異世界迷宮と斉奏を   作:或香

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069 魔結晶

 昼ということで区切りをつけ、迷宮からカルメリガの冒険者ギルドへとワープする。

 次回はまた13階層の入口小部屋から始めればいいので、帰りにわざわざダンジョンウォークの使える小部屋を探しておかなくていいのは楽だ。

 

 カルメリガの朝夕はどうだったか忘れたが、昼の12時に鐘が鳴るのはどこの街でも同じそうだ。

 

 適当な料理屋に入る際に、武器をアイテムボックスへと仕舞う。

 遠志や附子が結構貯まっているな。

 

 注文を終えて待つ間、数えてみると遠志が4列、附子が7列目を埋め始めていた。

 えーと待てよ、これに生薬生成を使うと1つから3粒できるんだよな。

 

 25個の11列としてその3倍……825粒。

 列が全て埋まっているわけではないからそれよりはいくらか少ないはずだが、800粒弱の買い取り持ち込みはさすがに大変じゃないか……?

 

 というかそもそも生薬生成を250回以上するのか。

 素材で1つ30ナールが、15ナールの3粒になり売却額が5割増になるとはいえ、かなりの作業量だ。

 

 自分が忙しい分にはいいが、出来上がった強壮丸と滋養丸を持ち込む際もどうしよう。

 分ける必要はないと思うが、リュックにパンパンの回復薬を売りに来るというのは、どこかの保管庫でも襲ったのかと疑われそうな気がする。

 

 うう~ん。

 迷っている間に料理が運ばれてきたので、食べながら相談だ。

 

 

「強壮丸や滋養丸を大量に売却に出すのっておかしいかな?」

「いや、そんなことは……と思いましたが、昨日今日の分がすべてとなると、もし見られた時に不審に思われるかもしれないです。

 一度にあれだけの量だと、パーティー単位でも持ち込むにしては多すぎますね」

 

 

 口には出さないが、生薬生成のスキルができることを思い出してくれたようだ。

 

 

「だよね。

 全部は諦めるにしてもある程度だけ薬を入れて、大半が素材のままなら大丈夫かな?」

「それなら問題ないと思います。

 ギルド神殿が計算してくれるので、多少種類が混ざっていても正確に金額がでてくるはずです」

 

 

 しばらくは同階層を狩り続けるつもりなので、毎日附子と遠志がかなりの量集まることになる。

 売却先をカルメリガ、クラザ、ルテドーナ、シーム、それぞれの冒険者ギルドや探索者ギルドへと日替わりにしていけば、ある程度迷宮に籠もって集めた分のように思われるのではないだろうか。

 

 その際にアイテムボックスではなく袋やリュックにつめることで、トレイで提出するカウンターではなく大量買取の方に回してもらえればラッキーだ。

 最初は抑え目にして、少しずつ薬の割合を増やしつつ様子見していけばいいかもしれない。

 

 

 2人とも話し合い、食事の後は雑貨屋で売却用のリュックを2つほど買うことにした。

 普段は小さく畳んでいつものリュックに詰めておき、売却前にアイテムボックスから移し替えて、いかにも大荷物に見せられる。

 

 今日はクラザの冒険者ギルドにしてみようか。

 

 ギルドの外壁にワープで移動した後、広場の隅の方に移動してアイテムボックスから遠志と附子を移す。

 1つ1つは小さいとはいえ、1つにまとめるとけっこうな量だ。

 小枝のような形状ということもあって遠志が思っていたよりも嵩張り、リュックの容量の大半を埋める形になった。

 

 リュックの口を開き、手を突っ込んでみても底の方まではわからない。

 これなら軽いチェック程度なら下の方に丸薬があっても気づかず大丈夫だろう。

 

 

 ジョブを変更して薬草採取士を設定する。

 なるべくリュックの奥の方まで手を差し込み、適当に素材を握って生薬生成と念じた。

 

 手の中の附子の1つが、分裂したような感触がした。

 3粒の滋養丸へと変化したのだろう。

 

 そのままもう10回ほど生薬生成を発動して、手を引き抜いてみる。

 11個のドロップアイテムが33個の丸薬へと変わったはずだが、まぁリュックの外見はほぼ変わりない。

 もともと素材同士の隙間も多いところに丸薬がちょっと増えたところで、違いはあってないようなものだ。

 

 さらに手を突っ込んでもう10回ほど追加でスキルを使用した。

 外から触ったリュックの下方が、気持ち詰まっているくらいにはなったかな?

 

 これを売却カウンターへと持っていって、買い取ってもらおう。

 98個足す165個の素材から、21回分スキルを使用して…………商人をセットしよう。

 

 差し引き242個の素材が1つ30ナールで7260ナール。

 21回の生薬生成で63個となった丸薬が1つ15ナールで945ナール。

 合わせたところにボーナスポイントの3割増から、端数は切り捨てとなって1万と666ナール。

 

 素材のままだと1万と257のはずなので、400ナール以上増えることになる。

 これはいい!

 

 素材を全て丸薬にできれば5000ナール以上増えるのだが、初めはこれで買い取りに出してみよう。

 

 冒険者ギルドへと入り、買取カウンターの列へと並ぶ。

 ドロップ素材が詰まったリュックは割と重かったが、シャオクにお願いすると軽々と背負ってくれた。

 

 エルフにもなにか種族補正がほしいです。

 いや、あるのかもしれない。

 

 などと考えているうちに順番が回ってきたので、リュックの口を広げてギルド員へと見せた。

 

 

「このリュックいっぱいにドロップアイテムがあるんですが、どうしたらいいですか?」

「ええと、これは……附子と、遠志ですね。

 中にはアイテム以外の、アイテムボックスに入らない物も入っていますか?」

 

「いえ、アイテムだけです」

「そうしましたら、あちらの机のギルド員に確認してもらってください」

 

 

 そう言って、若干暇そうにしている竜人族の男性職員の方を指差した。

 

 言われた通りに、リュックを持ったままそのカウンターへと足を向ける。

 

 

「おっと、どうされましたか?」

「このリュックいっぱいのアイテムの買取を聞いたらこちらへ向かうように言われまして」

 

「……あいつ、小トレイに乗らないからってこっちに……。

 ああっと、失礼しました!

 中身は何でしょうか?」

 

 

 先程と同様に中身を見せながら遠志や附子であると伝えると、ギルド員は断りを入れてからリュックを手に取る。

 竜人族だけあって、ドワーフのシャオクと同じように軽々持ち上げた。

 

 

「これくらいの量でしたら……、こちらに中身を出してもらえますか?」

 

 

 カウンターの内側にあったらしい深底のトレイを、脇のローテーブルへと乗せて指し示した。

 いつものトレイとは違って、こちらはタライみたいな感じだ。

 リュック1つの中身くらいなら入りそうな大きさである。

 

 シャオクに手伝ってもらい、口を開けたリュックをひっくり返してザラザラと中身をタライに移していく。

 

 

「大口買取でもこのようにするんですね」

「本来の大口買取はアイテムボックスから出すと嵩張るような大型の素材……ノンレムゴーレムの岩ですとか、他には被膜が割れやすいオイル類とか、そういうものを大量に持ち込まれた方をギルド神殿の部屋に案内して精算するんです。

 その際も、内容を確認してアイテム以外の物がないかのチェックもありますが」

 

 

 どうやら今やっている作業は、通常のカウンター買取と同じらしい。

 この男が暇そうにしていたから、女性ギルド員が仕事を投げたのだろう。

 

 

「今回の量ならこの入れ物1つで事足りそうなので、私が運んで終わりですね。

 おっと、滋養丸と強壮丸も混ざっているようですが大丈夫ですか?」

「えっ、その、はい。

 一緒に売却で大丈夫です」

 

 

 意外と目ざとい。

 適当に流し見ているように感じたが、大口買取担当というだけあって観察眼は鋭いのか。

 

 大量だからと言って危険物を持ち込まれたら、ギルド神殿とやらも被害を受けそうだしな。

 調子に乗って山程生薬生成をしなくてよかったかもしれない。

 

 

「これで全部ですかね?」

 

 

 タライにいっぱいになった遠志や附子、丸薬を指してギルド員が確認する。

 あとは……皮がちょっとあったか。

 あれも売ってしまおう。

 

 

「ミノの皮が何枚かあります!」

 

 

 アイテムボックスの呪文を唱え、取り出した8枚の皮を素材の上に乗せた。

 売却の際は毎回フリで唱えているので、この動作は忘れない。

 

 

「では内容には問題なさそうなので、こちらでお預かりします。」

 

 

 タライを持ち上げたギルド員が、扉の奥へと進んでいく。

 

 少ししてから、空になったタライと硬貨の乗ったトレイを持って戻ってきた。

 タライはカウンター裏に戻され、精算された売却代金が目の前に置かれる。

 

 

「こちらが代金です。

 今回の量くらいであれば、通常のカウンターでもトレイを替えて引き取れますのでお申し出ください」

 

 想定通り、1万ナールを超えているようだ。

 金貨と銀貨をアイテムボックスへ仕舞い、銅貨を巾着袋へと入れつつ今後のことを確認する。

 

 

「もしアイテムボックスにもっと大量にある場合は、だいたいの個数をお伝えすればどっちのカウンターか教えてもらえるんでしょうか?」

「そうですね、もっと多いのなら案内が必要なこともあるので確認してもらったほうがいいでしょう。

 今回のようにリュックにまとめていただかなくても、アイテムとだいたいの個数を伝えたほうがスムーズですね」

 

 

 これはリュックだと中身が分かりにくいから、初めから明言しておけってことだろうか。

 流し込むようにタライに移し替えていたときもすぐに薬を見つけられていたし、下手に生薬生成はしない方がいいのかもしれない。

 

 

「ありがとうございました、またよろしくお願いします」

「ええ、こちらも薬の原料は募集をかけないとあまり来ないのでありがたいです」

 

 

 売却を終えて、冒険者ギルドの外へ出る。

 

 

「とりあえず、カルメリガにもどろうか」

 

 

 外壁にゲートを発動し、クラザの冒険者ギルドからカルメリガの迷宮2階層へと移動した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「さっきの感じ、薬も混ぜて売却したのちょっと変に思われたかな?」

「そうですね……。

 少量だったのであからさまでもないですが、確かに迷宮に潜る者たちがわざわざ売却するのは違和感があったかもしれません」

 

 

 迷宮を出て少し外れたところまで歩いて、先程のギルド員の様子を思い出す。

 

 いくらパーティーに僧侶や神官がいたとしても回復薬が不要になることはないだろうし、余ったなら他のパーティーに売れば良いとなるか。

 わざわざ買値の1/4になるギルドでの売却より、半額でも十分に売れるだろう。

 

 

「相談いただいたのに、気が付かなくてすいません!」

「ううん、シャオは悪くないよ。

 自分が売却額の方ばっかり考えてたせいだから」

 

 

 今回のことは、売却物をリュックから出し切ったところで混ざっていることに気づいたが、またアイテムボックスに戻して選り分けるのが面倒だからそのまま買取に出したと言えば、一応筋は通らなくはない。

 

 だが使えるのはせいぜい今回だけだろう。

 考えてもみたらアイテムボックスから直接出す場合だったら間違えるはずがないので、丸薬が一緒に出てくるはずがない。

 精算のためのギルド神殿があるという部屋に案内されるのなら、変なものを入れないようにもっと監視は厳しくなると思われる。

 

 確かに素材の1.5倍の売値は魅力的すぎたが、そこまで怪しまれるリスクを負ってまでやるべきではないな……。

 

 

「やっぱりドロップアイテムはそのまま売ることにしよう。

 自分たちで使う薬を買う必要がなくなったって考えるだけでも、十分だよね」

 

 

 ボーナスで3割増になるだけでも、かなりの得なのだ。

 買い増したリュックだけが勿体なかったが、使い道はなんとでもなるだろう。

 増えすぎた衣服の移動の際とかね。

 

 気を取り直して、13階層へとダンジョンウォークで移動した。

 

 

 

 昼までと同じように、ミノを避けつつ植物たちを焼いて回る。

 やはり倒しやすい狩り場は非常に効率がいい。

 ものの数分で処理できるので、魔物の群れが合流する心配もほぼないしな。

 

 薬草採取士は商人のように非戦闘職に数えられるのか、レベルアップも早いようだ。

 当たり前だが、8階層までを探索していた時よりも断然早い。

 

 僧侶以外のジョブのレベルが上がったところで、またファイヤーストーム4発でサラセニアたちを仕留められるようになった。

 知力のステータス補正や『対植物強化』の効果が追い付いてきたのだろう。

 

 

 もう少しで夕食の時間だというところで、ひとつ思いついたので実験をしてみることにした。

 魔結晶の蓄積魔力についてである。

 

 迷宮に入るようになってから持ち続けている魔結晶は、未だ1000体分の青色のままだ。

 ボーナスポイントを経験値効率に振っていて、ほとんど結晶化促進に回せていないので、なかなか1万体分の緑魔結晶には至っていない。

 

 所謂RPGでは敵が強くなるほど得られる経験値や資金が増えるのが恒例だ。

 1階層の魔物でも、この13階層の魔物でも同じ1体分としてカウントされるのかが疑問だった。

 

 作中では十数階層で簡単な検証をしていたが、詳細までは確認していなかったと思う。

 レベルキャップ(仮)のこともあるし、微妙に仕様が違う可能性もあるので確かめておきたい。

 

 アイテムボックスから黒魔結晶を取り出して、青魔結晶を仕舞った。

 

 

「アコ、1体か2体の魔物に案内してくれる?」

「かしこまりました。

 …………すみません、近くには3体以上の群れしかいないようです」

 

 

 まあそんな都合よくリポップはしていないか。

 魔結晶を入れ替えて、元の青魔結晶をリュックのポケットに入れる。

 とりあえず近場の群れを2グループほど狩り、少し進むと2体の群れがいると報告を受けた。

 

 必要経験値1/10のボーナスポイントを、そのまま結晶化促進32倍につぎ込む。

 また黒魔結晶に入れ替えて、今度こそ検証だ。

 

 慎重に足を進めた先で2体のフライトラップがいることを確認し、ファイヤーストーム4発で仕留めた。

 前衛のシャオクが遠志を拾ってくれている間に、ポケットから魔結晶を取り出した。

 

 先ほどまで黒色だった小ぶりな結晶が、紫色へと変化している。

 黒魔結晶の次が10体分の赤魔結晶であって、紫魔結晶は100体分だったはずだ。

 

 32倍で100体分を超えるためには、2体それぞれが通常の1体分の魔力では届かない。

 つまり13階層の魔物は、1体で下層の魔物2体分以上の魔力を有しているのではないだろうか。

 

 念のため、もう少し検証しよう。

 

 魔結晶をまた新しいものに入れ替え、今度は獲得経験値10倍と知力に振っていたポイントとで結晶化促進を64倍まで引き上げる。

 索敵してもらいつつ4体の群れと3体の群れを屠った。

 

 取り出した魔結晶はまたも紫だ。

 64倍で7体倒して次の青魔結晶になっていないということは、どうやらこの階層の1体が下層の3体分には及ばないようだ。

 

 魔物の出ない部屋へと移動して、1回目の検証の紫魔結晶も取り出す。

 計算も不安になってきたので、一時的に商人のジョブに付け替えた。

 

 13階層の魔物1体が2魔力だったなら、32倍で2体倒して128魔力、64倍で7体倒したとなれば896魔力になる。

 どちらも紫魔結晶であるこの2つを合わせれば、1000魔力を超えて青魔結晶になるはずである。

 

 前から試してみたかった魔結晶の融合だ。

 

 片手に持った紫魔結晶に、もう一方をぐいっと押し込んでみる。

 押し込むというより、合わせたそばから溶け込むような不思議な感触だ。

 焼けたフライパンにバターを押し付けたように、ほとんど抵抗なく沈んでいく。

 

 押し付けられた方の魔結晶がすべてを飲み込むと、一瞬ポワッと光ったように見えて結晶の色が青く変化した。

 これが1000体分の魔力を有した青魔結晶なのだろう。

 

 想定通りに、この13階層の魔物は下層の倍の魔力を有しているらしい。

 ということは、1万ナールの緑魔結晶を得るには結晶化促進64倍をつけて79体の魔物を倒せば完成する。

 

 今の討伐ペースでも朝からしっかり迷宮に籠もれば、ドロップ品の売却も合わせて日に3万ナールは稼げるということか。

 もっとも、明確に資金繰りの期限があるわけでもないので、しばらくはレベル上げが優先のままではあるが。

 

 

 検証を終えて、商人のジョブを薬草採取士にセットし直した。

 常備用に1列分が埋まるように附子と遠志を薬に変えて、アイテムボックスへと仕舞う。

 

 現地で補充ができるのはやはりいい狩り場だ。

 鐘の時間から若干遅れていそうなので、急いでシームの商店街までワープした。




スズシロ・ミツキ エルフ ♀ 18歳 魔法使いLv26
魔法使いLv26/英雄Lv23/探索者Lv28/僧侶Lv25/森林保護官Lv21/薬草採取士Lv24
(村人5 戦士17 剣士9 巫女1 商人30 奴隷商人1)


アコルト  兎人族 ♀ 16歳 狩人Lv21


シャオク ドワーフ ♀ 19歳 鍛冶師Lv17



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次回は12/16更新の予定です。
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