家の外枠だけを描いていたパピルスを広げた。
時間がなかったのでそれしか描けなかったが、不要な柱が撤去できるとなると、かえってここまでで止めておいたのが功を奏している。
先程までの間取り図と見比べ、撤去が終わった後の間取りを付け足す。
「傷んだ柱と壁を取り除いた間取りは、こんな感じですかね?」
「ああ、そうだな。
これが本来の部屋だから、居間は割と広くなるぜ。
ウチは簡単な家具なら作れるが、大きかったり数が多けりゃ馴染みのところに仕事も回せるから、そっちの要望も聞けるぞ」
「そうしたら家具は全部取り除いてもらって、新しいものにしたいです。
1階の部屋はこれまで通りにベッドを2つ、2階の部屋はベッドを3つ置けそうですかね?」
「ギリギリだがくっつけて置けば部屋の奥に入ると思うぜ。
しかし3人暮らしって聞いたが、まだ増える予定があるのか?」
「一応1パーティーの6人までは将来的に増やそうかと思ってます。
しばらくは3人のままです」
「なら1階のベッドは後回しでもいいな。
部品のままで家に運び入れて、2階の部屋で組み上げればいいだろう」
相談といっしょに工程も決まっていってありがたい。
「トイレは今1つだが、人が増える予定ならもう1つ増やしたほうがいいか?
後から工事すると面倒だぞ」
「……そうですね。
どのみち下水の開通があるなら、隣にもう1つあってもいいですね」
「下水については土間の洗い場の方もついでに流れるように確認しておくぜ」
「あと流す水については、甕じゃなくてタンクにしてもらえますか?
あの、宿で見るような」
「その分金はかかるが、やれないことはないぞ」
「お願いします。
あと、鍛冶部屋なんですけど……、ちょっとついて来てもらっていいですか?」
ニカドーを手招いて、アコルトたちも一緒に移動する。
「この部屋なんですけど、大きな桶を置きたいんです」
「桶?
どのくらいだ」
「ええーっと、自分が座って……。
高さがこのくらいで、大きさはこのくらいの……」
自分の座高くらいの高さと、身長くらいの直径を説明する。
「ずいぶんとでかいな。
なんだ、染め物でもやるのか?」
「まあ、そのようなものです。
竜人族が2,3人足を伸ばして座れるくらいのサイズがいいです」
まだ竜人族が仲間になるとは決まってもいないが、体の大きい種族が同時に入れるくらいの大きさがあれば十分だろう。
「おいおい、それじゃちいせぇだろ。
もうひと回り、……このくらいは要るんじゃねぇか?」
ニカドーが自身のカバンから、巻尺のようなものを取り出す。
記載されたおそらく数字であろう文字が読めないが、示した長さは2m程に見えた。
結局大きくなってしまうが、それくらいは必要なのか。
待て、たしか原作でも直径2mくらいと書かれていなかったか?
だとしたらこれは大きすぎる。
やめだ、やめ。
大体、竜人族を何人も引き取る未来が見えないし、同時に湯船に入らなければいいだけだ。
当初の自分の身長くらいの1.5m程で十分だろう。
これでも多分900リットル近くの水量が必要になるはずだ。
「すみません、竜人族複数人は言いすぎました。
やはり最初にお願いした大きさでお願いします」
「特注になるから大きさは正確に頼むぜ……」
「……水の抜き方ってどうしたらいいんですかね?」
「嬢ちゃん、そんなのも知らないで仕事をしようと思ってたのかよ。
水が入ってたらさすがのドワーフでも持ち上がるわけがねぇから、こういうのは桶に排水の穴と栓をつけるんだよ」
「なるほど!」
「本当に大丈夫かよおい」
「あとこの部屋に水を流した時に、端に流れて下水へ向かうようにしたいんですが……」
「そういうのは分かっているんだな。
たしかこの部屋は掃除のために傾斜と溝がついていたはずだぜ」
そう言ってニカドーは水筒があるかを聞いてきた。
自分のものをと差し出したアコルトが、水を部屋の中心で垂らしてみるように指示される。
言われたとおりに一口分くらいの水を落としてみると、着地点からゆっくりだが一方向に移動し始めた。
それを見つめながら追っていくと、やがて部屋の角へと行き着いた。
よく見ると一部が蓋になっていた箇所をニカドーが持ち上げる。
「うーん、壁際の溝もここも使ってなかったからゴミで詰まってやがるな。
まあ掃除すりゃ大丈夫だろうから、これも下水の開通と一緒にやっておくぞ」
「ありがとうございます!」
「あとはあるか?
なきゃヤトロクを呼んで諸々の計算をさせて金額を出してみるが」
そうか、商人がいなくとも、カルク持ちの旅亭が入れば計算が早い。
他には……まだ大事なことがあった。
「ええと、自分のジョブは魔法使いなんですが、お湯を作る時にこの部屋で火を出して大丈夫ですかね?」
「……室内で、って意味だよな?」
「はい、できればさっきの大桶の中で」
「ヤトロクから話半分に聞いてたが、魔法使い様はとんでもねぇこと言い出すなぁおい」
「難しいですかね……」
「木でできた桶はいくら濡れてて燃えにくくても、流石に何度もやってたら危ねぇだろ。
うーん……ちょっと見せてもらえるか?
あっ、もちろん外でだぞ!
今ここでだとホコリに燃え移るかも知れねぇし」
荷物をおいたまま、全員で家の外へと出てくる。
外でしゃがみこんでいたヤトロクがこちらに気づき、近づいてきた。
その手には草の束が握られていて、よく見れば引き抜かれたものが小山になっている。
「お!
話はついたか?」
「まだ途中です。
それは……?」
「俺だけ戻るわけにもいかねぇし、草むしりしてたんだ!
ミツキさんたちが住むにも大工が来るし、目立つ所だけでも空けとこうかと思ってよ!」
「ありがとうございます!
そうだ、これ火魔法で焼いてしまってもいいですか?」
「魔法!?
ああ、いいぜ!
なかなか見ることがないから楽しみだな!」
伸び放題だった雑草や枯れ草をヤトロクが集めてくれたおかげで、その周囲だけは燃え広がることはなさそうだ。
ボーナスポイントを操作して詠唱省略をはずす。
「この草の上に、このくらいの火魔法の壁を出します」
両手を広げて大体のサイズ感をアピールする。
ニカドーもヤトロクも、少し離れて興味深そうにこちらを見ている。
アコルトたちは慣れているので、自分のすぐ後ろに控えた。
「行きます!
詠唱とともに足元に魔法陣が浮かび上がり、魔法が発動して炎の壁が立ち上る。
「おお!」
「すげぇな!」
炎が積まれた草を焦がし、枯れ草が煙を上げながら燃えていく。
そのままメラメラと焼け続け、青臭さと煙たさが立ち籠める。
効果時間が終わって壁が消えた後も、残った草は燃え続けている。
腕を組んで眺めていたニカドーが、納得したように頷いて口を開いた。
「魔法なんて久しぶりに見たがなかなか派手だな。
必要そうなことはだいたい分かったぜ。
もう一度中で確認だ」
念の為、今度はウォーターウォールを発動して消し炭と燃え残った草を鎮火する。
今回はヤトロクも後ろについてきて、計算もしてくれるらしい。
鍛冶部屋に全員が入ったところで、ニカドーがこちらを向いた。
「まず桶の中であの火の壁をおこすのは無理だ、色々と危ねぇしな。
この部屋自体は遮蔽に加えて耐火セメントも使われているから、床や壁、天井は燃えることはねぇ。
そんで湯を作った後は、結局は大桶に入れるんだろ?」
「そうですね、桶の中で
桶の中では浸かるだけで、体を洗うのは湯船の外だけどな。
「なら俺が考えたのはこうだ。
部屋の角に耐火セメントで
そこに水を貯めておいて、さっきの魔法だ。
受けも壁も燃えることはねぇから、水だけ温まって湯になる。
そいつを桶にいれりゃあいいんじゃないか?」
たしかにそれなら魔法が直接木製の桶に当たることもないし、桶にも好きな量を注ぎ込めそうだ。
貯水槽みたいなものか。
「その受けから桶に湯を移す時はどうしましょう?」
「量が少ねぇなら手桶で汲んでもいいとは思うが、大量だったり湯の温度次第では無理だろ?
受けを少し高めに作っておいて、注ぎ口をつけてやりゃあいいと思うぞ。
その受けだって掃除する時には水を出し切る必要があるから、どのみち排水の穴は必要だしな」
「そうなると先に大桶を作ってもらって確認してから、その受けを作ってもらうことになりそうですね」
「そうだな。
桶の置き場所やら縁の高さを見てから作らねぇとやり直しになっちまう。
……そのくらいか?」
再度間取りのパピルスを広げて必要そうなものを考える。
「家の横の空いていた場所に、簡単な畑くらいはできるんでしょうか?」
「それはヤトロクの領分だな」
「おう?
雑草が生えてるくらいだから掘り返して耕せば問題なくできると思うぞ!
土が弱ってたら肥料を売っているところも紹介してやる!」
「だとよ」
「そうしたらあとは……。
農具や道具を入れておく、納屋みたいなものって建てられますか?」
「納屋か……、場所はここだな。
この図で言う右側は下に下水を通すから畑は反対側が良さそうだ。
納屋なら問題ないだろ」
「じゃあそれもお願いします。
これで一通りです!」
「あいよ。
まとめるからちょっと待ってくれ」
ニカドーが自前のメモを取り出して色々と書き出していく。
ヤトロクも横について日程や値段に口出ししながら進めているようだ。
少し待つと、おおまかに出来上がったとしてニカドーが声を掛けてきた。
間取りを指差しながら、必要なものを読み上げていく。
「まずは要らない柱や壁の除去と床や壁の塗り直しだ。
これが全部で7000ナール。
次に今ある家具の処分。
家全体の補修も足して3000ナール」
相場がわからないが結構するようだ。
「トイレの増設とタンクの設置、あとは下水の開通だな。
これは鍛冶部屋と土間の流しも入れて5000ナール。
例の湯の受けも5000ナールだ。
耐火セメントを使うから小さくても結構しちまう」
これだけで2万ナールもする。
と言っても後はほとんど家具で大きいのは納屋くらいだろう。
本来の家自体が傷んでいなくて、想定よりも安上がりになりそうだ。
「あとはウチが担当するのは納屋なんだが、場所を確認してからにさせてくれ。
何にもないところから作るとしても5万ナールもしねぇはずだ。
残りは木工の工房が大半だから、この後紹介する」
納屋が仮に5万ナールだとしても合計7万ナール。
家具の相場を聞いてみたが、高そうな特注の大桶でも3000ナール程度だろうとのことだ。
必要数を考えてみたが、全部合わせても10万ナールに届くことはないだろう。
手持ちが22万ナール程度なので、家賃も十分払えそうだ。
外に移動して、納屋を置く場所を考える。
やはり下水がある側の空きスペースだろう。
「このあたりに建ててほしいです」
「大きさはどれくらい必要だ?」
「えーっと……。
入れておくのが畑の農具や不要になったものくらいなので、扉2枚分くらいの大きさがあれば十分だと思います」
「奥行きは……同じくらいでいいか?
そうすると掘って固めて、建て始めるまでに資材を……。
4万5000……、いや4万ナールだな」
「改築は全体で何日くらい掛かりそうですか?」
「撤去して塗り直して、乾かしている間に桶が出来上がるから、高さと大きさを決めて受けを作って乾燥……。
その間にトイレと下水をやるとして、別働で初日から納屋を作るだろ……、結局一番時間がかかるのは納屋だな。
納屋の出来上がりまでに他が終わって家具も入れられるから、開始してから10日間ってところだ」
となると引き渡しは開始11日目ということだ。
それより前に家には入れるだろうから、家具以外の調理道具とか、生活用品を揃えていけるだろう。
「ではそれでお願いしたいです」
「おう、決まりか!
その前に家の契約だな!」
忘れていた。
まだ家を借りていないんだった。
ニカドーが荷物を仕舞いつつ、間取り図のパピルスを丁寧に折りたたんでいた。
「それじゃ契約した帰りにウチに寄ってくれ。
資材も問題なさそうだから、明後日から作業に入って……今日が上月3日だから、15日には引き渡せる。
この図は借りていっていいか?」
「構いません!
後でまたよろしくお願いします!」
あいよっ、と軽快に返事をしてニカドーが足早に去っていった。
家を見ている間に鐘の音が聞こえていた気がする。
そういえば昼食がまだだった。
「よし!
じゃあ俺達も店に向かいながら話すか!」
その言葉に返事をして、4人で並んで歩き出す。
今日は会話がメインだから大股で置いていかれることはなさそうだ。
「家賃なんだが、年に2万ナールでどうだ?
元々の家が無事にしろ、結局あの柱を壊さなきゃ長く住めないようだったし、そんなもんだと思ってるぞ!」
「ありがとうございます。
ぜひ、そちらの金額でお願いします!」
「それじゃ店に着いたら契約書を作って騎士団にいくぞ!
あ、昼飯は食ったか?」
「まだです。
この後行こうと思っています」
「そうか!
俺は済ませてるから、ミツキさんたちが来るまでに契約書を仕上げておくぜ!」
「わかりました。
食事を終えたらお店にすぐ向かいますね」
店がちらほらある通りに出たところで、ヤトロクと一旦別れた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv21
魔法使いLv21/英雄Lv18/探索者Lv23/僧侶Lv20/商人Lv23
(村人5 戦士17 剣士9 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv15
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv10
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次回は10/11更新の予定です。
改装後の間取りイメージ図(仮)を掲載します。
工事が終わって、モノを置いたら~という想定です。
それぞれの縮尺や大きさは適当で、わかり易さ重視です。
採光や建築の決まりみたいなものも考慮していませんので、あくまでもこんな感じかな~くらいと思ってください。
図には未記載ですが、それぞれの部屋に窓があって日中は明るい想定です。
机は引き出し有、テーブルは引き出し無で分けたつもりです。
【挿絵表示】
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--ハーメルン取扱説明書より引用--
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