異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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067 耐毒

 迷宮脇に出てくるのは面倒なことになりそうだったので、ワープしたのはカルメリガの迷宮2階層の入口小部屋だ。

 シャオクに相談すると2階層ならメインの魔物はコボルトなので、人も少ないだろうということだった。

 

 ワープゲートを抜けて、そのまま2階層の入口扉をくぐる。

 そうすることで、カルメリガの迷宮前へと出てくることができた。

 

 脇に並んで立つ階層案内の探索者たちから離れたところまで移動し、口を開く。

 

 

「シャオ。

 悪いけど8階層から始めて、行ける階層までダンジョンウォークで案内をしてほしい」

「わかりました!

 毎回荷物を持ち替えるのは大変ですしね」

 

 

 目的は13階層だが、別の階に用事があった時にいちいち荷物を預かってのジョブチェンジは面倒すぎる。

 他の迷宮でも、シャオクが移動可能な階層へは先に案内だけしてもらうのがいいかもしれない。

 

 

「戻ってくるまで、アコはちょっと待ってて。

 あ、そうだ。

 手持ち無沙汰なら、露店を見たり買ったりしててもいいよ」

「かしこまりました。

 お待ちしております」

 

 

 アコルトと分かれて、シャオクと2人で迷宮へと進む。

 ああは言ったが、昼にあんな肉を食べたばかりなのを思い出した。

 それでもあのへんの露店を見て回るだけで、十分退屈しのぎにはなるだろう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「入り組み惑う迷宮の、勇士導く糸玉の、ダンジョンウォーク!」

 

 

 何度目の詠唱だろうか。

 ゲートを開いては通り、その先でゲートを開いては通り……。

 

 カルメリガでは未到達だった8階層から15階層までの、各階へと足を運んだ。

 ダンジョンウォークの消費MPは少ないようだが5回繰り返したところで1粒、今迷宮を出てアコルトのところへ向かいながらもう1粒、強壮薬を飲んでもらう。

 念の為、というのは大事だ。

 

 待ち合わせ場所に近づくと、同じ場所にアコルトが待っていてくれた。

 

 

「お待たせ、アコ」

「おかえりなさいませ、お嬢様。

 露店で串焼きを買って、いただいておりました」

 

 

 わーお。

 まあアレ美味いもんなぁ。

 お腹が空いてなくても1本くらいなら食べられそうだ。 

 アコルトが持っている串のゴミはどう見ても5本くらいあるが。

 

 

「それじゃ、()()()からシャオの荷物も返すね」

「あっ、はい!」

 

 

 鍛冶師にジョブを変更し、アイテムボックスに預かっていた荷物をシャオクへと渡す。

 

 

スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv24

魔法使いLv24/英雄Lv21/探索者Lv26/僧侶Lv23/商人Lv28/森林保護官Lv11

 キャラクター再設定   1 鑑定           1

 ワープ         1 詠唱省略         3

 6thジョブ      31 獲得経験値10倍    31

 必要経験値1/10  31 MP回復速度5倍    15

 パーティー項目解放   1 パーティライゼーション  1

 知力          6

                     (残0/122pt)

 

 

 ボーナスアクセサリを解除したことで浮いたポイントと知力を調整して、MP回復速度を上げた。

 3倍から5倍になれば、何戦かごとに1回ずつ飲んでいる強壮丸も、もしかしたら不要になるかもという算段だ。

 

 

「改めて、確認ね。

 まずは13階層で戦えるかを確認するつもり。

 基本的には変わらなくて、自分の火魔法で攻撃している間の魔物の攻撃を凌いでもらう形だね」

「がんばります!」

 

「うん、シャオは一番経験豊富だから、気になったら指示を出しちゃっても構わない。

 アコの方はその鞭を敵に当ててもらう感じになるけど、無理しないで攻撃を避けるほうが優先ね」

「かしこまりました」

 

「あとはえーっと……麻痺状態になった魔物はどうなるの?」

「その、痙攣したようにまともに動かなくなります。

 何十秒かすると麻痺が解けて、また普通に動き出すのでよく見ていないといけません。

 同じ魔物に何度もやっていると、効きが悪くなると言われています」

 

 

 回数に応じて耐性とか、ゲームだとありがちだな。

 でも自分の場合は、敵を数十秒拘束できたら魔法が1発か2発は追加で撃てる。

 1回効いてくれたらかなり有利になれそうだ。

 

 8階層で4発で倒せていたが、13階層なら追加の階層分でプラス5発の9発ほど必要と考えておくか。

 いや、魔物のグループが変わる12階層でもう一段階プラスとして10発とみておこう。

 

 弱点なら2倍として5発。

 5発放つ間、魔物をとめてもらえればいい。

 そう考えると行けそうな気がしてくる。

 

 問題は弱点属性のないミノとスローラビットあたりの奴らだ。

 アコルトになるべく索敵で避けてもらい、混ざっていたとしても1体までならなんとかシャオクに抑えてもらえるか。

 

 そのあたりの認識を共有しつつ、意を決して13階層へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 入口小部屋に全員出てきたのを確認し、索敵の指示を出す。

 なるべく魔物の数が少ない群れで、ミノがいないとありがたい。

 

 部屋から二股に分かれた右側の通路の先に、葉の擦れる音がすると伝えてくる。

 ミノはおそらく混ざっていないとのことだ。

 

 慎重に歩みを進めて、通路の奥に動く物体に目を凝らして鑑定を行う。

 

 

サラセニア Lv13

フライトラップ Lv13

 

 

 2種類の植物の魔物がのそのそと動きつつ、蔓や葉を動かしているのが見えた。

 

 サラセニアがウツボカズラで、壷式食虫植物。

 フライトラップがハエトリグサで、挟式食虫植物なのだろう。

 観賞用の500円玉くらいの小さいやつは可愛げがあるが、こう魔物となって等身大の生物を狙う大きさになられると不気味すぎる。

 

 2人に声をかけてから、スチールワンドの握りを強めながらファイヤーストームを念じる。

 

 突然の発火に悶えるように震えた後、こちらを知覚したのか迷うことなく向かって来はじめた。

 動くといってもあくまで植物で、そこまで機敏なわけではないが迫力がある。

 

 サラセニアが筒状の頭を引いたかと思うと、頭を振って何かを飛ばしてきた。

 シャオクが進路上に立ち塞がり、構えた盾でそれを受ける。

 

 これが消化液の攻撃か。

 なかなか怖い遠距離攻撃だが、これには毒はないそうだ。

 

 クールタイム明けにまたファイヤーストームを発動して、2回目のダメージを与える。

 今度はフライトラップのほうが近づいてきていて、口のように開いた頭を振り下ろしてきたところを、これまたシャオクが盾で打ち払った。

 

 そこまでを観察していたであろうアコルトが、払われて横を向いたフライトラップに向けて鞭を振るう。

 鞭のボディが葉に引っかかるように命中し、遅れて先端のテール部分が茎のような体に当たる。

 しなった先でさらにテールが別の葉に当たったところで、鞭を引き戻して茎をもう一打ちして戻ってきた。

 

 ちょっと動作を見た過ぎてオーバーホエルミングを使ってしまったが、アコルトの鞭使いはかなりのものだ。

 どこで覚えてきたの。

 この4回の攻撃では麻痺は発生しなかったが、狩人のジョブ効果である状態異常確率UP小が強まっていったら驚異的なサポーターになりそうだ。

 

 3度目のファイヤーストームを放ったところで、サラセニアも近づいて蔓を打ち付けてくる。

 シャオクが受けて、止まったところにアコルトの鞭が飛ぶ。

 少なくとも振るって戻すときの2回は当てているようだ。

 

 少し下がったところでフライトラップが動いていないのに気づいた。

 あれが麻痺か?

 

 

「アコさん、フライトラップを!」

「はい!」

 

 

 応えると同時に飛び出したアコルトが、フライトラップへと鞭を振り抜いた。

 あっ、魔法陣が表示されている!?

  

 鞭での滅多打ちを続けたアコルトが、そのまま声を上げた。

 

 

「麻痺です」

「了解!」

 

 

 助かった。

 魔法を発動しかけていたフライトラップの下にあった魔法陣が消えている。

 

 返事は返したものの、自分にできることは可能な限り魔法を途切れなく撃つことしかない。

 魔法以外にも、戦闘中になにかできることを探した方がよさそうだ。

 それに、やっぱり鞭にも詠唱中断のスキルも必要じゃないか?

 

 サラセニアの体当たりをシャオクが盾で凌ぎ、押し返したところで4度目のファイヤーストームをお見舞いする。

 何度もその身を焼かれた2体の魔物は、体を黒く焦がしながらも未だに倒れてはいない。

 それでも葉や蔓は散り散りになっているし、動きもかなり鈍くなっている。

 

 そろそろ麻痺が解けるか気になり始めたタイミングで、念じ続けていたファイヤーストームが発動した。

 同時に火がついたと思った瞬間、どちらも煙へと変わった。

 

 ほっと息を吐いて二人の無事も確認する。

 やはり5発か。

 というか森林保護官の『対植物強化』があって5発なのかな?

 まだLv11だったし……と確認すると1つレベルが上っていた。

 

 

「お嬢様、こちらを」

 

 

 アコルトが拾ってきた木の根のような物体を受け取って鑑定してみる。

 

 

遠志(おんじ)

附子(ぶし)

 

 

 枯れた小枝みたいな方が遠志で、牙のような形の根が附子らしい。

 漢方のイメージ画像みたいな感じだが、これが土の地面に落ちていたら気づかなそうだ。

 

 ジョブを付け替えて、薬草採取士の生薬生成を念じてみる。

 遠志が3粒の強壮丸へと変化し、もう一度してみると附子も3粒の滋養丸へと変わった。

 

 

「これならもうギルドで買わなくても済みそうですね!」

 

 

 シャオクですらもう色々なジョブのスキルを使うことに疑念を抱かなくなってきた。

 アイテムボックスにできたての丸薬を仕舞い、元の小部屋へと一旦戻る。

 

 

「シャオ、戦闘はどうだったかな。

 魔物の数が増えても戦えそう?」

「そうですね、これだけの速度で倒せるなら問題はないでしょう。

 広すぎない通路で相手取れば、体の大きいサラセニアもフライトラップも多方向から向かってくることはありません。

 弱点のないミノが混じってくると時間もかかるでしょうが、それでも他のパーティーの比ではないほどに短時間です」

 

 

 初級全体魔法のクールタイムは、これまでの経験からおそらく11秒程度だ。

 単体魔法はもうちょっと短いようだが、飛ばす方向の意識もしないといけないので検証が難しい。

 

 なるべく途切れなく連続で発動させたとしても、5発では1分かかる計算だ。  

 それが10発なら2分か。

 

 120秒と言われると結構長い。

 治療してやったパーティーの、腹をミノに突かれただろう男を思い出す。 

 

 

「あと先に聞いておけばよかったんだけど、フライトラップの水魔法ってどんな感じなの?」

「そうだ、見られたことがないんですね。

 ミツキ様がいつも桶にいれてくれる、あの水球のようなものを飛ばしてくる攻撃です」

 

「壁や全体魔法は?」

「全体攻撃魔法を使ってくるのは23階層より上の魔物らしいです。

 探索者ギルドの資料を見ただけなので自分で確認はできていませんが、魔物のスキルは魔法使いのようにたくさんの種類を使えるのではなく、特定のものだけ使えるという認識のようでした」

 

「そうすると、フライトラップの遠距離攻撃は水の球だけ気をつければいいってこと?」

「そうですね。

 盾があるなら直撃を受けることもありませんし、サラセニアの消化液も同様です。

 たとえ受けてしまっても鋼鉄や竜革で身を包んでいるので、数回受けたところで大したことはないですね」

 

 

 いや、盾を持っていたからって自分は動けないぞ。

 それにダメージがなくても怖いものは怖い。

 

 経験というか、どこを見るべきかという知見が圧倒的に不足している。

 

 

「でも、さっきは2人とも止めてくれて助かったよ。

 咄嗟の指示も出してくれてありがとう」

「えへへ、ありがとうございます!

 あっ、そういえばアコさんって呼んじゃいました」

 

「戦闘中でしたし、普段から呼んでいただいても構いませんよ」

「そうですか?

 じゃあボクのこともシャオと……」

 

 

 なーにこの、これ。

 かわいいかよ。

 迷宮内なのに和んでしまった。

 

 

「えっとじゃあ、ミノは避けてもらうようにすればこの階層でもやっていけそうかな?

 毒の方はどうだろう」

「アコル……アコさんは鞭の射程までしか近づかないので、回避を優先すれば問題ないと思います。

 飛ばしてくる消化液には毒はないですし、ボクの盾の後ろにも逃げ込めますし」

 

「じゃあ、シャオの装備に毒耐性を付けておけば大丈夫かな?」

「ミツキ様の装備からにしてもらいたいですが、パーティーで考えると前衛のボクの装備に付けておくのが、一番有効だと思います」

 

 

 ということで小部屋の隅で、こそこそとモンスターカードを取り出す。

 2枚ある蟻のカードのうちの1枚と、1枚だけ残っていたコボルトのカードだ。

 

 装備したままでもどれをカード融合するかは選択できるらしく、そのままスキルを発動してもらった。

 いつもは掲げた手の先の装備が発光するが、今回は装備したままの鋼鉄のガントレット自体が光りだした。

 

 動きについてくる光に驚いたシャオクが腕を振れば、その軌道をガントレットが空中に描いた。

 つかの間の光が収まると、モンスターカードの融合が完了した。

 

 

耐毒の鋼鉄籠手(毒耐性 ○ ○)

 

 

 シャオクに確認すると通常が毒防御の『防毒の』で、強化スキルが毒耐性の『耐毒の』らしい。

 ガントレットは篭手という名前になってしまったが、これも謎翻訳の影響なんだろうか。

 篭手は篭手だろうけどさ。

 

 

 装備も強化したということで、数の少ない群れをまた探して戦うことにする。

 基本的には3体までの群れを索敵してもらって、ギリギリまで近づいてそこにミノがいないことを鑑定で把握、ファイヤーストームから奇襲を開始するという流れだ。

 

 今までの8階層から一気に5階層分も上がったので、広く入り組んでいるように感じる。

 生薬素材は普段の儲けもあまりないそうで、他に潜っているパーティーもいなそうだ。

 

 狩る群れを選り好みしながら午後いっぱい戦闘を続けることにする。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 魔物の出ない小部屋での休憩を挟みつつ、危なげなく戦っていく。

 

 森林保護官のレベルが上がり続けたおかげか、知力と『対植物強化』の補正が上昇したためか途中からサラセニアたちを全体火魔法4発で倒すこともでてきた。

 その後英雄のレベルも上昇してからは、4発での撃ち漏らしがなくなったので討伐スピードも上がる。

 

 MP回復速度を5倍へと引き上げたことで、もともと何戦かに1粒程度だった強壮丸での回復が、ほぼいらなくなったのはありがたい。

 ドロップする遠志も貯まる一方になるので、売却のほうも期待できそうだ。

 

 

 魔法使いがLv25になったところで、ミノを含んだ群れも試してみたが、弱点も特効補正もないからか9発かかってしまった。

 戦闘自体は2分弱なのだが心労やシャオクへの負担が他の倍と考えると、やはりこの階層での狩りはミノを避けるべきだろう。

 

 索敵で聞き取れなかったり、どうしても避けきれなかった群れにいたミノを相手にすることも何度かある。

 それでも複数ミノが残るということはなかったので、シャオクが突進を止め、アコルトが麻痺させることで1体の相手なら何もさせずに倒しきれることがわかった。

 

 

 そろそろ夕方の鐘かという頃、ついに商人がLv30へと到達した。

 逸る気持ちを抑え、小部屋に移動してジョブ一覧を確認する。

 

 

奴隷商人

 効果  知力小上昇 体力微上昇 精神微上昇

 スキル カルク インテリジェンスカード操作

 

 

 無事に奴隷商人のジョブが取得できていた。

 派生ジョブということだから、他に条件があったらどうしようと危惧していたのも無用だったらしい。

 

 作中にジョブ効果は記載されていなかったと思ったが、たぶん武器商人たちの補正違いなのだろう。

 あちらは探索者派生だからアイテムボックスがついているので、こちらよりは使い勝手がいい。

 それでもインテリジェンスカードを取り出せるジョブは初取得か。

 

 あっ、奴隷商人といえば、2人の遺言設定をしていない。

 何かのついでにとは考えていたが、結局機会がないまま未設定となっている。

 特に設定していないと、主人が命を落とした際に奴隷も死んでしまうとかいう恐ろしい契約だったはずだ。

 

 自分の死後のことを考えるのもアレだが、契約によって連鎖的に命を縛るのは憚られる。

 寝る前にでも変更を試してみるか。

 

 今日の狩りはここまでとして、強壮丸を取り出してワープゲートを開いた。






スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv25
魔法使いLv25/英雄Lv22/探索者Lv27/僧侶Lv24/商人Lv30/森林保護官Lv17
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 薬草採取士18 奴隷商人1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv20


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv15
  鋼鉄のガントレット(○ ○ ○) → 耐毒の鋼鉄篭手(耐毒 ○ ○)


所持モンスターカード
・コボルト 1→0
・蟻    2→1


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次回は12/10更新の予定です。

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