異世界迷宮と斉奏を   作:或香

48 / 186
048 取決

 ヤトロクを見送りつつ、食事のできる店を探す。

 

 鐘が鳴ってから結構経っているので、正直食べられればどこでもいい。

 それなりに席が埋まっている近くの店に入り、2人に3品ほど選んでもらう。

 

 このあたりは迷宮からある程度離れているので、出てきた料理は探索に向かわず普通に暮らす人向けなのか、量が多すぎるわけでもなく家庭料理といった感じのメニューのようだ。

 

 取り皿を貰ってそれぞれ食べてみたが、やはり2人ともゴロゴロとした肉の入った炒め物が気に入ったらしい。

 夜はまた魚料理だと思うので、同じものを追加でもう1皿頼むと、2人のお腹も満足したようだった。

 

 

 食事を終えた後は、ヤトロクの不動産の店に向かった。

 

 入るなりいきなり、書類を差し出される。

 

 

「出来てるぜ!

 確認してみてくれ!」

「は、はい!?」

 

 

 勢いで渡されるままに受け取り、そのままアコルトに渡して代読を頼む。

 聞いているだけだが、内容や罰則も真っ当な内容だった。

 

 

「───年間2万ナールの賃料を支払うこととする。

 また、支払いの総額が14万ナールに達した際に、当物件の所有権を契約者に譲渡する……とあります」

「……え?」

 

 

 どういうことだ?

 

 

「これは……?」

「もともとシャオクから預かってたもんだしな!

 前に立て替えた費用とこれまでの維持費が戻ってくりゃ、返しちまおうと思ってよ!」

 

 

 振り返ってシャオクを見つめると、おずおずと小声で伝えてくる。

 

 

「(絶対それ以上掛かっているはずです……)」

 

 

 さすがに動揺を隠せないシャオクの目が泳いでいる。

 

 

「ええと、よろしいんですか?」

「おう!

 2万ナールずつ払ってくれてもよし、払えそうな時にまとめてもらってもいいぜ!」

 

 

 太っ腹、というかかなり目をかけてもらっている。 

 これだけ言ってもらえているんだ、素直に受け取るべきだろう。

 

 3人で姿勢を正して深々と礼をする。

 

 

「ありがとうございます。

 こちらで契約させて頂きたいです」

「ヒュー、よかったぜ!

 集合する前に弟に熱弁されてよ、まいったぜ。

 あ、ちゃんと俺も同意してるからな!」

 

 

 昨日色々と話したミトラグが手を回してくれたようだ。

 夜にでも改めてお礼をしたほうがいいだろう。

 

 アコルトに代筆をお願いして、書類に記名をしてもらう。

 名前くらいはブラヒム語で書けるようにならないとなぁ。

 

 

「それじゃこれから騎士団に行って確認だな!

 その後はニカドーの家に案内するぜ!」

 

 

 ヤトロクは出かけられる準備も済ませていたようで、すぐにカウンターを出て店の鍵を締め始めた。

 大股で先導する背中を追いかけつつ、騎士団の詰所へと向かう。

 前に通った時に大通りから見えていた建物の1つが、それだったようだ。

 

 アコルトとシャオクは一応外で待ってもらって建物に入ると、入口にいた騎士から声がかかる。

 

 

「何用だ」

「契約のカードチェックのお願いに参りました!

 こちらです!」

 

 

 言葉は丁寧だが、いつも通りのヤトロクの声量に騎士が顔を顰める。

 突き出された書類を受け取ると、文面を一瞥して突き返してきた。

 

 

「不動産か、相分かった。

 担当は右奥の部屋だ、そちらへ向かってくれ」

「承知いたしました!」

 

 

 騎士が道を空け、慣れたように進むヤトロクの後ろに続く。

 仕事なのだから手続きには何度も来ているのだろう。

 

 進んだ先の部屋に入ると、机の上に呼び鈴があるだけで人は居なかった。

 呼び鈴を鳴らそうと持ち上げたところで、鳴らす前に奥の扉から誰かが覗いてきた。

 

 

フロラムド エルフ ♂ 36歳 騎士Lv22

 

 

「大声がすると思ったら、やっぱりヤトロクさんだねぇ」

 

 

 頭をかきながら、ローブを纏った男性が備え付けの椅子に腰掛ける。

 騎士団なのにこんな格好の人もいるのかと思ったが、内勤で鎧が必要ない部署もあるはずだ。

 

 

「今回もお願いします!」

「はいはい、今日はその子なんだね」

 

 

 書類を受け取って文面を確認しながらこちらをチラリと見てくる。

 

 

「えーっと……。

 ミツキ・スズシロさん、自由民で物件住所が……シーム外6区8の……13の7。

 だいぶ端のほうじゃない、これ?」

「そこがちょうどよかったので……」

 

 

 今後は住所も覚える必要があるだろう。

 後で確認させてもらおう。

 

 

「へぇ、そうなんだ。

 書類はオッケーだから、カードのチェックだね。

 腕出してよ」

 

 

 言われたとおりに左腕を掲げると、すぐに呪文を唱えだした。

 飛び出したインテリジェンスカードと書類とを見比べているようだ。

 

 

「名前……オッケー、年齢……若いねー。

 ジョブは魔法、……魔法使いか。

 2人も所有奴隷がいるみたいだし、どこかの貴族の関係者だったりする?

 ハハ!」

「いえ、親類ももういないので特には……」

 

「ふーん、そう。

 ま、大変そうだけどがんばってねー。

 腕も戻していいよ」

 

 

 なんかすっごく軽いが、業務担当ということだし、これまで何人も相手をしているからだろうか。

 腕を下ろし、カードの端をグイグイといじっていたら、やっと戻せた。

 

 そんなことをしている間に、フロラムドはどこからか印を取り出して名前欄と思しき辺りに押した。

 物珍しそうに見ていると、こちらに気づいた様子で書類を見せてくる。

 

 

「あれ見たことない?

 これ、シーム騎士団の印章。

 ほら、このローブに入ってるのと一緒だよ。

 人物確認はうちがしました~ってやつ」

「そうなのですね」

 

「いちいち押すのめんどくさいんだよねぇ。

 まぁヤトロクさんの書類はいつもきれいだから楽な方なんだけど」

「お褒め頂きありがとうございます!」

 

「はいはい、こちらも助かってます。

 ……そういえば、名乗ってなかったね。

 シーム騎士団所属監査官のフロラムドだよ」

「スズシロ・ミツキです。

 ありがとうございます」

 

「アハハ、さっき見たから分かるよ!

 監査官なんてついてるけど、だいたい書類見てるだけの人だからね~。

 ま、困ったことがあったらいつでも聞きに来るといいよ。

 はい、それじゃこのへんで」

 

 

 ササッと荷物をまとめて、フロラムドは入ってきたドアへと消えていった。

 

 

「それじゃ、次はニカドーんとこに行くか!」

「お願いします」

 

 

 部屋を出て入口の騎士に会釈をし、騎士団を出る。

 待っていてくれたアコルトたちと合流して、今度は大工の方だ。

 そのまま少し宿側にもどる形で、ニカドーの家へと向かうらしい。

 

 歩きながら、ヤトロクが話す。

 

 

「あのフロラムド様ってのはすげぇんだぞ!

 ブラヒム語はもちろん、エルフなのにサリニク語も達者だし、他の言葉でも簡単な会話くらいならできちまう。

 文字も全部読めるから引っ張りだこって話だぜ」

「それはすごい方ですね……」

 

 

 忙しすぎて騎士のジョブレベルを上げている暇がないんだろう。

 よくあんなに簡単に出てきてくれたな。

 

 

「忙しいから住民の相手をするって体で抜け出して休んでるとは前に本人が笑いながら仰ってたが、そうでもしねぇと騎士様ってのは大変なんだろうな!」

 

 

 それなら上司も怒るに怒れないだろう。

 多種族との応対ができるフロラムドが確認業務を行うのは非常に効率的だ。

 

 普通は忙しいなら本来は別の騎士が対応するべきなんだろうが。

 

 

「でも困ったらこいなんて言われたのは初めてだぞ!

 ミツキさんは気に入られたのかもな!」

「そ、そうだといいですね……」

 

 

 家を借り始めるには小柄で若かったからかもしれない。

 少なくとも嗜好の類の目つきではなかった。

 

 細めた目の奥で、見定めているような視線を感じるものだった。

 それすらもわざとなのかも分からないし、こちらも言えないことが多いので触れるに触れられなかったのだ。

 

 単純にサボりに来たら、いかにも訳ありみたいな者が移住に来たので怪しんだだけ、という可能性もある。

 騎士団の世話になることはそうないだろうし、気にするだけ無駄か。

 

 

 そうこうしているうちに、ニカドーの家についた。

 

 

「ニカドー!

 きたぞ!」

 

 

 声を掛けると同時にヤトロクがドアを開く。

 返事を待たなくていいのか……。

 

 家の中にいたニカドーが、ゆっくりとこちらに振り返る。

 このやり取りにも慣れているようだ。

 

 

「おうよ、家の契約の方は済んだんだな?

 じゃあ足りない分の資材は今日発注して、明後日から工事を始めるぜ。

 弟子たちには予定を話しておくから問題なく進められるはずだぞ」

「よろしくお願いします」

 

「それじゃ、家具を見繕いに行くか。

 そこの角を曲がったところに店があるから、ついてきてくれ。

 数があるからヤトロクもだな」

「任されたぜ!」

 

 

 5人で先ほど教えてもらった店へと向かう。

 軒先に椅子が積んであったりと、既製品もたくさん置いてあるようだ。

 

 

「ものを見ながらいりそうなもんを書き出していってくれ。

 置いてないやつは作れるから、数が足りなくてもいいぞ。

 そうだ、もう写したからこれは返すぜ」

 

 

 ニカドーから間取り図を受け取った。

 これを見ながらそれぞれの場所に必要なものを挙げていこう。

 

 リュックからパピルスとインクペンを取り出し、アコルトにメモをお願いする。

 

 

「まずは2階に置くベッドが3つ。

 1階に2人が入って、2階に自分だけってこともできるけど……分ける必要は……ないか」

 

 

 小さくふるふると首を振ったアコルトを見て、3人同じ寝室になることが決定した。

 

 

「寝室には着替え用の箪笥もいるよね」

「それでもまだ場所は取れると思うので、1組だけでも机と椅子を置いた方が良いと思います!

 なにか書いたりするのに、毎回下の階に降りるのは大変です」

 

 

 確かに自室がないなら、それくらいはあったほうがいいな。

 明かり用の燭台を置くにも、それなりの高さが必要だろう。

 

 

「うん、それもよさそう。

 1階の部屋も、ベッドの数だけ減らして同じように揃えようか」

 

 

 すぐに使わないベッドを買うか迷ったが、置いておくだけなら買っておいてもいいだろう。

 住人が増えたらその上に置く布団を買うだけで済む。

 

 寝室はこれで決まりだ。

 

 

「居間の方で必要そうなのは……」

「台所の方でしたら、料理用に机が必要だと思われます。

 引き出しに調理道具も入れておけると助かります」

 

「他には食器をいれる棚かな?」

「そうですね。

 それ以上はあまり置きすぎると窮屈になりそうなので、あちらに置いてある棚がよさそうですね。

 炭や火消し壺も近くに置いておきたいです」

 

 

 家具以外はまた違う店なので、今要るもの以外は別途メモを取ってもらう。

 

 

「食事をする6人掛けのテーブルと椅子がほしい。

 最初は3人で広すぎると思うけど、将来的にね」

「かしこまりました。

 椅子が部屋と合わせて8つ、ですね」

 

 

 そこかしこに物を置くと、どんどんと必要数が増えていくな。

 

 

「お嬢様が様々な料理をご所望なら、用途に合わせた食器も必要になりますか?」

「うーん、あったほうがいいかも」

 

「そうなると棚も台所横だけでなく、他にいくつかあったほうが良さそうです」

「収納はあって困ることなさそうだから、隅の方に2つくらい置いておこう」

 

「あとは……」

 

 

 あとはそう、浴室だ。

 タオル等を入れておくくらいの棚と、脱いだ衣服を入れる籠。

 身内ではあるが扉に(かんぬき)をつけたとしても、入ってすぐに浴槽よりは脱衣所代わりに衝立でもあったほうがいいだろう。

 

 籠は雑貨屋だとして、衝立はあるのだろうか。

 店員に聞いてみよう。

 

 

「すみません、衝立ってありますか?」

「こっちにあるぞ」

 

 

 連れられて行った先には、薄い木の板が挟まった木枠が数枚壁に立て掛けてあった。

 ドアサイズであるが、これでは高さがあり過ぎるし、幅も短すぎる。

 横にして使っても、今度は高さが足りないだろう。

 

 

「他の大きさはありませんか?」

「ないな、作ればできるが。

 どのくらいだ?」

 

 

 アコルトを隣に立たせ、手を広げさせる。

 

 

「高さはこの子くらいで、幅は両手を広げたくらいの倍の長さが欲しいです」

「ずいぶんと横長だな」

 

「使う時にその長さがあればいいので、足りるように衝立は2枚か3枚にしてもらえるとありがたいです」

「2枚だと幅があり過ぎて、お前さんたちが1人で掴めないから動かせないだろう。

 持てる大きさにするなら、3枚だな。

 1枚250ナール、ってとこか」

 

「それでお願いします!」

 

 

 屏風みたいに連結していてもいいが、長すぎた時に困るから1枚1枚になっていたほうが使い勝手がいいだろう。

 残りは桶か。

 洗濯用の普通の桶が3つほどと、手桶は風呂用は2つに流しに1つ、予備も含めて全部で4つあればいいか。

 

 ニカドーのもとへ戻る。

 例の大桶のことだ。

 

 

「必要なものはだいたいまとまりました。

 あとは例の」

「大桶か。

 ちょっと待ってろ、話をつけてくる」

 

 ニカドーが行ってくれたので、この前示した通りの正確な寸法を伝えてくれるだろう。

 排水や用途についても、大工側からの注文があった方が分かりやすいはずだ。

 長さの単位とかもアコルトに確認したほうがいいのかな。

 

 店員を連れ立って、ニカドーが戻ってくる。

 

 

「よし、話はつけたぜ。

 大桶1つで3000ナールってとこだ」

 

 

 高いのか安いのかわからない。

 表情としては値切ってやったって感じに見える。

 

 

「ありがとうございます。

 そうしたら───」

 

 アコルトがメモを読み上げる。

 品名と大きさを挙げると、店員が値段を言っていく。

 それに個数を付け加えていくと、聞いていたヤトロクがカルクのスキルで計算してくれるというわけだ。

 

 

「───箪笥が3つで2100ナール、小さい棚が3つで1500ナール、衝立が3つで750ナール。

 合計が2万3250ナールだな!」

 

 

 流石に家具の総入れ替えだと、結構な額になった。

 自分も商人をセットしているので、数字に間違いはないことは分かる。

 

 家の改築を足すと8万ナール超えだ。

 予め分けておいた巾着袋を取り出す。

 

 

「家の方と合わせると合計は8万3250ナールですかね。

 それでは……」

 

 

 ジャラジャラと硬貨に手を伸ばしたところで、ニカドーが口を挟んできた。

 

 

「おいおい、値切らねぇのかよ!

 ちょっと待ってろ!」

 

 

 ヤトロクは金額そのものを出しただけで、決定はニカドーたち職人になるからボーナスポイントでの割引は使えない。

 まあ今後もお世話になりそうだから使う気もなかったが。

 同時に、値切るということも頭からはずれてしまっていた。

 

 見兼ねたニカドーが家具屋と相談し始める。

 聞こえてくるだけでも、大量注文であったことやまだきれいな中古の流用、新規で作る分との差額を考えると、交渉できるところは結構あったらしい。

 

 言い値の方が売る側としては都合がいいはずだが、大雑把に出して値切るのが通例らしい。

 

 途中で呼ばれて使用する中古家具の確認をすると、結局8万ナールになった。

 大桶1つ分、まるまる浮いた形だ。

 

 すべて金貨での支払いは勘弁してくれと言われたので、銀貨や銅貨も混ぜつつニカドーへと支払う。

 加工の請負の家具屋との内訳は後でやってくれるらしい。

 

 その後は納期や運び入れの日程の話を進めていく。

 工事が始まるのが明後日、夏の上月5日から10日間。

 8日目くらいには家自体は大体終わっているはずだということと、その後からは家具を入れていくという話だった。

 

 工事2日目である上月6日には一度現場に来て大桶の確認をしてほしいそうだ。

 サイズもそうだが部屋のどこに置くかも見て、例の受けの形状を決めるらしい。

 

 これで新居に関してはだいたい決めただろうか。

 細々とした生活用品は、工事完了後か屋内に入れる頃に買いに行けばいいだろう。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv21
魔法使いLv21/英雄Lv18/探索者Lv23/僧侶Lv20/商人Lv23
(村人5 戦士17 剣士9 薬草採取士1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv15


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv10



---
次回は10/14更新の予定です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。