異世界迷宮と斉奏を   作:或香

66 / 187
066 肉

 状態異常を考えなくて済むなら、2枚ある蟻のモンスターカードはまだ使わなくてもいいだろう。

 潅木のカードは、コボルトとともにアコルトの鞭に付与するのがよさそうか。

 

 結果として身代わりのミサンガが3人分揃ってしまったわけだが、山羊のカードの融合先はまだ今のロッドには決められない。

 

 資金としてはこの前の槍のおかげで30万ナール以上あるが、生活雑貨の購入や新たな戦力も視野にいれると、おいそれと白銀装備に手を出せそうにない。

 カルメリガの13階層での戦闘やドロップの状況を見て、何に使うかを決めたほうがいいか。

 

 そうだ。

 ルテドーナで食事を済ませつつ、武器屋を見てきたらいいんじゃないか?

 実際の値段やスロット具合を確認すれば、目安も決められるかもしれない。

 

 

「シャオ、アコの鞭にコボルトと潅木のモンスターカードを融合してほしい。

 それが終わったら、今日はルテドーナにお昼を食べに行こう」

「は、はい!」

 

 

 巻き留めてある竜革の鞭をアコルトが机の上に置き、その横にカードを並べる。

 2枚のモンスターカードを重ねるように持ったシャオクが、鞭に向けてスキルを唱えた。

 

 

「今ぞ来ませる御心(みこころ)の、言祝(ことほ)(かげ)天地(あめつち)の、モンスターカード融合!」

 

 

 眩しく光を放って、カードが姿を消した。

 惰眠の鋼鉄槍と同じく、強化スキルの合成は少し強めに光るらしい。

 

 

強縮の竜革鞭(麻痺添加 ○ ○)

 

 

 名称が変わり、スロットにスキルが納まった。

 これを使えば、アコルトの狩人のジョブの真価が発揮されるはずだ。

 

 

「うん、ちゃんと成功しているよ。

 装備して魔物に当てれば麻痺させることができるはずだから、アコは今後無理しない範囲で積極的に攻撃を当ててほしい」

「かしこまりました。

 威力よりも当てた回数を重視する、とのことでしょうか」

 

「そうですね!

 状態異常のスキル武器は当たった数だけ判定されるそうなので、敵に触れることが重要らしいです」

 

 

 狩人のスキルの状態異常確率アップは小ということなので期待し過ぎはよくないかも知れないが、そこは手数でカバーだ。

 

 続けてスキルを使ってもらったが、カード融合は防具製造ほどMP消費は激しくないようだ。

 一応強壮丸を取り出してみたが、これから昼休憩なので問題ないと遠慮されたのですごすごとアイテムボックスへと仕舞う。

 

 身支度をして、部屋の中からルテドーナの冒険者ギルドへと飛ぶことにした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 昼の鐘は鳴る前だというのに、人の往来が激しい。

 やはりこちらの街のほうが、シームより活気があるのだろう。

 

 来たついでにアイテムボックスに入っているドロップ品を売ってしまおうか。

 2つだけ持っているコボルトスクロースはなにかに使いそうなので取っておくとして、買取の順番がきたのでそれ以外のものをガサガサとトレイに積んでいく。

 

 1つ4ナールにしかならないコボルトソルトは本当に邪魔だ。

 アイテムボックスを2列パンパンに埋めたところで、200ナール程度にしかならない。

 まあ倒しやすくて買い取りも高かったら、狩り場が混みすぎて全体魔法での狩りが活かせないからいいっちゃいいのだが。

 

 仲間にも使えるように2種類の回復薬は2人にはそれぞれ10個持たせたが、強壮丸の方は買い足すべきだろうか。

 今後の探索ではカルメリガの12階層、13階層に切り替えようとしているので、そこで通用するならドロップ品から補充できる。

 ダメでもカルメリガの冒険者ギルドでも売っているはずだから、深く考えなくてもいいか。

 

 買い取り代金を受け取って、外の飲食店を探すことにする。

 

 

 ルテドーナでも、冒険者ギルドから商人ギルド方面へ向かう道沿いには飲食店が並んでいる。

 荷馬車が多く行き交うためか、道幅等の規格が整備されているように思えるのは侯爵領だからだろうか。

 鉱山地帯を抱えているという話だし、他の領地の手本になるべく、力を入れているのかもしれない。

 

 そのうちの1つの店に入ってみると、すでに肉の焼ける香りが漂っていた。

 席に案内されながら隣のテーブルを見ると、ジュージューと音を立てて脂が弾けている。

 大皿料理ではなく、一人ひとりに皿ではなくアツアツの金属のプレートで提供されているようだ。

 

 匂いにつられるままにステーキを食べてみることにして店員に聞いてみると、このくらいです、と20cmちょっとの幅で手を開いた。

 厚さは分からないがちょっとデカくないか?

 

 嫌な予感がしたので自分はハーフサイズで、2人は通常サイズで頼むことにしてパンと飲み物を追加する。

 

 先にパンと飲み物が届き、今度は肉のプレートが小気味良い音を立てて運ばれてきた。

 幅は確かに店員が示した大きさだが厚みは数cmくらいで、見たところ300グラムはなさそうだ。

 

 なーんだ、これならハーフにしなくてもよかったと思ったところで、自分の目の前にプレートが置かれる。

 

 ん?

 

 続いて後ろから別の店員が、その倍以上の厚みの肉の塊を乗せたプレートを持って現れる。

 1ポンドステーキとかそういう問題じゃない。

 料理の熱気以外からくる汗を流しながら、ハーフサイズにした自分の選択を心底褒め称えた。

 

 

 食べごたえがありすぎる肉を黙々と食す。

 あまりの量に、まずはそれぞれの分に注力しようと伝え、会話もそこそこに胃に詰め込んでいった。

 

 自分の分はなんとか平らげ、シャオクの様子を見ると申し訳無さそうに肉を切り分けていた。

 

 

「さすがに厳しいなら、無理しないでね。

 持って帰れるようにお願いしてみるからさ」

「いえ、その、アコルトさんがまだ食べられるそうなので……」

 

「え」

 

 

 横を見れば、すでにプレートを空にしたアコルトがシャオクの料理を手伝っていた。

 

 

「アコ……よく食べられたね……」

「はい!

 食べ応えがありまして、とても美味しくいただきました」

 

 

 たしかに焼く前にスジが切られていたり、香草も主張しすぎない程度にまぶしてあって、臭みを抑えながらも肉肉しさを損なわない料理となっている。

 付け合せの野菜も、さらに肉を食べたくなるような甘みのある味付けで、食べるのが進んだ。

 ……違う、そういうことではない。

 

 量だよ、量。

 けっこう食べる方だと思っていたシャオクがキツそうだったんだぞ。

 皿の上にあったはずの塊はどこに消えたんだ。

 

 普段の料理で足りないという感じではないから、アコルトはそれなりの食事でも十分満足するが、あればあるだけいくらでも入るということなのだろうか。

 いつか満腹的な意味でアコルトを満足させてやれるくらいに食べさせてみたい。

 

 

 食べ終えて動けるようになったので、武器屋を目指してのんびりと歩いてみる。

 いつのもの武器防具複合店の他にも、別の武器屋も巡った。

 

 魔法使いの武器としてあげられるのは、やはり杖だった。

 

 だいたいの長さで名称が変わっているらしい。

 今使っているロッドは自分の腰までくらいの長さで、胸くらいから身長を超える程度のものがスタッフと呼ばれる分類のようである。

 ワンドは30cm前後なので片手持ちしやすく、取り回しが楽だ。

 

 分類の違いによる攻撃力の寄与度合いは分からないそうだ。

 一応、迷宮素材の入手階層が深いほど、つまり武器創造の難度が高いほど威力はあがるというのが一般的な認識のようだ。

 素材のレア度みたいなもんか?

 

 得意げに話す店員をおだてながら聞いていたところ、どうやら鉄装備と鋼鉄装備では要求素材の違いだけでなく、要求数も鋼鉄製の方が多いらしい。

 素材単価もだが、使用する数も多いので武器の価格が一気にあがるのだろう。

 

 うーん、ゲームっぽい。

 

 探索者以外のレベルもそうだが、ジョブ効果も自分の鑑定スキルのように詳細に分からないため検証しにくいのだろう。

 あとは魔法使いが貴族かそれに準じた者だけしかなれないというのも、情報が出回らない要因な気がする。

 情報は武器だからなぁ。

 

 

 銀製装備はそれ自体が魔法効果を高めるので、武器ではなく防具でもよいが、いくつも買うとなると非常に高額になる。

 となれば武器種自体が威力を高めるので銀装備を始めるなら杖から、と考えるのが常識のようだ。

 

 複合店の方には白銀装備もいくつか置いてあったが、他の店にはほとんどなかった。

 結局高額装備を買うには様々な店を見て回ることになるので、作成側も卸先が大体決まっているのかもしれない。

 

 ミスリルスタッフに、ミスリルロッド。

 地球にはない架空金属の名称を鑑定で目にすると、ゲーム感が一気に増した。

 

 ワンドは置いていないようだったし、長いスタッフにはスキルスロットが2つだった。

 ロッドについてはスロットなしのものしかなかったので除外する。

 

 買うとしたらミスリルスタッフだが、身長を優に超えて180cmはあろうかというそれは、アイテムボックス無しに持って回るのは不便だ。

 装備者に合わせて多少縮んだところで、表立っての動きづらさは否めない。

 

 それで19万ナールという価格もなかなかだ。

 割引があっても13万ナール強というのも、購買意欲を鈍らせる。

 

 ……ミスリルワンドかそれと同等の使いやすそうな融合元の武器が見つかるまで、()()()を探したほうがいいか。

 

 その下となると、価格帯をみたところダマスカス鋼で、その下が鋼鉄となっていく感じだろうか。

 

 作中には、ダマスカスのステッキなるものが出てきた記憶がある。

 ステッキは物理攻撃にも使えるような旨が書かれていたような気がするが、ゲーム的に考えれば複数用途の武器はどちらの性能もそれなりという印象がある。

 悪くいえばどっちつかずだ。

 

 近接武器としての使用はしないので、純粋に魔法使い用の武器が欲しい。

 となると使いやすさを考えてロッドかワンドになるわけだが、ダマスカス鋼の商品は見つからず、なんとか見つけても剣くらいだ。

 

 まあせっかくの硬い金属を非接触の武器にするのはもったいないというのも分かる気がするが。

 鋼鉄製も近接武器や鎧ばかりで、杖類の武器はあまりなかった。

 

 

スチールワンド(○)

 

 

 その中でも、()()()としては良さそうなものを見つける。

 鋼鉄製とはいっても、握りの部分は皮……硬革なのか滑らないようになっていて、軽く細く作られているようだ。

 

 でも鋼鉄の槍とほとんど変わらない2万2000ナールなのは納得いかない。

 いや、後々出品依頼に出すなら元が高いほうがリターンがいいか。

 

 購入と売却の差分計算でカルクが挟まり割引も利くだろうが、割増買い取りへのポイントの切り替えタイミングが難しそうなので、大人しくもう1点買うことにした。

 

 シャオクの装備強化は……今回は足装備かな。

 鉄製のチェインメイルが3スロットだっただけに、なかなか手放すのが惜しくなってしまう。

 

 ダマスカス鋼もあまり出回らないなら、結局鋼鉄製となる。

 

 

鋼鉄のグリーブ(○ ○)

 

 

 スロットの数も一緒ならこれがよさそうか。

 3スロット以上は見当たらなかったが、スキルは重複しないという話だし、2つで十分かな。

 スロットが埋まりきって困るような頃には、買い直したり上位装備に更新できるだろうし。

 

 シャオクに履き心地を確認してもらって、問題はなさそうということになった。

 

 ロッドと鉄のグリーブを売却し、スチールワンドと鋼鉄のグリーブを購入する。

 割増と割引で2回の精算をして、最終的に今回の買い物は3万ナールをきるくらいで済んだ。

 

 まだギリギリ30万ナールの資金は維持している。

 新居での日用品を揃えれば簡単に割ってしまうだろうが、もうちょっと貯めれば新たな仲間も考えていいくらいだろう。

 それもこれも、カルメリガの迷宮での狩り次第ではあるが。

 

 

 店を出た後は、一旦装備をアイテムボックスに仕舞ってもらう。

 重量の軽減だ。

 

 ボーナスポイントをMP回復速度に振り切って、備え付けの絨毯からカルメリガの冒険者ギルドへと飛ぶ。

 事前に強壮丸を口に含んでおくのも忘れない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ワープゲートを抜けて、MPがごっそり減る感覚を受けたが、以前ほどではない。

 ないが、けっこう辛い。

 薬を飲み込むと気分もたちまち戻っていく。

 

 ほっと息を吐いて次なる場所を思い浮かべた。

 

 続けてゲートを抜けた先は、あの大木の木陰だ。

 誰もいなそうという点で、大変お世話になっている。

 

 相変わらず開けた丘の上で草原と道以外に何も無いので、モンスターカードを融合するにはちょうどよさそうだ。

 一応、カルメリガの街との間に大木を挟むように回り込み、直接光が向かわないようにはした。

 

 スチールワンドと山羊のモンスターカード、それにコボルトのモンスターカードもアイテムボックスから取り出してシャオクへと託した。

 左手に杖、右手にカードを持って、シャオクがスキルを詠唱する。

 

 パァッと光が強まってから収まると、スキル融合が完了していた。

 太陽の下で行ったので、街側から仮に見えていたとしても日光が反射したくらいに思われるはずだ。

 

 

神籬(ひもろぎ)のスチールワンド(知力2倍)

 

 

 空いていたスキルスロットに、知力2倍の文字が刻まれる。

 できました、と手渡してきたシャオクから杖を受け取り、持ち手を握って軽く振ってみる。

 程よい重さで、ロッドと比べて短くて扱いやすいのがいいな。

 アイテムボックスにも仕舞いやすい。

 

 

「ありがとう。

 これで魔法の威力もあがるかも!」

 

 

 おっと、武器に知力2倍が付けられたのだから、ボーナスアクセサリの心力の指輪を身代わりのミサンガに替えられるな。

 指輪を外してアイテムボックスを開き、ミサンガを取り出したついでにボーナスポイントを解除する。

 

 そのまましゃがんで、2人と同じように足につけようとしたところで気づく。

 ……胸が、邪魔だ。

 

 靴下は立ちながらでも履けるのでそこまで気にならなかったが、座って足首に手を回すと腿に押し付けられて面倒だ。

 お風呂がすでにあったら体を屈めることが多くてもっと早く気づいたかもしれないが、ブーツは装備品なので足を突っ込めば体にフィットするため、あまり干渉することがなかったから思い当たらなかったのか。

 

 この体の身長以外の数値はデフォルトサイズだと思うので、世の女性の大半は苦労しているのだろう。

 色々と薄いアコルトと、比率は大人でもドワーフ体型のシャオクを交互に見て、聞こうとした言葉を飲み込みつつなんとかミサンガを装備した。

 

 そういえば、あのエディット画面って体型の項目って他にもあったよな。

 でもだいたいが身長と連動していたようで、画面のモデルの腕や足の比率は合わせて変化していたと思う。

 

 今の自分の体も、背だけ低くなって腕が異様に長いとか顔がでかいとかにはなっていないはずだ。

 持っていた頃のミラーや日常で水面に映る姿でも、そのような違和感はなかった。

 

 だとしたら他の設定項目は何だ。

 3DMMOのキャラクターエディットで、体型の項目でいじれるものといえば身長の他に……スタイルか?

 

 ありがちなのは3サイズとかだが、身長を含めて3項目しか調整バーがなかったと思う。

 実際、胴回りは身長の比率で細くなっているように見えた。

 

 さすがに女性の体型を当事者目線で見下ろしたことはないので分からないが、数値を操作していないのだからデフォルト数値のままだろう。

 

 結局あのページ自体が謎だし、項目の内容も謎だったということが分かっただけだ。

 モヤモヤするが、どう足掻いたって不明なことを気にしてもしょうがない。

 

 

 アイテムボックスから出した装備を身に着け、シャオクの荷物も一旦預かる。

 鍛冶師から探索者にジョブを変更して、今度はカルメリガの迷宮へとワープした。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv24
魔法使いLv24/英雄Lv21/探索者Lv26/僧侶Lv23/商人Lv28/剣士Lv9
(村人5 戦士17 巫女1 薬草採取士18 森林保護官11)

  ロッド(○ ○) → 神籬のスチールワンド(知力2倍)
  心力の指輪(知力2倍 MP回復速度上昇) → 身代わりのミサンガ(身代わり)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv19
  竜革の鞭(○ ○ ○) → 強縮の竜革鞭(麻痺添加 ○ ○)


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 探索者Lv11
  鉄のグリーブ(○ ○) → 鋼鉄のグリーブ(○ ○)



所持モンスターカード
・コボルト 3→1
・蟻    2
・潅木   1→0
・山羊   1→0



---
次回は12/7更新の予定です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。