全体魔法が3発ないし4発となったことで、いくら鈍い魔物が相手といっても接近することが多くなった。
シャオクが鋼鉄の盾を構え、体当たりや叩き込みを受け止めたり、剣も使いながら流すように対処する。
アコルトも複数の敵が一度にシャオクに向かわないように牽制しながらも、周囲の別の群れの魔物が合流しないかにも気を配っている。
自分はというと、クールタイムを終えればすぐに魔法を放ち、空き時間に後方の鑑定をすることで視界のカバーだ。
直接攻撃を受けている様子はまだないが、何回かに1回はシャオクにこっそり僧侶の手当てスキルを施している。
やっとパーティーらしい戦闘になってきたように思える。
ここに麻痺や石化の付与ができるようになったらまた変わってくるとは思うが、まずはこれに慣れていきたい。
案内を受けて進む際に、度々アコルトから他のパーティーの存在が耳に入る。
出会さないようにシャオクと相談して迂回をしているが、やはり動きの遅い魔物が多い階層なので人が多いのだろうか。
「シャオ、このあたりの階層って人気なのかな?」
「そうですね……魔物の種類とアイテムで考えていましたが、普通のパーティーでも戦いやすさもあって6階層と7階層は人気かもしれません。
すみません、ボクは何度も潜る前にシームから移ってしまったので、そこまで考えていませんでした」
「いや大丈夫だよ。
あくまで目標が7階層なだけだから、戦えそうならもっと上の階層に行くかもしれないし、別の迷宮に行ったっていいしね。
前にも言ったように、安全に戦えそうかで見てもらえばいいから」
「はい!」
少し遠回りになってしまったようだが陣形の練習にはいいし、獲得経験値はいくらあってもいい。
階層を上がったことによってナイーブオリーブの出現は減ったが、オリーブオイルの数は探索者Lv23のアイテムボックス2列分をすでに超えている。
これだけあれば当面の手入れには困らないし、アイテムボックスの中なら時間経過もないはずだったので傷むこともない。
集めるのも難しくないし1列でも23個になるから、ミトラグに売ってしまってもいいな。
これまでより倒すのに時間がかかっているが、基礎経験値も上がっているだろうと信じて攻略を進めていく。
薬草採取士のレベルが順当に上がり、魔法使いのレベルも上がったあたりからファイヤーストーム3発での討ち漏らしがなくなった。
ジョブ効果の知力補正が大きくなったことで、乱数4発の域を超えたのだろう。
その代わり、他人を避けるようにして待機部屋までたどり着いた頃には、もう夕方の鐘の頃になってしまった。
時間的に締めに入るパーティーが多いのか、待機列には3組ほど並んでいる。
ボスのラピッドラビットは避けるものとばかり勝手に考えていたが、今の待機パーティーはどれも数人ずつ盾持ちがいて皆討伐目的らしい。
現在対決中のパーティーが終わった後に、もう3組だと早くて40分くらいはかかりそうだ。
「長そうだから、引き返してダンジョンウォークが使える小部屋か確認してから戻ろうか」
「そうですね。
この人数だとだいぶ掛かりそうです」
シームの7階層からはシャオクの案内もなくなるし、夕方くらいからは小部屋に行き着く毎にスキルの確認をした方がいいだろう。
翌日からの探索の中断セーブを作るような形だ。
というか本来の探索者はそれをするのが普通なのだろう。
幸い、通路を戻って1つ目の小部屋が魔物の出ないダンジョンウォークの移動先にできたので、そこから冒険者ギルドへと飛ぶ。
眠る人魚亭前の絨毯は周囲を確認しての移動元には使えるが、移動先にした場合にミトラグやヤトロクと鉢合わせると不味いと気付いた。
冒険者ではないことが知られているのに、3人だけで絨毯から出てくるのは危険だ。
一応、他の冒険者に送ってもらったという理屈も通じなくはないが、迷宮前からの移動だけに毎回それでは怪しまれそうだ。
特にミトラグは勘も良さそうなので危ない。
買い取りや移動者でごった返した冒険者ギルドから宿へと歩く。
自宅が手に入れば、人目を気にせずゲートtoゲートの移動生活になれるのだろうか。
宿が見える所まで来ると、その前にミトラグが立っているのが目に入った。
「戻りました~」
「あっ、ミツキさんたちおかえり!
ちょっといいかい?」
「はい、なんでしょう?」
「掃除に入った従業員が教えてくれたんだけど、部屋で花を育ててるよね?」
「はい、……もしかしてダメでしたか?」
「いやその、観葉植物くらいはいいんだけど、そうじゃなくて!
あれ、どんな花か知って育ててる?」
「いえ……露店で早く育つ植物、って言ったら種を売ってくれたので育ててました」
「あー、う~ん。
確かに早いけど……」
もしかして危険な植物だったのか?
「ちょっと宿の裏に移動させたからちょっと来てもらっていいかな?」
アコルトたちとも顔を見合わせて、ミトラグの後ろについていく。
宿の裏の少し開けた場所には、木箱が置かれており、その中には窓際に置いていた鉢が鎮座している。
ただし、朝見たときの赤紫の花はすでに萎れて、付け根の部分が少し膨らんでいるようだ。
「前に調べたんだけど、これはディビレっていう植物でね。
少し離れた地域で、染料を取るために育てられているらしいんだ」
「染料ですか?」
「花が咲いた後に、この根本がどんどん膨らんで、最終的に破裂するんだ。
その時に、花と同じ色の液体を撒き散らしながらね」
「うわぁ……」
目にきつい彩度の塗料が部屋中に飛散る状況を想像する。
防犯用のカラーボールみたいな感じだろうか。
「飛び散った汁自体は、水をかけると溶けて無色になって落とせるんだけどね。
染料に使う場合は、なにか特殊な薬品を混ぜて色を留めるらしいよ」
口調的にミトラグはすでに経験済みのようだ。
苦い顔をして、片手を額に添えながら続ける。
「前にテオドナフがうちに長期滞在してる時に、どこからか貰ってきたとか言って部屋で育ててさ……。
何種類か色があるそうなんだけど、その時は真っ赤な色で……、拳大に膨らんだそれがパンッって」
酔ってなくてもやらかしてるじゃないか、あの人。
「当時は水で落とせるってのも分からなくて、家具もみんな総入れ替えだったよ。
まあ分かってても部屋中を水洗いはできないんだけどさ」
「すみません……。
迷宮にでも捨ててきた方がいいですか?」
「育てたいなら、宿の中じゃなきゃ別に大丈夫だよ。
そうだな……。
ほら、借りる家の裏とかなら誰も来なそうだしいいんじゃないかな?
大工たちに言っておけば、知らずに近づく人もいないだろうし、水で流しても問題なさそうだし」
「そうですね、移動させてきます!」
「明日でいいよ!
まだ小さいからまだ一晩くらいは大丈夫なはずだよ。
とりあえず今日のところは箱に蓋をかぶせて、ここに置いておいて構わないよ」
「ありがとうございます!」
工事は明日からで、家の敷地には誰もいないだろうからワープで行ってこようかと思ったが、ミトラグは徒歩往復の手間を考えてくれたらしい。
植物について詳しく聞かせてもらうと、他の植物が同じ土で近くにあると負けてしまって育たないのは本当のようだ。
たしかにそんな爆弾のようなものが自然に好き勝手に生えていたら恐ろしすぎる。
染料用の施設では、色留めの薬品を混ぜた水で水耕栽培のようにして育てているらしい。
それにしてもとんだ危険植物を買ってしまったものだ……。
あの露店のドワーフの嫌がらせだったのだろうか。
詳細を聞かなかった自分も悪いが、わざわざ室内で育てろと言ったのはそういう目的だろう。
やはりドワーフとエルフの種族の問題なのかもしれない。
善人だけに出会えるとは思っていないが、エルフというだけで被害を受けるのは困る。
舐められないだけの力と知識があればいいのだろうが、権力には無縁だし、こんな雑学レベルのことまで網羅するのは無理だろう。
ミトラグだって、被害に遭って調べなければ知らなかったのだし。
不明なものについては頼れそうな人に知恵を借りる、という路線でいこう。
そういうことにしてフロントで鍵を受け取り、宿泊中の部屋へと戻る。
外せる装備を仕舞い、一息ついてから食堂へと向かう。
魚料理はまだ飽きてはいないが、米がほしい。
焼き魚も煮魚も、白米をお供に食べたい。
食料品の店にも米はなかったから、あるとしたら家畜の飼料とかになるのだろうか。
遠出して探しに行くにしても、結局調理を試せる家が手に入るまでは我慢しかない。
2人はそれぞれ昨日と肉と魚を入れ替えて頼んでいたようだ。
満足気な様子に和みつつ、食事を終えて部屋に帰った。
戻ってすぐ、ミサンガの製造を試してもらう。
やはりスロットはなく、シャオクは少し落ち込んでしまった。
それでも今日は戦闘での出番もあったからか、昨日ほどではない。
そろそろ成功しても良いと思うのだが、試行回数をもっと増やすべきだろうか。
軽い手入れをするとのことなので、オリーブオイルもシャオクのアイテムボックスにいくつか移して使ってもらうことにした。
2人で分担しつつするそうだ。
その様子を見ている内にお湯が届いたので、手入れが終わるのを待った後、体を拭きながら2人に確認する。
「6階層は攻撃を止めてもらうことも多かったけど、シャオは大丈夫そう?」
「はい、スローラビットもナイーブオリーブも、ほとんど手応えがないくらい楽に受け止められます!
7階層のミノの突進が気になりますが、あの装備なら問題ないはずです」
「そっか、ならよかった。
アコは戦闘時間が延びて索敵の他に牽制してもらうことも増えたけど、大丈夫?」
「問題ありません。
延びたと言ってもお嬢様の魔法1,2回分の時間ですので、ほとんど変わりません」
戦闘中も移動中も辛そうな様子もなかったし、今のところは大丈夫というところか。
それでも負担は確実に増えているので、2人には自身でも誰かでも様子がおかしそうならすぐに報告して相談する約束をした。
約束というか命令になってしまうのかもしれないが、不安は残したくない。
連日迷宮に潜ることで疲労も溜まっていくだろうし、気をつけていきたい。
***
鐘の音で目覚めると、2人はすでに起きて着替えと荷物整理をしていた。
主人より早く起きる必要はないとは前から言ってあるが、朝には強いらしい。
いつものように桶を水魔法で満たし、身支度をする。
髪の方はされるがままにしていたら、緩めのお団子ヘアになっていた。
毎日のこれも、アコルトのストレス解消になっているのならいいのかもしれない。
自分としても、過ごしやすい髪型になるのはありがたい。
食堂で軽めの朝食を取りながら、今日の予定を話す。
「今日はこの後、例の植物を家に移動させてから迷宮に行こうと思ってる。
大工さんに説明して触らないようにって伝えておかないと危なそうだからね」
「大工の方々がいらっしゃらない場合はどうされますか?」
あー、早すぎた場合か。
今日から作業といっても、大工が何時くらいから動き始めるか分からない。
ワープで移動したこちらが先に着いてしまい、現地作業が昼からということもあるか。
「箱に触らないようにと書いておけばいいんじゃないですか?」
「それでいっか!
蓋に書いておけばよさそうかな」
まぁ書くのは自分じゃないのだが。
部屋に戻った時に書く道具も持って降りてくればいいだろう。
少し食べ足りなそうな様子の2人と共に、食堂から部屋へと戻る。
装備を身に着け、ペンとインク瓶も持って階段を降りる。
フロントに鍵を預けて、宿の裏へと回った。
蓋をして置いたままの箱が同じ位置にあった。
慎重に蓋を開けてみると、昨日はビー玉くらいだった膨らみが、ゴルフボールより一回り大きいくらいになっている。
怖いもの見たさから触ってみたが、その球体は張りがあって弾力もあった。
ミトラグの話では破裂したのは拳大とのことだったので、この分ならもう半日くらいだろうか。
丸一日はもたなそうな気がする。
蓋を閉めて上板に文字を書いてもらう。
まったく読めないが、『開けるな 動かすな ミツキ』と書いてもらった。
共用語のブラヒム語と、ニカドーがドワーフだからスラク語で同じ文面にしておけば大丈夫だろう。
きっちりしている彼の下なら、弟子が見つけても報告が行くだろう。
そっと持ち上げて表へ回り、周囲を確認して絨毯へ向けてワープを発動した。
宿の部屋へと繋げて3人で入り切る。
不要になった筆記具を置いて、今度は家の近くの林へとゲートを開く。
家の近くへと移動すると、アコルトが家の中に誰かがいるようだと伝えてくる。
玄関の扉も開いたままだったので、中を覗き込む。
目を凝らして鑑定を行うと、傷んだ柱に印をつけている背中にニカドーの名前が表示された。
「おはようございます!」
「んっ?
ミツキの嬢ちゃんか、おはようさん。
今日から作業だが、昼までは資材の運び込みで、昼から壊しと納屋の方をやっていくぞ」
「よろしくお願いします。
こちらの箱なんですけど、家の裏に置いておくので動かさないようにしてもらえますか」
「なんだいそりゃ?」
「弾ける植物を知らずに育てていたんですが、宿から移動するように言われちゃいまして……」
「あぁ、ヤトロクが前飲んだ時に言ってたな。
部屋丸ごと真っ赤に染めたってやつ」
「そうです!
それをちょっと試しに育ててたのですが、箱に入れておくので中で割れても放っておいてもらえますか?」
「……なにがしてぇのか分からんが、分かった。
弟子たちには言っておくから、邪魔にならねぇとこで頼むぞ」
蓋付きの木箱を見せて確認させた後、家の裏に回って開けた辺りに箱を置いた。
ここなら仮に数メートル吹っ飛んでも家に影響ないだろう。
一帯が花と同じ赤紫に染まっても、ウォーターウォールで流せるはずだ。
用事も終わったので、再び林の中へと移動する。
今度は迷宮への移動だ。
と思ったが、追加の朝食を食べていない事に気づいた。
2人とも遠慮して言い出さないからな。
朝から物足りないまま戦闘は辛いだろう。
冒険者ギルドへのワープゲートを開き、スタスタと露店へと向かう。
迷宮へと行くと思っていた2人が一瞬戸惑うも、意図を理解してか後ろへと続いてくる。
「ありがとうございます、お嬢様」
「すみません!」
「ううん。
元気な方がいいから、足りない時は言ってね。
忘れっぽいからさ……」
焼き鳥のねぎまのような、肉と野菜を交互に刺して焼いたものが売っていたので、2人に確認して数本ずつ買う。
自分には試食用に1本だ。
……これなら前のつくねやタレ焼きのほうが美味しかったかな?
多分、ペッパーが足りてない。
それぞれの反応も似たようなものだったが、お腹は膨れたようで量は満足な様子だ。
食べ歩きは次回の店に期待、ということで踵を返して冒険者ギルドへと戻る。
今度こそワープゲートをシームの6階層へと繋げた。
昨日立ち寄った最後の小部屋に移動し、人が踏まないような隅の方に食べ終わった串を捨てた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv22
魔法使いLv22/英雄Lv19/探索者Lv24/僧侶Lv21/商人Lv25/薬草採取士Lv11
(村人5 戦士17 剣士9)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv16
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv11
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10/24の昼頃、締め切りたいと思います。
24/10/24
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