8階層の入口小部屋にでてくると、シャオクから警告が入る。
「ミツキ様、この8階層から魔物が4体までの群れになります」
「そうだった。
ありがとう、気をつける」
4体に囲まれ、合流されて8体になったら死地に追い込まれるような感覚だろう。
だがこの階層のメインモンスターはコボルトだ。
前階層のミノなら恐ろしいが、弱点だらけの奴らはそこまででもない。
出現率があくまで確率なら、4体のミノの群れにもう4体のミノが混ざってくるのもありえなくはないが、あの魔物の部屋ならぬ魔物の道での経験で恐怖心はいくらか軽減されている。
アコルトに索敵をしてもらうと、騒がしく軽い足音が聞こえるとのことだったので、コボルトの群れだろうとして案内してもらう。
2回ほど折れた道の先に、歩き回る4体のコボルトが見えた。
曲がり角から目視できるギリギリまで下がり、ウォーターストームを念じる。
水に包まれたコボルトは藻掻いた後、ナイフを握ってこちらへと駆け出してきた。
歩幅も小さく無駄な動きの多いコボルトの走りが届く前に、2発目の水魔法の発動が間に合った。
それでも流石に2発では倒せない。
弱点で倍化していても、階層強化分には届かなかったのだろう。
寄ってきたところをアコルトの鞭やシャオクの盾で散らしたところに、3回目の呪文を唱えて倒すことが出来た。
後に残ったコボルトソルトとジャックナイフをシャオクに拾ってもらう。
うーん、どうにかコボルトだけは2発で終わらせたいかな。
そのためには知力ステータスを上げたくて、商人と薬草採取士が伸びてきているとはいえまだ足りない。
ボーナスポイントは魔法使いのレベルアップ分の1ポイントを追加で振ったが、現在の7ポイントでは少なすぎるようだ。
パーティライゼーションは強壮丸を直接飲まずに効果を得られ、パーティーメンバーもMPを消費しない滋養丸で回復できるし、もはや外せない。
MP回復速度は3倍までポイントを振っているが、正直もっと強化したいくらいだ。
削るなら経験値効率かワープになる。
レベルをいくらでも上げたい今、効率を下げるのは以ての外だし、ワープは魔物の部屋対策でもある。
ボーナス魔法が使えなかったので、戦闘中でも使える緊急離脱方法として有用だ。
どれも外すに外せない。
しばらくはこのままレベルを上げていくしかなさそうだ。
何度かミノを含む群れと戦ってみると、ミノやスローラビットは全体魔法4発で倒せた。
6階層では3発、7階層で4発だったのでこの階層では5発必要かと思ったが、そこまでの強化はないようだ。
コボルトのみの群れなら1ターン早く済むというくらいなら、躍起になってステータスを上げなくてもよさそうか。
そろそろお昼だと声がかかる。
7階層ではほとんど移動、そのあと連戦して、あとはボス前待機という感じで結構時間が経っていたみたいだ。
今居る小部屋でダンジョンウォークが使えることを確認し、昼休憩に入ることにした。
***
冒険者ギルドへとワープする。
シャオクに確認して、鍛冶には使いそうにないアイテムを売り払う。
鍛冶の初級らしい皮装備のいくつかは、教えてもらったレシピを覚えているそうだ。
コーラルゼラチンやリーフ、ウサギの毛皮などをトレイに載せていくが、途中でいっぱいになってしまったので2枚目を出してもらった。
本来大量買い取りの場合は、別室で受付するそうなので先に言ってくれと怒られてしまった。
大量とはいっても、オリーブオイルや皮といった自分たちで使うものは出さなかったので、3割増しても売却額はやっと1000ナールを超えたくらいだった。
嵩張った割に額が少ない。
ギルドを出て、食事する店を探す。
昨日は満員で入れなかった店に来てみた。
テーブルに案内されたのでおすすめ料理を3人前と飲み物を注文する。
迷宮では若干ハードな場面もあったので、椅子の背もたれに身を預けようと思ったが、しゃんとした様子のアコルトにニコッとされたので姿勢を正した。
怒られているわけじゃないのに、だらけてはいけない気がする。
香ばしい匂いと共に料理が運ばれてきた。
イモのガレットの上に肉や野菜がのっている。
カリカリとした外側と、ホクホクする内側の食感が楽しく、少し濃い目の味付けの具がとても合う。
この店はけっこう当たりだな。
皮を剥いたイモを千切りにするのが大変そうだが、他は大体焼くだけなので家でも出来そうだ。
チーズをかけたらさらに美味しそうだし、自炊の夢が広がる。
2人はパンも追加して食べていた。
炭水化物祭りか。
お腹いっぱいになって満足したところで、一旦宿へ向かうことにする。
部屋で鍛冶を試してみるのだ。
腹ごなしの距離を歩いて、眠る人魚亭へとたどり着く。
入口から入るとフロントにミトラグがいた。
「あ、おかえり。
さっきミツキさん宛の手紙が届いたよ」
手紙?
アコルトに差出人を読み上げてもらうと、カルムという者からだった。
カルム……。
あっ、例の仲買人か!
「ありがとうございます。
えっと、ミトラグさん前に言っていたオリーブオイルって買い取ってもらえますか?」
「あ、わざわざ取ってきてくれたんだ?」
「いえ、何日か迷宮を回ったので結構溜まっていて必要ならと思いまして」
「そっか、ありがとう!
いくつくらいかな?
まとまった数だとありがたいんだけど」
ギルドから戻ってくる最中にシャオクを探索者に切り替え、そのアイテムボックスにオリーブオイルを入れてもらっていた。
今の所持数が64個なので、キリよく50個渡して残りは自分たちの使用分でいいだろう。
足りなければすぐに取ってこられる階層だし。
「お渡しできるのは、とりあえず50個ですね」
「けっこう溜め込んだんだね!
そうしたら……1つ20ナールでいいかな?
仕入れ値よりは安いんだけど、ギルドの買い取りよりは高いと思う」
冒険者ギルドでの売却額は1つ15ナールだ。
3割増がついても50個で975ナールが、1000ナールになるのならこちらとしても得だ。
「そちらでお願いします!」
「ありがとう!
追加のオイルも手に入ったなら、教えてもらった料理も試せそうだ」
「じゃあボクはアイテムを渡してから部屋に戻りますね」
「うん、お願い」
ミトラグがシャオクを連れ立って食堂の方へと向かったので、こちらも受け取った鍵を持って部屋へと戻る。
一旦装備を外してベッドに腰掛け、手紙を読んでもらうことにした。
アコルトが部屋の荷物からナイフを取り出して封を開き、何枚かの便箋を取り出す。
「……最初の方は、丁寧なご挨拶のようです。
ザノフ様にご紹介頂いた旨のご説明ですね」
「その辺りはいいや。
面会の日程とかは書いてあるかな?」
「ええと、ルテドーナの商人ギルドに常駐しているので、日中でしたらご都合のいい時にカルムの名で呼びつけて頂いて構いません、とのことです。
オークションについてもいつでもご説明致します、と書かれています」
「いつでも、か。
どうしようかな」
空きスロット付きのミサンガは間に合っていないが、身代わりスキルがつく芋虫のカードくらいは早めに揃えたい。
それにシームの迷宮の8階層まで来たが、まだ蜘蛛も蟻もメインの階層が来ていない。
毒攻撃の連中があと3階層の間に2種類も残っているので、前衛のシャオクにだけでも毒耐性装備をしてもらわないとマズい気がする。
早めに募集をかけてもらうためにも、早期に会っておいたほうがいいだろう。
ならば今日の午後から向かうことにするか。
「じゃあこれからルテドーナに行くことにしよう。
装備は外しちゃって、預かるよ」
「かしこまりました」
靴以外の装備を外したところで、シャオクが戻ってきた。
「戻りました!
ミツキ様、こちらが代金です」
「うん、ありがとう。
昼からは迷宮はちょっとお休みだから装備は外していいよ」
差し出された10枚の銀貨を受け取り、荷物を整理する。
シャオクのアイテムボックスの中身を出してもらって、鍛冶師のジョブに変更した。
「シャオには今から鍛冶師のスキルを使ってもらおうと思う」
「は、はい!」
「まぁミサンガで何度もやってもらってるけど、装備を少しずつ試していこう。
まずはダガーかな。
えっと、ジャックナイフと鞘用の皮だっけ?」
「ナイフが2つと皮が1つ、それにブランチが1つですね」
金属が入ると加工にブランチが必要なんだったっけか。
言われた素材と、強壮丸を何粒か机の上に並べた。
「スキルを使って気分が悪くなった時は、迷わず強壮丸を飲んでね」
「わかりました」
これまではパーティライゼーションでフォローしたり、朝や夜にミサンガを1つだけというようにほぼ全快の状態で行えるようにしてきた。
自分が依頼する以外にシャオクが勝手に製造をすることはないと思うが、毎回横についていられるとは限らない。
防衛策として、約束しておいたほうがいいだろう。
「やってみます!」
シャオクが素材に手を翳すと、何かが目の前に現れたような表情に変わった。
こちらからは何も見えないが、武器製造のスキルを思い浮かべたことでダガーが選択できるようになったのだろう。
「
呪文を唱えたシャオクの手元が眩しく光る。
ミサンガの時よりも長めに光っているのは、製造工程が長いからなのだろうか?
徐々に光が薄まり、収まると机の上には鞘に入った短い剣が置かれていた。
ダガー(○)
スロット付きだ。
こういう時だけ引きが強い!
「おめでとう!
具合はどう?」
「緊張はしていましたが、大丈夫です。
それで……、あの……」
「あ、うん。
空欄……スロットはちゃんと付いてるよ」
「よかったです!」
気にしていたのはそっちだったらしい。
一番初めのミサンガで成功しているのだから、シャオクがスロットなし装備しか作れないなんてことはない。
スロットなしミサンガばかり続いていたら不安にはなるか。
続けて、アイテムボックスから皮を何個か出してみる。
「いけそうなら、皮の装備もいくつか試してみてほしい」
「はい!
……帽子にカチューシャ、ミトンに手袋、サンダルに靴などが選べそうです」
おお、皮のみでも作成できる種類が結構あるようだ。
原作では3種類くらい作っていた気がする。
「とりあえず、サンダルを作ってみよう」
「わかりました!」
呪文を唱えてからの光は、ダガーよりは短かった。
素材も1個だし難易度で光量が変わるのかな?
皮のサンダル
こちらはスロット無しだった。
普段履きにでもするか、室内用にしたっていい。
体調を確認すると、まだ大丈夫だということなので今度は帽子を作ってもらうことにする。
サンダルの時と同程度の眩しさが終わると、皮の帽子が残った。
シャオクの顔色が変わったような気がしたので薬を飲ませて深呼吸をさせると、だいぶ気が楽になったようだった。
自分のジョブ効果でMP補正が増えているとはいえ、本来は日に何度もスキルを使うジョブではないのだろう。
水を飲んでもらったりと休ませながら、先程の手紙の話をする。
「この後はルテドーナの商人ギルドに行こうと思ってる。
仲買人の人と会ってみて、オークションの説明を受ける感じかな」
「お嬢様、私たちはご一緒したほうがよろしいのでしょうか?」
商人ギルドへ入って説明を受ける分には問題なさそうだが、その後のオークションの方はどうだろう。
会場へは奴隷とともに入れるのだろうか。
オークション自体が貴族関係者の御用達な感じがするし、絡まれそうな要因は少しでも減らしたほうがいいか。
望み薄だとしても、カルムなる仲買人に確認しておこう。
それ以前にドワーフであるシャオクがオークション関連の場所にいたら、鍛冶師だと疑われてしまう可能性が高くないか?
そちらのほうが不味い。
わざわざ毎回戦士やらに変更してまで取り繕うより、行かせないほうが無難だろう。
もしも証文があったり記名が必要になるとどうしようもないので、アコルトには来てもらうしか無いだろう。
うーん、識字が出来ないのが悔やまれる。
そうしたらシャオクには別作業をやってもらおう。
「シャオが鍛冶師だとバレると面倒なことになりそうだから、別なことをしてもらおうと思う」
「たしかに商人ギルドでは目をつけられそうです」
「残っている皮を使い切ってもいいから、未作成の装備をどんどん作ってほしい。
強壮丸も渡すから、遠慮しないで使ってね。
少なくとも2回に1回で、それでもキツそうなら1回ごとに飲んでもいい」
「流石にそれは飲み過ぎでしょう」
「ううん、シャオの体調優先だよ。
たぶん鍛冶師として成長するのに『作ったことがある』っていう経験が必要になってくると思うんだ。
急ぎじゃないから休み休みで大丈夫だよ」
「わかりました」
「もし未作成がなくなって、皮が残っていたらサンダルをもう2つ作っておいて。
それでも時間が余ってたら、サンダル以外を防具屋で売ってくる、くらいかな。
そこまで待たせることはないと思うけど」
「できたらそこまでやってみます!」
アイテムボックスから出した皮を机の横に重ねていく。
2列分を超えていたから、30個くらいあったわけだ。
強壮丸を30粒程だして、8割くらいはアイテムボックスに仕舞ってもらった。
明らかに過剰だが、最悪1回に1つと言った以上は皮と同じ数だけ出しておくべきだ。
皮が2個以上必要になるレシピがあれば、余るだろう。
いつの間にかメイド服に着替えていたアコルトと共に、宿の内壁からルテドーナの冒険者ギルドにワープした。
そういえばルテドーナの商人ギルドの場所を知らないと思ったが、カルムからの手紙に冒険者ギルドからの道順が記されていたらしい。
ザノフのような周到さの片鱗を見たような気がしたが、カルメリガやクラザからシームへ移動したと聞けば、冒険者ギルド基準で考えてくれるのもおかしくはないか。
結局同じ通り沿いではあったが、迷わずに来れたので助かった。
見たことのあるような建物だが、入ったことはないはずだ。
受付の女性に手紙を見せてカルムの名を告げると、商談部屋へ向かうように指示される。
ギルド側で呼び出してくれるようだ。
部屋番号が数字だったので、やはりアコルトを連れてきてよかった。
椅子に腰掛けてしばらく待っているとノックの音が響いたので、返事をするとドアが開かれた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv23
魔法使いLv23/英雄Lv20/探索者Lv25/僧侶Lv22/商人Lv26/薬草採取士Lv18
(村人5 戦士17 剣士9)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv17
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv12
---
次回は11/4更新の予定です。