異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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056 仲買人

「お待たせして申し訳有りません。

 ザノフ様よりご紹介頂いた、仲買人をしております武器商人のカルムと申します」

「ミツキと申します。

 こちらはアコルトです。

 お手紙を頂きましたので、ご挨拶だけでもと思い早速参りました」

 

 

 丁寧なあちらの所作に合わせ、こちらも挨拶をする。

 一歩下がっていたアコルトも、紹介に合わせてお辞儀をした。

 

 

カルム・クラストン エルフ ♂ 24歳 武器商人Lv6

 

 

 エルフの顔は年齢が判断しにくいが、武器商人にしては若いのではないか?

 探索者をLv30まで上げたというのはなかなかのことだ。

 

 それより、カルムには名字がある。

 こちらの現代からの流用のなんちゃって名字ではなく、ちゃんとした家名なのだろうか。

 色白の優男に見えるが、そう思うとなんとなく気品のあるオーラがあるような、ないような。

 

 

「ご無礼を承知でお聞きしますが、その、カルム殿は高貴の出でいらっしゃったり……?」

「フフ、いえ、失礼しました。

 貴族といえば貴族にはなりますが、クラストン家は嫡男が武器商人をやっているような、末席の一族になりますので気にされずとも構いませんよ。

 ザノフ様も、わざわざ貴族であるとはご紹介なさらなかったのでしょう?」

 

 

 確かにそういう話は出なかった。

 見どころのあるエルフの武器商人、くらいの紹介だったはずだ。

 

 こちらの表情を見たカルムは、どういう紹介だったか悟ったように納得したように頷いている。

 

 

「私もミツキ殿、とお呼びする形でよろしいでしょうか?」

「ええ、構いません。

 ……こちらもどういう紹介をされたのかわかりませんが、スズシロという名字があってもただの自由民ですのでお気になさらず」

 

 

 アコルトについては従者であるとの説明をし、話はオークションについてに移る。

 

 

「オークションをご利用としたいとお聞きしておりますが、競売自体はどの程度ご存知なのでしょうか?」

「提示された商品を参加者で資金額で競りあって入札し、最も高額を提示した者が落札できるという催し、で合っていますか?

 それくらいしかわからないので、専門家である仲買人の方の紹介を求めたのです」

 

「そうでしたか、その認識で構いません。

 比較的低額の商品……金貨数枚程度までですね。

 そちらはほぼ毎日、この商人ギルド併設の会場でオークションが開催されています。

 高額が予想される商品となりますと、目玉商品という形で宣伝告知期間を設け、同日にまとめて競売が行われます」

「なるほど……」

 

「入り用のため止むなく告知できずに、緊急で高額商品の出品という形もありますので、いつでも低額商品だけが出てくるというわけでもありません」

「普段の商品の買い付けと、そういった掘り出し物を逃さないために、仲買人の方にお願いするのですね」

 

 

 そんな描写もあったな、借金返済のために貴重な装備をオークションに出した者がいたとか。

 悪評の絶えない出品者だったので、仲買人同士で示し合わせて安く買い叩かれていたようだったが。

 

 

「競売でのご依頼を頂く場合は手数料を頂く形となります。

 例えばモンスターカードの代理落札でしたら1枚あたり500ナール。

 装備の代理出品でしたら、落札額の2割を頂いています」

 

 

 まあ物によって値段は変わるよな。

 依頼の際に確認されるだろうし、カードの落札手数料も許容範囲だ。

 

 

「依頼品を落札して頂いた場合は、その後どうなりますか?」

「落札、もしくはお預かりした商品の売却が完了しましたらご連絡を致しますので、ここルテドーナの商人ギルドへ後日来て頂く形になります。

 シームにお住まいということのなので、翌日中までのご連絡でしたら200ナール。

 こちらは手数料とは別に、その都度伝令代として頂くことになります。

 私もシームへは不定期ですが向かいますので、遅くとも10日程度の間隔でまとめてのご連絡で構わないのでしたら無料で承ります」

 

 

 すぐにカードや代金がほしければ、速報用に追加料金というわけか。

 実際にあり得る場面としては、目的のスキル用のモンスターカードのセットが揃ったらとか、金策に困っていてなるべく早く代金が欲しい場面だろうか。

 急がなければ無料というのもありがたい。

 

 

「モンスターカードの相場をお聞きしても大丈夫ですか?」

「はい、ある程度は把握しておりますのでなんなりと」

 

「芋虫とコボルト、あとは山羊と……毒と麻痺と石化はなんのカードでしたか?」

「毒が蟻、麻痺が潅木(かんぼく)、石化は珊瑚のモンスターカードですね。

 そちらの取引履歴を何件かお挙げしたらよろしいでしょうか?」

 

「お願いします」

「まず芋虫から。

 4100ナール、3900ナール、4200ナールとなりますね。

 コボルトのカードは5100、4900、5300ナールです」

 

 

 スラスラ出てきているが、暗記しているのか?

 そんなこちらの表情を読み取ったのか、カルムが答える。

 

 

「ああ、取引履歴は数日分は貼り出されておりますので、どなたでも確認できます。

 受付で検索料をお支払いいただければ、過去の取引も遡って調べてもらうことも可能ですので、ご不安でしたらお確かめください」

「いえ、よく覚えられるな、と……」

 

「それが私の商売ですので、ね。

 人気のカードですので、市場全体の相場推移のためにも確認しているのですよ」

 

 

 市場調査というか傾向を見ていかないと売り買いで利を出すのは難しいんだろう。

 あんまり毎回高く落札していては、顧客も減っていくだろうし。

 

 

「続けます。

 山羊は4300、4500、4600───」

 

 

 一通り聞いたが、どれもだいたい5000ナールで考えておけばいいみたいだ。

 被弾しやすく、不覚に陥る麻痺の耐性を高める、潅木のカードが若干高めらしい。

 

 カルムは諳んじた後にメモをちらっと確認したようだが、訂正はなかったようだ。

 忘れっぽい自分は絶対仲買人にはなれないな。

 

 

「ありがとうございます。

 そうしたら芋虫のカードを3枚と、コボルトを1枚、蟻を1枚お願いします」

「最初で5枚もですか、……承りました」

 

 

 竜革の鞭に石化や麻痺もつけたいが、日用品の購入もあるしこのくらいがギリギリだろう。

 

 

「カルム殿が考えるに、相場程度で競り落とすと全部で何日くらい掛かりそうですか?」

「そうですね……。

 どれもよく出品されるカードですが、芋虫が3枚ですので5日、……いえ6日ほど見て頂ければよろしいでしょうか」

 

「でしたら、全部が揃った時に伝令をお願いします」

「かしこまりました。

 では、落札の手数料を先に頂戴致します。

 伝令代の方は、ご利用があった場合に商品の受け渡しの際で構いません」

 

 

 巾着袋から25枚の銀貨を取り出して渡すと、慣れた手つきでカルムがアイテムボックスへと仕舞った。

 

 

「他にはございますか?」

「オークション会場へは、参加者として奴隷も入ることは出来ますか?」

 

「ええ、特に制限はございませんので、どなたでも入場可能です。

 会場内での揉め事は禁止されておりますので、他者にご迷惑をおかけした場合はご退場して頂くことになります。

 それにほとんどが当ギルド所属の仲買人ですので、トラブルの心配はご不要ですよ」

「そうなのですか」

 

 

 だいたいこちらの心配している事項に答えてくれるような返答だった。

 客同士のトラブルはないし、参加費を払いさえすればアコルトを連れて行くのも問題ない、ということらしい。

 

 

「本日の午後のオークションが始まったばかりですので、参加されていかれますか?」

「飛び入りでも構わないのですか?」

 

「参加側は途中からでも入ることもできるのです。

 1度でも入札をすれば1000ナールの参加料を払う必要がなくなります。

 オークションの最初の方では参加者を考慮して少額ずつの上げ幅で入札をしていきますが、中盤以降は入札額の勝負が盛り上がってきます。

 後から入場しますと、参加料免除目的の入札が難しくなるのです」

「後から入った者は、入札機会を逃して参加料を払うことになるので誰でも歓迎、ということですか」

 

「そうなります。

 ですのでオークションの見学が目的でしたら、始まったばかりの今入場するか、後日改めてがよろしいと思います」

 

 

 どうやら作中とだいたい同じような形式らしい。

 オークションに行く日はふらっと立ち寄るのではなく、初めから予定を組んでおかないと無駄な出費が増えるということか。

 何も得られずに1000ナールは痛そうだ。

 

 

「ではお願いします」

「かしこまりました、ご案内いたします」

 

 

 カルムの後についてオークション会場へと移動した。

 商人ギルド併設していると言っていたように、廊下でそのまま建物が繋がっている。

 デパートとか総合病院のように、別棟に地続きで行ける感じだ。

 

 受付には商人の他に旅亭もいた。

 カルムが身分証みたいなものを提示したので後ろの自分たちは素通りできたが、怪しかったらインテリジェンスカードのチェックもあるのだろうか。

 

 劇場のように前方にステージがある大部屋に、座席が並んでいる。

 参加者は座席の3割程度の混み具合だ。

 

 今日は目玉商品の日ではないのだろう。

 カルムも案内程度で済ませるつもりだったようだし。

 

 手頃な場所に腰掛けるように促され、アコルトと並んで座席に座る。

 カルムはと言うと、知り合いを見つけたように近くの男に話しかけ、すぐにこちらへと戻ってきて隣へと座った。

 

 

「(只今、2品目の商品が終わる頃だそうです。

 タイミングをお教えしますので、あがった声より100ナール高い額を手を上げてお二人で続けて言うようにお願いします)」

「(わかりました)」

 

 

 アコルトにも共有し、そのタイミングを待った。

 

 商品が紹介される。

 3品目の商品は、惰眠のカトラスらしい。

 

 

「(出品内容は目録として公開されておりますが、順番は当日の抽選です。

 あちらはカトラスに羊とコボルトのモンスターカードを融合した、催眠添加の強化スキルがついた武器ですね。

 普段でしたら高額商品に分類されますが、先程述べたように緊急で出されたのでしょうね)」

「(そういう商品を安く仕入れて、目玉商品で売るということはされないのですか?)」

 

「(可能ですが、頻繁にそういうことをしていては、他の仲買人からあまりよく思われません。

 するにしてもある程度期間を空けてからの出品が無難となりますので、当月は避けるべきでしょう。

 そこまでするほどの利益のある商品でもありませんし、信用は安くありませんので、ね)」

 

 

 転売常習犯は吊し上げられるのか。

 逆にそいつが売ろうとする時に結託されて、低額で落札されれば損をするだろうしな。

 

 商品説明が終わり、入札が開始された。

 カルムが言うには惰眠のカトラスの相場は15万ナール前後とのことだが、開始額は1000ナールからだった。

 例の参加料対応なのだろう。

 

 次々と声が上がっていくので不安になってきていると、カルムから声がかかる。

 

 

「(2000ナールの次からお願いします)」

 

 

 アコルトにも目配せをすると頷いてくれた。

 小声でも十分聞こえていたのだろう。

 

 

「1900ナール」

「2000ナール」

 

 

 今だ。

 

 

「2100ナール!」

「2200ナール」

 

「2300ナール!」

 

 

 アコルトと続けて入札したところで、カルムが上乗せしてきた。

 一応客である自分たちの入札を庇ってなのだろうか。

 

 係員が寄ってきて、入札証明らしいメモを渡してきたのでそれぞれ受け取る。

 その後は100ナール単位の入札が落ち着くと、徐々に入札額が上がっていき、最終的に13万2000ナールで前方に座っていた男の落札となった。

 

 

「(このような形で競売を行います。

 私に依頼された場合は手数料を頂きますが、ミツキ殿がご参加されて直接落札された場合は、もちろん落札価格のみのお取引になりますのでご安心ください)」

 

 

 原作では直接落札して支払う場面でボーナスポイントの3割引が発生していたが、そのためにオークションにずっと張り付いてはいられない。

 基本的にはモンスターカードの依頼になるだろうし、お願いする形でいいだろう。

 資金がある時には、目玉商品の日を教えてもらって新たな仲間の奴隷を探すのもいいかもしれない。

 

 

「(本日はご依頼のあったモンスターカードの出品予定もありませんし、別の顧客から請け負っている商品も目録にないので、何もなければ退場しようかと思いますがいかがでしょうか?)」

「(こちらも大丈夫です。

 退場しましょう)」

 

 

 渡されたメモを受付で回収され、会場を後にする。

 

 

「商談に出向いている場合もございますが、基本的にはこの商人ギルドにおりますのでご用があればお呼び頂けたらと思います。

 本日のご説明はここまでとなりますが、なにかお聞きしたいことがございますか?」

「ええと、スキル装備のオークションでの相場って、どのようにして決まってくるのですか?」

 

「そうですね……。

 ミツキ殿が複数枚のモンスターカードを求められていたように、モンスターカード融合の成功率が低いのはご存知かと思います。

 それでも7回、8回はやれば1回は成功するだろうという目算で、そこに鍛冶師への依頼料も考えると10回分の素材代金がおおよその相場として考えられています。

 もちろん数回で成功する場合もありますし、全て失敗ということも十分にあり得ることですので、あくまでも目安ですね」

「10回分ですか……」

 

「人気のスキル装備は持ち主がなかなか手放すことはありませんので、どうしてもそのくらいの相場になってしまいます。

 逆に使い所の難しい装備であれば、もっと相場は低くなります」

 

 

 なるほど、10倍か。

 

 カトラスはシャオクに買った際に5000ナールくらいだったはずだ。

 羊とコボルトのカードもそれぞれ5000ナールとして、1回分が1万5000ナール。

 その10回分で、あの惰眠のカトラスの相場は15万ナール程度と言われたのか。

 

 

「ありがとうございます。

 依頼の目安になって助かります」

 

 

 羊とコボルトのモンスターカードは所持している。

 惰眠のスキルを付けて売却依頼をするなら何の武器がいいのだろう。

 

 素材の武器が高価なほどリターンが大きくなるのなら、店で売っていた鋼鉄の剣か槍か。 

 その上位となるのはダマスカス鋼や白銀だと思うが、店頭になかったりそもそもが高価すぎて買えない。

 

 鋼鉄武器ならスロット付きをいくつか見かけたはずだ。

 

 

「惰眠の鋼鉄の槍って、売却依頼をするならどのくらいの金額になりそうですか?」

「……コボルトのモンスターカードも使った、催眠添加スキルの鋼鉄の槍でしょうか?

 羊のみの催眠付与、ではなく」

 

「はい。

 強化されたスキルの方です」

「今、お持ちなわけではないです……ね?」

 

 

 魔法使いと知らされている自分ではなく、アイテムボックス持ちの可能性を考慮してジョブを教えていないアコルトの方をカルムが見つめる。

 

 やたらと食いついてくるな。

 だが作ってもいないし、そもそも槍すらまだ買っていない。

 しかし匂わせておいた方がよさそうだ。

 

 

「今はありませんが、別の場所にいる仲間に預けているんです」

「そうなのですか。

 もう一度、商談室でお伺いしてもよろしいでしょうか?」






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv23
魔法使いLv23/英雄Lv20/探索者Lv25/僧侶Lv22/商人Lv26/薬草採取士Lv18
(村人5 戦士17 剣士9)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv17


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv12



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次回は11/7更新の予定です。

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