異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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046 大工

 シームの迷宮5階層へと歩みを進めた。

 階層を上がってすぐの小部屋には魔物が出ないので、ボーナスポイントを魔法仕様へと変更する。

 階層の強化分をと思って、結晶化促進のポイントを知力とMP回復速度へと振った。

 

 この階層にでるのが、ナイーブオリーブだ。

 オリーブオイルを買い足すのを躊躇して、迷宮に潜っていなかった数日は手入れに使う分を節約していたが、ここでやっと補充できそうだ。

 アコルトに索敵してもらって、おそらくそれと思われる音の方へと案内してもらう。

 

 通路の奥にいたのは、葉の生い茂った植物の魔物だった。

 

 

ナイーブオリーブ Lv5

ニードルウッド Lv5

 

 

 横にいるニードルウッドは人型の木という感じだが、ナイーブオリーブはひょろっとした細い木に青々と葉が生い茂っている。

 なんだっけ、神事に使う……そう、(さかき)だ!

 不謹慎かもしれないが、あんな感じに見える。

 

 自分がオリーブについて実の方ばかりで木のイメージが湧かないだけな気もするが、きっと似たような生え方をするんだろう。

 とにかく、こちらがやることは変わらない。

 

 ニードルウッドに水魔法耐性があるので、相変わらずファイヤーストームをお見舞いする。

 もしかしたらナイーブオリーブについては、ブリーズストームの方が風の刃でその葉を切り落とせるかもしれない。

 

 それでも寄って来られたら前衛が万が一見えない刃で被弾すると怖いので、やるとしたら1発目になるだろう。

 だがこの低階層で魔物の種類に合わせて使い分けるのも面倒なので、やはり視認性のある火魔法でいいということにした。

 

 2回目の全体魔法が発動すると、2種類の魔物はどちらも煙へと変わる。

 知力に振っておいた分で、火力の調整はちょうどよかったらしい。

 

 あとに残ったのはブランチと、小さな玉のような状態のオリーブオイルだ。

 シャオクが拾ってくれたので、声を掛けてその手の上で触らせてもらう。

 

 つまみ上げると柔らかいグミのような感触がする。

 薄い膜に包まれていて、これが破れると中のオイルが漏れ出すというわけだ。

 確かに1つあたりの量は少ないので、料理や手入れとして普段遣いするには大量に必要そうだ。

 

 シャオクのアイテムボックスへと仕舞ってもらい、今後のためにも何体か狩ることにする。

 これまでの階層と同じように、とりあえずボス部屋の方向へと進路を取ってもらった。

 

 討伐までの確殺数が変わらないので、進行ペースは落ちない。

 オリーブオイル玉を拾い上げる時に慎重になるかもしれないが、シャオクは慣れているようなので他のアイテムを拾うのと大して変わらないようだ。

 

 何グループか倒して、オリーブオイルがシャオクのアイテムボックスで2列目にはいったそうなので、小部屋に到達したところで一旦探索を終えることにした。

 5階層としては半分も進めていないそうだが、ギルドでの売却や立会前にもう一度内見したいことを考えれば切り上げ時だろう。

 

 オリーブオイル以外のドロップアイテムを引き取り、シームの冒険者ギルドへワープゲートを繋いだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 2人を待たせて、買取カウンターの列に並ぶ。

 人の少ない時間帯だというのもあるが、他の街よりも人の数が少ないように思える。

 近い街に侯爵領のルテドーナがあるので、このシームは人が移りがちなのかもしれない。

 

 順番が来たので、トレーにガサガサとアイテムを載せていく。

 ミサンガの作成に使う糸と、シャオクに持たせたオリーブオイル以外は売り払う。

 

 3割増しで精算して、2151ナールの硬貨が返ってきた。

 やはりボス素材が高額なのだろう。

 

 リーフが1枚で80ナールなので、低階層ならワープでウドウッドを連続周回すれば捗りそうだ。

 さすがに他パーティーと鉢合わせそうなので、深夜にするとか時間帯を選ばないと無理そうではあるが。

 

 

 合流して冒険者ギルドから、目的の家に飛ぼうとして思い留まる。

 もしヤトロクや大工が先に来ていたら、その目の前にワープで現れるのはマズい。

 

 少し相談して、墓地から家へと向かった途中の林の中の木へと飛んでみることにした。

 ヤトロクが自分の家から来るにも、大工が街から来るにもわざわざ通る必要のないところだからである。

 

 ゲートを開き、アコルトだけサッと駆け抜けて現地の周囲を確認してもらう。

 開きっぱなしのゲートを跨いでアコルトが戻り、問題もなさそうなので全員林に出ることにした。

 

 

 家の近くまで来てみても、まだ誰も来ていないようだった。

 立ち入りの許可は以前にもらっているので、まだ見ていない部屋もあるし、今一度確認する。

 

 玄関を入ってすぐ、ダイニングキッチンというか広めの居間の隅に竈といった料理スペースがある形だ。

 食事用のテーブルと椅子、調理用のテーブルが必要そうだ。

 

 ただ、それらを置くにしても使わなくなった古い家具や、微妙に邪魔な柱や壁などが場所を取っている。

 邪魔な柱たちは結構傷んでいるようで、見目も悪いし立て直しになるのだろうか。

 

 居間には廊下が2本繋がっている。

 片方の廊下を進むと左手には2階への階段があり、上らずに進めば寝室へのドアと、以前確認したトイレへのドアが右奥にある。

 突き当りは、家の裏へ抜けるドアになっていた。

 

 寝室にはベッドが2つと収納棚が置いてあるが、どれも買い替えが必要だろう。

 

 前回確認しなかった2階へと上ってみると、だいぶ使われていなさそうな部屋へと続いていた。

 

 

「ここはおじいちゃんのお弟子さんがいた頃の部屋だったと思います。

 ボクがいた頃からほとんど使われていないと思うので、家具もだいたいダメかもしれません」

 

 

 確かにシャオクが言ったようにどれもこれも傷んでいるが、部屋自体に積もっているホコリはそこそこだった。

 ヤトロクがある程度掃除をしてくれていたのだろう。

 

 置かれている家具を処分すれば、ベッドなら詰めれば3台は置けそうかというくらいの広さだ。

 他に箪笥でも置いたら十分寝室になるだろう。

 

 階段を降りて居間へと戻り、今度はもう一つの廊下へと進む。

 

 こちらの廊下の先は、例の鍛冶用の部屋へと繋がっている。

 この部屋を浴室へと改装できないだろうか。

 

 シャオクは家を弄ること自体は構わないと言っていたし、広さ的にもちょうど良さそうに思える。

 数人が入れるくらいの大桶を置いて、洗い場と脱衣スペースも取れそうだ。

 耐熱性の造りなら、室内で火魔法を使っても問題ないかどうかも大工に聞いてみよう。

 

 それぞれの個人の部屋みたいな場所は取れないが、暮らしていく分には十分だろう。

 ベッドも詰め込めば2人部屋と3人部屋が作れそうではあるし。

 

 フルパーティーには足りないが、直ぐ様必要になるとは考えにくい。

 すぐ近くには他の家もないし、必要になったら裏口の先に増築することもできそうではある。

 むしろ使わない部屋を増築することで費用も嵩むし、住み始めるのが遅くなってしまう。

 

 あとは大工の査定次第だとして、家から出て周囲を一回りしてみる。

 前回確認した家庭菜園ができそうなスペースを抜け、生け垣に沿って家の裏に回る。

 

 先ほど考えた廊下の突き当りの真裏にあたる場所は、一応増築は出来そうだ。

 その場合は生け垣を植え直さないといけないので、少々面倒になるかもしれない。

 やってもらうとなると、大工への相談が必要だ。

 

 さらに回り込んで鍛冶部屋の脇を抜けると、こっちにも少々スペースがある。

 畑候補2箇所目とも思ったが、こちら側は下水へと流れていそうだから、あまり土由来の作物はしたくない。

 

 道具置き場と言うか、納屋でもあったほうがいいだろうか。

 そのあたりも、専門家である大工に聞いたほうがいい。

 

 確認点はこのくらいかな、と2人とも相談しているとアコルトが足音を察知した。

 

 

「おぉい!

 いるかぁ?」

 

 

 いつもの大声で呼びかけながらヤトロクが歩いて来ているのが見えた。

 その隣には肩がけのカバンを下げた、やや低めのがっしりした体格の男も付いて来ている。

 

 

ニカドー ドワーフ ♂ 51歳 戦士Lv28

 

 

 おそらく彼が大工なのだろう。

 ジョブが戦士なのは、大工仕事に対応するジョブ自体がなく、体力が上がるからだろうか。

 

 

「こんにちは!

 よろしくお願いします!」

 

 

 声を張り上げて呼びかけに応えながら、2人が近くまでやってくるのを待った。

 

 

「ミツキと申します。

 本日は、借家が住める状態かの確認と、手を加える際のご相談をお願いしたいと思っています」

「大工のニカドーだ。

 嬢ちゃん、だいたいの話は聞いてる。

 それと、こそばゆい言い方はやめてもらえると助かるぜ」

 

「あ、はい、分かりました……」

「ニカドーはこんなでも一応親方だから、何でも聞くといいぞ!」

 

「おい、こんなってなんだ。

 まあいいや。

 この家を建てた時にちぃっとばかし関わってたからな、ちょっくら見てくるぞ」

 

 

 そう言うと、勝手知ったるように入口から入っていった。

 

 

「ニカドーに任せとけば大丈夫だ!

 一緒に行って話を聞いたほうがいいんじゃねぇか?」

「そうですね。

 ミツキ様、行きましょう!」

 

 

 シャオクに手を引かれ、アコルトとともに家の中へと進んだ。

 

 

 ニカドーが部屋の端にまとめてある家具を確認している。

 

 

「こいつらはダメだな。

 天板も割れてきてるし、足もボロボロだ」

「ボクがいた頃から古かったので、おそらくそうだとは思っていました……」

 

「やっぱりお前さんはルゲッツさんとこの子か。

 小せえ時に見かけた程度だったが、顔がそのまんまだな」

「あっ、お会いしたことがあったんですね」

 

「相当昔にちらっとすれ違ったくらいだ。

 あの程度で覚えてたらこっちが驚くぞ。

 それにしても……」

 

 

 ニカドーが痛みの酷い柱を軽く叩きながら向き直る。

 

 

()()()()()()

 建てた時には無かったはずだが」

「えっ!?

 ボクが住んでいた時には元からあったと思いますけど……」

 

 

 詳しく聞いてみると、傷みの激しい柱や壁は後付でつけられた物に見えるらしい。

 ニカドーが覚えている建築当初の部屋の間取り的にも不要な位置に設置されており、移動を制限していたり、あっても手すり代わりにしかならないそうだ。

 

 なにか思うところがあったのかニカドーは少し考え込んだ後、まず一通り見回ってくると言い残して足早に他の部屋へと移っていった。

 

 自分たちは先程歩き回って内見をしていたので手持ち無沙汰だ。

 そうだ、と思いついてリュックから念の為持ってきておいたパピルスの束とペンを取り出す。

 

 先ほどダメそうだと言われたテーブルの上で、パピルスをつなぎ合わせておおよその間取り図を描いていく。

 改築の要望を伝えるのにも使えそうだ。

 インク瓶も持ってきていてよかった。

 

 細かいところは実際に足を運んで形状を写し取る。

 家中を回っているニカドーと時折すれ違いながら、全体を描き込むことが出来た。

 

 

「悪いな、待たせた」

「いえ、ありがとうございます」

 

 

 あちらも確認が終わったらしい。

 

 

「なんか描いてたみてぇだが、おぉ、間取りか!

 嬢ちゃん、上手ぇな」

「先に家の中を見せてもらっていたので、相談に使えるかなと思ったので」

 

「これ、俺が説明するのに描き込んでもいいか?」

「はい。

 そのために作ったので」

 

「助かるぜ。

 それじゃ───」

 

 

 ニカドーがペンを取り、サッとインクを付けると間取り図の壁に印をつけていく。

 

 

「こことここ、それからここもだ。

 この部屋はここだ」

 

 

 どうやら傷んでいた柱と壁にチェックが入っているようだ。

 寝室と居間の動線に沿うようにインクが落ちる。

 

 

「シャオク、ルゲッツのじいさんって腰痛めてたよな?」

「え?

 確かに、足腰はあまり良くはないようでした。

 時折痛そうにはしていましたが、それでも仕事は変わらずやっていましたよ」

 

「いや、お前を引き取る前から腰はやってたって聞いたと思うぞ……」

「そうなんですか?

 移動も手伝わなくても1人でできていましたよ。

 支えようとすると『必要ない!』って怒られましたし……」

 

 

 ニカドーが腕を組み、考え込むような表情を見せる。

 内容をというよりも、どう言葉にしようか悩んでいる素振りで、言わんとしていることを察してしまった。 

 

 

「これは俺の勝手な考えなんだがな、じいさんは人に迷惑をかけるのが嫌だったんじゃないかと思うぞ。

 腰を痛めてから加工の方の仕事を辞めて、弟子も送り出したし道具も処分した。

 自分が生活する部屋への移動に、将来手すり代わりに使えるように柱を建てたんじゃないか?

 それもパッと見は気づかれないように間仕切りの壁に似せてよ」

 

 

 シャオクの視線が傷の入った柱へと移る。

 

 

「自分でやったのか、弟子にやらせたのかは分からねぇが、急ごしらえの割に見た目だけはまともな内壁が出来たわけだ。

 住んでるうちは誤魔化しが利いたのかも知れんが、手が入らなくなるとこうやってすぐ駄目になっちまう。

 行く必要のなかった2階と鍛冶部屋には、そいつがねぇのも頷けるってやつだ」

「ボクが来た時にはもう柱があるのが当たり前で、これが元々の家のものだと思いこんでいた、と」

 

「あくまで俺の想像だ。

 だがあのじいさんの性格だと、そう間違ってはいねぇと思う。

 お前に、じゃなくて誰にでも借りを作るの嫌がってたからな」

 

 

 うーん、とシャオクが頭を捻る。

 

 やがて天井を見つめて口にした。

 

 

「しょうがない人ですね、おじいちゃんは」

 

 

 考えを巡らせて納得したようで、これからのことを考える。

 切り出したのはシャオクだった。

 

 

「やっぱり傷んだ柱は外さないといけないですよね?」

「……この家本来の構造は見回ったところ大して劣化していない。

 俺の師匠の仕事だろう。

 だが、後付の柱は傷んだところから中が腐ってきてるのもあったから、外さないと家全体に影響してくる」

 

 

 先ほど印をつけた見取り図に目を移し、ニカドーが指し示す。

 

 

「この要らない柱と壁を取り除いて、ついてた箇所の壁の塗り直し。

 あとは封じてあった下水の開通だな。

 家具も総入れ替えになるが、それさえやりゃ一応住めるぞ」

「どのくらいかかりますか?」

 

「時間か?

 そうだな、建て直すわけじゃねぇから、壊しで1日半。

 塗り直しで1日半。

 そこを完全に乾燥させるまでに3日。

 その間に撤去と他の箇所の補修で、問題なきゃ6日ってとこだな」

「そんなに早くできるんですね」

 

「家のガワだけはな。

 出来上がったとこに家具やら運びいれるんだからもう数日は増えるだろ。

 あとはなんか弄りてぇってヤトロクから聞いてるが」

「それなんですけど……」

 

 

 もう一揃い作っておいた間取り図のパピルスを取り出した。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv21
魔法使いLv21/英雄Lv18/探索者Lv23/僧侶Lv20/商人Lv23
(村人5 戦士17 剣士9 薬草採取士1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv15


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv10



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次回は10/8更新の予定です。

文章のみだと分かりづらいですが、次回の更新に合わせて図も用意する予定です。
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