異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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059 取引

 いつの間に森林保護官のジョブを取得していたんだ!?

 その場で固まってしまい、店員に代金がないのかと急かされてしまった。

 

 慌てて支払ったが、結局ボーナスポイントは未操作のままだったので、満額で支払ってしまっての退店だ。

 いや、そんなことより。

 

 もう一度確認する。

 

 ジョブ効果は知力が中上昇に、精神が小上昇と微上昇の2種類がついていてる。

 種族固有ジョブというだけあって、ジョブ効果が高めだ。

 

 知力中上昇は魔法の火力アップに繋がって非常に嬉しい。

 精神のステータス補正が効果量違いで2つもあるが、まぁそれもいいだろう。

 

 問題は『対植物強化』とかいう謎スキルだ。

 

 原作では猫人族の固有ジョブの海女に、『対水生強化』というスキルがあったはずだ。

 おそらくパッシブスキルで、水生の魔物に与えるダメージが増加するのではないかという考察がされていたが、それの植物版だと思われる。

 

 確かにこのジョブだけでは攻撃手段が増えるわけでもなく、各種の魔法を操る魔法使いと比べたら見劣りするので、2択となれば選ぶことはないだろう。

 

 しかし自分はパラレルジョブで設定できる。

 これまで商人や薬草採取士の知力小上昇に頼ってきたが、こちらは英雄と同じ中上昇だ。

 それだけでも価値があるし、本当に植物的な魔物への与ダメージが増えるのなら、滋養丸や強壮丸の原料をドロップする魔物たちに効果的なはずだ。

 

 今後のジョブの育成方針を考えなくては。

 

 

「───お嬢様」

 

 

 アコルトの声に振り返る。

 どうやら店の前で考え込んでいた自分に、何度も声を掛けてくれていたらしい。

 だめだ、考察は後だ後。

 

 

「ごめん、ちょっと考え事をしてた」

「そろそろカルム様とのお約束のお時間だと思われます」

 

「あ、そうだった!

 えーっと、悪いけどシャオはまた別行動してほしい」

「わかりました」

 

 

 何度も別になって申し訳ないが、シャオク自身を守ることにも繋がっているので我慢してほしい。

 

 

「シーム内でなら、好きに出かけて構わないよ。

 取引が終わったら宿に戻るつもりだけど、シャオは夕方までに戻ってもらえればいいし。

 買い物でもなんでもしてきて大丈夫!」

「ありがとうございます!

 ちょっと気になった事があるので行ってみます」

 

 

 内容が気になったが、それは帰ってから聞くのでいいだろう。

 シャオクと別れて、商人ギルドの方へと向かった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 シームの商人ギルドは、やはりこれまで行った都市より一回り小さい感じだ。

 ルテドーナやカルメリガのものは競売会場があったので、クラザのものより更に大きかった。

 

 中に入る前の木陰で、アイテムボックスから惰眠の鋼鉄槍を取り出す。

 アコルトに試しに持ってもらったが、武器として振るわずにただの運搬として持つだけなら、危なげなく移動できた。

 

 持つというより、ギュッと抱きしめる感じだが。

 なんだこの緊張感は。

 

 

 受付で名乗り、カルムの名を出して待ち合わせだと伝えると商談室へと案内された。

 

 ソファに座って待っていると、程なくして扉がノックされる。

 カルムが名乗って入室すると、昨日会ったばかりなので挨拶もそこそこにテーブルの前に立った。

 

 

「お待たせして申し訳ありません。

 そちらがお取引の品でしょうか?」

「はい。

 アコ、こちらに」

 

「かしこまりました」

 

 

 アコルトが槍をテーブルの上にそっと置いた。

 それなりに重量があったはずだが、大きな音も立てずに乗せられたのは器用さのおかげか。

 

 

「それでは鑑定致します。

 武器に宿りし魂よ、その力を解き放て、武器鑑定。

 ……確かに、惰眠の鋼鉄槍になりますね」

 

 

 安堵の表情を見せたカルムは、続いてアイテムボックス操作の呪文を唱えて硬貨を取り出していく。

 ポケットから出した空の巾着袋に、金貨と銀貨を数えながら入れるところを見せてくれた。

 

 

「お取決めの通り、1割の手数料を頂きまして30万6000ナールの代金をお受け取りください」

「ありがとうございます。

 たしかに受け取りました」

 

 

 ジャラリと重い袋を手渡される。

 当面の資金はこれで大丈夫だろう。

 

 カルムがアイテムボックスに槍を仕舞って一礼した。

 

 

「この度は誠に助かりました。

 お約束どおり、ミツキ殿のことは伏せさせて頂きますが、他にご要望はございますか?」

「そうですね……。

 今回はたまたま持っていただけですが、またお困りのものがあるようなら一応お声がけ頂けると力になれるかも知れませんので、お気軽にお願いします」

 

「かしこまりました。

 機会がありましたら、ご相談させていただくこともあるかもしれません」

 

 

 これくらいの感じでいいだろう。

 素材さえあれば成功するとバレるとまずい。

 さすがに向こうも、いきなり何度も頼んでくるとは思わないが。

 

 

「あとは……今回の取引とは関係ありませんが、質問をいくつかしてもよろしいですか?」

「はい、お答えできるものでしたらなんなりと」

 

「そうしましたら……新品の服屋はシームやルテドーナのどの辺りにありますか?」

「衣服、ですか。

 服飾店でしたら、シームではこの商人ギルドを出て右手に進み、2つ目の路地を曲がったところにございます。

 ルテドーナでしたら……、簡単な案内をお書きいたしますね」

 

 

 カルムが立ち上がり、後ろの棚を開けてメモ用のパピルスと羽根ペンを取り出した。

 商談室だからそういうものも置いているのか。

 

 サラサラと簡易的な地図を描き、冒険者ギルドからの道順を説明してくれた。

 

 

「ありがとうございます。

 その、例えばザノフ殿の高級店だと1着おいくらくらいするんでしょうか……?」

「ザノフ様のお店ですと、ほとんどがオーダーメイドの服になりますので値が張ると思いますよ。

 具体的には……1着3000ナール程度から、でしょうか。

 糸目をつけなければ1着で金貨を超えるものもあるでしょう」

 

 

 そういえばスーツの上下で8万ナールの買い取りだったのを思い出した。

 その価格で買い取るということは、そこから何割か増しても買う者がいるということだろう。

 実際はボーナスポイントで割増させてもらったが。

 

 

「そ、そうなのですね」

「もしそちらを考えておられるのでしたら、ザノフ様に直接ご相談された方がよいでしょう。

 気に入られた方にはだいぶ甘い方ですので、ご予算をお伝えすれば間違いなくそれ以上の価値の品をご用意してくださると思います」

 

 

 そう説明するカルムの顔も朗らかだ。

 良くしてもらっているのは分かるが、これ以上あんまりザノフに借りを作りたくない。

 

 

「け、検討してみます!

 あとは……」

「はい、なんでしょう?」

 

「様々なジョブについて知りたいのですが、どこかで調べられたりする場所はありますか?」

「ジョブについて、ですか」

 

「戦士はなにができる、とか。

 修練を積むと新たなジョブになれる、とか……」

「そのようなことについて書かれてる本は、図書館で探すことになると思います。

 ルテドーナには図書館がありますが、シームにはございません。

 その代わりに、領主であるシームラウ家の蔵書を公開している施設があります」

 

「蔵書、ですか」

「ええ、数は図書館に及びませんが、ある程度は揃っていますね。

 ミツキ殿はすでにこちらに家を借りておられるそうですので、シーム騎士団の照会を受ければ入れるはずです」

 

 

 領民に財産の一部を利用させてくれるいい領主なのかもしれないが、手続きが面倒そうだなぁ。

 騎士団とか領主とかに関わらずに、静かに暮らしたい。

 

 

「図書館の方は、どのように利用するんでしょうか?」

「そちらは利用料と預託金を払って入館できる形ですね。

 汚損等がなければ、退館時に預託金が戻ってきますが、金貨が必要です」

 

 

 その辺りは原作と同じだな。

 預託金さえ用意できれば、利用者をいちいち確認しない図書館のほうがよさそうだ。

 

 

「記載されている言語は、ブラヒム語でしょうか?」

「おそらく大抵の本はブラヒム語でしょう。

 どの種族にも広く理解してもらうためには、それが一般的ですからね。

 専門的な本に関してはその限りでない場合もありますが……」

 

 

 まあどの言語で書かれていようが自分は読めないんだがな。

 アコルトかシャオクにお願いすることになるだろう。

 このへんで本題に入ってみるか。

 

 

「ちなみに森林保護官が経験を積んで、新たなジョブになれたとの話は聞いたことはありますか?」

「いえ、存じ上げません。

 森林保護官ギルドで確認されるのがよいかも知れませんが、ギルド員以外に秘匿の情報を出してもらえるかどうか……」

 

 

 下位ジョブの時点でいい知力補正なので上位ジョブも、と気になったがやはり簡単に情報は手に入らないか。

 鍛冶師ギルドの探索者ジョブレベルのように、それぞれのギルドである程度検証した情報は持っているはずだ。

 

 

「森林保護官ギルドはどこにあるんでしょうか」

「シーム領ですと、ノルテクィになりますね。

 ほとんどエルフ族しかいない村と言われています。

 その……、とても排他的な地域ですので、エルフであるミツキ殿以外は歓迎されないかと思われます」

 

 

 でたよ、エルフ村。

 行くとしたらアコルトたちを連れて行けず自分だけになるが、同じエルフでも文字も読めないよそ者の扱いが怖すぎる。

 エルフに多い美白でもないこの薄い褐色の肌も、難癖をつけられたらどうしよう。

 

 上位のジョブなら、結局は森林保護官をLv30とかLv50に上げてからの話だ。

 わざわざ目に見える地雷を今踏みに行くよりも、必要に迫られたらでいいだろう。

 それまでに別の情報源に繋がるかもしれないし。

 

 

「色々とありがとうございました。

 知らないことが多いもので、助かりました」

「私に答えられることでしたら、いつでもお聞きください。

 それでは、ご依頼のモンスターカードが入手できましたらご連絡致します」

 

 

 丁寧な礼をして、カルムが去っていく。

 こちらも用事を終えたので早々に商人ギルドから立ち去ることにした。

 

 考えをまとめるためにも、一度宿に戻ろう。

 教えてもらった服屋に行くのは、シャオクを拾ってからだ。

 商人ギルドから冒険者ギルドまで歩き、そこから商店街の絨毯へとワープする。

 そこから眠る人魚亭へと回れば近い。

 

 

 宿に着くがシャオクはまだ戻っていないようで、フロントの従業員から鍵を受け取る。

 部屋に入り、巾着袋の硬貨の大半をアイテムボックスに仕舞い、荷物を整理する。

 

 

「シャオが戻ってきたら、さっき聞いたシームかルテドーナの服屋に行ってみんなの服を買おう。

 普通の新品の方の服ね。

 カルメリガの高級店の方は値段も分からないし、オーダーメイドで時間もかかりそうだから時間がある時に1着ずつかな」

「ありがとうございます、お嬢様」 

 

 

 アコルトにも休むように伝え、ベッドに寝転がってジョブについて考える。

 

 森林保護官を取得できたのはなぜだろう。

 ディビレという謎植物を種から発芽、開花を経て種を収穫してもジョブは得られなかった。

 その後翌日に取得できていたのは、誤って発芽させた追加の種の影響だろうか。

 

 人間の色魔は、複数人との一晩の経験。

 ドワーフの鍛冶師は、探索者Lv10までに2体への攻撃。 

 

 エルフの森林保護官は、植物を2回発芽させることが条件だったのか?

 それだけだとだいぶ緩そうに思えるが、知らぬ間に他に満たしていた条件もあったのかな。

 取得できたならそれでいいか。

 

 おそらくジョブ取得数が条件になってくる遊び人のジョブを得るために、今後の予定を考えなくてはいけない。

 おおよその取得条件が分かっていて未取得の下位ジョブが農夫、盗賊、神官、錬金術師か。

 神官は女性だと巫女だったっけ。

 

 農夫も錬金術師も、新居を手に入れればすぐに試せるので取得にはそう困らないだろう。

 巫女は宗教的な修行、盗賊は犯罪、と少々難易度が高い。

 神官ギルドに赴いて修行内容を聞いてくるというのも手だろう。

 

 盗賊は、どうするかなぁ……。

 

 当初は店売りの商品を持ち出してジョブが取得できたら返却するとかの方法を考えていたが、実際に行動するとなると難しい。

 どこか遠い街にまで移動して、さっと試して行方をくらますのが無難だろうか。

 

 都合よくサンダルでも落ちていればいいのに。

 まだレベルを上げられるジョブはいくらでもあるから、アコルトたちに暇を出す上月10日の予定にでもするか。

 

 今後は薬草採取士と森林保護官を入れ替えてレベルを上げつつ、商人の派生ジョブを得られたら知力補正枠は森林保護官を主体にしよう。

 まずはLv30までレベルアップ可能な階層まで上らなくてはならない。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv23

魔法使いLv23/英雄Lv20/探索者Lv25/僧侶Lv22/商人Lv26/森林保護官Lv1

 キャラクター再設定    1 鑑定         1

 ワープ          1 詠唱省略       3

 6thジョブ       31 アクセサリ・三    7

 獲得経験値10倍    31 必要経験値1/10 31

 MP回復速度3倍     7 パーティー項目解放  1

 パーティライゼーション  1 知力         6

                     (残0/121pt)

 

 

 知力が足りてくればMP回復速度上昇に回したいな。

 そういえば白銀装備1本くらいなら買っても大丈夫だろうか。

 

 それか、これからの階層に向けてもう一人前衛を迎えるのもアリかもしれない。

 そのあたりもシャオクと相談かなと思ったあたりで、ちょうど彼女が戻ってきた。

 

 

「ミツキ様、戻りました!」

「おかえり、用事は終えられた?」

 

「はい、お墓の掃除をした後、ヤトロクおじさんの所と鍛冶師の知り合いの所に行ってみました。

 鍛冶の教本がないかと聞きに行ったんですが、おじいちゃんのものは預かってはいないそうでした。

 知り合いの方は、ボクが鍛冶師になれたら手伝えるとは言ってくれたんですが、ギルドの規約で鍛冶師以外には教本を譲ったり貸したりできないそうでした」

「そっか……。

 聞いてきてくれてありがとう。

 そっちもどうにか手を考えないといけないね」

 

 

 隻眼になれるのはいつになるのか分からないが、どこかで手を打たないといけないな。

 鍛冶師になれたと公表できる際に、鍛冶師ギルド未所属では示しがつかない。

 

 なにか頭に引っかかっている気がするが、思い出せないままにシャオクにも服を買いにいく予定を伝える。

 手荷物を準備して階段を降り、フロントへ鍵を預けた。

 

 周囲を確認して表の絨毯から冒険者ギルドへとワープした。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv23
魔法使いLv23/英雄Lv20/探索者Lv25/僧侶Lv22/商人Lv26/森林保護官Lv1
(村人5 戦士17 剣士9 薬草採取士18)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv17


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv13


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次回は11/16更新の予定です。

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