「時間通りだな」
宿の外に出たところで、テオドナフがこちらに気づいたようだ。
そのまま指示を受けてそれぞれ荷物を持つことになる。
自分とアコルトは日用品が入ったような袋をそれぞれ1つずつ、シャオクはそれに加えてペッパーやラム、木の板などのアイテムボックスに入るものをいくつか預かっていた。
テオドナフ自身もアイテムボックスと両手も塞がっていたようなので、普段より多めに仕入れていたようだ。
パーティーとしては、合流前に自分が解散してからシャオクに組んでもらっておいた。
そこにテオドナフが入ればいい形だ。
シャオクがパーティー編成の呪文を唱え、テオドナフが加入する。
準備はこれでいいだろう。
「それじゃ、ブノーへ移動するぞ。
回顧に巡る行程を、共に目指さん行路の先を、フィールドウォーク」
宿前の絨毯にゲートが開き、テオドナフが先行する。
その後ろに続いて足を踏み入れた。
***
薄く潮風の匂いが漂っている。
日が落ちてくる頃で辺りは少し薄暗くなってきているが、これは西側に山があるせいで日の入りが早いからかもしれない。
出てきたのは少し大きな建物の壁だった。
テオドナフによると、これは寄り合いに使われるこの村共有の建物らしい。
公民館ってところか。
少し進んだ先には浜辺が見える。
海だ。
現代にいた頃もわざわざ足を運んだりせず、たまにニュース映像で見る程度だったので、打ち寄せる波でさえ感慨深い。
海岸線を目で追っていくと、桟橋がいくつかと小舟も停めてある。
桟橋には小さな明かりとその横に人影も見えたが、カンテラを伴って夜釣りをする村人もいるとのことだ。
まずは荷物を、ということでテオドナフの家に向かう。
小さい村なのだろう、少し歩いただけで目的の場所へと着いた。
村の中心からは少し外れたところだが、風通しと日当たりのいい場所だ。
外には魚を干すための道具が置いてある。
荷物は軒先でいいということなので、そちらに預かった袋のまま置かせてもらう。
シャオクもアイテムボックスから荷物を出しつつ、板などの出して置けるものは立てかけ、食材や調味料はテオドナフのアイテムボックスへといくつか移したようだ。
「荷運び助かった。
俺が片付けている間だが、村を見てくるといい。
戻ってきたらシームへと送ろう」
「ありがとうございます。
すこし回ってきますね」
身軽になった3人で、先程の公民館の方へと向かう。
家々の明かりはついているが、さすがに街中のように密集しているわけではないので村全体はうす暗い。
漁村ということだから、日の出前後から日没までで生活しているのだろうか。
先程の人影のように夜釣りもあるだろうが、真っ暗な海は怖そうだ。
村の中心にきてはみたが、時間帯のせいか人もいない。
見ず知らずの人の家に尋ねるわけもいかず、商店の場所だけでも聞いておけばよかったと後悔した。
村自体はとても長閑そうな様子だ。
網なんかの漁具を置いてある家もそれなりにあるから、幾人かは漁師なのだろう。
そう言えば漁師と海女は猫人族の種族ジョブだったか、と思い出したところでアコルトに袖を引かれた。
近づいてくる人がいるらしい。
「あんたら何だ、誰かに用事か?」
猫耳のついた筋肉のたくましいおじさんが不審がる目で話しかけてきた。
ミルヒロ 猫人族 ♂ 42歳 漁師Lv46
おお、その漁師じゃないか。
アコルトが前に出る。
「テオドナフ様の荷運びのお手伝いで参りました。
片付けて戻るまでの間、ブノーの村の見学をご提案頂きましたので回っております」
「なんだ、あいつの連れか。
この村なんて見る所なんかねーのによくきたな」
「昼前までにくれば、魚を数匹売ってもらえたりってしますか?」
男がこちらを見てギョッとした。
「あんたエルフにしか見えないのに、ずいぶんと流暢にバーナ語を話すな」
あ、これバーナ語だったのか。
以前に話せるとは伝えてあったが、アコルトが前に出てくれたのもその為だったのか。
「会話だけはできます。
それで、魚は売ってもらえそうですか?」
「……獲れてりゃ売ってくれる奴もいるだろうよ。
遅いと加工先も決まっちまうから早けりゃ早いほうがいい」
住人からの確認も取れた。
「あとは魚醤って作っているところありますか?」
「魚醤?
あれは作るのに手間がかかるから高いぞ?」
あるんだな!?
「次に来るのは早くても10日後くらいなんですが、買えそうですかね?」
「あー、これくらいの壺で3000ナールだな。
半額前払いだ」
男が気だるそうにメロンくらいのサイズに手を広げた。
「わかりました!」
銀貨を15枚取り出して男に差し出そうとするも、受け取らない。
ばつが悪そうに片手で目を覆った男がつぶやく。
「……悪い、冗談だ。
実際はその半分もしないが、昼間来た時に売っている商店で聞けばいい。
テオドナフも分かると思うぞ」
話を聞いてみると、輸出もしている高額調味料なので、値段だけ聞く冷やかしも割といるそうだ。
よくよく考えてみれば、小さい子を騙すのは気が引けたらしい。
小さい子、というのが引っかかったが、有利に働いていたので訂正はしないでおく。
挨拶もそこそこに男は帰っていく。
見知らぬ者たちがいたから声を掛けただけだと言っていた。
魚の購入も魚醤の存在も、口頭ではあるが確認ができたしそろそろテオドナフのところへ戻るとしよう。
今後来る際のワープゲートの候補地を探しつつ、来た道を戻った。
家の近くまで戻ってくると、軒下の荷物はすっかり片付いていた。
こちらに気づいた様子のテオドナフから声がかかる。
「ちょっと暗かったが、回ってこれたか?」
「はい、住人の方ともお話しできたので、家が決まったら魚を買いに来ます!」
会った男の特徴をテオドナフに述べると、おそらくミルヒロという漁師だろうと返ってきた。
見回りもしている村の中心的な男だと言っていたので、値段の冗談以外は嘘ではないだろうとのことだ。
フィールドウォークのため、再度あの公民館へと向かう。
やはりこの絨毯が移動には無難だろうか。
近くて人が来ない所、みたいなのがすぐには思いつかない。
他の村民の生活の様子が分からないため、迂闊にワープ場所を間違えると言い逃れができない。
こちらの内情が伝わっていそうなテオドナフが不在の時に、アコルトを冒険者に見立てて飛んでくるのが一番怪しまれなさそうだ。
それはまた今後の課題として、テオドナフに礼をしてフィールドウォークのゲートを開いてもらった。
今度は3人だけでくぐり、シームの眠る人魚亭へと戻ってきた。
帰り道を急ぐ人が増え、自分たちもと表の絨毯前からすぐに宿へと入る。
フロントの従業員に声をかけ、食堂へと移動した。
昨日は一番に呼び出してもらっただけで、今日はすでに何組かの宿泊客も席についている。
自分は当然魚料理を、アコルトたちは日替わりで肉料理と交互に食べるようだ。
長期連泊をするから、食事は好きなようにと言いつけておいたのだ。
話を合わせてくれるだけで、実は苦手だったとか言われたら困るしな。
食べ物のわだかまりはなくしていきたい。
満足な食事を終え、湯を頼んでから部屋に戻る。
鉢植えを確認すると、朝方見た蕾らしきものが膨らんでいた。
3つほどついているのを見つけたが、どれも明日の朝には咲いているかも知れない。
そっと水筒の水を根本にかけてやり、明日の楽しみとすることにした。
ベッドに腰掛けて待っていると、湯桶が運ばれてきたのでこれから体拭きだ。
各々の体を拭きつつ、今後のことを考える。
出かけたりする予定は一通り済んだ。
家の方は3日後に大桶の確認と、途中で何度か様子見くらいだ。
仲買人との面会も近日中に知らせがくるとは言われたが、すぐ明日の話じゃないだろう。
ということは迷宮探索になる。
シャオクの案内で5階層から進めつつ、まずは7階層のミノの群れとの手合わせだ。
今更だが朝に5階層でオリーブオイルを集めているうちに、探索者と商人がLv23へと上がっていたようだ。
こうなると、作中ではどうなのかは知らないが、この世界では階層ごとのレベルキャップ説が真実味を帯びてくる。
仮に今後1階層で1つずつ制限が高くなるとすると、Lv30になるのは12階層となる。
連続魔法を可能にする遊び人の取得には、派生ジョブ取得のためにもそこまで迷宮攻略を進めなければならない。
洗髪もして、髪を拭きながら相談だ。
忘れていたシャオクのジョブも、鍛冶師に戻しておく。
「明日からだけど、迷宮に潜るのを中心にしていきたい。
基本的にはほぼ毎日で、5日に1日くらいは休みを作ろうって話になったんだけど、ここ最近の用事であんまり潜れてないんだよね。
5と0のつく日を休日にしようと思ってたけど、どんどんズレちゃって……どうしたら良いと思う?」
「私は前に出ることもほとんどありませんし、迷宮のことでしたらシャオクさんとお決めになったほうがよいと思います」
「ボクも今のところ案内だけで、敵と接触する前にほぼミツキ様の魔法で終わっています。
ミツキ様の判断で迷宮を休む日を決められたらいいと思います」
「う~ん」
2人が行けるのなら毎日でも良いんだよな。
単純作業は嫌いじゃないし。
「じゃあとりあえず上月9日までは迷宮に潜ることにするよ。
6日は桶を見にいくし、10日は絶対休みにするね。
どこかで仲買人の連絡も来ると思うし、シャオが魔物を防いでくれるようになったら、体調を見て休みは増やすからね」
「はい!」
「……お嬢様、ご質問よろしいでしょうか?」
「なにー?」
「依頼しているあの大桶ですが、本当に染め物をされるのですか?」
「いや、しないよ。
話を通すのに楽だったからそういうことにしてるだけで、実際はお風呂にしようと思ってる」
「「お風呂ですか!?」」
2人がシンクロした。
「うん。
魔法でお湯を作って桶にいれる仕組みにしてもらうのは、それが理由だよ。
さすがに毎日は無理だから、余裕のある日だけになりそうだけど……」
「しかし、注文されていた大きさでは途方も無い回数の魔法が必要だと思われます。
その……強壮丸を飲まれながらにしても……難しいのではないでしょうか……」
シャオクもうんうんと頷いている。
「そこであの剣とアコの出番だよ。
迷宮に移動して2階層あたりで魔物を探してもらって、1撃で倒しつつMP吸収で回復してまた戻って来る。
結構な往復数がかかると思うけど、薬を買うよりは安上がりになるよね」
「「…………」」
実際はそこにMP回復速度20倍も付けるし、原作のものよりも湯船は小さい。
彼よりも何割かは楽になるはずだ。
家ができあがるまでになるべくジョブレベルを上げていきたい。
MP回復薬の原料となる遠志や陳皮が入手できる階層まで上がれれば、迷宮往復じゃなくて薬漬けで事足りるかもしれないが、フライトラップの出現は12階層以降のはずだ。
「将来的にってことだし、普通の湯桶を満たすくらいのお湯は今でも回復無しで作れるから、心配しなくても大丈夫だよ。
少なくとも、水汲みに行かせることはないから安心してね!」
「かしこまりました……」
「シャオも、自分たちがその移動を繰り返している間に来客されたらマズいから居てもらわないと困るからね」
「はい……」
ちょっとおかしい作業量の労働するに見合うだけの快楽に溺れさせてやるから、主人を信じていてほしい。
髪の水気も取れたので、寝る準備をする。
さっきの話をしている間に、どうやら二人の間のベッドを空けられたようだ。
真ん中で寝るしかなさそうなので、大人しく布団に入る。
まだこの部屋はベッド同士がくっついているわけではないので、それぞれの間に隙間がある。
新居の方ではベッドは隣接していそうだが、抱きつき魔と怪力(種族比)に挟まれて無事でいられるのだろうか。
作中の彼は、たぶん自分たちより強い愛情を持って抱きしめられても無事だったのだから、こっちも大丈夫であると願いたい。
***
久々に予定の詰まっていない日の朝だ。
顔を洗ったり歯を磨いたりしつつ、植木鉢を確認する。
昨日膨らんでいた蕾は、鮮やかなというか目にきついくらいの赤紫の花を咲かせていた。
色はともかく、花の形自体は普通の花だ。
「キレイ……というかちょっとキツイねこれ。
見たことある?」
揃って首を横に振る。
2人とも聞いたこともないらしい。
ジョブ設定を確認してみるが、特に新規ジョブが増えているわけでもない。
発芽から開花では無理なのか、1回では足りないのか、この植物自体がだめなのかもわからない。
とりあえず種が取れるくらいまで育ててみるかと花を軽く揺すってやると、雌しべらしき部分に花粉が付いたように見える。
これで受粉はできたと思うので、また水をやって置いておこう。
着替えて髪を梳いてもらう。
今日は時間もあるので三つ編みのようだ。
緩めの束をまとめた毛先がきれいに見える。
……こういう感覚まで染まってきている気がする。
今朝もミサンガを1つ作ってもらったが、空きスロットはなかった。
芋虫のモンスターカードが手に入るまでに、何個できてくれるのやら。
階段を降り、軽めの朝食を食べる。
またどこかで買い食いをしないと2人には足りないだろう。
装備を身に着け、鍵を預けて宿を出た。
前回のタレ焼きの店の向かいにも別の食べ物屋が見えたので、そちらへと向かってみる。
近づいてみると、何かを茹であげているようだ。
肉団子のようなものが湯の中で踊り、火の通ったものはザルにうちあげられている。
それを3つずつ串に刺して売っているのがこの店の商品らしい。
自分に1串、2人には2串ずつ買って、店の脇で食べてみる。
1つ1つはゴルフボールくらいなので、結構食べごたえがあって美味しい。
小さい芋を芯にして、つくねで包まれているようだ。
湯の方も味付けしてスープにすればいいのにと思ったが、そちらはどうやら店内用の昼のメニューに使われるらしい。
外で売るには汁物用の容器をつけなければいけなくなるので、具の方だけ串に刺して売っているそうだ。
やはり2つで食べきれなくなったので、澄まし顔の兎様に捧げることにした。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv21
魔法使いLv21/英雄Lv18/探索者Lv23/僧侶Lv20/商人Lv23
(村人5 戦士17 剣士9 薬草採取士1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv15
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv10
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次回は10/20更新の予定です。
活動報告 004更新
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24/10/24
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