通路を進んだ先を見ると、少し広めの部屋へと繋がっていた。
隅の方で談笑している4人組が居たので、おそらく魔物も出ないのだろう。
自分たちが踏み入れた瞬間は足音を聞いてか話を止めて警戒したようだが、こちらの姿を見て怪しみながらも雑談を再開したようだ。
鑑定をさせてもらったが盗賊はおらず、探索者に戦士が2人、それに僧侶といった男女半々の普通のパーティーだった。
小部屋からは入ってきた道の他に、2本の通路がのびている。
アコルトに確認したが、そこにいるパーティーの声と通路先の魔物との音で、更に先の声までは拾えないらしい。
いくら細かな聞き分けができるといっても、近くに邪魔な音源があるのでは仕方ない。
とりあえず余計な接触は控えるべく、パーティーから遠い方の通路へと進むことにした。
少し進んだ先でかち合った魔物の群れを処理し、次の小部屋へと出る。
部屋の奥の通路は1本だけだったのでそのまま進むと、スローラビットが2体ほど居たのでこれも片付ける。
7階層の魔物を4発で仕留められるのは確実なようだ。
通路を曲がった先は行き止まりになっていたので、引き返すことになった。
するとあのパーティーは、おそらく正解ルートの近くに居たわけだ。
戻ったら移動していてくれないかと思ったが、あの部屋に戻ってみるもまだ屯している。
そりゃそうか、3戦して戻って来る程度じゃ早すぎる。
諦めて近くを通り、横を抜ける際に軽く会釈をして部屋を後にする。
特にアクションはなく、ジロジロと見られたがそれだけだった。
拍子抜けだったし、後ろをつけられているという感じもない。
杞憂しすぎたかと思ったところで、アコルトから報告が入る。
「この先にミノがいます。
おそらく3体の群れと、すぐその奥にも複数いるようです」
狭い通路だというのにそんなに詰まっているのか。
ミノだとギリギリ2体が肩を並べて通れるくらいの幅なので、戦闘になったら囲まれることはないのは救いだ。
「シャオ、大変だけどいけるかな?
手当ては適宜使っていくけど、厳しそうなら早めに言ってね」
「凌げるとは思いますけど、その時は声を掛けます!」
「お嬢様、全体魔法で攻撃する前に提案があります」
「ん?
なになに?」
「予め土魔法をいくつか出しておくのはいかがでしょうか」
「あー、壁とか足元とか不安定にしておくのはよさそう。
採用!」
自分たちに近い足元に、サンドボールをそっと発動する。
クールタイム毎に1つずつ、まばらに砂の塊を並べていく。
サンドウォールを床から出してしまうとその高さで前が見えなくなるので、迷宮の壁に発動することで横向きに発生し、目線までの高さの砂壁が出来上がる。
反対側の迷宮の壁との間に若干隙間が空いているが、すぐにしゃがんで身を隠したことでどうやらまだ気づかれていないらしい。
ミノ Lv7
ミノ Lv7
ミノ Lv7
砂壁からひょっこりと顔を出し、鑑定をかけてみると通路の奥の方に確かにミノが表示された。
群れを見定めてウォーターストームを発動する。
突然の水攻撃に驚いたようだが、今ので敵対認定されたらしくぞろぞろとミノたちが向かってきた。
ある程度の方向は確信しているようだが、直接姿を確認していないから突進は開始せず移動をしている、という状態だろうか。
そもそも通路途中の1本道なのだから、相手が前か後ろかさえ分かれば駆け抜けた方がいいはずなのだが、ゲームに出てくる視認範囲を固定された敵キャラのように思えてくる。
クールタイムを終えたはずなので、また壁から頭を出して魔法を念じる。
生成された水がミノたちを包み込み、それと同時に完全に場所も把握されたようだ。
助走から加速し始めたミノたちが怒涛の勢いで向かってきた。
こちらは砂壁から離れ、足元の砂の塊を避けつつ後ろへと下がる。
ゴシャっと音を立ててミノが激突した壁は崩れ、同じ群れのさらなる突進で完全に砂は散ってしまった。
そこに3発目のウォーターストームを撃ち込む。
纏わりつく水はもちろん、足元や体についた砂が水を吸って邪魔になるのが、ダメージを負う以上に嫌なようだ。
暴れるように振り払った後、厳つい顔が3つ、こちらへと疾走を開始する。
距離的におそらくクールタイムが明ける前に到達してきそうだ。
シャオクの盾の後ろに入るように、アコルトと共に移動して身構える。
だが度重なるダメージと、床に撒かれたサンドボールの残骸で、その動きにはブレが大きい。
もう何歩かで盾と衝突、というところで足がもつれて先頭のミノが転倒した。
雪崩込むように後続のミノたちがそれにぶつかり、最後の1体が
「わぁあああああ!!」
シャオクが叫びながらもガッチリと盾を掲げ、ゴッと重い音を立ててミノの体を受け止める。
突進でびくともしなかったのだから大丈夫だとは思っていたが、駆け出した牛が飛んでくるのは流石に驚いた。
あまりにも驚愕したおかげで一緒になって叫ぶ羽目にはならなかったのだが。
ドスッと鈍い音がして盾からミノが滑り落ち、砂が舞い上がる。
まだ終わりではない。
何度も念じていたウォーターストームがやっと発動し、これで4発目となったので水泡がミノたちを煙へと変えた。
リュックから取り出した手拭いで、汗をふく。
砂の混じった水滴が、白い手拭いを薄い土色で染めた。
「お疲れ様……」
「お嬢様、次が来ます」
「え」
ドロップした皮を拾って手渡してくるアコルトの言葉で、他の群れもいたことを思い出した。
通路の奥に鑑定をすると、ミノの群れが向かってきていた。
さっきの叫び声で気づかれたのだろうそれらは、すでに突進中だ。
シャオクが盾を構えて前に出た。
***
結局、ミノの群れを追加で5グループほど倒した。
1つの群れを倒し終わるくらいに次の群れに気づかれてやってくる、という感じでなかなか大変だった。
後半は安定してきて、いつまでやるのかの不安の方が大きかったが。
連続戦闘の中で、懸念していたパーティライゼーションをつかって強壮丸を使用するのにも慣れてしまった。
クールタイム中に手当てや滋養丸を使うのも十分試せたので、今後の為になったといえば間違いなく為になっただろう。
今はブリーズボールを投げ入れて、時折防御用に出していた砂を壁際に散らしながら、ドロップ品を拾いつつ進行中だ。
たまに、一緒の群れだったのだろうスローラビットのウサギの毛皮も落ちている。
速度的な意味で戦いについて来られなかったのか。
この通路はミノが9割くらいの群れが溜まっていて、他のパーティーはそれを敬遠していたのかも知れない。
倒さないから、魔物が増える。
魔物が多いから、危ないので挑まない。
発見されないから溜まっている、魔物の部屋みたいな状況がこの長い通路で起こっていたのか。
進んだ先では小部屋に繋がっていて、さらに分かれた通路の先から何組かの話し声がするとアコルトからの報告を受けた。
そっと覗き込みながら慎重に向かうと、どうやら待機部屋へと繋がっていたらしい。
2パーティーほどが雑談しながら順番待ちをしていた。
今の分かれ道が、あの地獄の通路の迂回路だったのか。
列の後ろに並び、汗を拭いたり水分補給をする。
やっと一息つける。
他のパーティーも一般的なジョブだったし、ちゃんと距離を守って並んでいれば変なことは起きないだろう。
「(シャオ、ミノのボスってなんだっけ)」
「(ハチノスです。
ミノに似た魔物で、攻撃方法もほとんど同じです。
ミノよりは耐久がありますが、1体だけになるので楽ですね)」
初歩的な質問すぎるので小声で確認する。
魔法だと今の構成でもミノの4発から、ハチノスでは10発以上必要になるかもしれない。
突進があるとはいえ、ラピッドラビットより的もでかいし通常動作はそこまで速くはないだろう。
シャオクに止めてもらいつつ、オーバーホエルミングからのラッシュとスラッシュをやれば4巡くらいで終えられそうな気がする。
「(じゃあまた剣にするから、盾で止めてもらったところを斬る感じで行くね)」
「(はい!)」
時間があるうちに、ボーナスポイントを操作する。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv23
魔法使いLv23/英雄Lv20/探索者Lv24/僧侶Lv22/戦士Lv17/剣士Lv9
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
6thジョブ 31 アクセサリ・一 1
腕力 20
(残63/121pt)
先程1パーティーがボス部屋へと進んだが、まだもう1組が前にいるのでロッドは仕舞わず、デュランダルは出さないでおくか。
魔法使いのナリでアイテムボックスを使っているのを見られるのは面倒だ。
7階層を抜けたら次の階層の魔物はなんだろう。
「(シャオ、8階層は何が出る?)」
「(シームの8階層は……コボルトです!)」
コボルトか。
魔法を使える身としては全属性弱点なので非常に戦いやすい。
わらわらと鬱陶しいのとドロップ品が安すぎるのを除けば、経験値的にも稼ぎやすいので良い狩り場かもしれない。
近接主体のパーティーはコボルトを嫌がって、階層を回る人も少ないかもだし。
やっぱりこの7階層は早々に抜けていったほうが良さそうだ。
皮が大量に必要になることでもない限り……と考えたが、そうだ、鍛冶で必要になるじゃないか。
上位スキルのカード融合ができるようになるという、隻眼なる鍛冶師の上位ジョブに就くためには、製造歴あたりが条件になっていそうだ。
レベルだけ上げて装備が未作成では流石に取得できないだろう。
武器や防具の製造レシピをコンプリート……まではちょっと大変すぎる気もするが、何種類以上製造するとかはゲーム的な要素から条件になり得そうだ。
製造レシピでも手に入れば、それを元に素材を集めやすくなる。
シャオクのおじいさんも、そういうものを残していたりしないかな。
機会があればヤトロクに聞いてみるが、そこまで大事なものを預かっていれば、彼の性格的にシャオクにすでに渡していそうだが。
そこはまた後で考えるとして、ギルドで売却するアイテムは今後選定が必要になりそうだ。
ボス部屋のパーティーが1つ進み、自分たちが待機列の先頭になった。
アコルトに他のパーティーが来ていないことを確認して、ロッドをデュランダルへと持ち替える。
もう少しで扉が開きそうかという頃合いに、アコルトが足音を感じ取った。
示された方向を注視していると、進んできたのは先程の男女4人パーティーだ。
魔物の詰まっていた先が静かになったからやってきたのだろう。
ある程度近づいたところでこちらの姿を捉えたのか、ギョッとした様子で固まった。
並のパーティーなら全滅もあり得る通路に、先行させたのだ。
他人はあくまでも他人とはいっても、バツが悪いだろう。
階層と同程度のレベルのパーティーにそうされたので、まぁしょうがない選択だろうと思っている。
こちらも被害が出た訳でもなく、混み合う7階層でまともに戦闘できたので大して気にしてはいない。
装備も実力も上の相手に喧嘩を売ってしまったと思ったのか、今度は向こうが会釈をしてまた通路へと戻っていった。
納得できていなさそうな仲間もいたようだが、リーダーはまともだったようだ。
その姿を見送って、2人と顔を見合わせたところでボス部屋の扉が開いた。
このまま進もう。
今回は自分が先頭で部屋へと入る。
鑑定をしたところ装備が散らばっているわけでもないので、前のパーティーにちゃんと討伐されていたのだろう。
全員が入りきったところで扉が塞がり、煙が発生する。
予め前方に突出しておいて、魔物が形作られてきたところでオーバーホエルミングを発動する。
ミノと同形状の体が完全にできあがったところで鑑定を使った。
ハチノス Lv7
選択対象が現れたタイミングで、ラッシュとスラッシュを続け様に放つ。
ミノより更に厳つい眼光から逃れるように、攻撃が命中したらすぐにシャオクの盾の後ろへと下がった。
オーバーホエルミングの効果時間が切れるよりも早く、ハチノスが動き出す。
初動がミノよりも速度が出ている。
ツノを突き出しての突進に、シャオクが構えた盾の角度を合わせる。
金属同士がぶつかるような鈍い音を立て、接触した瞬間にハチノスが仰け反った。
シャオクが上向きに衝撃を逸らしたのだろう。
重心のズレた後ろ足に、アコルトの鞭が飛ぶ。
倒れるまいと踏ん張るハチノスがすぐには攻撃の動作へと移行できないとみて、再度加速からの攻撃スキルを連続で発動した。
それでもボスは膝をつくことはなくツノを振り回してきたので、シャオクの後ろへと退避する。
再びの突進を試みるも今度は横に逸らされて、同時に反対側の足を鞭で絡め取られたハチノスが転倒する。
うちの子たち、優秀すぎる。
足側は危険なので背中側へと回り、通常攻撃とスキル攻撃で斬りつけた。
まだ倒れない。
しぶといな。
血だらけで起き上がったハチノスは、突進を諦めてツノをこちらの隙に捩じ込むように振り回してくる。
大ダメージではなく、最後に手傷さえ負わせられればいいというような攻撃だ。
もちろんそんな精彩を欠いた動きでは、シャオクの鋼鉄の盾は突破できない。
大きく首が振られたタイミングで、オーバーホエルミングを使って反対側から回り込み、戦士と剣士のスキルを放つ。
煙へと変わっていくハチノスに安堵し、残ったアイテムを拾い上げる。
革
これも売却ではなく製造素材行きだろうか。
シャオクによるとギルドでの売値は1個150ナールらしい。
道中のミノとほぼ同じ挙動で1体出現のボスでその価格なら、そりゃあ人気の狩場になるはずだ。
鍛冶の製造を進める時には素材集めに苦労しそうだ。
ボーナスポイントを魔法スタイルに戻して、ボス部屋の出口へと向かった。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv23
魔法使いLv23/英雄Lv20/探索者Lv24/僧侶Lv22/商人Lv26/薬草採取士Lv16
(村人5 戦士17 剣士9)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv17
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv12
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次回は11/1更新の予定です。