異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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061 手当て

 8階層の途中の小部屋からのスタートになる。

 2人には、設定するジョブを切り替えたので慣れておらず、魔法の手数が増えるかも知れないと伝えた。

 薬草採取士Lv18の知力小上昇よりも、森林保護官Lv1の知力中上昇の方がまだ効果が低そうだ。

 

 ジョブごとのレベルや効果について、説明したほうがいいのか迷う。

 『その階層での戦闘に慣れてきたから』や『戦闘経験が熟練して威力が高まった』等の現在のふんわりとした認識のままでは、いつか通せなくなるだろう。

 

 1つ説明すると、付随して獲得経験値についてや自分の異様な成長スピードなどの説明が必要になってくる。

 各々の持ち得る情報が多くなればなるほど、その管理は難しくなるので踏み出しづらい。

 今はまだと先送りにしてしまうが、どこかで真剣に考えなければいけない。

 

 

 アコルトに索敵をお願いすると、すぐ近くにコボルトの群れがいるらしいとのことだった。

 案内された方へと進むにつれて、やはり軽い足音が騒がしくなっていく。

 

 

コボルト Lv8

コボルト Lv8

コボルト Lv8

 

 

 視認で鑑定が発動できる距離まで近づいたところで、ウォーターストームを発動した。

 突然現れて身を包む水の塊に驚いたコボルトが藻掻き、効果時間が終わると一斉にこちらへと向かってくる。

 

 すかさず2発目を念じ、駆け寄られる前にダメージを与える。

 先程と同様に藻掻く間に、こちらは少しずつ後ろへと下がって距離を取った。

 

 短い手足のコボルトが握ったナイフがこちらへと到達する前に、3回目の水魔法が命中してその身を煙へと変える。

 火力が下がっても、弱点なので3発分で仕留められるようだ。

 

 この調子で楽なコボルトで森林保護官のレベルを早めに上げておきたい。

 

 

「アコ、なるべくコボルトだけの群れを探してもらうのってできるかな?

 ミノが混じっていても、少ないなら構わないんだけど」

「かしこまりました。

 音の種類をお伝えするようにします」

 

「ありがとう。

 なるべくでいいから、お願いね」

 

 

 複数の音を聞き分けてもらっているだけでも十分助かっているのだ。

 ひとつ下の階層の魔物に全く出会さないのは無理な話なので、ミノがいるならいるで事前に分かればありがたい。

 

 今の戦闘で森林保護官と商人のレベルが上がっていた。

 商人は7階層の連戦を経てもLv26のままだったので、レベル上限(仮)から上がったという感じか。

 

 

 次の群れもコボルトのみの群れだったので同様に仕留め、さらにアコルトに探ってもらう。

 

 

「お嬢様。

 近い魔物はコボルトが複数に、ミノがおそらく1体の群れだと思われます。

 他の通路の先はミノが複数混じっていそうですが、いかが致しましょう?」

「うーん。

 1体なら火力の確認も兼ねて行ってみようか。

 シャオ、ミノを倒すのに5発必要かもしれないけどお願いできる?」

 

「はい、問題ありません!」

 

 

 盾を掲げて自信あり気に応えてくれたので、任せてみよう。

 

 シャオクの盾の陰に入るように進み、通路の奥に鑑定を放つ。

 

 

コボルト Lv8

コボルト Lv8

ミノ Lv8

コボルト Lv8

 

 

 索敵通りのミノ1体の群れだ。

 

 2人と視線を交わし、ウォーターストームを放ってから盾の後ろへと移動する。

 ミノが助走を開始しようとするが、足元で藻掻くコボルトが邪魔で動き出せないようだ。

 

 体を左右に振ってコボルトを蹴散らそうとしたところで、2度目の水魔法が発動する。

 進路にふらふらと入り込むコボルトを無視することに決めたようで、ミノがそのまま動き出した。

 

 轢かれたコボルトに目もくれず、こちらだけをみて一直線に駆けてくるミノを見据えて、盾を持つシャオクの手が強く握られる。

 衝突の直前にシャオクの前にウォーターウォールを発動する。

 突然現れた水の壁に激突してミノのスピードが落ちたように見えたところで、シャオクが盾で突進を受け止めた。

 

 効果時間中はそこに留まろうとする水流が、シャオクに止められてその上に身を置いたミノへと継続ダメージを与える。

 全体魔法のような短時間の攻撃ではないので、これにはミノも嫌がってその体を捩った。

 アコルトも鞭で牽制しつつ、ミノの注意を分散させてくれている。

 

 やがて水の壁が効力を失って迷宮の床と高さを同じにした時、体を震わせたミノがツノを振り回し始める。

 鋼鉄の盾でシャオクが防ぎ切るその後ろで、今度はウォーターストームを念じた。

 

 よたよたと近寄ってきていたコボルトごと水泡がミノを包むが、コボルトは煙となって消えたものの茶色の牛は健在だった。

 いや、動きは鈍ってきているか。

 

 壁魔法も混ざったが、やはり4発では仕留められてはいない。

 それでもシャオクたちは焦る様子もなく、ミノの攻撃を止められている。

 

 クールタイムが終わって5回目の水魔法を発動した時、ついにミノも煙へと変わった。

 アコルトたちの顔色も見るに、この程度の戦闘時間の延長なら問題なさそうか。

 

 ドロップアイテムを回収し、2人に手応えを確認するも大丈夫そうだ。

 この調子でこなしていけば、森林保護官のジョブ効果の補正値も上がっていくだろう。

 

 

 その後もコボルト中心の群れを優先しつつ、8階層の探索を進めていく。

 動きの遅いスローラビットにも5発の魔法が必要だったが、ミノと比べると脅威度は圧倒的に低かった。

 

 コボルトが鬱陶しいからか、7階層とは違ってこの階層にはほとんど他のパーティーはいないようだ。

 アコルトからパーティーの存在だけは聞いてはいるので、こちらがミノが多めの群れを避けているからミノ目的のグループにかち合わないというだけかもしれない。

 

 なんにせよ、頻繁にルート変更を行う必要がなくて前の階層よりは楽だ。

 その分、戦闘に集中できる。

 

 

 コボルトソルトが1列半ほどアイテムボックスを埋める頃、魔法使いのレベルが上がった。

 森林保護官も今日には2桁目に入りそうだ。

 階層を上がると基礎経験値も同時に上がっているのだろう。

 

 新たなコボルトの群れが見つかったので戦闘を開始して、3発の全体魔法でまとめて屠る。

 ドロップアイテムを拾いに歩いたところで呼び止められる。

 

 

「お嬢様、まだです」

「えっ?」

 

 

 通路の角から、スローラビットが足を引きずって出てきた。

 あ、さっきの群れの仲間か。

 

 念の為、ウォーターストームを念じて攻撃すると、そのまま煙となってウサギの皮を残して消えてしまった。

 あれ?

 

 

「今のって4発目の魔法だよね?」

「はい、4回目の発動です」

 

 

 間違いではなかったらしい。

 よく見ればメインジョブの魔法使いだけでなく、僧侶や商人もレベルが上っていた。

 知力のステータス補正が4発討伐の値まで届いたのか。

 

 ん?

 商人も上がっている?

 

 8階層に来てすぐにレベルが上がって、先程もまた上がったのであれば、この階層だけで2つ上昇したということになる。

 レベル上限(仮)説が崩れたのか、それとも8階層ではLv28までであって、1階層でLv1ずつ上限が上がるという考え方が違っていたのかは分からない。

 

 まぁ派生が現れるLv30まで上げられるのが、11階層の想定から10階層になったかもしれないというのは好都合だ。

 あまり不明なことまで勘定せず、上がったらラッキーくらいに考えておくか。

 

 

「どうかされましたか?」

「え、いや……。

 4回で倒せたけど、まだ魔法の威力にブレがあるかもしれないから、5回必要な想定で動いてもらえるとうれしい」

 

「かしこまりました、そのように」

 

 

 もう少しで昼食の時間帯だと声がかかったので、移動可能な小部屋を探し始める。

 その過程で何グループかとの戦闘を行ったが、魔法4発での討伐が続いている。

 

 もともとは薬草採取士Lv18の小上昇で足りていたのだ。

 レベルアップ分でどうやら賄えているらしい。

 

 2つ目、3つ目と小部屋を通過していくが、ダンジョンウォークの移動先には指定できない。

 どうやらこちらの運は向いていないようだ。

 昼の鐘の時間も過ぎているかもしれない。

 

 

「他のパーティーも休憩しているかもしれませんし、今回も人の声のする方へ向かってみるのもいいかもしれないですね」

 

 

 シャオクの言葉に、なるほどと思いつつアコルトに探るようにお願いした。

 

 索敵の邪魔になる3体のミノを葬り、続くコボルトとスローラビットの群れも退治した。

 二手に分かれた通路の奥から魔物以外の声がするとアコルトが言ってくる。

 どの道ダンジョンウォークのできる小部屋を見つけなくはいけないし、とりあえず行ってみよう。

 

 近づいてみると叫んでいるような声が聞こえる。

 名前、だろうか。

 

 小部屋に近づいた足音で、声の主は一旦黙ったようだ。

 部屋の奥に倒れているように見える男女2人と、その隣に寄り添ってこちらを警戒するように見つめる女が1人。

 

 その場で鑑定をすると、戦士、僧侶、探索者と表示される。

 いずれも人間で平均Lv8といったところだ。

 

 鑑定できるので生きてはいるようだが、動かないので呼びかけていたのか。

 話すような口調でなく、サリニク語で叫んでいたので魔物以外の言葉だとアコルトが伝えてきたようだ。

 

 パッと見だが戦士の男は腹部から出血、突っ伏した僧侶の女には外傷は見られない。

 男がなにかで怪我、女が気絶、探索者の女がここまで引きずってきたってところか。

 僧侶はMPでも切れたのかもしれないな。

 

 この部屋は……ダンジョンウォークが使えるようだ。

 関わるのは面倒事になりそうだが、見捨てたらそれはそれで夢見が悪そうだ。

 

 

「(シャオ、僧侶の手当ての呪文は言える?)」

「(え、はい。

 何度も聞いたことがあるので言葉だけなら分かりますが、……他のパーティーにはあまり関わらない方が)」

 

 

 シャオクも察したようで、忠告が入る。

 移動の度に、アコルトが()()をしてくれているのを見ているからな。

 

 

「(昼食後に、またここから始めるときにまだ居たら気まずいじゃん……。

 今回はしょうがないから、お願い)」

「(わかりました)」

 

 

 シャオクのカトラスは腰に戻し、自分はロッドをアコルトに預けてパーティーへと近づく。

 寄ってこられたのに気づいた探索者の女が、こちらを睨むようにして威嚇する。

 

 

「何よ!

 近づいてこないで!」

 

 

 その目には涙を溜めている。

 当然の反応か。

 

 

「治療は必要ですか?」

「は!?

 いや、お願い!

 助けて!」

 

「シャオ、よろしく」

「わかりました」

 

 

 困惑している女をよそに、シャオクが伏した男に向けて詠唱を開始する。

 

 

「心安らまば平癒(へいゆ)()、心和まば治癒の糧、(ささ)げを集め(あやまち)癒せ、手当て」

 

 

 シャオクのスキル名の読み上げに合わせて、男に手当てを放つ。

 傷口が塞がりかけたくらいで治癒が止まったので、そのままもう1度発動すると完全に塞がったように見えた。

 ミノのツノに抉られたのだろうその腹も、血に染まった服だけに穴が空いたままで、今は傷の跡さえない。

 

 

「あ、ありが、ありがとう!」

「一応、お二人にもかけておきますね」

 

 

 続けて僧侶と探索者の女にも手当てを施す。

 それぞれにシャオクの詠唱をしてもらって、僧侶のフリはできただろう。

 男の息遣いが落ち着いてきたので、大丈夫だろう。

 

 

「強壮丸は持っていますか?」

「……!

 いくらでも差し上げます!」

 

 

 女が慌ててアイテムボックスを開き、滋養丸と間違えながらもこちらへと差し出してきた。

 薬はあっても、意識のない2人に飲ませられなかったのだろう。

 

 

「いえ。

 いらないのでそちらの女性が起きたらすぐ飲ませてあげてください」

「あの、必ずお礼を……」

 

「いりません。

 ……行こう」

「かしこまりました」

 

「えっ、そんな!」

「んんっ……」

 

 

 アコルトが壁に向かってダンジョンウォークの呪文を唱え始めたとき、突っ伏していた僧侶が目を覚ましたようだ。 

 探索者の女はこちらに追いすがるような目をして逡巡した後、言いつけ通りに薬を飲ませることを優先したらしい。

 

 詠唱の完了に合わせてゲートを開き、冒険者ギルドへとワープした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 シームの冒険者ギルドの外壁に繋がったゲートから抜け出した。

 アコルトとシャオクが出てきたのを確認して、黒塗りの壁を解除する。

 

 

「ふぅ……」

「お疲れさまでした、お嬢様」

 

 

 ありがとう、と差し出された手拭いを受け取って、額にかいていた嫌な汗を拭う。

 食事のために商人ギルド方面へと足を向け、歩き出す。

 

 

「ミツキ様、その、よかったんですか?」

「うん、まあ、関わらないほうがいいとは分かってたつもりなんだけど、実際に目にしたらね。

 今後会わなければいいんだけど……」

 

「しばらくは迷宮で会うことはないと思いますし、街で気をつけていれば大丈夫じゃないでしょうか。

 少なくとも8階層から上には来ないでしょうし」

「……なんで分かるの?」

 

「あの女の人が2人の戦闘不能者を抱えて移動しつつ、追撃してくるミノを撃退できると思えません。

 片手剣は腰に付けていましたが、周囲に他の盾すらありませんでした。

 おそらく本来のパーティーには前衛がもう一人いたんだと思います」

「逃がすための囮になった……ってこと?」

 

「自らなったのか見捨てられたのかは分かりませんが、残りの2人が復帰しても戦力が足りないので、すぐには同じ階層には戻ってこないでしょう」

 

 

 シャオクがシビアすぎると思ったが、何年も迷宮に潜って様々なパーティーを経験しているのを思い出した。

 そういう境遇の者を何度か見ていても不思議ではない。

 

 迷宮とは、そういう場所なのだ。

 誰もがワープやオーバーホエルミングで窮地を逃れられるわけではない。

 

 自分だって不用意に怪我をしたくはないし、2人も失いたくはない。

 レベル的な余裕はだいぶあるが、階層を上がる時は慎重に進めよう。

 

 

 ある程度客のいる、飲食店へと入った。

 昼の鐘が鳴ってすぐのピークは過ぎたあたりだろうか。

 

 おすすめの料理を適当に注文し、2人には追加で頼んでもらう。

 

 迷宮探索を安全に、安全にとぐるぐると考えが巡り、食べていてもあんまり味がしない。

 2人はおいしそうな表情だったので、たぶん美味しかったのだろう。

 あれほど食事のことばかり考えていた自分が嘘のようだ。

 

 うーん、あの探索者たちのパーティーが確実に撤退するように、もう少し長めに昼休憩を取ろうか。

 装備について相談してみよう。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv24
魔法使いLv24/英雄Lv20/探索者Lv25/僧侶Lv23/商人Lv28/森林保護官Lv7
(村人5 戦士17 剣士9 薬草採取士18)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv18


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv14


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次回は11/22更新の予定です。

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