冒険者ギルドから商人ギルドへと向かい、さらに先にあるという服屋へと足を運ぶ。
教えられた通りの路地を曲がると、正面に店が見えた。
シャオクも古着より高価な衣服を買う必要がなかったようで、シームでも店の場所は知らなかったらしい。
並んでいる商品を眺めて店の中を回ってみたが、入口の方は自分たちが着ている古着に似た衣服の新品で、奥の方はもうすこし質がいいもののようだ。
掛けられている値札を読んでもらっても、だいたいそんな感じだ。
古着の100ナール台に比べ、新品は3倍からといったところか。
装備の下に着けるのにはこれくらいのものでいいだろう。
迷宮へ向かわない日にはもっと小綺麗な服がいいし、奥にある良品を身につけるとするか。
店員が近づいてきそうだったので、そっと2人を手招きして近くへ呼んだ。
「(気に入った服はあった?
一応、ルテドーナの方も見に行こうかと思うけど)」
「(お嬢様とシャオクさんに着て頂きたいものがいくつかございました)」
「(ボクは動きやすければ、どちらのお店のものでも構いません!)」
ブレないな、この子たちは。
迷宮や作業向けの服をシャオクに、普段着用をアコルトに選んでもらえばいいか。
とりあえずもう1店も見てみるとして、一旦店を出て路地の奥へと向かう。
周りに目がないことを確認して、ルテドーナの冒険者ギルドへと飛んだ。
カルムにもらった案内のメモをシャオクに見てもらいながら街を歩く。
こちらは冒険者ギルドから商人ギルドへ向かう途中の通りにあるらしい。
案内についていくと、シームより一回り大きい店へとたどり着いた。
やはり街の規模と主要な店舗の大きさは比例するのだろうか。
入ってみると商品棚の構成はだいたい同じように見て取れた。
入口側に廉価な商品があって、奥側に行くほど高価な品揃えだ。
店が広い分だけ、質と値段の幅もある。
近くに店員もいなさそうなので、2人にお願いする。
「さっきと比べてどう?
アコには普段着、シャオには迷宮で着るものを選んでもらおうかな。
向こうの商品で買いたいものがあったら戻れるから、ここで全部揃えなくてもいいよ」
「ボクがミツキ様のものも選ぶんですか?」
「うん、お願い。
迷宮での動きやすさとかも考えて、それぞれに上下2着ずつ決めてほしい。
決められないなら、後で自分が適当に選ぶよ。
サイズは……」
「大丈夫です!
いつも洗濯しているのでわかります!」
「それじゃアコも、みんなに2着ずつ選んでほしいな」
「かしこまりました。
お嬢様もご一緒に来て頂けますか?」
「うん、よろしくね」
こちらの都合で毎日連れ回しているのだから、今日はアコルトのお任せにしてみよう。
普段着を選ぶと伝えたので、店の奥側のコーナーへと連れて行かれる。
このあたりはそこそこ高めの服のようで、アコルトが持ってくるものは見目重視のスカートも多い。
これまでの古着は迷宮も兼用だったので、怪我や汚れを考慮して肌の露出が少なく、下半身は長ズボン一択だった。
スカート、履くのか……。
決して丈が短すぎるわけではないが、履いているものが膝下で捲れ上がる感覚には違和感しかない。
もはやスウェットのようなものでいいとは言えず、丸襟のブラウスや肩口が広めのトップス、ロングスカートを次々に体に当てられる。
ショートパンツはこのエルフボディだから許されているようなもので、元の体で履いたら目も当てられないぞ。
時折頷いたり首を傾げたりされながらしばらくマネキンを演じていると、どうやら選び終わったらしい。
自らの分はついでのようにパパッと選んだようだが、主人用のものと雰囲気を合わせているようだ。
自分が着ても身長的におしゃまな小娘に見える気がするが、もういいや。
そこで3人分の迷宮用の服を選んだシャオクと合流する。
どうやら次はシャオクが着せ替え人形になるらしい。
店員を呼んでシャオクの持っていた服と担いできたリュックを預かってもらい、今のうちに会計へと向かう。
シャオクの普段着用の上下を除いて、3割引を利かせても8000ナールを軽く超えていた。
いや、上下合わせて20着でこの金額なので高すぎるという訳ではないが、結構びっくりする。
3つのリュックに詰め込んでもらっていると、アコルトたちがやってきた。
シャオクの分の上下2着ずつを追加してもらうと、やはり金貨1枚を超えることとなった。
必要経費だ、仕方ない。
古着から入れ替えていけば、2着ずつではどうせ足りなくなるのでまた買うことになるだろう。
これで終わりかと思ったが、肌着のコーナーを見つけて考える。
この店の高そうな棚には、比較的滑らかな生地で作られた商品が揃っていた。
もう慣れてきた安物のゴワゴワの下着も、いいものに替えたい。
消耗品だし、これも買ってしまおう。
2人に確認して、それぞれに上下3着ずつ購入する。
こちらも結構高くついたが、その分着用の際の精神面のケアになるだろう。
QOLの向上だ。
さすがにこれ以上はいいだろうと、店を出たところでシームの商店街行きのワープしようとするとアコルトが口を開いた。
「お嬢様、どうか先程のシームの店でもあと1着ずつを……」
「……いいよ、早めにね」
「ありがとうございます!
すでに決めてありますのでお時間は頂きません!」
可愛い子におねだりされたならしょうがない。
店近くの路地裏にゲートを開き、慎重に辺りを確認してから移動した。
アコルトが買いたかったのはワンピースのようだ。
着やすいし楽だからと言うアコルトの勢いに押され、結局もう2着ずつの服が増えることになった。
路地裏からゲートを開き、宿の裏の商店街の絨毯へとワープする。
膨れ上がったリュックと、それにも入り切らない服を手に持ったままゲートを抜け、宿の正面から入って部屋へと戻った。
階段ですれ違ったミトラグが買い物の量に引いていたような気がするが、もう気にしない。
クローゼットを整理し、溢れて入り切らないもののために雑貨屋に大袋やリュックを買いに行ったりとを済ませていると、いつの間にか日も落ちてきていた。
鐘の音を聞いて食堂へ向かうと、またもや端の席に案内される。
選んだ通常メニューが届いた後、香ばしい匂いを漂わせていくつかの茶色い塊を小皿に乗せてミトラグと従業員がやってきた。
「ちょっといいかな?
オイルを譲ってもらったから以前教えてもらった料理を試してみたんだけど、食べてもらいたくて」
「構いませんよ。
頂いてみますね」
おそらく実際の商品にするために、あのとき作ったものより大きくカットした干物を使ったのだろう。
フォークに刺してみたが、衣の色がだいぶ濃い。
パン粉も粗くてボリュームがあるが、その分揚げるのに時間がかかっていてガリガリとした食感だ。
しっかり衣を付けるためかバッター液の粘度も高かったので火も通りにくく、具材が元々水分が少ない干物では揚げすぎでパサパサになってしまっているようだ。
「これでもおいしいですが、具材を付ける液はもっと水を足して緩くしたほうがいいですね。
パン粉ももっと細かく、粉くらいになってもいいかもしれません」
「そっか、やっぱりこのままだとちょっと食べづらいよね」
「オイルの温度も高すぎるようなので、熱くなりすぎたら一旦火から外すとよさそうです。
竈の火自体が強いので、熱くなりすぎていそうです」
「なるほど……」
「干物についたパン粉が薄ければ、それだけ早く揚げ……早く焼き終わるので、よく見つつですね。
肉の場合は火の通りが難しいので、いくつか多めに調理して、生焼けになっていないか切って確認したほうがよさそうです」
「ありがとう!
少しずつ試してみるから、また試食してもらっていいかな?」
「もちろんです!」
順調に宿のシェフ化が進んでいて嬉しい。
揚げ油の処理は面倒だし、人に作ってもらった料理はおいしいしな。
トンカツが早く食べたい。
思わぬ追加メニューで飲み物を追加で頼むことになったが、アコルトたちも満足そうだし問題ないだろう。
食事を終えて部屋へと戻り、頼んだ湯が届くまで一休みだ。
買ってきた服をベッドに広げて確認している2人を横目に、日程の確認だ。
明日は夏の上月7日だ。
10日には2人に休みを与えて自分は遠出してみよう。
それ以降にはカルムからモンスターカードの落札連絡が来そうで、13日頃からは家財の運び入れが始められるだろうか。
15日には家の引き渡しだ。
そんなに予定は詰まっていないが、基本的には迷宮探索となる。
カードの落札で思い出したが、未だにスロット付きのミサンガが出来ていないんだよな。
今夜の分をまだ試していなかったので、シャオクを呼んで防具製造をやってもらう。
アイテムボックスから糸を取り出し、そのまま製造の詠唱に移るのにも慣れたようだ。
いつものように手元が発光し、光が収まると撚られた糸の輪が出来上がっていた。
ミサンガ(○)
よし、スロットがある!
「シャオ、スロットが付いてるよ!」
「や、やりました!?」
驚いておかしな返答だったが、ミサンガのウインドウにはしっかりと空きスロットが記載されていた。
これでまずは1つ目だ。
少なくともあと2つ、予備も考えればいくらでもほしい。
素材の糸はあと6つだが、補充せずに出来たらいいなぁ。
ミサンガを掲げて喜ぶシャオクをよしよしと撫でていたところに、湯桶を持った従業員が入ってきて変な空気になりかけたが、桶を置いた彼は見なかったことにして小さく会釈をしてそのまま出ていった。
あと10日間近くここに滞在するんですけど……。
考えるのやめて鍵をかけ、体を拭く作業へと移った。
髪も洗って水気をとった後、下着を身につける。
買ってきた高いやつだ。
生地も縫製も何もかも違う、滑らかな素材のやつだ。
こちらは絹か何かで出来ているかまではしらないが、もうゴワゴワの安生地のそれには戻れない。
戻りたくもない。
2人も触感に感動しているようで、改めて礼を言ってきた。
本格的な暑い季節が来る前に新調できてよかったと心から思う。
清々しい気持ちに包まれたまま、3人ともすぐに寝入った。
***
身につけているもののおかげか、起床もすんなりだった。
快眠効果でもついているのではと思うくらいだ。
いつものルーティンで顔を洗って歯を磨き、植物に水をやろうとしてハッと気づく。
芽が伸びてきている……。
まぁこいつも今日までの命だ。
今日は迷宮に行くので容赦なく吸収されてくれたまえ。
声には出さず悪役にでもなったかのような笑みを浮かべていると、アコルトにずっと見られていたことに気づいたので、誤魔化すように着替えを始めた。
アコルトに髪をお願いすると、櫛で梳いた後に三つ編みのように2つに髪を分けて結い、くるっと輪を作るように根本を紐で止めてピンで固定される。
完成したようなので触れてみると、首の後ろの左右にドーナツくらいのリングが出来ていた。
ポムポムとずっと触っていると、崩れるのでほどほどにと言われてしまった。
なんか触り心地がいいのに。
そんな感情も昨日買った新品の服に袖を通すと心做しか気分も上を向き、新しい気持ちで階段を降りて朝食へ向かう。
昨日は追加で魚フライもどきが出たからか、シャオクもアコルトも今朝は肉料理を選んでいた。
自分は朝晩魚料理で、昼に肉の食事に満足している。
強いて言えば、甘味でもほしいところだがそういったものは売っているのだろうか。
部屋に戻って装備を身に着けた後、荷物を持ってフロントへ向かう。
鍵を預けるついでにそういう店があるかを従業員に聞いてみると、近くのパン屋に甘いパンが置いているそうだ。
現代の菓子パンを期待すると間違いなくあるわけがないので、下方修正した期待で行ってみることにした。
店の場所だけはシャオクが把握しているらしい。
朝食の時間の後に向かったので、目的の店はそこまで混んでいるようではなかった。
焼き立てのパンの香りに包まれた店内を彷徨きつつ、店員に甘い商品を聞いてみる。
案内された先には、棒状の物体が籠に刺さって並んでいた。
人気商品らしく、大きな籠の割に数本しか残っていない。
とりあえず1人に1本ずつ買ってみる。
親指くらいの太さで30cmほどのそれをかじってみると、なるほど、チュロスみたいな食感だ。
白み掛かっているのは粉糖のようなものが振られているようで、味は薄いが一応甘くはある。
揚げられてはいないので、焼きチュロスとでも言うべきそれは生地自体は甘みはない。
テーマパークや映画館で売られていた現代の物を知っていると、物足りなさがすごい。
1本10ナールという価格と、パン屋で主食のついでに買える甘味というお手軽さで人気なのだろう。
これだけでは2人には足りなそうなので、隣りにあった果実店で桃に似たフルーツを買って食べることにした。
ナイフで切り分けてもらい、一切れだけもらって食べる。
ほとんど変わらないくらいの値段なら、こちらのほうが甘いしおいしいだろう。
でも皮を剥く必要があったり、果汁で手が汚れたりするか……。
食べながら隅の方へと移動し、目立たない所でウォーターウォールを発動してナイフと手を洗う。
自分たちにとっては手間にもならないので、好きな時に好きなものを買おうと思いながら手拭いで水分を落としつつ、商店街の絨毯へと移動した。
一度、宿の部屋へとゲートをつなぎ、植木鉢と種を回収する。
今度は部屋から迷宮の8階層小部屋へと向かう。
小部屋を見回し、邪魔になりそうにない壁際に鉢の中身と種を捨て、三度開いたゲートに手を突っ込んで空になった植木鉢を宿へと戻した。
これで一安心だ。
迷宮の養分になってくれるだろう。
割引に振っていたボーナスポイントを経験値関係へと回して調整し、ロッドを取り出して探索を開始した。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv23
魔法使いLv23/英雄Lv20/探索者Lv25/僧侶Lv22/商人Lv26/森林保護官Lv1
(村人5 戦士17 剣士9 薬草採取士18)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv17
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv13
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次回は11/19更新の予定です。
白銀、聖銀の扱いを混同していた箇所がありましたので既投稿分の方も含めて修正しました。
(「039」にて白銀があるとを知る一文に変更他、各話の聖銀の箇所を修正)
語句と文章の一部を変更しただけですので、ストーリー上は変わっていません。
今後、とくにここ何話分かの間までで文脈がおかしい箇所がありましたら、ご報告いただけるとありがたいです。
魔法の効果を高めるとされている。
ダマスカス鋼より上位の素材。
白銀よりもさらに上位の素材。