カルメリガの迷宮から、シームの商店街へとワープする。
新たなジョブを取得したことで、装備の重量を忘れてうかれたまま移動して後悔した。
急いで強壮丸を取り出して直ぐ様飲む。
ま、まあ直後に戦闘さえなければ、装備を仕舞わなくても移動自体はなんとかなるのだ。
宿へと戻り、持ち出した鍵をフロントに見せつつ階段を上がる。
部屋につくと、装備を外してベッドに寝転んだ。
夕方の鐘はまだ鳴っていないらしい。
ジョブ一覧の商人と奴隷商人の文字を確認しつつ、ついにLv30の大台に乗ったことを改めて実感する。
現在の獲得ジョブ数は、村人を入れて12種類。
作中の彼は、22個目のジョブと遊び人を同時に取得していたので、やっと折り返しというところだ。
村長のジョブはどうしようかな……。
そのへんの騎士に任命してくれとも言えないので、身内で賄う必要がある。
当初はメンバーの1人を暗殺者のジョブにと考えていたので、その過程で戦士の派生である騎士は取得できていたはずだった。
しかしアコルトの兎人族の固有ジョブである狩人に『状態異常確率小アップ』のスキルがあったので、こちらを上げていくことにしたのだ。
鍛冶師の隻眼のように狩人にも上位の種族固有ジョブがあるはずで、将来的にもそのスキルに期待してだ。
新たな仲間に、戦士ジョブの者を迎えるべきか悩む。
前衛には大盾を持って攻撃を止める者や、武器や盾で攻撃を捌ける者がほしい。
シャオクも大盾を持つだけの膂力はあるだろうが、リーチを考えたら竜人族の者が適任だろうか。
それにシャオクには、中衛として戦況を見てもらいたいというのもある。
アイテムボックスも使えるので補助もできるし、盾を持たなくて済むなら敵によって武器を持ち替えることもできそうだ。
おっと、今はシャオクの展望じゃない。
村長のジョブについてだが、とりあえず後回しにすることにしよう。
遊び人取得のための必要ジョブ数はまだ他のジョブで足りるかもしれないし。
特に剣士のジョブに関しては、原作ではほとんどレベルを上げていなかった。
ほぼ同じ取得条件だった戦士ではいくつも派生ジョブが出ているので、剣士でも複数の派生ジョブが出現する可能性がある。
無駄になるかもしれない仲間のジョブレベル上げよりも、自分のパラレルジョブを上げたほうが経験値効率も高くて早いはずだし、ジョブの活用を見いだしやすいだろう。
17時だと鐘の音が伝えてきたので、身だしなみを直して階段を降りる。
シームの宿に来てから7日も経てば、だいたいの料理の傾向も分かってきた。
干物といえど魚は傷みやすいので、食材が古くなってくるとだんだんと濃い味付けや香りの強いものと調理されることになる。
そう考えると、焼き魚や煮魚とは大きく食感の違う揚げ焼きのフライの調理法は、経営者のミトラグにとっても朗報だったようだ。
高温の火も通るし、肉にも流用できるし、使うのは元々他の料理にも使っている食材だし。
そんなわけで本日も隅の席に案内されて、試食のフライがこっそり出される。
衣の厚みやら改善はしているが、油がうまく切れていないのかちょっとギトギトしている。
でもそのくらいが不満点であって、食べる側としてなら十分美味しい。
日常的に調理をしているので、コツを掴むのも早いのだろう。
あとは毎回同じように作れるかだ。
担当が変わったり、食材ごとの大きさに合わせられるかだったりの話になる。
一番大変なのは、実際に注文されて提供する時だ。
その時その時で状況も違うし、客には言い訳できないしな。
アコルトもシャオクも美味しそうに平らげたので、従業員たちにお礼を言って部屋へと引き上げる。
湯桶を受け取っての体拭きも終わり、新たな肌着を身に着けると、2人は洗濯にうつる。
手が空いたので、遺言設定をやってみようか。
自分の左腕を見つめ、インテリジェンスカード操作と念じた。
すると騎士や旅亭を前にしたときのように、腕からカードが飛び出す。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使い 自由民
所有奴隷 アコルト
シャオク
鑑定と違ってレベルの表示もないシンプルな内容が記載されたカードだ。
カードを見つめたまま、今度は遺言設定と思い浮かべると、何かを選択するようにと脳裏に浮かぶ。
「アコルト」
「はい、お嬢様」
「あ!
ごめん、呼んだわけじゃないんだ」
思ったまま声に出してしまった。
脳内には、さらに何かを選択するように響いてくる。
うーん、これで死後解放ってすればいいのか?
遺言設定というからには、決められた相続や解放の他にも選択や取り決めが可能に違いない。
逆に、きちんと設定を行わないと正しく反映されない可能性がある。
命すら連動で処理される契約だ。
最初の遺言設定は、商館でちゃんとやってもらった方がいい気がしてきた。
その時のやり方を真似て、後々のスキルに活かせばいい。
呼びかけたからか、少し不安そうに2人が見つめてきたので話すことにする。
「実は奴隷商人のジョブも得られたんだ。
遺言設定で死後解放にしようかと思ったんだけど、やり方が合っているか分からないから、今度商館できちんとやってもらうね」
「インテリジェンスカードが突然出てきたので驚きましたが……、私たちに話されてよかったのですか?」
「うん。
ホントは契約の時にやってもらえばよかったんだけど、忘れてて……」
「ボ、ボクもですか!?」
「2人ともだよ。
仮に今、変更できていても伝えるつもりだったし」
「その、本来は長年真摯に勤めた奴隷に対してするものですので、仕えたばかりの者たちに死後解放にしたなどと伝えるというのは……」
「だって別に2人ともそれで態度変えたりはしないでしょ?
自分の不注意で一緒に巻き込まれるのは申し訳ないしさ」
「お嬢様…………、いえ、ありがとうございます。
これからも誠心誠意お仕えいたします」
「ありがとうございます!」
「うん、よろしくね。
まだ遺言自体は設定できてないけどね!」
明日の朝にでも商館に行ってやってもらおう。
行くならクラザの方かな。
迷宮のために近隣のカルメリガには行くことになるし、シャオクのことを他の商館が認知しているとは思えないが、名前が見られるところは少ないほうがいい。
洗濯も終わり、寝る準備ができたのでそれぞれのベッドに入った。
***
朝はいつも通りのルーティンをこなし、迷宮へ向けての準備をする。
迷宮では髪がまとまっていた方がありがたいので、結ってもらった後に留めてもらう。
後列までは届くか分からないが、消化液も飛んでくるしな。
その上から帽子をかぶればすっぽりと収まるのだが、先に商館へ向かうのでまだ後でいいだろう。
重い装備以外はだいたい身につけた状態で、MP回復速度を20倍に指定してカルメリガの冒険者ギルドへとワープした。
軽い朝食を食べただけなので、2人にはこのへんで何かをつまんでていてもらおう。
「商館に行って遺言だけ済ませてくるから、ギルド前でなにか食べててくれる?」
「かしこまりました。
いってらっしゃいませ」
シャオクに銀貨を2枚渡し、好きに使うように伝える。
2人分としては多すぎるとは思うが、余ったらアイテムボックスで管理してくれるだろう。
自分はそのままクラザの冒険者ギルドへと飛んだ。
前回はシャオクと迷宮の様子見に4階層へきた時ぶりか?
シームへと宿を移して以来かな。
見覚えのある3階建ての商館へとたどり着くと、これまた見覚えのある狼人族の門番が立っていた。
「おはようございます、魔法使いのミツキと申します。
遺言変更の依頼に参りました」
「……しばしお待ちください」
大柄の男が入口のノッカーを鳴らし、小窓での対応をしているとすぐに扉が開いた。
「これはこれはミツキ様!
お久しぶりでございます、ネジェロでございます。
どうぞ中で詳しくお伺いいたします」
ネジェロ 狼人族 ♂ 26歳 奴隷商人Lv1
おお、奴隷商人になっている。
前は商人だったので手続きができなかったが、これならナルディロが不在でも対応してくれそうだ。
そのまま応接室まで通されて、ソファに座ったところで飲み物が注がれる。
「ネジェロ殿は、……その、顔つきが変わられたご様子ですがもしや……?」
危ない、ジョブが変わったと言いかけた。
「お分かりになられますか!
実は先日、無事に奴隷商人のジョブに就くことができまして、私でも商談のご対応をさせていただけるようになりました」
「それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます、ご贔屓にしてくださる皆様のおかげです。
それで、本日は遺言変更をされたいとのことでしたが」
「はい。
所有の奴隷2人ともを死後解放にしていただきたいのです」
「かしこまりました。
遺言の変更手続きは奴隷1名につき300ナールをいただいておりますが、2名分でお間違いないでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします」
それでは……、と腕を差し出すように言われたので左腕を掲げる。
「滔々流るる霊の意思、脈々息づく知の調べ、インテリジェンスカード、オープン」
いつものカード表示の呪文が唱えられ、左腕からカードが飛び出てきた。
ネジェロがカードを手に取り、所有奴隷の欄を指でなぞる。
「遺言設定、アコルト、死後解放。
遺言設定、シャオク、死後解放」
それぞれの名前と死後解放と続けると、浮かび上がるようにカードの文面が追加された。
スキルとしてはインテリジェンスカード操作までであって、その先はジョブ限定技能みたいな感じで詠唱はいらないのか。
「変更はこちらで完了です。
どうぞ、ご確認ください」
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使い 自由民
所有奴隷 アコルト(死後解放)
シャオク(死後解放)
確かに死後解放の文字が書き込まれている。
というか音声認識なのか?
「ありがとうございます。
他の遺言設定をするときは、何か特別な言い方をするのですか?」
「言い方というより、こう、浮かんだ内容を選択をする形ですね。
間違いがないように口頭でも確認するようにしております。
死後相続の場合には、相続先の者のインテリジェンスカードも出しておかねばなりません」
へぇ、まあそりゃそうか。
名字もない者が多いから同名は沢山いるだろうし、奴隷商人が思い浮かべた人物の名前を間違って覚えていたらおかしなことになる。
「例えば、1人の奴隷を死後解放にして、他の奴隷をその者に相続させるというのもできるのでしょうか?」
「可能です。
身寄りのない者が、奴隷に継がせるといった場合もございますのでね。
その場合は所有奴隷内での取り決めになりますので、主人のインテリジェンスカードだけの操作で事足ります」
奴隷はあくまで所有物だそうだ。
モノの扱いは主人だけで決められる。
いつか自分も分け与えられるだけの財を築けるのかな?
「さて、手続きも終わりましたので、ご精算とさせていただきたいのですがよろしいでしょうか」
「はい、色々とお教え頂きありがとうございました」
「こちらこそ、ご説明させていただくことで学んだ知識もさらに身につきます。
それでは遺言変更が2名分で600ナールのところ、いずれも当館に縁のある奴隷でしたので特別に420ナールとさせていただきましょう」
「ありがとうございます、こちらを」
予めセットしておいた3割引のボーナスのおかげで、しっかりと値引きされている。
巾着袋から銀貨と銅貨で支払い、ネジェロが確認する。
「お受け取りいたしました。
この後はいかがされますか?
顔ぶれも変わっておりますので、戦闘奴隷をご覧になるようであればご準備させていただきます」
「いえ、人を待たせていますので、このあたりで失礼させていただきます」
「そうでしたか、お引き止めして申し訳ありません。
本日はご利用ありがとうございました、今後も当館をご贔屓にしていただけたらありがたいです」
たしかに新たな仲間候補は見たい。
だが資金も心もとないし、見るなら2人に断ってからだな。
以前と同じ深々とした礼をして見送るネジェロを背に、商館を後にした。
***
カルメリガの冒険者ギルドに戻ってくると、絨毯が視界に入る壁際のあたりに2人が待っていた。
「お待たせ。
変更してきたから、休憩のときにでも見せるね」
「おかえりなさいませ、ありがとうございます」
そのまますぐにワープゲートを開き、昨日と同じように迷宮の2階層へと移動した。
入口小部屋でボーナスポイントの設定をする。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv25
魔法使いLv25/英雄Lv22/探索者Lv27/僧侶Lv24/森林保護官Lv17/薬草採取士Lv18
キャラクター再設定 1 鑑定 1
ワープ 1 詠唱省略 3
6thジョブ 31 獲得経験値10倍 31
必要経験値1/10 31 MP回復速度5倍 15
パーティー項目解放 1 パーティライゼーション 1
知力 7
(残0/123pt)
商人からそのまま戦士のレベル上げに切り替えようかと思ったが、それでは商人Lv30分の知力小上昇がなくなって魔法火力が一気に下がることになる。
一旦、同じ知力補正のある薬草採取士に切り替えて、魔法使いや英雄、森林保護官を鍛えることで火力を確保してから他のジョブの育成に回ったほうがいいだろう。
神籬のスチールワンドを取り出してブリーフィングだ。
設定するジョブの組み合わせを替えたから、討伐までの魔法の回数が変わるかもしれないと伝える。
1手増えることにはなるが、昨日13階層にきた直後も5ターンでの戦闘だったので大きく問題にはならなそうだ。
毒耐性があることによって、シャオクが強気に前に出てヘイトを稼いでくれるので、懸念していた水魔法を発動された際も鋼鉄の盾で受けきってくれた。
手当てスキルでのフォローはしているが、やはり詠唱中断で魔法自体を止められた方がいいよなぁ。
落札依頼を増やしたり止めたりで、結局必要そうなところが足りていない。
考えが甘いというか浅いんだろうが、致命的なことにはなっていないのでなんとかなっているという感じだ。
戦闘自体は昨日と変わらず、アコルトにミノを避けてもらいながら植物たちを焼いて回っている。
弱点属性であるファイヤーストームの全体攻撃を放っていれば、5度目には一斉に煙へと変わるのだ。
MP回復薬の原料もドロップするのでMP切れの心配もないし、そもそも回復速度5倍でほぼ賄えている。
この階層でレベルが上がらなくなった後が面倒だな。
ときどき休憩を挟みつつ、戦闘を続けながら考える。
13階層から進められて本当によかった。
というのも、12階層では別の問題があるからだ。
原作にもあった、盗賊の待ち伏せである。
魔物の種類が一区切りとなる11階層を抜け、12階層からの魔物に向けての装備を整えてきたルーキー上がりたちを狙って、装備を奪い取る。
シャオクも探索者ギルドでそういう話は耳にしたというし、メインモンスターがドロップのうまみの少ないサラセニアでは主戦場とするパーティーもそう多くはないので、潜んでいる可能性はあるとの読みだ。
さらにフライトラップが続くこの13階層でも出くわす可能性もあるにはあるが、そもそも人の声のする方には向かわないし、討伐目的であって進行が目当てではないので待機部屋へと向かうわけでもない。
向こうから近づいてこられたとしても、こちらが先に気づくしジョブも鑑定で分かる。
というわけで忘れかけているトラウマの盗賊には出会わずに済んでいる。
二度と会いたくないが、考えてみたら低階層で竜革や鋼鉄装備なら完全にカモの見た目な気がしてきた。
見た目は小柄な女性ばかりだし、自覚しなくては。
そんな調子で昼食の頃だと声がかかるまで、ひたすらにドロップアイテムを増やしていった。
スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv25
魔法使いLv25/英雄Lv22/探索者Lv27/僧侶Lv25/森林保護官Lv19/薬草採取士Lv21
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 奴隷商人1)
アコルト 兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv20
シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv16
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次回は12/13更新の予定です。