行ってみよう。

 

 装備を身に着けて階段を降りる。

 フロントに鍵を預けた後、眠る人魚亭を出て食べ物の店を探す。

 

 ミトラグは近くに何軒か、と言ってたので通りを少し歩いてみると、炭台の上に何やら並べている店があった。

 話を聞いてみると、肉に細かく切った野菜を詰め込んで蒸し上げたものらしい。

 

 注文を受けてからタレを付けて表面だけを焼き上げるので、時間もかかり過ぎず提供できるそうだ。

 試しに3つほど注文し、代金を支払う。

 

 前にいた客の分の隣に並べられ、溢れたタレの雫が赤々と燃える炭の上に落ちて焦げる香りが舞った。

 この時間も食欲をそそる。

 

 先に受け取った客の手元には、パピルスに包まれた肉がタレの照りを携えながら香ばしい匂いを放っている。

 予め蒸しているので内部が生焼けになることもなく、パリパリになった皮は齧り付きたくなる見た目だ。

 

 焼色がついたくらいで火の上から外され、包み紙に入れられた商品を受け取った。

 一気に口に入れたら絶対火傷する気がしたので、恐る恐る端の方に食いついた。

 

 美味い。

 蒸してあるので肉汁もたっぷりで中の野菜もタレと合う。

 2人も気に入ったようで、見ているこっちが嬉しくなる食べっぷりだ。

 

 ちなみにお腹いっぱいで自分が食べきれなかった半分は、無事にアコルトのお腹に収まった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 店の裏にあった木の幹から直接迷宮の4階層小部屋へとワープした。

 魔物の出ない部屋にいるうちに、動きを口頭で確認する。

 

 基本的にはシャオクの道案内でボス部屋を目指す。

 アコルトの索敵に引っかかったら、なるべく遠くにいるうちにファイヤーストームを1発。

 シャオクに接近を防いでもらって、もう1発でおしまいだ。

 

 近くに他のパーティーはいないようで、開始から順調に進んでいけそうだ。

 

 ニードルウッドとコラーゲンコーラルの群れを蹴散らし、迷うこと無く通路を進んでいく。

 今日はまだそんなに人が入っていないからか、会敵が多い気がする。

 間引かないと魔物の数が増え、やがて地上に出てくるものもいるのだろう。

 

 倒すまでが早いのもあってか、戦闘になる回数も多い。

 8グループ目の群れを倒した時に、見慣れないアイテムが残っていた。

 

 

モンスターカード:羊

 

 

 モンスターカード!?

 コボルトに続いて通算2度目だ。

 これは嬉しい。

 

 

「これはモンスターカードのようですね。

 チープシープが落としたので、羊のカードだと思います!」

 

 

 シャオクも嬉しそうに伝えてくるが、途中で難しい顔つきに変わった。

 

 

「有用なスキルですが、カード融合するとしたらなかなか悩ましいですね」

「うん?

 どういうこと?」

 

 

 羊のモンスターカードの付与スキルは武器なら催眠、防具なら睡眠状態への耐性だ。

 

 もちろん手数が多い武器に付けるのが良いとされるが、アコルトの使う鞭は一回振るって戻すだけで複数回当たる。

 命中して催眠が発動しても、その直後にまた鞭がぶつかれば解除されてしまう。

 結局返ってくる直前の一番最後の攻撃の時に発動しなければ、敵に一瞬の隙を作っただけで終わってしまうことになると指摘された。

 

 現状、クールタイムが終わるごとに発動している火力の高い全体魔法だけで仕留めているので、回避や牽制を止めてでもアコルトに催眠付与のための攻撃をさせるメリットがなさそうであるとの見解だ。

 同様に、シャオクのカトラスに付与したところで、盾での防御や往なしの間に攻撃を加える必要があるかとなった。

 

 防ぐことに徹底してもらった方が安定もするし、どっちにしろ魔法の手数は変わらないと思われる。

 これが麻痺や石化であったならば、追撃に関わらず相手の行動を制限できるのでメリットが勝るし、毒ならば魔法の手数自体を減らせる可能性も出てくる。

 

 かといって睡眠耐性防具の作成に回すかと言えば、催眠攻撃を行ってくる魔物がいるのはチープシープのボスのビープシープの階層、その次はそれが階層の魔物となる34階層以降だそうだ。

 

 

「火力の高いミツキ様の魔法を主体に戦っている現状、催眠のスキルは相性が悪いと思います。

 耐性についても、詠唱中断の武器を持っているようなので複数体を相手する34階層までは不要そうです」

「確かに、聞いてみるとうちのパーティーでは持て余しそうだね……」

 

「それでも、催眠付与のついた武器は人気だと聞きます。

 通常のパーティーでは、1体だけでも敵を止められるのは非常に優秀です」

 

 

 となるとこれは、剣や槍と融合してオークション行きかなぁ。

 まだ仲買人との交友はないが、将来的な貯金くらいに考えておこう。

 

 

「うちで使わないにしろ、手に入ってラッキーだよ。

 シャオクのお陰で無駄にしなさそうだし、助かった」

「生意気にすみません」

 

「いや、専門家らしいちゃんとした意見だよ。

 聞いてなかったら何も考えずに鞭に融合してたと思うし、これからも気づいたら指摘してほしい」

「……実は失敗が怖かったのもあります」

 

「前に言ったけど、仮に失敗したとしてもお願いした自分が責任を取るし、そもそも失敗しないから大丈夫だよ」

「え?」

 

「正確に言うと、()()()()()()()()()()()()を見分けられるんだ。

 成功する装備しか買い集めてないから、自分がお願いするときは成功しかしないよ」

「さすがにそんなことは……」

 

「なるほど、そういうことでしたか、お嬢様」

 

 

 周囲の索敵を終えて、黙って聞いていたアコルトが話に加わる。

 

 

「商店で購入する際に装備の種類については迷われていたのに、決めた後は同じ装備の複数点の中から即座に選び抜かれておられたので何かしらの判断基準をお持ちなのだと考えておりました。

 この竜革の鞭についても、2つの内の片方には目もくれずこちらを選ばれていたのは、こちらが()()()()()()ということなのでしょうか」

「うん、そういうことだよ」

 

「待ってください、そうするとボクがミサンガを製造した時にも分かっていたってことですか!?」

「そうだね。

 もし失敗するミサンガが出来ていた時は、別のミサンガを作るところからやってもらうつもりだった」

 

「それはっ、……いや今は迷宮なので、後で詳しくお願いします!」

 

 

 魔物の出る場所で話し込んだのは迂闊だった。

 一気に話しすぎてしまったが、こういう切り替えができるシャオクで助かった。

 聞きたいことがあっても、なんとか抑えてくれているのだろう。

 

 

 その後も慎重にルートを進んでいく。

 ブランチを拾って通路を抜けると、すこし開けた部屋へと繋がった。

 

 奥に通り抜けられるだけの壁があったので、ボスの待機部屋だろう。

 ここまでのように、待機しているパーティーも居なかった。

 

 

「この先がボスかな?」

「そうですね。

 ニードルウッドのボス、ウドウッドです」

 

 

 レベルが違うが既に経験済みの相手なので、デュランダルの物理特化のポイント編成に振り替えた。

 

 

「また自分が剣で行ってくるね。

 ここまでの感じだとそれなりに斬らないといけないと思うから、ちょっと手間取っても近づいてこなくて大丈夫だよ」

「かしこまりました」

 

 

 3階層では1撃のつもりが2回分の攻撃が必要だったから反応が遅れただけで、予め複数回攻撃が要るとわかっていれば問題ないはずだ。

 3回、いや余裕を持って5回分の攻撃をできるだけの動作で挑めば、焦ることはないだろう。

 

 ボス部屋への扉を抜け、2人も続いたところで壁が塞がった。

 煙の発生とともに部屋の奥へと駆け出す。 

 

 

ウドウッド Lv4

 

 

 相変わらずの大木だ。

 レベルが違っても、魔物の大きさに補正はかからないようだ。

 

 それもそうか。

 こいつが次に出るのは37階層の通常の魔物扱いだ。

 いくら段階を分けても、大きさにまで差異をつけていたらどれだけ迷宮が巨大になっても足りないだろう。

 

 オーバーホエルミングを発動して背後を取り、スラッシュを打ち込む。

 幹に傷をつけてスキルの動作が終わったところで切り返し、一旦距離を取った。

 

 振り返ろうとするウドウッドに正面を取られない為に、弧を描くように移動してデュランダルを突き入れる。

 

 まだ、か。

 

 そのままスラッシュを念じて発動し、スキルの動作で剣を持つ手が振り抜かれた。

 刃先が太枝を両断し、今度こそその身を煙へと変えていく。

 

 4撃必要だった、というよりスラッシュ2発を試せばよかったのかもしれない。

 3階層ではスラッシュ1発と通常攻撃1発だったので、スラッシュのダメージ補正が高いように思える。

 

 詠唱とMPを必要とする分、スキル攻撃は通常攻撃よりかなり威力が高いのだろう。

 剣士だけでなく、僧侶も外して戦士もつけてラッシュも使っていけば1巡で済んだかもと思うと、自分の想定の甘さが悔やまれる。

 

 でも万が一を考えると、回復職を外すのは少々怖い。

 今後はポイント構成も練りなおす必要がありそうだ。

 

 戦闘が終わったのを確認して2人が駆け寄ってきたので、足元に落ちていたリーフを拾ってボス部屋の出口へと向かった。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv20
魔法使いLv20/英雄Lv18/探索者Lv22/僧侶Lv20/剣士Lv9
(村人5 戦士17 商人22 薬草採取士1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv15


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv9



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次回は10/5更新の予定です。
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