異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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063 神官

 この後もカルムは何点か狙う品があるとのことだったので、自分は落札したカードの受け取りに向かって別れることにした。

 先払いの依頼料として、とりあえず金貨を1枚渡しておく。

 

 どうせ落札済みの依頼のモンスターカードの支払いもあるので、ちゃんとした精算は後日改めてすることになった。

 

 

 係員に道順を聞くと落札対応の個室へと案内される。

 中にいた防具商人の男性が、担当者らしい。

 

 

「この度はご落札おめでとうございます。

 こちらがお客様の落札された、蟻のモンスターカードにございます。

 落札額は……4700ナールになりますね。

 お支払いの後に商品をお渡しする決まりとなっております」

 

 

 あれ、ボーナスポイントを振っているのに割引がされない。

 巾着袋を出すのに手間取っているフリをしつつ考える。

 

 そういえば原作では、競売奴隷に対して補填だかなんだかで計算が入って割引が利いたんじゃなかったっけ……。

 正規料金でもいいっちゃいいが、割引が利かせられるならそれに越したことはない。

 

 

「いかがされましたか?

 こちらは商品紹介でも述べておりましたように、鑑定済みの蟻のモンスターカードでございますが」

 

 

 鑑定……それだ!

 

 

「えっと、念の為もう一度鑑定をお願いできますか?」

「さようですか。

 鑑定料として100ナールの追加料金を頂きますが、本当によろしいのでしょうか」

 

 

 よろしいのです。

 追加料金、それが欲しかった。

 

 

「ええ、お願いします」

 

 

 一旦商品を持って防具商人が退出し、間をおいて戻ってきた。

 

 

「やはり、蟻のモンスターカードで間違いありません。

 こちらは本日の落札日時と鑑定内容のメモとなります。

 当ギルドの印も押してありますので、証明としてお使いください」

 

 

 机の上にカードとメモを並べ、男性が咳払いをした。

 

 

「それでは落札代金と鑑定料を合わせまして4800ナールのところ、お客様との出会いに感謝いたしまして特別に3360ナールとさせていただきましょう」

 

 

 さっき若干面倒くさそうに鑑定に持っていってたし、絶対感謝してないだろう。

 こっちは感謝しているぞ、割引に。

 

 

「ありがとうございます。

 ではこちらを」

 

 

 銀貨と銅貨をジャラジャラと並べて、担当者の確認が終わるとカードとメモを受け取った。

 

 

「これでお取引は完了となります。

 またのご利用をお待ちしております」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 オークション会場を後にし、アコルトたちとの待ち合わせの商店街へと向かった。

 依頼だけのつもりが競売に参加してしまったし、2人は待っているかもしれない。

 

 パーティーメンバーのいるだいたいの方角が認識できるので、目的の店が近づくにつれて明確に分かるようになる。

 

 

「ごめん、待たせたね」

「おかえりなさいませ、お嬢様。

 神官について聞いてまいりましたので、そのご説明をと思います」

 

 

 そう言って店の前に掲げられた絨毯の前に立ったアコルトが、フィールドウォークの呪文を唱え上げる。

 あ、移動ですね。

 ワープゲートを宿の部屋へと繋げ、3人共くぐり抜ける。

 

 カチューシャや帽子を外して、それぞれの場所に座って向かい合った。

 

 

「まず自分の方からだけど、仲買人に追加のカードは注文してきたよ。

 流れでオークションの落札もしてみることになったけど、時間だったり駆け引きだったりが面倒そうだから、基本的には任せようと思う」

 

 

 蟻のモンスターカードを見せて、戦利品だと伝えた。

 

 依頼するより安上がりになるといっても、手間や時間が持っていかれるのが一番困るな。

 だからこそ仲買人なんて仕事が一般化しているんだろう。

 

 

「私たちの方ですが、神官ギルドに所属する際の内容を聞いてくることができました。

 ギルドの管理する祠の前で、祈りの修行をするそうです」

「祠?」

 

「洞窟の奥に建てられた、神様を祀る場所だそうです。

 ギルドと無関係の者は、立ち入りが禁じられているとのことでした。

 神官のジョブが得られるまで何日も通って、祈り続けるという内容だそうです。

 1年以上続けてもジョブに恵まれないという方もざらに居り、同じ癒し手である僧侶のジョブへと転向される方も多いようです」

 

 

 作中では神官ジョブの条件に滝行が挙げられていたが、やはり精神統一の類なのだろう。

 ジョブが得られるまで祈るっていうのは、かなり曖昧だな。

 

 村人Lv5を達成していなければ前提にすらひっかからないので、魔物を素手で倒すことが条件の僧侶へと目標変更するのも分かる。

 それなら経験値も得られるし、条件を満たしやすいしな。

 

 

「また、すでに僧侶である者が神官へと転職することも多いそうです。

 同じように祠での祈りをするほか、ギルド所属の変更の際に、すでに転職の資格を得ていることもあるとの話でした」

「修行をしないままに転職できたってこと?」

 

「はい。

 どれも迷宮に普段から入る者であったり、救護の仕事で献身的な者であったりと、僧侶としてある程度人を癒やす経験を積んでいたからだろうと言っておりました」

「ギルド員じゃないのに、結構詳しく教えてくれたんだね」

 

「その……。

 アコルトさんが()()()をされていたので……」

 

 

 あー、そういうこと。

 

 

「お嬢様の為になると思いましたので、以前頂いた中から使わせていただきました。

 シャオクさんも合わせて出してくださったので、気を良くした神官様が色々と教えてくださいました」

「うん、ありがとう。

 補填するから使った額を教えてね」

 

 

 とんだ生臭神官もいたものだ。

 だが、おかげでジョブ取得の糸口が見えてきた。

 

 ギルド管理という祠での修行は部外者には難しいだろう。

 ジョブが得られたかの確認をされて、条件を満たしていればそのままギルド所属にさせられかねない。

 

 さっきの神官に金を握らせるのもアリかもしれないが、それ以外の者にバレた時にギルドを敵に回すのはマズい。

 家も隣街だしな。

 

 となれば僧侶からのルートを考察してみるか。

 おそらく村人Lv5と滝行や祈りでの精神的な修行でジョブを取得できる他に、回復スキルに関する別条件もあるのだろう。

 使用回数だったり、他には……なにがあるだろう。

 

 宿にいるんだし、手当ての空打ちでもしてみよう。

 僧侶の手当ては詠唱が完了すると即時発動で、クールタイムがほぼない。

 つまり、ボーナスポイントで詠唱省略を取得しておけば、思い浮かべた分だけ連続で発動する。

 

 

「ちょっと考え事するから、好きにしてていいよ」

 

 

 荷物の整理や装備の確認をしている2人をぼんやりと眺めながら、それぞれに何度か手当てを発動した。

 最初の1回ずつは効果あったかも知れないが、それ以降は最大HPを超えて無駄になるだろう。

 

 交互に視認しながら手当てを使うが、繰り返しの視線移動に目が疲れてきたのでアコルトだけ見て発動して続ける。

 ジョブ一覧を確認するも、そこに巫女の文字はない。

 

 うーん、だめか。

 回数だけが条件なら、救護担当の僧侶全員が神官になれてしまうか。

 他の条件があるのだろう。

 

 アコルトから聞いた言葉を思い出しながら、手当てを思い浮かべつつ思案する。

 

 迷宮……つまり戦闘をしていたり、負傷者の多いところでの救護……。

 回数じゃなくて実際の回復量か?

 

 しかし村人のレベルが条件にもなる下位ジョブで、そこまで厳しい回数や回復量を求められるだろうか。

 そんなことを考えながら、手当て手当て手当てと頭の中でこだまさせる。

 

 あまりにも見つめ続けていたからか、アコルトと目が合って首を傾げられる。

 笑って誤魔化していたら、ニコッと微笑まれたので思わずクラッときた。

 ドキドキを取り繕うようにさらに手当てを連打する。

 

 

「……ッ!」

 

 

 MPのことを忘れていた。

 後先考えずになんてスキルを連続使用したら枯渇して当たり前じゃないか。

 さっきのはアコルトの魅力に目眩がしたのではなく、大量消費による精神急落だ。

 

 ぐるっと視界が暗転して意識が途絶えた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ──────

 

 …………。

 

 ……ん。

 

 

「うぅん……」

「お目覚めですか、お嬢様。

 失礼しますね」

 

 

 ベッドに寝かされている自分の頭がアコルトの太ももに挟まれていることに気づいたのは、頭を固定されて口に手を突っ込まれてからだった。

 

 

「うぐごっ!?」

 

 

 ……ゴクン。

 細い指を押し込まれ、2粒ほど何か飲まされた。

 

 

「ゲホッ……ゲホッ……。

 アコ……なに……?」

「お水はこちらです。

 MPの欠乏かもしれないとのことでしたので、強壮丸と滋養丸を飲んでいただきました」

 

 

 涙目になりながらも体を起こして水筒を受け取り、水分を摂って頭を落ち着かせる。

 

 確かに危ない時は無理矢理にでも飲ませろと以前言ったけども。

 気恥ずかしくて、口移しでやれなんて言っていないからな……。

 

 回復薬は体内に入った段階で効力を発揮する、ゲーム的な謎システムだ。

 喉さえ越えてしまえば、飲み込んだと判定されて効果が適用されるらしい。

 薬を吐き出させないため、負傷者への対応としては正しいんだろう。

 

 正しいけどさぁ。

 もっとこう、なんか……いや、自分が悪い。

 

 

「ありがとう、手当てのスキルを使い続けてたら気絶したみたい」

「お体の具合はいかがですか?」

 

「うん、もう大丈夫。

 アコのおかげだね」

「よかった……。

 いえ、それはなによりです。

 何か試される場合は、事前に伝えていただけるとありがたいです」

 

「ごめんね、今後はちゃんと相談する」

 

 

 平静を保っていたように見えたアコルトの眼には、涙が滲んでいた。

 ほんの少し前まで会話していた主人が、突然意識をなくしたのは怖かっただろう。

 固唾を呑んで見守っていたシャオクも、丸薬を出してくれたりと協力してくれたはずだ。

 

 改めて2人に礼をして、アイテムや資金を補填する。

 

 2種の回復薬はそれぞれ10粒ずつになるように渡しておく。

 

 お布施に使ったのは200ナールずつだったようだ。

 たしかに400ナールも懐に入れば、口は軽くなるか。

 修行場自体はギルド管理なので教えたところで入れないし。

 

 使用した分に追加でもう1000ナールほど渡しておく。

 いざというときのための小遣いだ。

 

 シャオクのアイテムボックスでの管理になるので、それ以上は空きボックスのやりくりが大変そうだ。

 鍛冶師のアイテムボックスも10列から増やしてほしい。

 

 気絶自体は30分ほどだったらしく、今は15時前くらいだろうか。

 さすがにあのパーティーも脱出しただろうということで、冒険者ギルドに寄ってドロップ品を売った後に迷宮へ戻ってみることにした。

 

 

 準備を整え、部屋の壁からシームの冒険者ギルドへとワープする。

 皮もしばらくは鍛冶に使わなそうだということで、ボス素材の革だけ残してブランチと一緒に売ってしまうことにした。

 

 先に大体の売却物の個数を伝えると、今回は通常の買取受付でいいそうだ。

 数が多いといっても大半は小さいコボルトソルトだしな。

 

 それでも会計を終えてみると、3割増で1500ナールを超えていた。

 皮が1列近くあったからだろう。

 

 売却が終わったので、ボーナスポイントを経験値効率へと振り直す。

 設定中のジョブのレベルを確認していると、選択可能なジョブが1つ増えていることに気づいた。

 

 

巫女

 効果  MP小上昇 知力微上昇

 スキル 全体手当て

 

 

 巫女あるじゃん。

 なんで!?

 

 僧侶の手当ての回数自体は増えたと思うが、回復量はほとんどなかったはずだ。

 

 やはり使用回数なのか?

 それとも気絶するまで使い続けたことがよかったのか?

 MPが1割をきるまで手当てを使用するとか。

 

 何にせよ、調子に乗って連続発動しなければ得られなかった可能性が高い。

 基本的にMPが減りすぎないように強壮丸を飲んでいるし、回復速度もボーナスポイントで上げている。

 自分が手当てのスキルでMP不足になるには、今回のような過剰な行動を取らない限り無理だっただろう。

 

 あんな行動でプラスになるとは……。

 いや、2人の涙や信頼も考えるとマイナスか……?

 

 自戒すべきことはして、ジョブを得られたことについては喜ぼう。

 仮に仲間にも神官や巫女のジョブを取得させるなら、その時はもうすこし安全な方法を考えたほうが良さそうだ。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv24

魔法使いLv24/英雄Lv20/探索者Lv25/僧侶Lv23/商人Lv28/森林保護官Lv7

 キャラクター再設定    1 鑑定         1

 ワープ          1 詠唱省略       3

 6thジョブ       31 アクセサリ・三    7

 獲得経験値10倍    31 必要経験値1/10 31

 MP回復速度3倍     7 パーティー項目解放  1

 パーティライゼーション  1 知力         8

                     (残0/122pt)

 

 

 僧侶のジョブ効果は精神小上昇とMP微上昇だ。

 巫女はMP小上昇と知力微上昇なので、入れ替えても補正効果としての魔法火力を落とすことなくMPも強化できる。

 

 ゲーム的に考えれば単純なジョブ効果以外の、レベルに付随した基礎ステータスとかもありそうだから一概には言えないが、追いついてくれば火力アップは間違いないだろう。

 それもこれも、Lv30まで上げられる階層についてからの話になりそうだが。

 

 ジョブの切り替えはまだしないことにして、冒険者ギルドの絨毯から、昼頃に退散した8階層のあの小部屋へとワープした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 なるべく部屋の端を思い浮かべていたので、あのパーティーがいた場所の対角側に出てくることができた。

 慎重に足を踏み入れたが幸い撤退した後だったようで、どうやら再会せずに済んだようだ。

 

 ここから9階層を目指して探索していこう。

 

 ミノがいてもいいが、なるべくコボルト優先での索敵をしてもらって通路を進む。

 もともと出現する半分はコボルトなので、行き止まり以外では引き返さずに手当たり次第になっている気もするが。

 

 昼前と戦闘方法は変わらず、コボルトは3発、他は4発の魔法で魔物を仕留められている。

 遠くから1発目、接近までに2発目、シャオクが攻撃を防ぎつつ残りの攻撃だ。

 

 コボルトソルトが1列を埋めようかという頃、空きボックスが1つ増えた。

 探索者のレベルが上ったらしい。

 

 やはり半数の魔物が1手少なく倒せると、一気に負担が軽くなる。

 

 

「シャオ、シームの9階層の魔物は?」

「スパイスパイダーですね。

 クラザの迷宮ではミツキ様がすぐに倒していましたが、こちらでも大丈夫でしょう。

 毒にする攻撃は当たっても確実に毒状態になるわけではないですし、盾での防御に徹すれば問題なさそうです」

 

「10階層は?」

「エスケープゴートです。

 体力が減ってくると逃げ出しますが、逃走されてもミツキ様の全体魔法の効果範囲なら追撃できると思います」

 

 

 簡単そうに聞こえるが、それだけになにかありそうで怖いな。

 

 

「そうすると、11階層が残ったニートアントね」

「その通りです。

 こちらもクラザの迷宮で使われていたように水魔法が弱点なので、ミツキ様の攻撃の間だけ凌げれば大丈夫でしょう」

 

 

 ……なんかシャオクの魔法信仰が強くなってないか?

 ジョブ効果やボーナスアクセサリで盛ってはいるけど、そんなに火力が高いのだろうか。

 

 一般的な魔法使いLv24の火力を見てみたいが、その時自分がどんな扱いを受けるのか想像がつかない。

 火力で差が出すぎていたらなにか言われそうだ。

 しかも魔法使いって大抵は貴族なのだろうし。

 

 

 雑談を交えつつ夕食の時間まで探索を進めたが待機部屋まではたどり着けず、ダンジョンウォークの可能な適当な小部屋を見つけてそこを区切りとした。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv24
魔法使いLv24/英雄Lv20/探索者Lv26/僧侶Lv23/商人Lv28/森林保護官Lv9
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 薬草採取士18)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv18


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv14


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次回は11/28更新の予定です。

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