「探索者のジョブで、というのはどういうことでしょうか?」
「えーっとね……、そうだ。
鍛冶師のジョブに就いている者がいると、パーティーの力が強化されるって言われてるんだっけ」
「あっ、はい。
ジョブごとに何らかの効果をパーティーに与えていると言われていて、鍛冶師はそれが力の強さだろうという説が有力です。
えっと、もしかして」
「うん、ウチは魔法での攻撃がメインだから、迷宮にいる間は別のジョブの方が戦いやすいかもと思ってさ。
シャオが長年やっていた探索者で、同じ魔物で1回様子見してみようかなって」
「なるほど……。
迷宮の中で使う鍛冶師のスキルは、アイテムボックスくらいですもんね」
納得してくれたところでアイテムボックスの中身を預かり、シャオクのジョブを探索者へと変更する。
ボス部屋の出口から9階層へ抜けた後、ワープゲートを開いて待機部屋の物陰へと繋いだ。
アコルトの事前の探知通り、待っているパーティーや部屋に近づく者はいないようだ。
シャオクには落ち着いてもらって、なるべく先程と同じように戦ってもらうことにする。
再びボス部屋へと入り、コボルトケンプファーと対峙する。
盾で誘って持ち手を狙う流れは変わらず、リプレイのように転倒させてからの追撃だった。
シャオクの手応えは若干違ったようで、倒すまでの手数は鍛冶師のときよりも増えていた。
やはりジョブ効果の腕力補正の有無の影響だろう。
それでもデュランダルを片手で振るえるのはドワーフ故か。
「お疲れ様。
やっぱり攻撃力に差が出たみたいだね」
「なるべく同じような斬り方にしたつもりですが、実際にやってみるとジョブの違いが分かりますね。
……それにしてもすごい剣ですねこれは。
なんの抵抗もないように刃が通りますし、威力が桁違いすぎます」
デュランダルの武器自体の攻撃力も高そうだし、それを5倍にする強化スキル。
ドワーフの種族補正による力と、英雄と剣士の腕力上昇のジョブ効果。
鍛冶師の効果補正を除いても、相当な火力のはずだ。
まあそれは今回は置いておく。
「剣や盾の取り回しや、受けたときの衝撃はどうだった?」
「コボルトケンプファーよりも武器自体の重さによるものでしたが、逸らしたときの衝撃は多少違いが分かる程度でした。
装備についても、動かしやすいとはっきり分かる程度ではなかったです」
元々、探索者Lv10の時点で、大盾を借りていたとはいえ15階層までの敵の攻撃を防げていたそうなのだ。
パーティーの物理攻撃面を考えなければ、鍛冶師のジョブでなくとも迷宮に潜るのは問題なさそうな気がする。
鍛冶についても、作中ではハイコボルトなる上位モンスターカードの融合に隻眼のジョブが必要そうだっただけで、ダマスカス鋼あたりまでの装備へは鍛冶師でもスキル付与等の対応はできていた。
もちろんジョブのレベルは上げていく必要はあると思うが、それはスムーズにレベル上げをできるような状態になってからでもよさそうである。
とりあえずは相談か。
変更や相談ばかりな気もするが、必要なものは必要だ。
「だいたい分かった、ありがとう。
今後の方針についてちょっと相談しようと思うから、ちょっと昼食には早いけど宿に戻ろう」
「わかりました!」
9階層へは一度上がっているのでボス部屋の中から宿に向かおうと伝えたところで、アコルトに止められた。
いつもより早い時間なので、部屋の清掃が入っていたらマズい。
改めて商店街の絨毯へのゲートを開き、そのままくぐり抜けた。
***
想定もせずに出てきてしまったが、雨はもう止んでいたようだ。
やはり雲が流れるのが速いらしい。
今までも、迷宮にいる間に降って止んでを済ませていたのかもしれない。
眠る人魚亭へと入るとフロントにいたミトラグにまだ清掃中かも知れないと言われたが、階段を上がる際に掃除を終えた従業員とすれ違って挨拶を受けた。
ちょうどよかったし、さっきは危なかったな。
換気されて雨上がりの澄んだ空気に満たされた部屋に入り、各々の装備を外す。
「さっきの続きだけど、迷宮でのジョブは鍛冶師以外でもいいんじゃないかって思うんだよね。
パーティーメンバーの力が強くなっても魔法主体なら変わらないだろうし、アイテムボックスも10列だとちょっと物足りないかと思ってさ」
知力補正のあるジョブなら自分の魔法火力にも寄与するが、魔法使いはボーナススキル以外では赤ん坊の頃に自爆玉を使うという取得方法しか知らない。
それも貴族で伝手のある者しかなれないのだろう。
薬草採取士は知力小上昇だけで他の補正がないし、商人のカルクの自動計算も戦闘に不要だ。
自分も未取得である、錬金術師にも知力補正があった気がする。
メッキとかいう軽減スキルは有用そうだが、前衛では1回毎にきれるスキルを唱えているのは難しそうだ。
シャオクが前衛をはずれて遊撃の位置に立てば、前衛のもしもをカバーできるのは強みになりそうではある。
しかしそのためには、少なくとももう2人は前衛が増えていなければならない。
うーん、難しい。
自分の火力の強化に繋がらなくとも鍛冶師のままで、上の階層の魔物の攻撃に備えて味方の腕力強化というのは無難でもあったか。
「3人パーティーならボクが盾で前に出ることになるので、戦士や剣士の攻撃スキルは攻められる隙ができそうです。
もう1人魔物を受け持つメンバーが増えるならよさそうですが……」
「分担を考えると、今はジョブ内容よりも人数が必要そうかぁ」
そうすると今度は資金の問題がでてくる。
いや、メンバーを増やすならどのみち考えなくてはならなかったのだ。
「資金のためには魔物を倒してドロップ品を売っていくしかないよね。
モンスターカードの依頼もしちゃったし、地道に貯めないとなぁ」
「お嬢様、依頼を一時止めてもらうことは可能なのでしょうか?」
「え?」
「昨日の弱点属性のお話の際に、カルメリガの迷宮では毒も麻痺も与えてくる魔物が少ない階層があるとシャオクさんが話されていたはずです」
「あー、そうですね!
13階層ならサラセニアとフライトラップが出てきますが、どちらも体当たりの際に毒にしてくることがあるというくらいです。
消化液を飛ばしたり、水魔法をつかってくることが多いので、体当たりを盾で受けられずに直接受けることはほとんどありません。
あとはミノやスローラビットなので他の状態異常の心配はないでしょう」
空き時間にアコルトがよくシャオクに話を聞いているとは思ったが、迷宮について教わっていたらしい。
知識も増えれば視点も増えるように、弱点による戦いやすさだけでなく耐性面も考えてくれたようだ。
「依頼はどうだろ……。
競り落としてないなら止めてもらえるかもしれない。
この後すぐ商人ギルドに行ってみるよ」
毎日のようにカルムに会いにいっている気がするが、周りから変な目で見られないか心配だ。
向こうにとってもいい迷惑かも知れないが。
すでに落札してある依頼品の精算も考慮して、アイテムボックスから巾着袋に硬貨を移す。
ジョブを知られているとこれが面倒くさいが仕方あるまい。
「とりあえず今から行ってくるけど、昼までには帰ってくるよ。
鐘が鳴っても全然戻らなかったら、2人で食事に出てていいからね」
1時間はあるだろうと言われたので、多分戻れる、多分。
***
ルテドーナの冒険者ギルドへとワープする。
さすがに単身で商人ギルドに出るヘマはしない。
急ぎ足で商人ギルドへ向かい、受付でカルムを呼び出してもらう。
どうやら商談に出ていたりはしないようだ。
通された商談室で待っていると、ノックの音が響きカルムが名乗った。
「お待たせしてすみません。
本日はいかがされましたか?」
「連日のようにすみません。
依頼の内容についてちょっと……」
想定していた通り、未入手のものについては一旦取り下げてもらうことができた。
すでに落札した分と、金貨で渡した依頼料の精算をしてもらうことになる。
「昨日のあの後に落札した分もございまして……」
そう言ってカルムがテーブルにモンスターカードを並べていく。
芋虫が2つと蟻が1つまでは聞いていたが、そこに追加でコボルトの3枚セットに、山羊と潅木が1枚ずつだ。
どれも相場前後で競り落としているので、やはりカルムは優秀なのだろう。
「もともと5枚のご依頼で、8枚の落札でしたので追加の依頼料については1500ナール。
カードの落札代金は合計3万8000ナールですが、先日1万ナールをお預かりしておりますので、合わせて2万9500ナールになります」
「それでしたら、芋虫のカードはやはりもう1枚追加でお願いしたいので、金貨3枚でも大丈夫ですか?」
「ええ、構いません。
こちらは落札次第、伝令が必要でしょうか?」
「いえ、カルム殿がシームに来られた際の連絡で構いません。
またすぐご厄介になりそうな気もしますし……」
巾着袋から代金を取り出して渡し、落札されたカードを受け取る。
付箋のようにパピルスが付けられているのは種類の名称だろうか。
「それぞれカードの名前を付けておりますので、ご確認ください。
ご不安でしたらギルド神殿にて確認も行いますがいかがしましょうか」
「ありがとうございます、このままで大丈夫です」
どうせ鑑定でいつでも確認可能なのだが、カルムは信頼してくれたと認識したようだ。
いいように取ってもらえるのは助かる。
「他にご用がないようでしたらここまでとさせていただきますが、何かございますか?」
「はい、だいじょう……。
あ、そうだ。
オークションで高値になる装備ってどういったものですか?」
「……。
ご存知とは思いますが、そういった商品を狙っての鍛冶依頼はおすすめいたしませんよ……。
いくら鍛冶師との信頼関係があろうと、いずれ身を滅ぼす結果になります」
渋い顔をして苦言を呈されたが、まあ言いたいことは分かる。
濁すか……。
「あ、ええと、こちらが落札するときのつもりで……」
「そういうことでしたか。
魔法使い用の装備でしたり、製造素材が希少なものだったり、使い手が限られていて生産数が少ないものですと出回る数が少ないので高額になることが多いです。
特に魔法使いはジョブに就ける者のほとんどが貴族になりますので、魔法を強めるとされる聖銀素材のスキル装備ですと、非常に高額になりますね。
ミツキ殿が魔法使いとして欲しいとされる装備は、どれも高額になってしまうかと思われます」
「なるほど……。
あとは……大盾って出品されることはありますか?」
「見ないというわけではありませんが、数ヶ月に1度あるかといった程度でしょうか。
竜人族かドワーフにしか持ち上げられませんし、製造素材も大量に使うらしく、それなら同様の素材の通常の盾の方が大きく需要もあるので、作られること自体が少ないようです。
そういった装備はなかなか手放すことはないでしょうしね」
超絶回避タンクが望めない以上、大盾持ちの前衛がほしいと思ったが、こちらは装備の調達が難しそうだ。
「もし出品される場合は目玉商品として告知されるんでしょうか?」
「そうなりますね。
よほど緊急でない限りは告知されるでしょう。
ご所望でしたら、告知がされた際に伝令をいたしましょうか?」
「ぜひお願いします!
……ちなみに落札額ってどのくらいかわかりますか?」
「少々お待ち下さい。
…………ありました。
鋼鉄の大盾で19万4000ナールとなっておりますね。
その前は20万1000ナールだったようです。
どちらもスキルはついていないものですね」
メモを見つつカルムが答えたが、かなりの高額だ。
そこまでするなら自分たちで作るか?
いや、素材を買い集めて作ったところでスロットなしじゃ作り直しだし、そもそもレシピが分からない。
高額と分かっていても出回らないということは、その数ヶ月に1個というのが需要と噛み合うギリギリの供給であったり、製造自体が割に合わないのかもしれない。
あるいは鍛冶師ギルド側で何らかの制限が付けられているのだろうか。
そのあたりを無視して製造スロットガチャをしても、資金が回収できるかも怪しい。
パーティーメンバーが増えてもシャオクが大盾担当で続けられるかもわからないし、その時の人員と商品で考えることにしよう。
「ありがとうございました。
依頼のモンスターカードと大盾の件、よろしくお願いします」
「こちらこそご利用ありがとうございます。
また何かありましたら、いつでもお呼びつけください」
カルムに礼をして、商人ギルドを後にする。
鐘はまだ鳴っていないので、冒険者ギルドの利用者に紛れて宿の内壁へとゲートを開いた。
「ただいま~」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
びっくりはしたが叫び声は飲み込んだ様子のシャオクと目が合う。
ごめんごめん、と跳ねた髪をくしゃっと撫でてやるとほわっとした顔になり、アコルトも頭を寄せてきたので反対の手で撫でてやる。
なんだこの愛い子たちは。
「依頼の方は、とりあえず止められたよ。
落札してた分のカードは受け取ってきたから、カード融合をお願いしようかな」
「わかりました!」
「それとジョブの方だけど、しばらくは鍛冶師のままで迷宮に潜ろう。
13階層に上がるなら、探索者よりは力の強くなる鍛冶師のほうが何かと安心だしね」
Lv8のミノの突進を止めていた状況から、ジョブを替えたことで腕力が下がった状態でLv13の魔物の攻撃を受けるのはマズい気がした。
前者を軽々止めていたからといって楽観視はよくないだろう。
「あ、そうだついでにミサンガも作ってみてほしいな」
アイテムボックスから糸を取り出し、シャオクに預けると慣れた手つきで詠唱を始める。
一瞬強くなった光が収まると、その手の内に輪になった糸が残った。
ミサンガ(○)
よし!
「スロット付きだね!」
シャオクの顔が綻び、必要なスロット付きミサンガは残り1つだと伝える。
「受け取ってきたモンスターカードの中に、芋虫のカードが2枚あるからそれも融合しちゃおう」
「わかりました!」
自分はアクセサリ枠を知力2倍の指輪で埋めているので、身代わりのミサンガは当面2人に装備してもらおうか。
山羊とコボルトのカードはあるので今のロッドに知力補正を付けてもいいが、武器だけでも白銀製にするか迷っている段階だ。
3枚目の芋虫のカードが手に入ったら考えるか。
以前作ってもらったミサンガと、モンスターカードを手渡す。
受け取ったシャオクが一揃いずつ並べ、モンスターカード融合の呪文を唱えていく。
続け様に2つの身代わりのミサンガができたところで、強壮丸を渡して飲んでもらった。
「自分は知力強化のために指輪を付けているから、それは2人が装備してね。
何かあってもこれで一安心かな」
「そんな!
ミツキ様から装備するべきでは!」
「シャオクさん……やはりこのように判断されることになりましたね。
相談した通り、ご報告しましょう」
「はい……」
「え、なになに?」
「その……、どうしていいものかと思ったのですが、こちらです」
そう言ってシャオクは手荷物から1つのミサンガを取り出した。
先程作ったものとは違う、若干ほつれたり汚れた感じに見える。
「お供えした時の、身代わりのミサンガです。
一昨日お墓の掃除に行った際に、傷んだ花を片付ける時に捨てるのも申し訳ないととっておいたんです。
ミツキ様に許可をもらってせっかくいただいて、さらに汚れてしまったものを返すのも失礼かと思って……」
ああそうか。
記念品として持っておくという手もあったが、自分用の装備と手元とでミサンガが2つあるのに、主人がつけていないとなるとさすがに気にしてしまったか。
もともとシャオクのモノと思っていたし、この程度の未報告くらいで咎める必要もない。
身代わりのミサンガ(身代わり)
鑑定しても、装備としての性能は損なわれていないようだ。
「じゃあ、そっちをシャオが装備しておく?
初めての成功品が役に立っている方が、お爺さんも鍛冶師として嬉しいんじゃないかな。
頼んでいる分のモンスターカードは、予備に回せるし」
「よ、よろしいんですか!?」
「うん、大丈夫だよ。
一応消耗品になるから、使えるものは使っていこう」
「ありがとうございます!」
相談を受けていたであろうアコルトがうんうんと頷いて様子を見ていた。
出来立ての方を1つだけ返してもらい、2人がそれぞれ邪魔にならない足首にミサンガをつけるのを眺めつつ、今日の昼食はどうしようか考え始めた。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv24
魔法使いLv24/英雄Lv21/探索者Lv26/僧侶Lv23/商人Lv28/剣士Lv9
(村人5 戦士17 巫女1 薬草採取士18 森林保護官11)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv19
アクセサリ未装備 → 身代わりのミサンガ(身代わり)
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv14
アクセサリ未装備 → 身代わりのミサンガ(身代わり)※お下がり
作成分余り
・身代わりのミサンガ(ミツキ用)
所持モンスターカード
・芋虫 2→0
・コボルト 3
・蟻 2
・潅木 1
・山羊 1
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次回は12/4更新の予定です。