異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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062 相談

 食事を終えて、相談したいと2人に告げ、宿へと移動する。

 一度商店街へとワープしてから眠る人魚亭へと回り込む道順にも慣れてきた。

 

 鍵を受け取って部屋に戻り、各々のベッドに腰掛ける。

 

 

「9階層以降に進むのに、何か必要かな?

 とりあえずニートアントやスパイスパイダーの毒への対策は必要かなって思っているんだけど」

「スキル装備ですか。

 なかなか集めるのは大変……いえ、成功するんでしたね」

 

「うん、全員分のスキルカードを仲買人に依頼しようと思ってる。

 融合元の装備って、シャオの鉄装備を鋼鉄製に替えればよさそうかな?」

「そうですね……。

 竜革装備の上は鋼鉄になるので、ミツキ様とアコルトさんが装備できる重さを考えると変更はしなくていいでしょう。

 それより上はダマスカス鋼や、白銀や聖銀と名のつく装備になるので1部位でも高額ですし、なにより数が出回っていません」

 

 

 それも考えてある程度装備を揃えていたのだ。

 余裕があるなら、魔法の威力を上げるといういずれかの銀製のロッドとかワンドとかほしいが、予算の問題もある。

 

 

「付けるスキルについてはどう?」

「低階層は毒だけ見ておけば問題ないです。

 12階層以降だとビッチバタフライやロートルトロール、クラムシェルなどの魔物やそのボスが麻痺を与えてくるので、前衛だけでも対策をしておくというのが定石とされています」

 

「なるほどね」

「あのっ、もちろん、ミツキ様の装備を優先したほうが!」

 

「いや、敵に一番近いのはシャオだから、耐性装備はシャオから固めていくよ。

 前衛の仲間自体も増やしたほうがいいよね……」

「……ありがとうございます。

 まだだいぶ先になりますが16階層からは魔物の群れが5体まで出るようになるので、どんなに遅くともそこまでには、ですね。

 ボクだけでは攻撃を受けきれません」

 

 

 そうだよな。

 今はアコルトが牽制してくれているとはいえ、正面から魔物を受け持つ者がもう1人は必要だ。

 仮に前衛2人でも、人数以上の敵を相手にするわけだから、3人いてもいいくらいだ。

 

 

「そうなると、仲間を増やすのも考えなきゃだけど、アコの鞭にもスキルを付けたいな。

 麻痺と石化、あとは詠唱中断で魔物のスキルを防いでもらうのがよさそう」

「み、3つもですか!?」

 

「うん、アコの竜革の鞭はスキルスロットが3つあるんだ。

 おそらく同時に3つのスキルが付けられるはずだよ」

「それが全部成功したら……、するんでしたね」

 

「今揃えてる装備はだいたい複数スロットがついているから、毒と麻痺の耐性をいれても1部位で収まりそうなんだ。

 モンスターカードをどれだけ集められるかになってるね」

 

 

 3人に2種の状態異常耐性、鞭に3種のスキル、身代わりのミサンガを3つと後は自分の武器に知力2倍を付けたい。

 身代わり以外はコボルトも必要だから、えーっと全部で22枚か。

 カルクの自動計算が捗る。

 

 すでに頼んでいる5枚の依頼料を除いて、追加の依頼料が8500ナール。

 カード代は各5000ナールだとして、22枚で11万ナールか。

 値段に上下があるので、高く見積もってカード関連で合わせて14万ナールは見ておいたほうがいいだろう。

 

 全て成功するといっても、投資費用だけでもかなりの額だ。

 3人の装備だけでこれなら、追加の奴隷を迎えるのは難しいな。

 

 麻痺耐性防具は後回しにするとしても、毒の蟻とコボルトのカードはすぐにでも欲しい。

 ルテドーナに飛んでカルムに追加依頼してくるか。

 

 必要なカードと枚数をパピルスにメモを取ってもらい、もう1枚こちらは自分用にもメモを書いた。

 数字は時間がある時にアコルトに教えてもらっているがまだ間違えるし、文字の方は読めない。

 

 そもそもが口頭では自動翻訳で伝わってくるので、音と文字の結びつきが皆無なのだ。

 単語で区切られても、その言葉自体が丸ごと変換されているはずなので、同音異義語や同じものに複数の名詞や言い回しのある日本語に絡められたらもう無理だ。

 

 スズシロミツキというブラヒム語でのサインの綴りも、形で覚えるしかないので難航している。

 

 

 まあ今はそれはいい。

 金策を考えなくてはいけないな。

 

 

「高額報酬の依頼ってどうやったら受けられるかなぁ」

「通常の依頼ですと各ギルドに貼り出されたり、召集をかけられたりはありますが、高額ともなると実績がないと話自体が回ってこないです」

 

「あー。

 じゃあ無理か」

 

 

 ギルド、所属してないもんな。

 自分にとってはジョブ変更の制限でもついたら困るので、所属する気もないが。

 

 なにやら気付いた様子で、アコルトが珍しく苦い顔をしながらこちらを見つめている。

 

 

「アコ、なにか思いついた?」

「その……、商館におりますと様々な能力を求めての依頼がくるところを見ておりました。

 冒険者のジョブの者だったり、魔法使いだったりと、単なる身請けではなく一仕事の契約を求める場合も多いのです。

 館主と懇意であれば、お嬢様が身内の者にやらせるという形で請け負い、複数の依頼を完遂できるのではと考えました。

 お嬢様に大きくご負担がかかるので、あまり勧められるものではありませんが……」

 

 

 下請け、みたいなものか。

 顧客からの依頼の代行は、さすがによほどの信頼関係やガチガチの契約がなければ受けられないだろう。

 それに今のところ一番世話になっているクラザのナルディロとだって、そこまでの親交はない。

 

 

「その手もなくはないけど、引き受けさせてくれるほどの関係の相手もいないしなぁ」

「商館からの依頼と言えば、決闘の代理人というのもありますね」

 

「代理人?」

「奴隷について調べた際にあったのですが、戦闘奴隷の派遣先として決闘で実際に戦う者のことです。

 名を揚げていれば高額の依頼料が手に入りますし、待遇も良くなります。

 奴隷でないミツキ様でしたら、値を吊り上げる交渉も直接できるでしょうし」

 

 

 それはあえて言わなかったのに、みたいな表情をしたアコルトがシャオクを見つめている。

 戦うとなれば、自分に死の危険があるからか。

 

 作中にも決闘の描写はあったが、非公開での決闘という内容で、内々の喧嘩みたいな感じだったな。

 

 

「そこまで自分は強くないし、まず認めてもらえるような実力を最初に披露する場がないから無理じゃないかなぁ」

「披露する場は……そうかもしれないですが、あの高速移動も、魔法の威力も詠唱がないことも、手当ての効果も、全てが熟練者の域だと思います……」

 

 

 それはまぁレベルの暴力とパラレルジョブで盛っているからで……って手当ての効果?

 補正が上がると効果も上がるのか?

 

 

「手当てってベテランの僧侶だと効果が大きいの?」

「そう言われています。

 なりたての者も、迷宮に入るようになって数年程度の者もそこまで変わることはありませんが、もっと深い階層に潜るような熟練の者の手当てだと効きが違うそうです。

 少なくとも、ボクがパーティーを組んだことのある僧侶では、2回程度であれだけの傷は癒せません」

 

 

 高レベルで効果が変わるとなると、ステータスが鍵になっている気がする。

 僧侶のジョブ効果は精神小上昇にMP微上昇。

 精神ステータスが回復量にプラスの影響を与えているのだろうか。

 

 ゲーム的に考えれば、魔法攻撃力が知力依存だとして、魔法防御力や回復力が精神依存になるのかな?

 手当ての効果は固定値回復かと思っていたが、精神ステータスで回復力にボーナスが入っている可能性がある。

 

 固定値回復+精神の値に応じて加算、みたいな感じだとそれっぽいか。

 他に精神ステータスの影響がありそうなスキルを考えたが……知っているものだと神官の全体手当てくらいしか思いつかない。

 

 他のスキルでも消費MPが減るとか効果時間が延びるとか、もしかしたら他に効果もあるのかもしれないが、体感に頼るしかないので判断しづらい。

 そもそも使用MPの値が不明なので、変動があったとしても消費MPが減っているのか、所持MPの最大値が上がっているのかも分からないしな。

 

 よく分からなかった森林保護官の二重の精神補正も、役割を果たしていそうか。

 ……結局ジョブ単体ではあんまり意味がなさそうだが。

 

 

「まぁ、まだ決闘の代理人にはならないよ。

 少なくとも確信が持てるくらい強くならないとね」

 

 

 遊び人を取得しての魔法2連発や、博徒の状態異常耐性ダウンと魔道士の雷魔法による麻痺の組み合わせなど、自分だけの優位点を磨かないと戦闘の専門家には太刀打ちできないだろう。

 仮に現時点で意気揚々と挑んで、オーバーホエルミングだけを頼りにして対応されてしまいましたでは、そこで死んでしまう。

 

 ただ、決闘代理人って響きはかっこいいな。

 名刺に書かれた肩書が、決闘代理人だったらかっこよくないか!?

 まあ名刺なんてものはたぶんこの世界にはないんだが。

 

 結局新たな金策は見つからず、ドロップ品を売るか、魔結晶の魔力を貯めて売るか、スキル装備をカルムに捌いてもらうかになりそうだ。

 追加のモンスターカードの依頼をしなければいけないので、会いに行った際に売れ筋の装備を聞いておくか。

 

 

「あのパーティーはそろそろ迷宮を出たかな?」

「もう一人の女の人が動けるようになったら、二人がかりで男の人を抱えて出られると思います。

 ボクたちが移動したときにやっと目を覚ましたくらいだったので、念の為もう少し時間を空けたほうがよさそうです」

 

 

 時間潰しにカルムへの追加依頼にでも、ルテドーナへと行ってこようか。

 ついでにシャオクが作ってくれた装備も売却してしまおう。

 

 クローゼットに仕舞っていた装備を、自分とシャオクのアイテムボックスへと入れていく。

 ダガーや付け替えた鉄の小手も含めれれば、10種類もあって結構な荷物だ。

 ただでさえ、このクローゼットには仕舞いきれないほどに服を置いてしまっているのに……。

 

 先程フロントで確認した際には、本日の清掃は終えているそうだ。

 内側から鍵をかけ、部屋の中からルテドーナの商店街への絨毯へとワープする。

 

 人目を気にしなくていいのは楽だ。

 今後もこの手順で移動してしまおうかな。

 

 

 度々世話になっている武器防具店へと入り、買い取り用のカウンターへと向かう。

 シャオクがアイテムボックスから装備を取り出すのに紛れさせて、自分のボックスからも装備を積んでいく。

 

 置いてきたサンダル以外の装備の山を店員に預けつつ、ボーナスポイントを3割増へと振っておく。

 

 

「全部で2270ナールってところですが、これだけの種類の皮装備を一度に引き取れるのは助かりますので、特別に2951ナールでどうでしょうか?」

「そちらの価格でお願いします」

 

 

 鉄装備を引いた素材自体の買い取りよりも300ナールくらいは上がっているので、安い皮装備といえども侮れない。

 シャオクのおかげのようなセリフに、鍛冶をした本人も嬉しそうだ。

 

 鍛冶師として役立てているという認識も大事だろう。

 よく言った、店員。

 

 

 店を出たところで道の脇に寄り、2人に向き直る。

 

 

「早く済んじゃったから、商人ギルドに行って仲買人に追加のカードの注文をしてこようと思ってる。

 ちょっと行ってくるだけだから2人は……。

 ……神官ギルドを探してみてくれる?」

「あっ、場所だけはボクが分かります」

 

「そっか、ちょうどよかった!

 可能であれば、希望者が神官のジョブになるための方法とか、修行の内容を聞いてきてもらえると助かる」

「神官ギルドに所属するんですか?」

 

「いや、()()だけ聞いておきたいと思ってね」

「なるほど、かしこまりました。

 聞いてまいりますね」

 

 

 無理はしなくていいと伝え、またこの店の前で待ち合わせることにして2人と別れた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 商人ギルドへ着くと受付に向かい、また呼び出してもらおうと思ったところで思い留まった。

 一昨日に初めて顔を合わせて、昨日はシームでの取引。

 今日はルテドーナでと、毎日顔を合わせることになる。

 

 初日に頼んだカードの依頼も、別件の横入りで呼び出してばかりでは予定通りに集められないかもしれない。

 

 オークション会場の方へと足を進めてみる。

 2日前に案内を受けた時と同じ受付だったので、確認してみようか。

 

 

「すみません、カルム殿は会場におられますか?」

「ええと、お答えするにはインテリジェンスカードを確認させていただいても構いませんか?」

 

 

 おっと、チェックが先らしい。

 応対の商人の横に控えていた旅亭へと腕を掲げると、呪文を唱えられてカードの記載内容を確認された。

 

 

「ミツキ・スズシロ……様、ジョブは……魔法使い。

 はい、カルム様からの言伝がございます。

 本日は会場内におりますので急用の場合は中で伺う、とのことです。

 入場理由に関わらず、参加料は退場時にいただきますのでご注意ください」

 

 

 依頼品が数多く出品される場合は、ギルドに言伝を頼む仲買人もいるそうだ。

 出品順が当日に決まる以上、どうしても長時間拘束されるからそうなるのも頷ける。

 カルムがオークションにつめるほどなら、参加料の免除も兼ねて自分が落札したい商品もいくつかあるだろう。

 

 受付を通って、競売会場内へと進む。 

 

 会場を見渡してみると、中段よりやや後ろの端の方にカルムがいるのを見つけた。

 壁際の通路を通ってその近くへと向かうと、気づいたようで会釈をして隣の席へと促された。

 

 

「昨日はありがとうございました。

 本日はいかがされましたか?」

「こちらこそありがとうございます。

 その、資金も出来たので追加のモンスターカードをお願いしようと……、こちらです」

 

 

 アコルトにメモを取ってもらったパピルスを渡す。

 優先度の高いものから並べているが、コボルトなんて9枚も必要だ。

 

 

「これはまた……大量ですね。

 基本的にコボルトとセットで必要、ということでしょうか」

「そうですね、揃えてもらえるとありがたいです。

 優先度の高いものから挙げていますので、潅木や珊瑚は後回しで構いません」

 

「そうしますと……。

 現時点で芋虫が2つと蟻を1つ確保しております。

 (本日コボルトの出品がこれからある予定でしたが、3枚セットでしたので見送ろうと思っていたところでしたので、こちらも落札に回れるかもしれません)」

「(コボルトについては今後も大量にお願いすることになるので、相場程度でしたら依頼外に数枚確保して頂いても、追加で買い取らせていただきます)」

 

 

 周りは競争相手になるわけだし、未定の事項については小声にもなるか。

 コボルトのモンスターカードについては、HP吸収や属性耐性にまで手を出し始めたらいくつ必要になるかわからないので、多めに持っていてもいいだろう。

 

 

「かしこまりました。

 ……おっと、続いてはちょうど蟻のモンスターカードのようですね。

 いかがでしょう、ご自分で落札されてみますか?」

「そうですね、参加料免除のためにも入札してみます」

 

「(本日すでに1枚の出品がありまして、そちらは私が4600ナールで落札しております。

 おおよそ相場通りですので、同様の入札額になると思われます。

 ご不安でしたら助言致しますが)」

 

 

 せっかくなのでカルムにアドバイスを受けて入札してみることにした。

 

 開始額は3000ナールからのようだ。

 モンスターカードのようにだいたい相場の決まっているものについては、相場の7割程度から開始することも多いそうだ。

 

 カルムが言うには、4700か4800ナールになるだろうという話だ。

 すでに終わった1回目の蟻のカードの出品では、どうしても欲しがっているような者は他にいなかったので、それ以上吊り上がらないはずだと耳打ちされる。

 

 競売が開始されると、指示のとおりに他の者が入札したらすぐに100ナールの上乗せを行い始める。

 競っているのは自分を入れて3人だったが、入札が進んできたら競争相手は1人になった。

 

 カルムからの助言を受けて、()()()1度目の落札額と同じ4600ナールを相手に取らせた。

 直後に4700ナールの入札を行い、先程までのようにいくらでも値上がりするような錯覚をさせる。

 1つ目と同じ4600ナールから、さらに200ナールの上乗せという入札への躊躇を生み出せれば、珍しい商品でもないので諦めるだろうということだ。

 

 言った通りの流れで実際に4700ナールで落札できたので、やはり専門家の意見は聞いておくべきだな。

 オークションにとっては基礎知識なのかもしれないが、頼れるものは頼っておこう。

 






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv24
魔法使いLv24/英雄Lv20/探索者Lv25/僧侶Lv23/商人Lv28/森林保護官Lv7
(村人5 戦士17 剣士9 薬草採取士18)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv18


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv14


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次回は11/25更新の予定です。

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